ファンシーの扉

オリジナルの王道恋愛ファンタジーを中心とした小説です。最後にはホッと出来る物語作りを目指しています。(R設定がある時は冒頭に記します。独自の判断でご注意ください) 尚、過去の作品については『◆ALL』をご覧頂きページの下の方にあります「Next」を押すと過去の作品まで全がご覧頂けます。作品のキーワード検索も『◆ALL』ページ左上よりご利用頂けます。

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第22話(シルビア視点)

信じても良いですか?旦那様ッ

旦那様が、私の事を大切に思って下さる気持ちは、本物なのかもしれない……。
けれど、今の状況で如何すればそれが私一人に向けられるものだと信じられると言うの?
今のままでは、私はこの先旦那様が外出する度に、ゆっくり休む事すら出来なくなってしまうと思う……。

最初は旦那様の側にずっといられるのならば、贅沢な事を望んではいけないと自らに言い聞かせて来た結婚だった。けれど、旦那様は私だけだと言ってくれた。
その言葉はとても嬉しかったし、ずっと続いて行くものだと信じていた。
けれど今は裏切られた……。そんな思いが溢れている。
もしかしたら心の何処かでは、こういう日がいつか来るのではないかと言う危惧する気持ちを拭い切れずにずっと持っていたかもしれない。
昨日までの私は、旦那様の側に居るだけで幸せで……、満ち溢れた気持ちになれた。だから誰かと旦那様を共有する日がこんなに早くに訪れるなど、夢にも思っていなかった。

いつか訪れるかもしれないと思っていても、現実を突き付けられた直後の精神的負担は、かなり大きいものだ。
加えて今の自分の身体的状況を思えば、それは決して好ましいものだとはとても言い切れない。
自分自身の心情的問題は、胎教に少なからず負担をもたらす事はおそらくは拭い切れず、それは出来る事ならばこの子の為に……、少しでも心安らかに過ごしたいと言う私の想いを否定させるものでしか無くなってしまう……。
だから私はせめてこの子の為に、何かあるならば包み隠さずに全てを告げて欲しいと思った。このように大きな出来事を受け入れるには、少なからず心の準備がいるものだから……。
だから何処か煮え切らない……、今の旦那様の口先だけ言葉など聞きたくも無かった。
旦那様が私に何か隠し事をしている事は明白で疑う余地は無い。
その真意は分からないが、分からないままでは今の私に安らぎの時間など有り得ないと思った。

誰かと旦那様を共有するの? 誰と!?

そうしたいとは思わないけれど、それで旦那様を繋ぎ止めておけるのならば、今はこの子の為に耐えるしかないのだと、心に深く思いを刻んだ。
告げられる言葉がどんなに辛いものであったとしても、この子の為ならば耐えて見せると覚悟を決めた……。
心で旦那様を繋ぎ止めておくことが出来なくても、今の私にはこの子がいる。
旦那様から貰ったこの小さな命だけは……、今は私だけのもの。
この子だけは誰にも奪えない!
大切な、大切な私の宝物……。
なのに私は己の精神的な弱さから、またしてもこの子を危険な目にさらしかけてしまった。
なんて私は弱い母親なのだろうか……。
私はまだ膨らみのない腹部にそっと手を当て、芽生えて間もない命に言葉をかけた。

(弱いお母様で、ごめんなさい……)

だから強くならなくては。この子の為に……。
強い母となって、何があってもこの子を守ることが出来る母親でありたいと、心からそう思い奥歯を噛みしめた。

「どっ、どうした? 何を泣いているのか!?」

腰をかがめ、心配そうにこちらを覗き込む旦那様の言葉で、私は頬が涙で濡れている事に気付いた。

「具合が悪いのか? だったら直ぐに医術師をッ!」

この子の為に……、強く!

「……いいえ、結構です。その必要ありません!」

私は気丈な声で旦那様の言葉を払いのけた。
これは私自身の心の問題。医術師の先生に診て頂いた所で、何の解決が出来るものとも思えない。

「だが……」

私の中に渦巻くこの思いを払拭できる者がいるとすれば、それは唯一人だけ。旦那様をおいて他にはいない。だから医術師が解決できるもので絶対に無いのだ。

旦那様は今回の事を、遅くなったから宿舎で仮眠だけを取って帰って来ただけだと私には告げていた。
だが、宿舎で仮眠を取っていただけの者が、不意打ちのようにあのように血にまみれの破れたシャツに女性ものの香水を匂わせて居るものだろうか?
如何考えても、そんな事は絶対にあり得ない!
宿舎に夜勤の給女が居ると言う話も、いまだかつて聞いた事も無い。
ならば考えられることは唯一つ。旦那様はやはり私に嘘をついていた……。と言うことになる。

……もしかして、以前懇意だった女性の所へ、行っていたのかもしれない……。
そんな思いが脳裏をかすめた。
私が動けない事を良い事に、再び顔を出し、そして……。
先程の夢の中の出来事が、再び私の心をかき乱す。
だが、あれは夢なのだと……、それを否定する自分も存在している。
だから、そこに迷いが再び生じる……。

旦那様は私だけだとあの時告白してくれた。
正直に、真っ直ぐな瞳で私を見つめ、それまでの事も包み隠さず話してくれて、私は旦那様の言葉をこれからは信じていけると、そう思った。
想いを告げてくれてからの旦那様は、今まで本当に優しかったし、もうきっと他の方の所に通う事はないだろうと信じられた。数時間前までは……。けれど……。

あの夢で見た事が現実の事のように如何しても思えて来てしまう。
考えれば考える程それは払拭できないものとなり、私を大きく悩ませる。
そして私は大きく首を振った。

「そんなこと……」

「……シルビア?」

思わず零れ出た心の声が旦那様を信じたいと訴えていた。
けれど、そう思いながらも、心の何処かでそれを否定させられ、挙句にはあのような現実を目の前に突き付けられては、やはり如何しても信じきれないッ。
あの血に染まり、裂け、鼻に突く異臭を放つ旦那様のシャツ。あれは紛れも無く突き付けられた事実だ。
ならば私は現実を真摯に受け止め、強くなる為にその事を踏み台にして、今から気丈に生きて行かなければならないのでは無いのか?
あの時倒れ、自分の精神的弱さから、この子を危険にさらしたかもしれない事も重く受け止めなければならない。今思い出すだけでもあの時感じた衝撃は苦しい程に胸が痛くなる。
突き付けられた現実は否定できない……。
ならば私はもっと強くならなくてはッ。この子の為に!
私には、この子を守らなければならない義務がある!!
この子を守る為ならば、私は何だって出来る覚悟なのだから、絶対に強くなれる筈だ!

私は目を反らさずに真剣に旦那様を見つめ返した。
旦那様は何処か訝し気な表情の私を見て、何も気づかないのだろうか?
おそらくは再び燃焼した恋の病に惚けていて、鈍感になっているだけなのかもしれない……。
私の想いに何の理解も示そうとはしていない旦那様の様子に落胆を覚えながらも、私はお腹の子に勇気を貰い、旦那様を再び強い視線で睨めつけた。そして……。

「……せん……たく場の……」

「んっ?」

「洗濯場の……、脇に女性ものの香水を漂わせ、血に染まり破れたシャツが廃棄されておりました。その件について旦那様に是が非でもお聞きいたしたい事がございます!」

私は声を震わせながらも、強い意志を持ち旦那様に問いかけた。

「っ!!…………」

私の気迫に満ちた眼差しは、旦那様には衝撃的だったのか?
一瞬目に見えて旦那様が息を呑む様子が伺えた。
私はすかさず更に勇気を振り絞ると、言葉を畳みかける。

「あの……、破れたシルクのシャツは間違いなく旦那様のものでした。最初は夥しい血痕に何かあったのかと心配も致しましたが、あの香りで私はっ……ぅぐッ」

突如数時間前の……、あの時の鼻腔を擽られた生々しい臭いと香水の忌々しい香りが思い出されてしまい、私は再び胸の奥に何かが競り上がって来るのを感じ、口もとを両手で慌てて塞いだ。

「しっ、シルビアッ、大丈夫か!?」

「触ら……ないでッ!」

身を乗り出し、背をさすろうとする旦那様の手を、私は必死に払い除けた。
今は、どうしても触れられたくは無かった。他の人を抱いたかもしれない手でッ……。

「し……、シルビア……」

私の突然の反応に呆然と立ち尽くす旦那様を尻目に、燭台に置かれた呼び鈴に私は手を伸ばす。
すると直ぐに待機していた侍女が駆けつけて来て、旦那様の脇をすり抜けると処置用の容器を私の目の前にかざし、手を添えた。

「ああ、奥様ッ……」

「ぅぐぐっ……」

「…………」

旦那様はその姿に、ただ茫然と……、放心状態になりながら見ているだけだった。

胸の中に痞えていた物を何とか吐き出すと、やがて気分も少しだけだが再び楽になる。
軽く用意された冷水で口をゆすぎ、侍女に礼を言うと直ぐに下がらせた。旦那様との話はまだ終わってはいない。

「……大丈夫……なのか?」

「ただの悪阻ですから、お気遣いなく」

「だが……」

「私には、旦那様に全てをお聞きする権利がございます!」

「はぁ――っ……」

旦那様は私の言葉に、大きなため息を一つつくと、項垂れた。

「……見てしまっていたとはな……。早急に処分するように言っておいたのだが……」

(はあ? 処分!?)

やはり……、旦那様はあの事を隠すつもりだったのだ!

旦那様の言葉に、私はまた収まりかけていた思いが、ふつふつと煮えたぎって来るのを感じた。

「私にお隠しになったまま、また以前の方の所へ通われるおつもりだったのですね?」

「えっ?」

「確かに……、今の私は旦那様の御相手も出来ませんし……、旦那様にご不自由をさせてしまう事は、申し訳ないとは思います。ですが……、私がこのような状況の時にと言うのは……、何処か酷すぎは致しませんか!?」

「……何を言っている!?」

「空惚けるのですか!?」

「違う!」

「昨夜は何方とお会いになられていたのですか? 城に上がっていただけでこのような流血事が容易に起きるとでも!? それも女性の残り香が付きで!ふざけないでください!!」

「だから、それはッ!」

「いい加減、お吐きになって、スッキリなさっては如何ですか? 私はもう……、疲れてしまいました。何を聞いても最早驚きはしないので、仰ってください!」

「私を……信じてはくれないのか?」

「この状況で、旦那様を信じられるとでも!?」

私はキッパリと、旦那様を否定する言葉を投げつけた。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第21話(シルビア視点)

信じても良いですか?旦那様ッ

衣服の乱れた豊満な美女に唇を寄せる旦那様の姿が突如視界に飛び込んできて、私は慌てて視線を外す。
一体如何して突然私がこのような場面を見せられているのか?

しかし、その状況は誰が見ても、この艶めいた美女と旦那様の間に何かがあったであろう事を推測させるもの。それは何処か気怠そうな美女の姿から一目瞭然の事だった。

『また来てくださるわね?』

『そうだな。考えておこう』

悪びれる様子も無くそう告げる旦那様の姿に、私は心の底から失望を覚えた。

『考える必要があるの? 貴方、小娘相手に全然満足出来ていなかったのでしょう?』

『……そうだな。こうやってお前に会ってみると良く分かる。妻はまだまだ子供だった』

その言葉に、胸の奥がズキリと痛んだ。

『だったら、これからもいらして? 私だったら奥様以上に満足させられてよ』

私は、己の未熟さを目の前で突き付けられて、失望のどん底に陥ってしまった。
駄目なのだ……。
所詮私などでは、どれだけ頑張った所で沢山今まで浮名を流してきた旦那様を満足させられる筈等、元から無かったのだ。
けれど……、それでもッ。

(「だめ……、ダメです。旦那様ッ!」)

他の誰かと旦那様を共有する事なんて考えられないッ!
私は必死で大きく手を伸ばした。

もう、聞き分けの良い妻になんて、なりたく無い!
結婚当初は、旦那様に浮気されても仕方がないと思っていたけれど、本当はそうでは無かった。
本当はずっと誰よりも旦那様を独り占めにしてしまいたいと思っていた。
旦那様の隣で、ずっと寄り添っていたいと……。

(「旦那様ッ、お願い!!」)

けれど必死で叫んだ私の声は、旦那様にはちっとも届かない。

『さあ、もう一度いらして?』

妖艶にほほ笑む美女は、旦那様の背に再び腕を回す。

(「嫌よ……、嫌ですッ。他の方なんて見ないで旦那様ッ!!」)

旦那様は私の声を無視して、その女性を寝台の上に再び組み敷いた。

ああ、酷いです。旦那様ッ。
如何したら私に気付いて下さるのですか!?
やはり、全ては未熟な私のせいなのですか?
だから、その方の許へ再び通われるようになったのですか?

(「だっ、ダメ――ッ!!!」)

旦那様と豊満な美女の唇が再び触れようとした瞬間、私は声の限りに必死に叫んだ。

如何して? 旦那様……、如何してなのですか?
私の事だけを愛していると……、言って下さったのは嘘だったのですか?

(「……旦那様なんて……、もう……だいっ、嫌いッ!……」)

私はその場に、泣きながら崩れ落ちた。

もう誰も、信じない……。
何も信じられないッ!


そう思っていると、何処からか聞き覚えのある声が聞こえて来た。

(私を嫌うとは……、聞き捨てならないな)

(えっ!?)

遠くで聞こえるような、くぐもった声が耳の奥底を擽る。

何故目の前にいて、いくら叫んでも振り向いてすらくれない旦那様の声が、違う所から聞こえてくるのか……?

(全く……ッ、一体どんな夢を見ているんだか……)

(……夢……?)

私は何処かもどかしい様子の声音に、必死で耳を傾けようとした。

(私への不満があるのならば、何でも聞く。頼むから目を開けてくれ……、私を見てきちんと言ってくれッ)

(……目を……開けて……?)

私は、そう告げられて息を呑む。
ゆっくりと、重い瞼を持ち上げようと試みた。すると……。


「ああ、シルビアッ」

「ぁ……、旦那……、様?……」

目の前には、少し不服そうにはしているものの、私を覗き込むように真剣な眼差しで見つめる旦那様の姿。

「良かった……。倒れたと聞いて、どれ程心配した事かッ」

(ずっと……、手を握っていてくれた?)

私の手に、そっと唇を寄せる旦那様。

「私……」

今まで見ていた事は、全て悪い夢だったのだと言う事に気付き、私は胸を撫ぜおろす。
そして自らを叱咤した。
なんて、馬鹿な私。
これ程までに私の事を心配して下さっていたのに、旦那様を信じきれなかったなんて……。
そして、そっと腹部に手を添えた。

大丈夫なのかしら?

倒れた時の記憶が全く無くて、突如不安に駆られてしまう。

「何事も無かったから良かったが、本当に肝を冷やしたぞ」

良かった……。

「ごめんなさい……。あの……、何時から……こちらに?」

「半刻程前に戻った。駆け付けて支えてくれたセイバスに感謝しなくてはな。そのまま床に倒れていたら、打ちどころが悪ければ大変な事になっていたかもしれないと主術医に酷く叱られたそうだ。本当に気を付けてくれよ。今後はくれぐれも一人で出歩くようなことはしないでくれ」

「御免なさい……」

記憶は無いけれど、如何やら己の不注意で、この子を危険な目に再び合わせていたのかもしれないと思うと、本当に申し訳ない思いでいっぱいになる。
母親としての自覚が足りなかったと、深く反省をした。

しかし、私は何処で何をしていて倒れてしまったのか?

「あの……。それで、私は……何処で?」

「覚えていないのか?」

「えーと……。まだ頭が少しボーっとしていて……」

すると側に待機していた侍女が教えてくれた。

「洗濯場でございますわ、奥様」

「洗濯……場?」

「はい」

「ずっと寝ていろとまではいわないが、邸の中でも油断は大敵だと言う事は胆に銘じておいてくれ」

「本当に、申し訳ありませんでした……」

私は皆に心配をかけてしまった事を心苦しく思い謝罪した。

「しかし、何故洗濯場などに行ったんだ?」

不思議そうに首を傾げる旦那様。
確かに何をしに私は洗濯場へ赴いたのか?

「確か……、少し眠ったら、気分がとても良くなったものだから、気分転換に邸の見回りでもしようかと思って下へ降りたの……」

懸命に記憶の糸を紡ごうと試みる。

「見回りなど、子が生まれるまではセイバスに任せておけば良い。今は身体の事だけを考えていてくれッ」

「はい……。ですけれど……。ぁっ……」

思い出してしまった……。

「しかし、夢の中とはいえ、私を嫌うなどとはけしからんな。お前に会いたくて、私はこれでも急ぎ城から戻って来たと言うのに」

「…………」

「如何した? 急に表情が険しくなったぞ?」

「いえ……」

「まさかまた私を疑っているのか? 勘弁してくれ。シルビアが倒れたと聞いて、私がどれ程心配した事かッ」

本当に真剣そうな眼差しで、私を心配そうに旦那様が見つめているようには感じられる……。
けれど、ならば如何して旦那様のシャツに女性ものの香水の匂いが?
それに、あの血痕は何を意味するものだったのか?

「嘘……」

「えっ?」

「ならば何故……あんな香りが?」

「シルビア!?」

私は旦那様に、思い出してしまった胸を燻り続けている思いを、吐き出してしまおうと心に決めた。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第20話

信じても良いですか?旦那様ッ

そんな個人的理由で、あんな大それたことをしでかしたのか!?
呆れ返ってものも言えない!

「元々お前は俺のように割り切れるタイプじゃないと思っていたんだ。だから念押ししたのに……」

「どういう事だ?」

「お前、家族を大事にするタイプだろ?」

「はあ?!」

家族と言われても、当時の私には家族と呼べるべき者は既に居なかったが?

「色々愚痴を言いながらも、親戚だのなんだのに随分振り回されていただろう? 結婚したら妻を愛おしく思う思わぬに関係なく、絶対家庭に趣を置くタイプだと、俺はずっと危惧していた」

確かに亡くなった父の妹たち……、叔母が小さな娘たちを連れて久方ぶりに実家に戻って来ると言えば、家長として早く屋敷に戻るようにはしていたし、従妹たちともそれなりの関わりを持つようにはしていたが、それ位誰だってする事だろう?

「いや、だがそれは普通……」

「俺はそれぐらいの事で、通う女との大切な予定を変更したりはそもそもしない。だからお前の結婚が決まった時に念を押したんだ。その時お前は俺に何と言った!?」

確かに、自分がこれ程までにひと回り以上年の離れた娘に振り回されるようになるとは思っても居なかったから……。

『小娘のお守りは御免だからな。結婚休暇位は付き合ってやってもいいが、それが終わればいつも通りだ。今までの肌に馴染んだ生活を簡単に捨てる気は全く無い!』

そう断言した記憶がある……。

「……あれは、撤回する……」

「状況は、変わらないんじゃなかったのか!?」

「変わるつもりは無かった。だが……、すまなかった……」

自然と頭を下げていた。

「……お前が俺に頭を下げるとか、有り得んな……」

「……私も今、驚いている……」

コイツにだけは頭を下げる等御免だとずっと思っていた筈なのに、素直に謝ることが出来た自分に思わず驚愕した。
妻の事を思うだけで、こうも自らがプライドを捨て去る事が出来ると言う事を、改めて私は自覚した。

「無意識か。本当にタチが悪いな。けど、もう分かってた事だし……」

「グレン?」

「お前の裏切りを知って、最初はかなりの苛立ちを覚えていたから色々勝手に振舞ってしまったが、お前が自らの腕を傷つけてまで、あの女を阻止したと聞いた時点で、実はもう諦めていた。お前がまさか自らの手で剣を握る利き手を傷つけるとは夢にも思ってもいなかったからな……。怪我の事を知って、腹いせで馬鹿げた計画を立ててしまった事を酷く後悔した。お前から剣の道を奪うつもりだけは、絶対に無いんだ……」

「私は、自らを戒めた事を悔いはしていないぞ。例え利き腕を失う事になっていたとしても、おそらく後悔はしていなかったと思う」

「だろうな。奥方に操を立てられるのならば、腕の1本や2本くれてやるってか?」

「茶化すのか?」

「いや……。だから、それで十分に理解した。俺には絶対出来ない事だからな」

騎士にとって剣を握る利き手は命よりも大切なものとされている。
私もまさか自らの手で利き手を傷つけることになろうとは夢にも思ってもみなかったが、自然とそれが出来た事で、妻に対する自らの愛情の深さを再認識させられた。
今の私には本当に、何をおいても妻への想いが一番なのだと言う事を……。

我等は互いに顔を見合わせ苦が笑いを浮かべると、軽く握り拳を合わせた。

「今度、また酒でも飲もうな」

「……それは、遠慮する」

「おい、まだ俺を信用できないのか?」

「家には招いてやってもいいぞ。落ち着いたらな」

「ほぉー、それは楽しみだ」

信用できないのかと聞かれれば、そこは私的にはグレーゾーンだ。流石に、暫くは外で一緒に飲む気にはなれない。
それに、あんなに具合の悪い妻を一人になどさせられるか!
妻への私の愛の深さを如何にか認めてくれた所をみると、とりあえずは、害は無いだろうとは思ってはいるが、今後も暫くは動向を注意しておく必要があると思っている。


「で、モルダーの件は如何するつもりなんだ?」

そうだった。
グレンとの関係が何とか修復出来た事は良かったが、まだもう一つの問題はまだ残っていたのだ。
私は神妙な眼差しで、ずっと状況を見守っていたモルダーに目を向けた。
早く邸に帰りたいのは山々だが、この件を片づけない限り今後の平和は有り得ない。

「随分と待たせて悪かったな」

「いえ。母の事で、色々とご迷惑をおかけしています……」

「その件については今後もこのグレンが関わってくれると思うから、心配ならば色々と相談をすると良い」

「はい」

「おい!」

グレンが私に対し少しばかり睨みを利かせるが、そんな事は構わない。

「元男爵夫人とは、連絡は取っているのだろう?」

「まあ、そうだが……」

「では、今後如何したいのか詳しく聞いて来い。本気で養子に出す気なら、あの女に頼らずとも私が協力してやる。養子を欲しがっている家は、あの女の所だけではない筈だ」

「分かった……」

「で、お前は如何したい? モルダー」

「えっ?」

「やはり何としても騎士になりたいか? お前の適性を思えば中々に難しい事だとは思うが、人の二倍努力する気があれば不可能ではないかもしれない。やれるか?」

「ほっ、本当ですか?! やります! やらせてください!!」

「グレン、お前の所で引き取ってくれるんだろう?」

「ああ、そのつもりだ」

「ならば、お前の所の従騎士のモルビスは私が引き受けよう。モルダーを引き受けるなら二人の指導は無理だろう? 私の所への移動ならば文句もあるまい。一応モルビスにも確認は取るが……」

「文句所か、おそらく大喜びするぞ、あいつ」

「なら、決まりだな」

諸々の書類も作成しなければならないから、移動は来月一日からと言う事で話はついた。

ああ、これでやっと妻の所へ帰ることが出来る!

私は、はやる気持ちを押さえつつ、残りの書類を一先ずファイルにしまい、早々に団長室を後にした。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

パウリンに導かれて《第13章3》

パウリンに導かれて

「悪い。取り逃がした」

聞かれたからと言って支障を来すような話の内容でも無かった事から、そんなに重要視する問題とも思えず、シドは再びゼロの対面側に腰を下ろすと、ため息交じりに呟いた。

「違ったか……。俺はてっきり、お前はあの娘に気があると踏んでたんだがなぁ」

「……あいつは、あいつだ」

そう告げるゼロの眼差しは、何処か遠くを見つめていた。

「……お前っ」

「ただの女等と言う悍ましい生き物と、あいつを一緒にするな」

何処か苦しげにも受け取れるような口調で零れ出たゼロの言葉に、シドは複雑な気持ちになった。
ゼロの女嫌いが周囲に齎す威圧感は半端なく、迷惑だと口にする者こそいないが、それに緊張を強いられている部下はおそらく少なくは無いとシドは踏んでいた。
だから何か対策をとらなければとずっと思って来た。
その時に運よく現れたのがローレライと言う娘の存在。
その者に対するゼロの反応に、あの娘ならゼロを変えてくれるかもしれないと密かに期待した。
事実ゼロは変わった。
自分では気づいていないかもしれないが、女性に対する接し方も、今までの様にあからさまに嫌がる素振りを見せる事も無くなり、人並みと言うにはまだ語弊があるかもしれないが、かなり寛容な対応が出来るようになって来た。
それは、今までの経緯を考えれば、画期的な出来事だった。
女性に対する特異的な価値観で、周囲に害を及ぼすことが無くなれば、これからの対人関係もおそらくかなり変わってくる。敵対する者の数も確実に減って来るに違いない。
もう以前の様に、女性を害する言葉をあからさまに向けるようには思えない。

人や物事に対する価値観は人其々だが、ゼロの女性に対するそれは、とにかく今まで異常だった。
漠然と思った時、そう言えばゼロが以前母親ですら女と認めない発言をしていた事をシドは思い出す。

“母は母であって、決して女等と言う次元で比べるべき存在ではない”と言うのが、確かゼロの自論だった筈だ。
特異的な捉え方だが、ゼロにとって世間一般の言う“女として認めない=特別な存在”とするのが母に対する位置づけだ。
ゼロの言動を見る限り、おそらくローレライはそれに加わる事を許されたのだ。
これはずっとゼロの女性観に悩まされていたシドにとっても喜ばしき事だった。
ゼロの女性観が変わってくれればとずっと願い続け、ローレライと上手く行くようにも嗾けて来た。
それが、まさかこの様な形で悩ませられる事になろうとはシドは夢にも思っていなかった。
こうなって来ると、これはこれで面倒な事この上ない。
ゼロは一度決めた事を、途中で放り出すような者では無い。
気付いた気持ちは、今後何があろうとおそらく揺るぐことは無いだろう。
自らの立てた道筋とはかなり変わっては来るが、ここまで来たら如何なろうとも、もう見守るしかないのだとシドは自身に言い聞かせた。

「まあ、何があるのか良く分らんが、何れは教えてくれるのだろ? お前の気持ちがそこまで固まっているならそれで良い。もう何も言わんから好きなようにやれ。自分が後で後悔しないようにな」

ゼロはグラスを手に取ると、中に入っていたワインを一気に飲み干した。

「……私には、これからもあいつ以外の者を傍に置く事は考えられん。だから何があってもあいつの傍にいれるように騎士の誓いを立てようと思う。私にはもう、あいつにそれ位の事しかしてやれんだろうからな」

そうでもしなければ、この想いを断ち切る事はきっと出来ない事をゼロは自覚していた。
王城を出てからもゼロにとって、どんなに落ちぶれようとも騎士としての生き方は自身の誇りだった。
新王を立て、国を再建する手助けをする事こそが悲願だった。
家臣となり、その者の許で手足となり働く覚悟も出来ていた。
その先に、自身の未来等必要ないと思っていた。
だが、ローレライと出会い、知り行く中で、思いは変貌を遂げていた。
自身の気持ちに気付いた今、ローレライを手に入れる王に等、誠心誠意仕える事はおそらく無理だ。

(ならば、あいつ自身に誓いを立てれば良い!)

王を導くパウリンの所有者を守る事は、国を守る事にもなるのだから。
決断に迷いは無かった。


静かに扉が開かれて、ソファーで紅茶を飲みながら寛いでいたルシオンはとそちらに視線を移す。
想定外の早い妹の帰りに、意外そうに少し驚いたようにローレライを顧みる。

「レライ、早かったな。ゼロの奴、留守だったのか?」

様子を伺いながらルシオンはローレライを覗き込んだ。

「いえ、……シド、……シザーレがね、来てたみたいで……。あの……、込み入った話をしているのが聞こえて来たものだから、明日にしようと思うの。それに私……、今日は疲れたからもう寝るわ。お兄様も、お部屋に戻ったら?私、もう大丈夫だから。おやすみなさい」

早口でそう告げると、さっさと寝室へと入って行った。

「……今のは、何なんだ?」

普段の妹らしくない様子に、ルシオンは呆気に取られた。

部屋を出て行く時にあれだけ上気していた筈の妹の表情が、何処か陰りを含んだ何とも言えない味気のないものに、この時ルシオンには感じられた。

「何か今の……、変じゃなかったか?」

思わず、口から言葉が零れ落ちていた。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第19話

離婚しましょう? 旦那様ッ

全くッ!
グレンの奴は何を考えているんだ!?

「お前が自分に責任を覚え、若い奴らのように元男爵夫人を見放さないのは立派だ。だが、その事に私を巻き込むな!」

そう告げると、私は女を睨み付け、腕から無理やり振りほどこうと手をかけた。

「離さないわよ。約束は守ってもらうんだから!」

タダをこね、私に対抗するようにこちらを睨み付ける女の姿。
こんな女を相手にする等、この世の終わりが来ようとも御免だ!
私は舌打ちすると、その女の腕を容赦なく払い除けた。

「如何言うつもりよッ!」

「如何言うつもりも何も、そもそも私はお前とは何の約束もした覚えもない! それでもまだ付きまとう気ならば、今度こそ容赦はしないぞ。本当に潰すぞ!!」

「なっ、なによ! おっ、脅す気!? しょっ、証拠なんて無いんだから! そうよね?」

そう告げると女はグレンの方に振り返った。

「この件に関しては、確かに証拠と呼べるべきものは何もない。あの飲み屋の二階で流血騒ぎがあったと言う以外はな。だが、その事はスタンも店側も周囲に知られたくはないだろうし、証拠という証拠は上がらないだろうな」

「グレン、お前どっちの味方だ。もういいんじゃなかったのか!?」

「まあ、聞けって。だが貞淑な妻を演じている夫人にまんまと騙され続けている働き者の旦那が、自らが外交官として赴任中に、夫の留守を良い事に隠れて散々致している所業の数々を知ったら如何なるだろうな? これについては探せば口を割る人間はいると思うぞ」

「そんなッ、おっ、脅しになんて乗らないんだから! 相手も皆条件は同じなんだから簡単に口は割らないわよ。都合が悪いのはあっちも同じなんでから! それに貴方は私を断れない筈よ。その女の子を引き取って貰いたいんでしょ?! 良いわ。その女も乳母として雇ってやるから、それで手を打ちましょう?!」

「スタン、如何する?」

「私に聞くな! そもそもお前がこんな女を利用しようとしたから事がややこしくなっているんだろう? それに元男爵夫人は腹の子を本当に養子に出す気でいるのか!?」

なさぬ仲の子であっても、あのマゼレーゼが簡単に自らの子を手放すとは思えなかった。
子供と引き裂かれる辛さは痛い程知っている筈の人物だ。

「出すに決まってるって、公になるのは不味いと言っていたんだから」

「きちんと確認は取っていないんだな?」

「必要も無い事だろ?」

「お前、腹の子に対する親の気持ちを軽んじるなよ! きちんと確認してから行動を起こせよ」

「何だ、既に父性愛か? そんなに熱くなるなよ」

「お前も、一応人の子の親だろ。良くそんなに冷静でいられるな。お前の子の可能性だってなくは無いんだろ? そもそもお前には自らの子に対する愛情は無いのか?」

「それなりにはあるとは思うぞ。他人の子を引き取って育てようとは思わないからな」

「責任感だけって事は無いか……。可愛いとは思っているんだろう? 誕生日のプレゼントはいつも用意しているようだしな」

「う~ん。可愛いと思う時はあるが、基本起きている時は五月蠅いからな。そこはウザい」

「ウザい!?」

我が子に対し、ウザいとか、有り得んだろう!?

「懐いて来る時は可愛いが、大体が欲しいものをねだられる時だけだからなぁ。そもそも邸には休みの日しか戻らないから仕方ないが……」

「何だ、それ!」

女の所に日勤は泊まり込んでいると言う事か?
以前から私より随分と外の女に入れ込んでいるとは思っていたが、こんなに酷いとは思ってもみなかった。
我等は不規則な仕事だが、夜勤は多くても週に2回程度だ。殆ど邸に戻れない生活を強いられていると言う訳では決して無い。

「子供等も、奥方も、不憫だな……」

「むさ苦しいのが居なくて、清々していると思うがな」

グレンの妻はかなりできた人物で、生活をかき乱さなければ何をしても口を挟まない者らしい。元々幼い頃より決められていた家同士の政略結婚で、互いに深い愛情は求めていなかったとグレンは言い切っているが、果たして妻の方も同じ気持ちなのか?

「あまり奥方を悲しませるなよ」

「だからもう、外子は引き取らないって」

「そういう問題なのか?」

今度婚外子の問題が公になれば、離縁すると引導を渡されたらしい所を見ると、妻の方は案外……。
いや、これ以上他所の家庭の事に首を突っ込むべきではないな……。根本的に私とは考え方が違うから、もう女絡みで理解し合えることは無いと思っているなら、ここは既に立ち入るべき領域ではない。
そんな事を考えていると、ああ。。。
またあの女がしゃしゃり出て来て、思わず二人して視線を反らした。

「ちょっと無視しないでよ!」

「まだ居たんだ……」

「居るわよ!!」

グレン……、お前が連れて来たんだろ? それは無いだろう……。

「もう引き取ってくれて構わないよ。どのみち俺が口を割ればお前は終わりだ。今回の件でまだ色々ご託を並べるつもりなら、それなりの覚悟をしろよ。子を引き取る引き取らない以前に、お前は身の置き所を失う事になるからな」

「ッ! 卑怯者!!」

女は言葉を吐き捨てると、悔しそうに部屋の外へと出て行った。

やっと女の事が片付いた。やれやれだ。
だが、私には如何しても納得のいかない事がまだ一つある。

「なあ、一つ聞いても良いか?」

「ん?」

「お前はそもそも何故私をここまで巻き込もうとしたんだ?」

「う~ん。まあ、今となってはそんなに大それた理由では無いんだが、お前の結婚からこっちの態度にかなり腹ただしく思っていたし……。結婚については俺が危惧していた通りになったからな。鼻を空かせてやりたくなった」

はあ?!

「……グレン……」

私は深いため息と共に、思いっきり脱力した……。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村
関連記事

PageTop▲

Menu

プロフィール

風波 涼音

Author:風波 涼音
オリジナルの王道恋愛ファンタジーを書いています。(ハッピーエンド推進)〇〇年振りに執筆を再開しました。少しずつ自分のペースで書いていきたいと思います。

ランキング参加中です

押して頂けると励みになります^^

FC2Blog Ranking


にほんブログ村
にほんブログ村

                                   

ブロとも申請フォーム

最新記事

カレンダー

05 | 2018/06 | 07
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロ友更新記事

検索フォーム

QRコード

QR