ファンシーの扉

オリジナルの王道恋愛ファンタジーを中心とした小説です。最後にはホッと出来る物語作りを目指しています。(R設定がある時は冒頭に記します。独自の判断でご注意ください) 尚、過去の作品については『◆ALL』をご覧頂きページの下の方にあります「Next」を押すと過去の作品まで全がご覧頂けます。作品のキーワード検索も『◆ALL』ページ左上よりご利用頂けます。

パウリンに導かれて《第12章5》

パウリンに導かれて

ローレライは、己の運命を呪いたい気持ちになっていた。
今まで背負わされて来た運命を受け入れ、果敢にも挑み続ける事が出来たのは、その事がこれからの自分に何かを齎してくれるものになると信じていたから。
けれど目の前に突き付けられた現実は、ローレライ自身にとってあまりにも過酷で辛すぎるものだった。
自分がどうしてこのような過酷な運命を背負わなければならなかったのか……。
あんなに辛い思いをして、やっと自分の気持ちに気付けた今になって、何故急にパウリンが今までにない反応を見せているのか?
首から掛けられたパウリンは、絹袋越しにあの時……、ライサンドから傷つけられた時に、微かに光を放っていたのだ。
ローレライが助かったのは、パウリンの放つ光にライサンドが一瞬目を奪われ怯んだからだ。その瞬間、ゼロが飛び込んで来てくれたお蔭で窮地を救われた。
その後光は直ぐに静まってしまったが、あれからパウリンは時々光を放っている。
これはきっと何かが運命に向かって、大きく動き始めている事を意味する。

今絹袋を開け、覗いてみたら如何なるのか?
そこに、もしかしたら自分の婚約者となる者の姿が映し出されているのかもしれない……。
けれど、正にあの時に光ったと言う事は、ともすればライサンドが運命の相手と言う事になるのではないのだろうか?
その事が頭を過った瞬間、ローレライは怖くてそれ以降パウリンに触れる事すら出来なくなってしまっていた。
考えたところで何も始まらない。現実を受け止めなければならないと分かっているのに、行動に移せずローレライは現在頭を抱え途方に暮れていた。
一つ深いため息をついた時だった。誰かが扉を叩く音がして、ローレライは息を飲むと慌てて扉を凝視した。

「私だ」

張りのある自らが安心できる声音に、ローレライは胸を撫ぜおろすと、服の上から握っていたパウリンの絹袋を離し、平素を装い扉を見つめた。

目の前には訪問した主であるゼロを受け入れ、労うサビエルの姿。

「お帰りなさい」

後ろから少し遠慮がちにローレライがそう声を掛けると、ゼロは微笑みを見せながらローレライの方へと向き直ってくれた。
けれどローレライは直ぐに駆け寄りたい思いに駆られながらも、それを躊躇してしまった。
自らの中の迷いがそうさせたに違いなかった。

ゼロはサビエルより自らが居ない間のローレライの様子を真っ先に聞き出しすと、何やら今まで出かけていた経緯についての少し難しそうな話を始めていた。
ローレライは待っている時間をもどかしく思いながらも、二人の会話の邪魔はしたくなくて、静かに二人が会話を終えるのを待つ事にした。

「では、私はこれよりシザーレ様と合流致します」

「頼んだぞ」

「はい」

話を終えるとサビエルはこちらを向き直り一礼をする。

「あっ、有難う」

今までこちらに居てくれた礼をローレライが告げると、軽く会釈をしながらサビエルはそのまま後の事をゼロに任せて去って行った。



目の前には、あれ程待ち望んでいた筈のゼロの姿。
ゼロの存在はローレライにとって一番安心できるもので、彼の傍に居る事が出来て、嬉しくない筈がない。
直ぐにでも飛び出したくて……、ゼロに触れたくてうずうずしているのに、パウリンの反応が気にかかりで、ローレライは自ら行動を起こせずにいた。
するとその思いを知ってか知らずが、ゼロが小さく鼻で笑うと話しかけて来た。

「どうした? もう、この腕は必要なくなったのか?」

ゼロはローレライの慎重的な態度を遠慮しているだけと受け取ったのか、微笑を浮かべると、腕をトントンと軽く叩いてローレライに次なる行動を促した。
ここまでされて、耐えられるはずがない。
ローレライはゼロの傍へと駆け寄ると、その腕に必死にしがみ付いた。
やはり離れられないもう、この腕からは……。

「本当は、ずっと待っていたの……」

「遠慮するな。自然に大丈夫になるまで一緒に居られる時は傍に居てやる。無理しなくていい」

「……ごめんなさい」

ゼロの優しさに、ローレライは思わず泣きそうになってしまった。

「謝るな」

「……有……難う」

温かなゼロの眼差し。
これからも、ずっと彼の腕の中に居る事が出来たなら、どれほど幸せな事だろう。
ゼロが自分を心配しているのは自らの従弟が起こした事によるものが大きいと分かっていながらも、ローレライはその腕から逃れたくない思いに駆られていた。
そんなローレライの心情にゼロは何処まで気付いているのか居ないのか?
ローレライの頭をクシャクシャっといつものように撫ぜるとポンポンと軽く叩いた。 

ローレライはゼロの傍にいると自然と笑みが零れてしまう。
ああ、やっぱり彼は変わらない。
ゼロはゼロだ。
そして、とても優しい。
ローレライは嬉しい気持ちと、このままでいてはいけない。運命と向き合わなければと言う良心の呵責との狭間で今、心の中が大きく揺れ動いていた。
今だけは、このままでいさせて欲しいと願いながら……。


「……何か、俺……邪魔?」

ルシオンは絡まる二人の視線を目の前にして、自分の居場所がここには無いのではないかと察知して少し小さくなっていた。

すっかりそれまで傍にいてくれていた兄の存在を忘れ去っていたローレライは、慌てて兄に向き直ると、ゼロから少しだけ距離を置いて取り繕う。

「そんな事ないわ。お兄様もここに居て」

「ああ、それはその方が良い」

「そう? じゃ、遠慮なく」

ルシオンは、そのまま長椅子に座り直すと、平然とティーカップに手に取り、ゆったりと再び紅茶を飲み始めた。


ゼロはローレライへの自らの気持ちに気付いてから、出来限り二人きりになるのは止した方が良いと思っていた。
気付いてしまった想いは、ある意味とてもやっかいで、会う毎により深いものになって行く事をゼロ自身に知らしめていた。
だが今は、自らの感情を解き放つ時ではないとゼロは思っていた。
だからルシオンが傍に居てくれる事で自らの気持ちに、自然と制御が掛けられるようにとゼロは彼の同行を望んでいた。その方が自らの感情に制御がかけられて好都合だと思っていたからだ。
もし今、変に二人きりに等なってしまったら、次に自分がどのような行動を取ってしまうのかすら、はっきり言ってゼロには自信が無かった。
昨夜、ローレライが寝ているのを良い事に、自らが身勝手な欲望に勝てずについ行動を起こしてしまったのが良い例だ。
それは、ある意味ではライサンドのした事と同類で、その事に対しゼロは自らを嫌悪していた。
ただ奴と自分に違う点があるとすれば、そけは相手を思いやれるかやれないかの違いと、己の欲望を何処まで押さえる事が出来るかと言う点でだけだ。
勿論間違ってもゼロは相手の気持ちを考えずに、とてもライサンドのやった様な真似までは出来ないし、複数の者に愛情や欲望を注げるほど器用な人間でも無い。
きっとローレライに出会えなければ、このような感情を抱く事も無かっただろう。
だからこそ、自分の気持ちが揺るぎないものと自覚した今、本来ならば直ぐにでも告白するべきだとゼロは思っていたのだが、今のローレライの気持ちを考えると、直ぐに想いを伝える事は自分を満足させる為だけのエゴではないかと思えてしまい、それを躊躇してしまっている。
ライサンドがどのようにローレライを口説き言葉をかけたのか知る由も無いが、自分の掛けた言葉でライサンドとの辛い出来事を思い出させ増幅させてしまうのは得策ではない。より恐怖を募らせてしまうような状況に事になる事だけは避けたいと思った。
大切にしたいからこそ、今は告げるべきではない。そう結論付けた。
そう思う事で、ゼロは自らの思いに制御をかけてたのかもしれない。
 
ローレライの気持ちがもう少し落ち着いて、せめて一人でも部屋に居られる様になったら……。
そうなった時、自分は剣の師としてではなく、一人の男としてずっと共に傍に居たいと思っている事をローレライに告げらると思っていた。
今の状況からして、少なくとも彼女に嫌われていないのは確かだ。
ローレライが自分に感じてくれている感情は、師弟愛か、友愛か、情愛か?
どのような結果になろうと、その時になり後悔だけはしたくないと、ゼロは思っていた。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

お知らせ(紹介) 『国王陛下は身代わり侍女を溺愛する/佐倉紫』 好評発売中!

お知らせ&感謝

今日は。
突然ですが書籍の紹介です。

この度、仲良くして頂いております同じラブファンタジー系の作品を多く書かれいるプロの作家さんで、こちらのサイトでもリンクを貼らせて頂いておりますプロ友「ベリー・ウィッシュな日々」の佐倉紫さんがロイヤルキス文庫様よりは初となる『国王陛下は身代わり侍女を溺愛する』と言タイトルの作品を発表されました。これで9作品目となります書籍。先のネット配信の始まりました『ロゼリア姫は逃げられない。』KADOKAWA〈eロマンスロイヤル〉 を入れますと、既に10作品目。その活躍に目を瞠るばかりです。
昨日発売になりましたので、今回もこちらでもご紹介させて頂きます。

国王陛下は身代わり侍女を溺愛する
『国王陛下は身代わり侍女を溺愛する』著:佐倉紫 イラスト:蘭蒼史
ロイヤルキス文庫 / 文庫本(小説>恋愛) 2017年9月15日発売

<あらすじ>
王女の筆頭侍女アンジュは、王女の嫁ぐ大国クーリガンへ婚姻の準備のため向かう途中、賊に襲われクーリガンの王国軍第一騎士団の騎士団長・オスカーに助けられる。
ふるえる身体を抱きしめてくれるオスカーの逞しい胸に心ときめくアンジュ。
オスカーも一目惚れとキスを降らせるけど、彼の秘密を知ってしまい…。

ある晩、消えた王女の身代わりに晩餐会を務めることになったアンジュは、オスカーの力強い腕に抱かれ、灼熱を差し込まれ、純潔を散らされる。激しい愛の営みは二人を更に大胆にして!?



この作品は完全書き下ろし作品となっております。
また今作のヒロインは公爵家の生まれで、本来なら準お姫様級のお嬢様。けれど結婚や恋愛などをするつもりもなく、隣国に嫁がれる主人のお姫様に一生仕えるつもりでいたデキルお嬢様設定とのこと。そんなお嬢様が素敵な殿方に助けていただいて恋に落ちて……。と言うお話だそうで、今回も美味しい設定盛り沢山の予感大ですね。
ラブファンタジーをこよなく愛する佐倉さんの、完全新作書き下ろし作品。ご興味を持たれた方はネットや書店などでお目にしましたら是非一度手に取って頂ければと思います。


ネット購入はこちらから 
   ↓    ↓
【Amazon】  【セブンネット】  【honto】 

以前の書籍紹介記事 
   ↓    ↓
『王家の秘密は受難の甘さ』
『シンデレラ・マリアージュ』
『白薔薇は束縛にふるえる』
『疑われたロイヤルウェディング』
『獰猛な王は花嫁を愛でる』
『愛されすぎて困ってます!?』
『 ロゼリア姫は逃げられない。』 (ネット配信)

佐倉さんの小説HPはこちら
     ↓    ↓
ベリー・ウィッシュの伝言


★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

『心の傷を癒すのは…。~あの朝の別れと始まり~』一位とかw、有難うございます

お知らせ&感謝

感謝です!
昨日ご紹介させて頂きました、ムーンライトノベルズ様にてUPさせて頂いきました現代恋愛ものの短編
心の傷を癒すのは…。~あの朝の別れと始まり~
ですが、皆様の応援のおかげで、ナント、ムーンライトノベルズ様の、短編部門1位、日刊6位、アルファポリス様でも最新で、外部小説総合3位、恋愛部門1位と言う結果になっております。
アルファポリス様での1位は『離婚しましょう?旦那様ッ』以来です。
当初ある程度読んでは頂けても、票数として目標としていた感じの伸びが全く感じられず、やはり短編は難しいなぁと思ってましたが、昨日の夕方頃から少しずつ反応が出てきて、これもお読み下さり、応援して下さる皆様のお蔭です。
本当に有難うございます

こちらの作品、需要があれば何れ彼視点も書きたいなあと思ってまして。
少し呟いてみたら、かなり読みたいというお声も頂いているので、何れ『ずっと心に決めていた』の完結後にでも彼視点も書かせて頂こうと思っています。

まだご覧頂いていない方で、読んでやってもいいよ。という方はこちらから↓↓

●『心の傷を癒すのは…。~あの朝の別れと始まり~』を読む
(掲載中の「ムーンライトノベルズ」内に移動します。こちらはR-18対応サイトです。ご注意下さい)

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

小説ブログサイト開始5周年♪&現代もの短編『心の傷を癒すのは…。~あの朝の別れと始まり~ 』投稿のご案内

お知らせ&感謝

いつもご覧いただき有難うございます。
風波涼音です。
昨日、やっと修理に出していたPC(Windows10)が戻って来ました
打てます。しっかり文字が打ててます。
でも滅茶苦茶動きは重いです・・・・。W7の方が全然早いです。(でもセキュリティが無い^^;)

で、PCを修理に出した関係で、今年はアルファ様のファンタジー大賞にも参加できず、気が付いてみればサイト開設5周年も過ぎていて(5日がそうでした)、今日気が付いたというw。
なんやかんやで5周年とは早いものです。
これもひとえに私の作品を読んで下さる皆様が居て下さればこそ。
本当に、本当にいつも有難うございます

そして、PCが中途半端に不備の間、風波が何をしていたかと言うと、W7と格闘し、少しでも使えるようにしたりとか、小説を書いていました。
連載もののストックも書かなければと思いつつ、以前フリーペーパーで配布させて頂いた短編も、何とかきちんとした一つの内容のある作品として公開したいと思っていたので、それを仕上げて連載を書こうと思っていたら、それが思いの外長くなり、何度見なおしても弄りたくなって来て。。。
あの短編って現代ものだったから、私には色々と難しい所もあって、必死に色々修正しながら自分で納得のいく作品を書き上げたくて奮闘してました。
結果、短編だというのに、13000文字以上になってしまって^^;(最初は3000文字→5000文字→いや8000文字と目標の幅が段々と広くなって行き10000万文字を超えたところで諦めました)
私って本当に中々短編が書けない奴なんだな~って。
書いてて内容に深みがないと、つい書き足したくなっちゃって。
何方か、短編の極意を教えてください!(笑
しかし、書き終わり、これって最早短編と呼ばないか?と少し悩んだんですが、何とかそれ位まで過去にムーン様では投稿した方も居たようだったので、本日サイト5周年&PC戻って来たよ~企画?として、現代ものだったので、ムーンライトノベルズ様の方でUPさせて頂きました。
こちらは一応、恋愛ファンタジーと銘打って書かせて頂いているので、現代ものは完全別にした方が良いのかな?と思った次第です。
深い所を明かすと、今回の作品は、まだ形になっていない構想の中にある、ある作品の現代に転生しての作品って言う細かな設定が実は私の中ではあるんですが、現時点ではそんな事も全く分からないし、その構想作品を書く事になるかもまだ分からないので、こういう形を今回は取らせて頂きます。
構想の一部とてしあっても、全然今回のはファンタジー被ってないし、現代ものの恋愛作品でしかないので、こちらでの需要も微妙かもしれませんが、一応恋愛はバリバリ入っているので紹介をさせて頂きます。

《作品名》心の傷を癒すのは…。~あの朝の別れと始まり~

《あらすじ》
大学に通う瀬口京子19歳には、恋人と呼ぶには微妙な関係の彼がいた。
彼は亡くなった年の離れた姉の、かつて夫だった人。
京子は彼の事が初恋で、ずっと彼の事が好きだった。けれど彼の反応は微妙で、京子に対する束縛はあっても「愛している」と囁いた事すら無い。その理由は解っていた。彼は亡くなった姉と娘を未だに忘れられずにいるのだ。それは当然のこと。それが分かっていたのに京子は彼を受け入れた。その事に後悔は無かったが、京子はある身体の異変から、彼の為にと苦渋の決断を下す事となる。だってそれは彼の為には仕方の無いこと。だから私はここを去るの。
一途な想いと激しい執着が交じり合い、そこから絡み合う二人の関係は、実を結ぶ事が出来るのか?
※これは以前フリーペーパー《嘘》で配布させて頂きました800文字の作品のR入りバージョン超加筆短編作品です。

こちらはR指定ありです。規定年齢以下の方はご注意ください。
●『心の傷を癒すのは…。~あの朝の別れと始まり~』を読む(掲載中の「ムーンライトノベルズ」内に移動します。こちらはR-18対応サイトです。ご注意下さい)

5周年を迎えました『ファンシーの扉』を、今後ともよろしくお願いいたします

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村


※昨日朝UPした初の短編現代もの。
ムーン様、短編部門1位、日刊6位、アルファ様も外部総合9位、恋愛部門2位になってましたw
本当に有難うございます💕
関連記事

PageTop▲

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第12話(シルビア視点)

信じても良いですか?旦那様ッ

旦那様の姿を見て少し安心したせいか、その後少しだけれど眠ることが出来た。
気分的にも今は少し落ち着いていて、吐き気は無くなった訳ではないけれど、嘔吐する程ではない。
水分は心がけて取ろうと思うものの、何だかいつも心地よく飲んでいる水の温度が生ぬるく感じられ、無臭のはずの水が何故か匂う感じがして気持ち悪くて飲めなかった。
冷たくすれば飲みやすくなると聞いたので、今冷やしてみて貰っている。

「奥様、昼食は如何なさいますか?」

「そうね……。まだ食べられる感じがしないのだけれど、でも食べたほうが……良いのよね?」

「先生は無理のない程度でと仰っておりましたので、先程先生の奥様からお教え頂いたレシピを参考に只今料理長に作らせておりますが、ご無理そうでしたらフルーツだけでもお持ちしてみましょうか? 処方して頂いた薬湯をとりあえず飲まれてみて、食べられそうであれば……、と言う事で」

薬湯は、どんな味がするのだろうか?
何かを口に含むのも戸惑われる気もするけれど、せっかく処方して頂いたお薬だ。飲まない訳にもいかない。
何よりこの症状が少しでも改善するのならば、飲んでみて試してみるのも悪くはないと思う。
だって、これ以上旦那様に、心配はかけたくない。

「……そうね、ではフルーツだけでも頂いてみようかしら」

「はい! では、早速お持ち致しますね」

侍女は嬉しそうに弾んだ声で厨房へと向かった。

本当は食べないで済めば食べたくはない。
先生もこの時期の子は私の食事に関係なく、水分さえ取れていれば大丈夫とは言ってくれた。けれど、子は私と臍の裏で繋がっていると言うのだから、少しでも私が何かを食べれば、よりこの子の成長に繋がる気がしてならない。ならば頑張ってみようという気持ちにもなる。

「ふぅ……」

軽くため息をつきながら、私は腹部に手を当てた。

「お母さま、頑張るから……」

話しかけるように言葉を口にした。


「奥様、薬湯とフルーツをお持ち致しました」

侍女の明るい声に顔をあげ、側にあるワゴンの中を覗き込み絶句した。

「……有り……がとう……」

薬湯らしき飲み物の横に並べられたフルーツの量は、半端ではなかった……。

「奥様? 如何なさいました?」

「これ……、量が……、かなり多くない?」

まるで今から茶会の席でも開くかのような、大皿に乗せられたフルーツの盛り合わせだ。
普段でも、こんなにはとても食べられない……。

「一度にお召し上がりになられなくても良いそうですよ。小腹が空いた毎にでも、少しずつ摘んで頂ければとの事でした。お食事をされないのであれば種類も多いほうが良いだろうと言う料理長の計らいで、わざわざ市場へ買い付けにも出られたそうでございます」

「……そう」

どうりで見慣れない果実も並んでいる訳だ。
気持ちは有り難い……。けれどまだ食べられるかも分からないのに、こんなに沢山盛られても困ってしまう。
残ってしまっても勿体ないし、後で旦那様にも食べて頂こうかしらと考えたけれど、それでもこんなには食べきれないと思う……。

とりあえず侍女が手にしている薬湯を受け取ると、それを目を瞑って一気に飲み干した。

「……奥様……如何でございますか?」

「……へいき……かも?」

かなり苦いのではないかと思っていたけれど、実際飲んでみると全然そんな事もなく、甘くもないけれど何かの樹液なのか根を煎じたものなのか?思いの外飲み易かった。
飲んだ直後から、少し胸に込み上げてきていたものが少しだけれど落ち着いてきて、何となくフルーツを摘んでみても良いかもしれないと思えて来た。
なのでとりあえず一種類ずつ端から順に口にしてみる事にした。

おそるおそる手を伸ばし、匂いを嗅ぎながら大丈夫そうと思えるものを、口に運んでみる。
とりあえず、臭いでOKだったフルーツは、問題なく口まで運べた。けれど今までのように、美味しいという味覚を持てる食材には中々巡り合えない。

「良く妊婦は好んで柑橘類を食べられる方が多いと聞いた事がありますが……」

「柑橘類?」

半信半疑に思いながらも、おそるおそる目の前の黄色やオレンジ色の果肉に手を伸ばし口にしてみれば、確かに最初の口当たりはすごく良かった。
それでついつい幾つかの柑橘類を好んで摘み続けて食べていたら、食べすぎたのか?その内せり上がって来るものがあり、1時間ほどして結局は嘔吐してしまった……。
その時食べられても、後で具合が悪くなっては意味がない。
それでも口にすることはできるので、その後も様子を見ながら幾つかの種類で試してみたら、ついに私にあっている食材に巡り合った。

「この……、あまり見たことのない薄緑の果肉は何の実なの?」

「確か隣国の果物で甜瓜とか言う名だったと……」

それも何種類濃い色のものとか、色々あったが私には一番薄い色の甘みも濃くないその甜瓜と言う果物が一番あっている事に気が付いた。
それ以後少し胸にせり上がるものを感じた時に2、3切れ口にすると、症状が左程悪化しないような気がする。
最初は料理長の心遣いに有り難く感じつつも、少しやりすぎではないかと思っていたけれど、今となっては色々な果実を集めてくれたことに感謝したい気持ちでいっぱいだ。

「不思議ですわね。悪阻って。人によっては嫌いなものが食べられるようになる方もいるようですし、奥様の場合は初めての果実……ですか」

「そういえば、このローゼリアン伯爵家の先々代の奥様が、確か隣国のご出身だったと……。まさかその事が関係していると言う事は……?」

「さあ、如何かしら?」

そのような話は聞いた事が無いけれど、その事に関連性があるのら、この子は私よりも旦那様の血を色濃く受け継いで生まれて来るのかしら?
お腹に手を当てそっと撫ぜてみる。
まだ膨らんでもいない小さな命だけれど、ここに居ると思うだけで愛しくて仕方がない。
食についてはこれから色々とまだ変わってくるかもしれないけれど、一つのきっかけを掴めたような気がして、私はその事に少しだけ安堵した。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村


関連記事

PageTop▲

Menu

プロフィール

風波 涼音

Author:風波 涼音
オリジナルの王道恋愛ファンタジーを書いています。(ハッピーエンド推進)〇〇年振りに執筆を再開しました。少しずつ自分のペースで書いていきたいと思います。

ランキング参加中です

押して頂けると励みになります^^

FC2Blog Ranking


にほんブログ村
にほんブログ村

                                   

ブロとも申請フォーム

最新記事

カレンダー

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロ友更新記事

検索フォーム

QRコード

QR