ファンシーの扉

オリジナルの王道恋愛ファンタジーを中心とした小説です。最後にはホッと出来る物語作りを目指しています。(R設定がある時は冒頭に記します。独自の判断でご注意ください) 尚、過去の作品については『◆ALL』をご覧頂きページの下の方にあります「Next」を押すと過去の作品まで全がご覧頂けます。作品のキーワード検索も『◆ALL』ページ左上よりご利用頂けます。

パウリンに導かれて《第12章3》

パウリンに導かれて

地下へと続く階段を下っていると、シドの罵声が耳に突き刺って来る。

「この期に及んでまで、お前はまだシラを切り続けるつもりなのか!!」

どうやら聞き出すのに、かなり手間取っているようだ。

「シザーレ、変わろう」

「すまん……」
 
少しだけ申し訳なさ気にそう告げると、シドは肩をすくめながら頼むとばかりにゼロの肩に軽く右手を置いた。
シドの隣には昨夜からずっと地下牢の監視をしているタウリンも居る。こちらもゼロの訪れにすがるような眼差しで深々と頭を下げている。
ライサンドは地下牢に入っても反省の色は全く無いようで、それ所かそのふてぶてしい態度を一向に変えていない様子だ。

「やあ、アイスラント。随分と慌ただしいみたいじゃないか。何か大事でも起こったかい?」

悪びれるこちらを茶化すような白々しい態度に、ゼロがライサンドを鋭い目つきで睨みつける。

「仔馬を、何処にやった」

「唐突に、何を言い出すんだい? 訳が分からず困惑していると言うのに、そんなに怖い顔するなよ。相変わらず無遠慮であからさまな奴だなぁ。何が出来るって言うんだい? この囚われの身の私に」

「最初から、捕まった場合も想定しての行動だったのか?」

「はあ? だから訳が分からないって」

「その割にはお粗末な結果だったな。バラサインだからと言って、何でも自らの思い通りになると思っているとしたら大間違いだぞ」
「なッ……、人の領地まで来て、しゃしゃり出るなよ!」

「お前の領地ではない。伯父上の領地だ!」

「っ……、だが、何れは私のものだ!」

「私欲に塗れ、領民を食い物にしているお前が領主に等なれるか!」

「昔の事を未だに蒸し返すのかい? お前も結構了見が狭いんだ,ね。今の私は昔とは違う良識人になったと言うのに、まんまとあの女に嵌められた結果被害者だよ。サンドラもずっと物欲しそうな眼差しで私に気がある素振りを見せていたからわざわざ部屋まで訪ねてやったのに、どいつもこいつもホント大げさすぎるよ。……、あっ、もしかして今回の件は、お前が私を陥れる為に、あの女に私を誘惑させたのか? そうか、そうだったのか。やっぱり私は悪くないじゃないか!」

突拍子もないライサンドの都合の良い思い込み発言に、ゼロの拳が怒りでワナワナと震え出した。

「……お前と、言う奴は……ッ」

このように腐った人間が身内であると言う事に、ゼロは激しい憤りを覚えていた。
ライサンドと言い……我王と言い……、狂った輩にこれ以上付き合うのはもうウンザリだと感じていた。

「……私の事をどう言おうと構わん。しかし、あいつを侮辱する事だけは許さん! 気がある素振り!? 何処がだ! お前のような者を……、私は絶対に許さん!!」

「別にお前に許して貰う必要は無いさ。もう全ての駒は回り始めている。今更どうにもならない」

そう告げると、ライサンドは不敵に微笑んだ。 

「……何をした!?」

「まぁいいか。もう峠は越えている頃だしな、どうせ追いつけない」

「やはり、お前は伯父上の使者をッ」

「フッ、今更気付くとは、生ぬるい奴だな。そろそろ父上には隠居して頂く。私が父より拘束され、家督が危ぶまれた時の対処は既に言いつけてある。おそらく今頃父が持たせた書状は、私の手の者がすり替えている筈だ」

「……何だと!?」

「残念だったな。だから今更何をしても無駄だ。このバラサインでは、もう誰も私には逆らえなくなるという事だ! ふふっ」

小さく鼻で笑った後も、ライサンドの不気味なまでの笑いは収まらない。余程自らの策に自信があるのだろう。
だが、ライサンドの不敵な微笑みにもゼロは落ち着き払っていた。

「今、私の手の者が信用のおけるキールの者数名と、ソイドとその周囲の者達の行方を追っている」

「な……ッ!?」

ゼロの一言で、明らかにライサンドの表情が硬直する。

「このような話、お前には関係のない事だろうから気に留める事もないか。その者はかなりお前と故意にしているようじゃないか」

「……ばっ、馬鹿を言え! ソイドとは確かに面識はあるがそれだけだ。奴は父の大のお気に入りなんだぞ。そんな……、わっ、私の言う事など聞く訳が……」

明らかに落ち着きのない様子で事実を否定しようとするライサンドの様子にゼロは微笑する。
ライサンドはまさかソイドの事が知れるとは夢にも思ってもいなかったのだろう。
ソイドは現キールにおいて中心的人物の一人で、公爵からの信頼も厚い。その者が本当は自分の側にいると言う事実は、おそらくライサンドにとって、今までかなり強力な切り札だった筈だ。
だがその事実は、自らの保身の為に、決して受け入れられる事実ではない。
何があっても、ここはシラを切り続けるしか無いとライサンドは思った。

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ずっと心に決めていた《188.朗 報》

ずっと心に決めていた

囀る鳥の可愛い鳴き声に耳をくすぶられ、清々しい朝を迎えたつもりだったのに……。

「んっ……、まぶしっ……」

ゆるゆると瞳をこじ開けてみれば、カーテンを引き、こちらに微笑みかけるヨハンナさんの姿。
目にかかる日差しがかなり眩しく感じられ、どうやら陽がかなり高くまで昇っているらしい事に気付いた。

「私……、すっかり寝過ごしてしまっ……、あっ!」

自らの身に降りかかっていた状況を思い出し、慌てて身を起こした。

そうだ。確かアレクシスと共にマスニエラまで出向き、お爺様に婚約申請書の書類を書いて頂いて、夜を徹して馬車を走らせて、そして……そこからの記憶がない……。

「お目覚めになられましたか、お嬢様。そろそろ起きられませんか?」

「……おはようございますヨハンナさん。いつ戻って? ごめんなさい。私、どうやって……。床に就いた事も、覚えていないの」

「まだ夜が明ける前でしたから。お嬢様は余程お疲れだったのか、馬車の中でぐっすりお休みになられてお目覚めになられなくて。起こすにはしのびないからと、旦那様がこちらへお連れになったのです。今日はゆっくりお休み頂くようにと言われておりますから、大丈夫ですよ」

話の口ぶりでは、既にアレクシスはここには居ない様子だ。

「では、アレクシスは、もう領地へ?」

「もう、そのお時間かと」

「もう……って?」

「お戻りになり、その足で王城へと出かけられたのです」

「えっ? お城へ出かけられたの?」

確か、婚約申請の書類を提出するのは、明日になるかもしれないと言っていたのに……。

「きっと、ご友人のパウウェル様の所ですわ」

「パウウェル様って確か……、警務騎士団統帥長をなさっている?」

先月、夜会で紹介して頂いた時の事を思い出す。

「はい。この所ずっとお忙しくていらして、泊まり込んでいると仰ってましたから今回の件を踏まえて、色々とご相談したい事もお有りだったのではないでしょうか」

「相談……って……」

きっと、父の……、マニエールの家の事で、出向いたに違いない。
強硬的なスケジュールで、アレクシスもかなり疲れている筈なのに、私の家の事で無理をさせてしまっているのだと思えば、申し訳ない思いでいっぱいになってしまう。

「あら? もしかして……、お嬢様は、ご自分のせいで王城に出向かれたとでもお思いですか?」

「だって、そうなのでしょう? 私の家の事が無かったら、わざわざ疲れているのにお城になんて……」

「旦那様は、気が急いて仕方が無かったのですわ」

「……気が急いて?」

「はい」

弾むような声で、満面の笑みを浮かべるヨハンナさんの姿に、しばし考えを巡らせた。

今日は予定的に、領地の以外の事で、急な用事がアレクシスにはあっただろうか?
何も聞かされていなかったが、それにも関わらず私との事でわざわざマスニエラまで出向いてくれたのだとしたら、本当に申し訳の無い事だったと思っていれば。

「大切そうに、胸元へ仕舞われて……、ふっふっふっ」

「え?」

「嫌ですねぇ、婚約申請書ですよ。他に何があると言うんですか? 今の旦那様にとって、あの婚約申請書以上に大切なものなんて、マリエッタ様をおいて他には無いのですから、当然自ずと旦那様の中での優先順位も決まってまいります。領地の事など二の次三の次。提出されて戻られると仰っておりましたから、これでやっと正式にお嬢様をこちらへお迎え出来ますわ。それを思うと、私、嬉しくて、嬉しくて……」

確か、王城の公的機関の受付時間は……。

「……堤防の足場が如何とかって言っていたと思うのだけれど、それには間に合うの?」

「さあ、如何でしょう?」

「如何でしょう……、って」

「そんな事よりもお嬢様、そろそろお支度をなさいませんか? じきに旦那様も戻られると思いますし……」

「えっ? じきにって、今何時なの?」

「正午をまわった所ですわ。流石にお昼は食べられた方が宜しいかと思いますし、昨夜はお湯にも入っておりませんでしたから、旦那様が戻られる前に、身支度をされた方が宜しいかと」

「勿論よ」

流石に、戻って来たと言うのに、汗まみれでボサボサな姿で、アレクを出迎える気にはなれない。

『正午過ぎには一旦戻って来られると思う。午後のティータイムは一緒に凄そう』

昨日、確かに馬車の中でアレクシスはそう言っていた。

「大変! 急がなくちゃ。ヨハンナさん、お湯は沸いているかしら?」

「勿論です。ですがお嬢様、そんなに慌てなくても、旦那様がお戻りするまで、あと2時間はございますよ」

「ティータイムのお菓子、出来たら私が作りたかったの」

「お嬢様が?」

「簡単なものしか作れないけれど……、あっ。もしかして、もう準備しちゃったかしら?」

「いえ、それはこれからでございますが……、旦那様が喜ばれます。では、急ぎましょう」

起きるなり、私の慌ただしい午後が始まった。


湯につかり身を整えて、ヨハンナさんが用意してくれていた軽食を急いでいただいた。
そして、私の数少ないレシピの中から、手早く作れるマフィンを作ることにした。
ブルーベリージャムが常備されていると言うから、それも他の材料と一緒に投入し、ヨハンナさんにも少しだけお手伝いして頂いた。

「いい香りですね。上出来です」

「有難う、ヨハンナさん。おかげで間に合わせることが出来たわ」

「いいえ、お嬢様が結構手際が良くてビックリしました」

軽く雑談をしながら、アレクシスを待った。


アレクシスが戻って来たのは、ティータイムの時間を少し過ぎた頃だった。

「本当に、ハンデルの奴ッ。あいつは鬼だな! こうも全部私に振るか!?」

「まあまあ、旦那様。ハンデルも悪気は無いのです。留守の間領民を慰め諫めて下さったのです。領民にとっては、やはり何と言っても旦那様が一番頼りになるのですから」

「だが、なあッ!」

半ば不服を言い立てながら、馬車から降りて来ていたアレクシスが、私の顔を見るなり破顔した。

「マリー! 今戻ったよ」

「お帰りなさい、アレク。領地のお仕事、ご苦労様でした」

「ああ、マリーの笑顔を見たら、疲れなんて吹き飛ぶな。ただいま、私のマリエッタ」

満面の笑みで私を抱きしめると、いきなり深く唇を寄せて来た。

「んっ、アレ……っ、まっ……」

流石に2人きりでない時に、このような口づけは、恥ずかしくて、アレクシスの背を必死に叩く。

「……嫌なの?」

「嫌じゃないけれど……、恥ずかしいでしょ?」

「婚約者なのに?」

「申請書、出してきただけでしょ?」

「受理されたよ」

「受理されても、正式な決まった訳でもないのに……、こんな人前で……」

「だから、決まったんだって」

「えっ?」

「ロナルドの手配書が今日の午後に正式に公布された。それにより保留になっていた奴との婚約申請書は正式に破棄。既にマニエール家とドワイヤル家にもその旨が伝えられたそうだ。だからこれで私との婚約申請書だけが有効となる」

「……本当に?」

「本当だ」

「ああ、なんて素敵なの、アレクシス!」

私は自らアレクシスの首元に飛びつくと、彼の貪るような温もりを求めた。

マニエールの家の行く末を思えば、こんなに喜ぶべきことでは無いのかもしれない。
けれど、これでアレクシスと共に歩んで行けるのだと思うと、嬉しくてたまらなかった。

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 離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第9話

信じても良いですか?旦那様ッ

流石にこのままの状況では邸に戻れない。
御者に我が邸の主術医であるマグノーマル医術師の邸へ向かわせた。
まだ陽は昇り始めたばかり。
おそらくは寝ているであろうが、事は急を要する。許されるだろう。

「先生ッ! ……あ……けて……くれッ、先生ッ!!」

滴り落ちる流血を胸より高く掲げたままの状態を保ちながら、思いの限りに賢明にドアを必死に叩きまくった。

「医術師殿、火急の事態です。お願い致します!!」

馬車の御者も私を支えながら、助けを貸してくれた。
程なくして室内に明かりが灯り、中から人が出て来た。

「まあ、ローゼリアン伯爵様! 奥様に……!!」

出て来たのは助手している夫人で、妻に何かあって私が急ぎ来たのかと思ったような言葉を口にしかけたが、直ぐに私の傷に気付き、室内に向って大声を張り上げてくれた。


御者には今日の事は内密に済ませる約束を取り付け、何とか車内を血で汚す事を免れたが、手間賃を踏まえて通常の3倍の代金を支払って返した。
金を受け取ったのだ、今回の事が公にならない限り、自ら口にする事も無いだろう。
あのような時間に酒場街にうろついている馬車だ。こう言う経験も初めてではないのだろう。かなり様子も手馴れていた。

「神経まで傷つけてはいないようですが、危ない所でした。かなり傷口は深いです。縫合しなければなりません」

「だろうな」

あれだけ縛っても血は止まらず、上から保護に巻いたマントにもかなりベットリと血は付着していた事から、かなり深く切ってしまった事は自覚していた。

「ただ、申し訳ありませんが現在の状況と伯爵のお話をお聞きする限り、使われたのはトリエフェランと仮定しますと、痛み止めの麻酔等は使用できません。重複する効能も考えられる為、危険を伴いますので……。ですから、かなりの痛みを伴うと思いますが……」

「痛みには馴れている。頼む」

「はい、では失礼致します」

「!!…………」

痺れは残っているが、痛みの感覚は麻痺している訳では無いので流石に痛い。
皮膚を突き刺す針の音など聞こえるはずも無いのに、耳に聞こえてくるような感覚だ。
息が詰まる……。だが痛いが、耐え切れないと言う程では無い。
以前護衛の任に付き、対象者を守り横腹を切りつけられた時の痛みに比べれば何の事は無い。
それに医術師の話ではかなり酒を飲んでいれば、麻酔をしてもその効果があまり得られない事も稀にあるらしく、どのみち麻酔の効果は望めなかったかもしれない。
それを思えば自業自得だ。


何とか処置も終わり、血も今は止まっている。
痛みはまだ有るが、痛み止めの薬は午後からしか服用は出来ない。

だが、スタンも考えたものだ。
トリエフェランを使用したのも午後からの職務に支障がない事を考えての事だったのだろう。そう言う所は律儀だ。
奴の計画が成功していれば、私はより自責の念に駆られる事となっただろうが、奴にとっては何の支障も無かった筈だ。
奴は根っからの女ったらしで遊び人ではあるが、今まで自己都合による休みは結婚休暇以外取った事が無かった。
だが、今回は流石に……。
午後からどんな顔をして職務に赴くのか?
私の前に顔を見せられるのか? それとも……。
奴の今後の出方次第では、私も今後の奴の身の振り方を考えなくてはならないと思った。
昔よしみの同情など、もうしてやるつもりは無かった。

とにかくこのままでは邸に帰れないので、薬の効果が完全に消えるまで、医術師宅へ滞在させて貰うことになった。
我が家へは先程夫人に連絡に向って貰った。
帰宅途中ちょっとしたトラブルに巻き込まれて少しばかり手傷を負ったが、深夜だった為昨夜は先生宅に泊まったと言う事にして貰いその報告と、着替え持って来て貰うように頼んだ。
くれぐれも話は妻では無く、執事経由でするようにと話をつけた。


夫人の帰宅後、着替えを済ませ、私は医術師に用意して貰った利尿を促す薬湯を飲んでゆっくりと過ごした。
少しでも身体からトリエフェランを早く排出させるための処置だった。


ああ、早く妻に会いたいッ。
だが、どの様な顔をして会えばいいのか分らない。

私は『妻を裏切ってしまった』と言う事に、なってしまうのだろうか……。

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【ムーン様】魔術師の掟と幼い妻と『魔導師と妻のその後の攻防25』更新のお知らせ

お知らせ&感謝

いつもご覧いただき有り難うございます。

【ムーン様】魔術師の掟と幼い妻と『魔導師と妻のその後の攻防25』
を更新しております。

夫ゼクトールの手管に絆されて、必死の妻メディスティーナ。
頑張った。今回は本当にティーナ、頑張った!

という事で、今回もR指定ありです。何気に今回は普通にR-18かかってます(≧∇≦)キャー
●『魔導師の掟と幼い妻と』を読む(掲載中の「ムーンライトノベルズ」内に移動します。こちらはR-18対応サイトです。ご注意下さい)

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パウリンに導かれて《第12章2》

パウリンに導かれて

公爵は子息ライサンドを領地からの追放と罷免を陛下に進言した上で、今後の刑的処遇についても王に一任するつもりだと告げた。
領地の者はそれで納得する者も多かったが、ランドンとニックはそう言う訳にはいかない。
現王政の状況を厳粛に受け止めていた。

「王が良識ある判断を下す事を望みたい所ですが、おそらくそれは無理でしょう。それにご子息が王に近しい有力者と繋がっているのは必須。となれば利用価値がある者をそう簡単に手放すとは思えません。もみ消されて……、おそらくそれで終わりです」

「……もみ消される?」

ランドンの言葉に、公爵は驚きに満ちた表情を隠せない。
当然だ。前王弟の書状を、蔑ろにする者が早々に居るとは到底思えない。
だが、それは前王の時代までの話だ。
我王とその背後に連なる者達に、それを求めるはおそらく無理な事だろう。

「そうだな。あの我王ならば丸め込む事など造作も無い事だろうし、そこまでせずとも内通者が秘かに裏に手をまわし処分することも考えられる。現情勢下では王の手元所か法的機関に公爵の告白文が届くとも思えない」

続くニックの言葉に、公爵は呆然とした様子だった。

今ライサンドは公爵家の地下牢にいる。
公爵は罪が確定するまで留めておくつもりのようだが、この状況下ではそれもどうなるか無事に届く事すら怪しい状況だ。
よって王の返答を待って領地から正式に追放すると言う話も、時間の経過と共にうやむやになって行く事が推察される。
前王の時代ならば常識的に処理されていたことが、現在ままならないと言う話は、往々にして良く耳にする話だ。
それにライサンドを抱え込んでいる者が国の重鎮の一人で、尚且つ私腹を肥やそうとする輩であれば、それはおそらく絶望的だ。
ライサンドはまかりなりにも王位継承権を次に持つ前王弟の嫡男。どのように利用されても可笑しくは無い人物の一人と言える。
恩を着せた所で損益になること自体考えにくい為、背後に居る人物如何によっては無罪放免。それも有り得る話だ。
それ程に今この国は、本当に今、腐りきっている状況なのだ。

「だとすればそれは叔父上が全面的に信用を寄せる者、その中に裏切り者が存在するという事です」

「!! ……」

ゼロの言葉に絶句し、公爵が大きく息を呑む。

「叔父上、貴方は今ご自身が創設された護衛集団キールに絶対的な信頼を寄せている。違いますか?」

「当然だ。キールは我がバラサインの要だ」

「という事は……、公爵が書状を託したのがキールの者という事ですね? ……だとすれば、仔馬の輸送にもキールの者が携わっている可能性がありますね?」

「まさか……、いや、しかし……」

「キールの者なのですね?」

フリードルが詰め寄ると、公爵がゆっくりと頷いた。

「……不味いな」

ゼロの言葉を聞くなり、ミゲルが慌てて厩舎へと走り出す。
続いてシドが地下牢に足を向けた。
そして、数分後――。

「やられました……」

厩舎には既に仔馬の姿は無く、ミゲルが悔しそうに呟いた。

「調べはついているのか?」

「裏で手を引いているとすれば、恐らくソイドと言う者だと思います。イシュラルの厩屋を襲ったのは、ソイドとそのとりまき連中ですから」

キールの情報は、この中で誰よりもニックが一番の頼りだ。

「その者の事は、良く知っているのか?」

「私が抜けた後に入った者ですから、面識は数度。後は厩舎に出入りしている時に、何度か姿を見ました」

「では、キールが既にライサンドの私兵集団に成り下がっているという事は、考え難いか?」

「それは無いと思います。ゴードン殿を慕っていた者達も多くおりましたから。団長が変わって抜けた者もおりますが、公のお人柄を慕って残っている者もまだ多くおりますから、内部分裂はあり得ても、その者達がライサンド側に就くとは、到底考えられません」

「そうか……。ならばキールの中で、お前が信頼できると思える者の名を、何人でもいい。教えてはくれないか?」

「はい」

ゼロは1枚の用紙をニックに手渡すと、記入を求めた。
それは現キールのメンバーリスト。
事前にフリードルが調べ用意してくれたものだった。
ニックはゆっくりとリストに目を通す。
そしてチェックが終わると、それを再びゼロに戻した。

「108名中……2人……。たった、これだけなのか?」

「申し訳ありません……。私が居た頃とはかなり様変わりしている上に、信頼できる者となれば、容易に記を付ける訳にも……」

ゆっくりと大きく頷くと、ゼロは踵を返す。

「フリードル! この両名と至急連絡を取り、ソイドの行方を追え!! 公爵には私から話は付けておく」

「はい。承知致しました!」

フリードルはその場にいたミゲルを引き連れると邸を早々に後にする。
一方ゼロは、ランドン、ニックを伴うと、薄暗い地下牢へと直ちに向かった。

「申し訳ありません……。私が居た頃とはかなり様変わりしている上に、信頼できる者となれば、容易に記を付ける訳にも……」

ゆっくりと大きく頷くと、ゼロは踵を返す。

「フリードル! この両名と至急連絡を取り、ソイドの行方を追え!! 公爵には私から話は付けておく」

「はい。承知致しました!」

フリードルはその場にいたミゲルを引き連れると邸を早々に後にする。
一方ゼロは、ランドン、ニックを伴うと、薄暗い地下牢へと直ちに向かった。

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プロフィール

風波 涼音

Author:風波 涼音
オリジナルの王道恋愛ファンタジーを書いています。(ハッピーエンド推進)〇〇年振りに執筆を再開しました。少しずつ自分のペースで書いていきたいと思います。

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