ファンシーの扉

オリジナルの王道恋愛ファンタジーを中心とした小説です。最後にはホッと出来る物語作りを目指しています。(R設定がある時は冒頭に記します。独自の判断でご注意ください) 尚、過去の作品については『◆ALL』をご覧頂きページの下の方にあります「Next」を押すと過去の作品まで全がご覧頂けます。作品のキーワード検索も『◆ALL』ページ左上よりご利用頂けます。

ずっと心に決めていた《193.影 人》(パウウェル視点)

ずっと心に決めていた

リチャード・モリスは、かつて警務騎士団統帥長であった父の側近で、右腕とまで言われていた男だった。
私自身彼とは当然顔見知りで、父の死後正式に城に上がるようになってからは、傍について警務騎士団の何たるかを彼の指導のもと叩き込まれた。
私の目に映るかつての彼は、常に警務騎士団の仕事に誇り持っており、死して尚、父の事も敬愛してやまぬ人物で、周囲からの人望も厚かった。
当然当時の誰もが次の統帥長は彼であると思っていたに違いなかった。
だがあれは、父の後を継いだ前警務騎士団統帥長の定年により、次の統帥長の内示が出た時の事だった。

『私が、次の統帥長に? 私はてっきりリチャード・モリス隊長が継がれるものかと……』

『リチャード・モリス隊長からは、先月付で辞職届が正式に提出されている。今月末を持って受理される。よって上層部は若いが実力的に見て次の適任者は君であると言う判断を下した』

『承服できません!』

『パウウェル班長、これは既に陛下も認めた決定事項だ』

直ぐに彼の許に駆けつけ、その決断に至る経緯の説明を求めた。

『既に能力的には私どころか統帥長の上を行くお前を余所に、私が統帥長等有り得ない。黒騎士隊は実力が行使される部署だ。実力のない形式だけの統帥長など私は御免蒙る。それに、既にもう私がここに居る必要性を感じないしな』

『そんな事は!』

『お前の能力が開花した今、これ以上サンドール閣下に義理立てする義務もないしな、もとより私は天涯孤独の身。これからは己の信じる道を悠々自適に過ごさせて貰う事にする』

それがリチャード・モリス隊長が、私に向けた最後の言葉だった。

己の信じる道……。
彼にとって、この警務騎士団として過ごす日常が、己の信じる道では無かったのか?

自問自答する中で、最初の頃は色々と考えさせらる事も多かったが、日々の激務に追われ、その内彼の事は記憶の片隅に追いやってしまっていた。
それでも彼が真っ当な人生を今後も歩んで行くであろう事に疑う余地は無かく、そう信じていた。
だから裏稼業を生業としている術者名簿の中に彼の名を見つけた時には、まさかと思った。

『……このリチャード・モリスと言うのは……』

『はい、私もその名に驚き調査した者に確認致しましたが、身体的特徴、生業としている能力はあの方に酷似しており……、当人で間違いないかと……』

かつて警務騎士団に身を置いていた者の中には、確かに裏稼業に身を転じる者も時として見受けられる。だが、その多くは何らかの問題を抱え罷免された者が殆どだ。

(彼に限ってそんな筈は……)

有り得ないと、まことしやかには信じ難い事実。
だが調査報告書に不備は無く、だとすれば現実的観点からして彼に遭遇した時の対応をこれから考えなくてはならない。
だが、現時点で彼の実力に対抗出来る者がいるとするならば、それはおそらく私か、このユリウスをおいて他にありえないだろうと言う結論に至った。
彼がまだ、昔のままの実力を維持しているのだとすれば、対する時、彼がかなり厄介な相手となる事は間違いないだろう。
更に彼の現在の契約者についても厳密に調べる必要性があるとして緊急調査させたが、その人物の名は、厳密には分からなかった。
きっと彼が何らかの細工をしているに違いなかった。
少なくとも彼の契約者は近頃ウィロー街に足を踏み入れ居ている筈なのだが、そんな輩はごまんと居る。

『難儀な問題が、また一つ増えたな……』

『閣下……』

側近のユリウスに向け苦笑いを漏らしたのは、つい先週の話だった。

その更に3日後、アクアローズ横流しに関わる定例報告の為、殿下の執務室を訪れた時だった。
良くここまで調べたものだとお褒めの言葉を賜る一方で、懸念されるべき人物として、リチャード・モリスの名を挙げ報告をした。
かつて彼が警務騎士団を退いた経緯を、殿下も知っている筈。
さぞや驚かれる事だろうと思っていれば、殿下はなんと小さく微笑した。

……これは如何いう事なのか?

『ほう、モリスまで辿り着いたのか?』

『……ご存知なのですか!?』

『まあね』

殿下が彼の現在の状況を知り得た上で放したままにされていると言う事は、この国にとっ彼が現在捕獲対象で無いと言う事は明らかだと思った。
ならば彼の存在を、如何説明されるのか?
おそらく何らかの形で現在も公的にこの国に関わっていることに間違いは無いだろう。
ならば彼の現在における公的職務とはどの様なものなのか?

『彼はかつてサンドール閣下と裏社会の膿を出すには、時として影となる存在も必要だと言う話をしていたらしい』

『……父と……、ですか?』

寝耳に水の話だったが、まさかの話の内容に、私は一瞬息を飲んだ。
裏社会の影となる者の存在の必要性。
ウィロー街に蔓延る輩に対する時、私も唯の潜入捜査と言う必要な期間限定だけのものでは手ぬるいのではないかと思っていた。
出来る事ならば、その裏社会の深く入り込み、捜査出来る者を置けないものかと考えていたから、同じ考えと聞いて驚いた。

『多くは語れない。この件は現在国家機密的プロジェクトになっていて、今の権限は陛下にあるから……。ただお前は提案者である閣下の息子だし、彼の存在まで辿りつけたのだからこれ位は知る権利があると思っている。全ては私が後を継いだら話してあげるけど、今はそれで勘弁してくれ。だから決して、判断を見誤らないでほしい。私が今言えるのはこれだけだ』

現状のままでは彼の身は、我が警務騎士団の監視下にあるロナルド・セオン・ドワイヤルの逃亡介助と言う罪に問われる事になる。
だが殿下の話から推察するに、彼はただの逃亡介助をしているという訳では如何やら無いらしい。
父の悲願だった職務と聞けば尚の事……。
殿下の明確とは言い難い言葉を頭に入れながら、私は今、彼に何を期待しているのか?

意識を彼等に集中させ、二人の会話を覗き見る。
そこには懐かしい彼の罵声が飛び交っていた。

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離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第13話(シルビア視点)

信じても良いですか?旦那様ッ

少し気分も落ち着いて来ると、今日はまだ屋敷の任されている事に、何一つ手つかずだった事を思い出した。
この屋敷の事は私が嫁ぐまで全ての使用人の統括は執事に一任されていたと言う。
だから私が休んでいてもおそらくは屋敷の中は機能するだろうし、そう問題も無いのかもしれないけれど、それでも本来女性使用人の管轄を任されている身としては、日に一度の見回りは欠かせない。通常どの屋敷でもこういう事は女主人か或いはそれを任せられる長年屋敷で働いている女給長の役割だ。我が実家では殆ど女給長がその役割を担っていたが、ここには私が来るまで女性の使用人の数も少なかった為、そのような役職の者は居なかったのだと言う。その為、嫁いで来た時に

『今後女性使用人の統括と役割についての事は貴女に任せる。詳細などについては執事から引き継いでくれ。一通り慣れた後は信頼のおける者に任せてもいいし、そこは貴女のやりやすいようにやってくれて構わない』

と旦那様から告げられた。
以来ずっと屋敷で多くの女給が出入りしている部署は、私が管理を任されている。
その中での一番楽しみな作業は屋敷内に飾られる花の種類や配置を考える事。
私の衣類や旦那様との二人の部屋の清掃は、私の侍女や他の実家から連れて来た者に任せてあるし、旦那様の私室での身の回りのお世話は担当の従者がいるのでその事は彼のやりやすいようにと任せてある。他の部屋についても今まで通りの担当の女給に任せて、統括的なものだけを私が管理していると言う感じだ。
皆よく気が付くし、この屋敷は本当にいつも良く磨かれている。

とりあえず今日も部屋の見回りだけでも始めようと、気分が良くなってきた通常ティータイムの時間である午後3時過ぎ、寝台を抜け出そうとしたら侍女に止められた。

「奥様、あまりご無理はされませんように……」

「大丈夫。今は少し気分がいいの。お薬と甜瓜の効果かしら? しばらくは、食事は甜瓜だけで良いわ」

「あっ、はい……」

侍女は心配そうにまじまじと私の表情を伺っている。

「病気ではないのだし、気分転換に応接室とか大切なお部屋だけ少し回って来るわ。お花のチェックをしたら少しお庭を歩きたい気分だし」

「そうですか? でしたら、私もご一緒致します」

「これぐらい大丈夫よ」

「ですが、もし途中で具合でも悪くでもなられたら……」

「もう、エドナは心配性ね」

「旦那様からも『くれぐれも頼む』と言われておりますから」

「そう? だったらお庭には一人で出ないようにするわ。それなら良いでしょ?」

「はぁーっ……、仕方ないですねぇ」

ため息をつきながら、半ばしぶしぶという感じで、侍女エドナの了解を取ることが出来た。
4歳年上の彼女とは、私が13歳の時からの付き合いで、旦那様との恋の悩みも多く聞いてもらった間柄だ。
尼僧院へ駆け込んだ時も付き添ってくれているので、私が一度言い出したら中々利かない性格だということを良く知っている。

「では、これをお羽織り下さい。お身体を冷やされるのは良くありませんので」

肩に長めのショールが掛けられた。

「有り難う」

腰元まで冷やさないようにゆったりとした長いショールは、先日旦那様からプレゼントされたばかりの品だ。
つけ心地に満足した私は足元を十分に注意しながら、右手で前を合わせると左手を階段の手すりに添えながら慎重に下りて行く。
下りた先で一番最初に目に飛び込んできてのは、寝込んでからずっと気になっていたエントラスの花だった。だが目にした途端胸を撫ぜおろした。
エントランスは邸の顔となる場所だ。来客時に失礼があってはならないから、今自分が任されている仕事の中で最も気にかけている場所だった。
飾られているメインの花は昨日のままだけれど、周りに添えられている花が一部変わってとても良いバランスを保っていた。これもきっと執事が指示を出し変えさせたのだろう。とても有り難かった。
これから執事に迷惑をかけてしまうことも多くなるかもしれない。後で一言断りを入れておかなくてはと思った。

エントランスから左の廊下を奥へ進むと、厨房へと続いている。
料理長に先程のフルーツのお礼に行こうと奥へと足を進めていると、思いがけず途中で引き返さなければならない状況に陥ってしまった。
だいぶ良くなってきたと思っていたけれど、夕食の支度に取り掛かっているのか色んなものが混ぜ合わさった匂いが途中から漂ってきて、我慢が出来ずに結局それ以上奥へ足を踏み入れることが出来なかった。
情けない……。
けれど今はこれが精一杯だ。仕方ない。後で旦那様からもお礼を言ってもらう事にしよう。

続いて先ほど汚してしまった大量の洗い物のお詫びに行こうと洗濯場に足を向けてみた。
中ではこちらを背にして何やら懸命に揉み洗いをしている様子の給女等の姿。
ただですら屋敷での洗い物は多く、力仕事になると言うのに本当に申し訳ない。有り難い限りだ。

「今日は余計な洗い物を増やしてしまって、申し訳なかったわね。別に急ぎではないからゆっくりしてくれて構わないわ」

と優しく声をかけたつもりだったのだけれど、中にいる給女から酷く驚かれてしまった。

「おっ、おお……、奥さま!?」

「えっ? 奥様ですって?!」

「早く隠してッ!」

(えっ? かく……して??)

かなり慌ただしい様子。
一体どう言う意味なのだろうか?
私はその言葉が気になり、部屋の中へと入っていった。
するとそこには部屋の隅には廃棄用の袋に入った血の付いたボロボロのシャツ。

「……誰か怪我でもしたの? 誰?! 先生にはもうお見せしたの?」

「いえ、それは……」

「もう、バカ! そんなこと言ってバレたら執事様に怒られるわよ」

「えっ?」

その言葉に驚いた給女が、思わず今洗っているらしき衣類から手を放してしまった。
洗濯液に浸かっている衣類に目を向けてみれば、その液は衣服から染み出たような茶褐色に染まっていた。
直ぐ横に目を向けてみれば、そこには洗濯済みのような旦那様のマント。

「まさか……、旦那様……、お怪我をなさっているの?」

「いえ、あの……これは……」

「あの袋に入っているシャツも……、もしかして旦那様の……」

「いえ、あれは……、あの、スウェーデン様がお怪我をなさって……」

スウェーデンと言うのは旦那様の従者の名前だ。確かに似たようなシャツは着ているけれど……。

「……でも、その今浸かっているのは旦那様の正装着……よね?」

「「!!…………」」

給女達は口を急に閉ざしてしまった。

私は更に奥へと足を進めると、震える手で廃棄される袋の中に入っているシャツに手を伸ばした。

「あっ、いけません、奥様ッ!!」

手に触れるシャツの素材は明らかにシルクの肌触り。旦那様のもので間違いない。
そして袋から取り出した途端、私は再び吐き気に襲われ、その場に蹲ってしまった。

「うぐッ……」

「ああ、奥様ッ!!」

「誰かッ、早くバトラーを!」

「早く奥様をお部屋へお連れしてッ」

今の臭いは……、何?

旦那様の汗の臭いとともに感じる血なまぐさい臭いを打ち消すような鼻に突く香水の匂い……。
あれは明らかに女性ものの香水の匂いだ。

「旦那様……、如何してッ……」

「あっ、奥様ッ!!」

私はその場から直ぐにでも逃げ出したくて、立ち上がった途端、眩暈に襲われた。
そして倒れる寸前の所を、執事によって支えられたようだった。

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パウリンに導かれて《第12章7》

パウリンに導かれて

ゼロは王宮を出てからずっと、我王を玉座から引き摺り下ろす手段を模索していた。
気弱な性格の王とは言え、あの皇太后が背後に居る以上、簡単に退位させられるとも思えない。
皇太后の弱みの一つでも握ることが出来たなら、少しは現状も変わって来るのかもしれないと、在職中より前王に嫁ぐ以前からの素行を調べていたが、大きな問題となるようなものは何一つ出で来なかった。
出なければ出るまで探ってやると言う心構えを待ち続け、王宮での職務を退いてからも、今度は我王の出生以前から現在に至るまで、違う目線で物事を捕え調査を開始。
より詳細に調査する事で何かが見つかればと動いてみたが、それは決して容易な道のりでは無かった。
何も出て来なければ出て来ないで、次の策を嵩じなければならないと思って居た時だった。我王の出生について、かつて幾つかの疑念が囁かれていたと言う話を耳にした。
その話は、我王が生まれたのが婚儀から8か月にも満たない時だったと言う事実に遡る。
当時、前王が我王を実子と認めていた為、周囲が口を挟む事は戸惑われたが、それを提言した者は我王即位の際に悉く排除されたと言うのだ。
それが事実であれば、これは忌々しき問題である。
当時皇太后は婚儀の1か月前から王族としての行儀作法を身につける為に、王宮に滞在していたのだが、その時には既に妊娠していたのではないかと言う噂もあったと言うのだ。
婚約は、既に婚儀の3か月前に調ってはいたが、婚約式から2か月は妃となる者は花嫁修業の一環として、時代の王の母方の実家で過ごす事が習わしとなっている。式までの間、妃になる者は清めの儀式が終わるまでは、王と接触は一切許されない事が習わしとなっていると言う。
皇太后も婚約式から婚儀までの間をそこで過ごししている筈である。
外出も許されるのは、王の花嫁となるべく清めの儀式のみで、調べによると皇太后は当時公爵家から一日も休むことなく王宮内にある神殿に足を運んでいたとされていた。
にも拘らず、我王の出生については、早産で生まれたとされているが、目方は標準以上あったらしく、2か月も早い早産で、それは奇跡だ、流石は王のお子だと称賛する声があった一方で、そこに疑念を抱いた者も当時少なくは無かったというのだ。
普通に考えてみて8ヶ月の後期のお産だったとしても調べたところどんなに大きく育っても2000gにも満たない。医術学的にもその説明には無理があった。
それに加えて、我王は外見的な今までの王族の特徴を何一つ持っていなかった。
サザーランド国の建国から180年続くザランドル王家の王族に近しい血縁者の多くに現れると言う特徴。それは薄紫の透明感のある瞳の色。それは王族の殆どに受け継がれていると言うもので、前王の兄弟全員も持っており、ゼロも上の姉、従弟となるライサンドも同じ色の瞳を持っている。所が現王となるライサンドは瞳の色は赤みがかった深い緑色。父である筈の前王に外見も何一つ似ておらず、成長過程においてもその変化は見られなかった。性格においてもどれを取っても王族の親戚筋にすら当て嵌まるものは全く無い。
母方の血をより濃く受け継いだのであろうと当時王が提言した為、表向きは周囲もそれに異を唱える者も無かったらしいと聞き及んではいるが、ゼロが詳しく調べた所、前王の死後、我王即位に際し疑念を口にしはじめた者も居たと言う。
更に我王の国内においては特殊とも言える瞳の色は、現存する皇太后側のどの血縁者にも見受けられず、更に疑念は深まって行ったという説もある。
ブラックナイト内部ではそれは更に強固なもので、我王が王の実子だと唱える者はだれ一人として居ないが、実の所その真相は今も尚確証となるまでには行かず、謎に包まれたままとなっている。
疑念を抱き、色々と当時の皇太后輿入れまでの日程などを探ってみても、現段階では花嫁修業をした公爵家では何の問題も見つかっておらず、何かあるとすれば唯一調べる事が叶わなかった王宮の敷地内にある神殿での出来事となるのだが、現段階ではそれも調べる事は難しい。
更に皇太后については、前王の死直後に囁かれた『王暗殺疑惑』も未だに明かされていないまま。
当時調査していた者は我王の政権下の許既に排除され、今ではその詳細を調べようとする者も居なくなったと聞いている。
自らの意に従順な者しか傍に置かない、現絶対君主制。
王族の一人として……、等と言う程の使命感は持たないが、ゼロは祖父や伯父の守って来た、かつては幸福の象徴とまで呼ばれていたこの国を、これ以上私物化された挙句、衰退化の一途を辿って行く様を、見て見ぬ振りが出来なかった。

全ての疑惑を明らかにするには、やはり再び王宮へ行くしかおそらく手立てはもう残されていない。
それを考えた時、幸いにしてゼロの父は名ばかりとは言え今も宰相の地位にあり、母は多くを王宮内で過ごし、内々的に王政の未来を占うべき役職にある。
ゼロも罷免された訳でははなく、自ら職を辞している。
王への謁見を拒否される言われはないし、我王とは戸籍上従兄弟の間柄。
両親の役職を考えても謁見を拒否される事はありえないだろうし、両親に会いたいと言えば王宮内へ入る事は容易とも思える。
他のブラックナイトの面々の多くも、解任されたのでは無く自ら職を辞した者が殆どで、皆ゼロやその配下の者に賛同して付いて来た者達ばかりだ。だからこそブラックナイトの面々の団結力は揺るぎない。
ただ、皆が皆王宮に入れる筈もなく、名のある貴族は何らかの理由づけで王宮に入れたとしても平民の出の者は難しいし、一度に多くの謁見は返って怪しまれる。
踏み込むことを前提に考えるなら、その前に王宮近くに今ある仮支部を移さなければならない。
場所から探すとなると調査も必要になって来るし、自分以外にそれを指揮できる者は、今はシドかエルしかいない。
他の支部の者を呼び寄せる事も考えたが、そうなれば情報収集が滞るし、何かあった時に打つ手段を絶たれる事にもなりかねない。
呼び寄せるのは、やはり最終手段だと思って居る。

「エルが戻り、シザーレやニックのに頼んだ事が全て済んだら、王宮に行こうと思っている」

「王宮に!?」

ゼロは今までになく神妙な面持ちで話し始めた。

「我らブラックナイト結成の一番の目的は、我王を玉座から引き摺り下ろし、聡明なるザンゾール公を玉座に据える事だった。だが、ライサンドのお蔭でそれも難しくなってしまった……。しかし、このまま我王の政権をそのままのさばらせる訳には行かないと思っている。今我王を玉座から引きずり降ろせたとしても、王は不在となる。当面は宰相に任せるにしても、その先をどうすれば良いのかさえ今の私には考えが及ばない。だからザビーネ様に会って、一先ずその事を相談してみようと思う」

ローレライは絶句した。
今ゼロが一番悩んでいる事の答えは、おそらく自分が知っているかもしれないのだ。
パウリンの事は、他人に話すべき事では無い。
しかし、ゼロになら告げても良いのかもしれない……。
彼は、ザビーネ様の血縁者だ。
それにここには、他に兄ルシオンしかいない。
ローレライは深く目を閉じると、暫く考えた。
やがてその瞳を大きく見開くと、息を整えるために大きく深呼吸した。

「パウリンの私の役割について、ゼロにお話ししておきたい事があります」

ローレライの言葉に、ゼロとルシオンは視線を向けると凝視した。

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ずっと心に決めていた《192.手 引》(ユリウス視点)

ずっと心に決めていた

「「「!!……」」」

何が起こったと言うのか?
奴を部下等が捕まえようとしたその時!

「……消えた?」

奴の気配が、一瞬にして失われた――。

「隊長……これは如何いう……?」

呆然と佇む部下等を前に、私は状況を説明する。

「転移した。まさか、手引きをするとはな……」

「手引き……したって……?」

「そんな筈は……」

「ありえない…」

警務騎士団黒騎士隊を前にして、そういう事が出来る輩がいるとすれば、それはごく限られている。
我が隊が屋敷に施した全体を包囲するシールドは、誰もが潜り抜けられるものではない。
外部からの侵入者が簡単に破れる筈もなく、何より現在屋敷の外苑部はパウウェル閣下が監視して下さっている。侵入者を許すはずがない。
だとすれば……。

「……やはり、あの者が通じて……」

「あの者……とは?」

今回の出動については、ギリギリまで閣下と私の間で余計な情報を伏せて来た。
もしも内部に奴の協力者がいたのなら、情報流出は免れないと判断したからだ。
通常ならば事前に資料を手渡し、担当班の班長に出動計画立案書を作成させるなどの準備段階を設けるのだが、それもせずに突入を決めた。
職場的に時折こういう事態も少なく無い事から、今回の急を要する見せかけの出動についても、誰も疑う事をしなかった。
因みにこの計画の立案者は、パウウェル閣下ご自身だ。

『国の規定に則り、記憶読解術を施行する』

そう告げられると、先日身柄を補足した際に、奴の脳内に残る記憶を追い始めた。

この国の術の使用については幾つかの規制が存在する訳だが、先に使用された忘却術が最大規制レベル5と判定するならば、今回の記憶読解術は4と言うレベル値になる。

レベル5は、発動に国家最高位(国王)の許可を有する術。
レベル4は、統帥長の権限で使用が認められている術。
レベル3は、各隊の隊長の判断で使用が任されている術。
レベル2は、各班長の判断が委ねられている術。
レベル1は、独自の判断で使用が可能とされている術。

記憶を覗き見ると言う行為は、人としてあまり許されるべき行為で無い事は承知しているが、今回のように状況的診断で明らかに黒と判断できているにも関わらず、その証拠が出て来ない場合などにおいては、記憶読解術を用いられる事もある。
記憶の外堀を覆う浅い記憶については読解出来る者も少なくは無いが、長年にわたり積み重なり合った深い場所での記憶を解術出来る者は、閣下をおいて他にいない。
これについては私も多少の心得はあるが、数か月程度が限界だ。


監視体制が導入されてから、先日初めてロナルド・セオン・ドワイヤルが起こした特殊な行動。
それは術者が多く隠れ住んでいると言われている、王都の外れに位置するウィロー街で、奴の姿の目撃情報があった件に遡る。

『監視の目を物ともせずに、奴は出かけたのか?』

『はい、正確には監視の目を掻い潜って……という事になりますが』

『どういう事だ?』

『奴の護衛に直接関わった者の話では、奴が店で食事をしていた間の出来事なのだそうですが、ウィロー街に出没したと……。当初、双子の兄の方ではないかと言う話もあったのですが、違っていました』

店の中の監視は、少し離れた場所からであったが、目視で十分な監視が出来る距離だったと言う。

『ならば既に店の中に協力者がいたという事になる。となれば外からの監視だけでは確かに不十分だった事だろうな』

『申し訳ありません』

『ウィロー街に出没したというのが確かならば、我が隊の騎士は窓越しに幻術を見せられ納得させられていた可能性が高い。おそらく中に潜伏していた奴の協力者が術を発動させたのだろう。そして共に転移し、ウィロー街に姿を現した。それで辻褄は合う』

『はい……』

『しかし、問題はどうしてそのような危険を冒してまで、協力者と接触する必要があったのかだ。その答えを導き出せない限り、今回の件は片付かないぞ』

『それが意味するものは何なのか?……という事ですね』

『捕えて奴に話を聞く、若しくは探る必要があるな』


先頃閣下とそのような話をしたのだが、今回の件でその理由が明確になった。
奴は、窮地に立った時に逃げうせる為の転移術の術式を魔布に掛けさせ、密かに隠し持つ為に行動を起こしていたのだ。
そして転移する瞬間、かすかに空間を舞った時に感じた術の痕跡には、記憶があった。

『閣下!申し訳ありません。ドナルドが転移しました! おそらく内通者は……』

まさかと言う思いもあったが、私はある名を口にしかけた。

『分かっている。……ティスチャード・モリスだな。今、転移先を捕えた。方角からして奴の向かう先はおそらく国境だ』

リチャード・モリス。
かつて黒騎士隊の隊長で、私の上司だった事もある男の名だ。
とても優秀な人であったのに、閣下の出現により統帥長の椅子が掴めないと分かると職を辞して田舎へ帰ったとの話だったが、その後裏稼業に身を置いたと言う噂もあり探っていた所、母方の祖母が隣国ステガルドの出身だという事が分かり、現在注意人物の一人として調査中だった。
奴が相手ならば、こちらの動きを察知して、裏をかくことも容易だった事だろう。

『こちらの指揮は青騎士隊隊長に一任する。お前はその者らを連れて私と合流しろ。私は先に転移する』

念話で閣下との通信を終えると、私は部下を引き連れ、先を急いだ。

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パウリンに導かれて《第12章6》

パウリンに導かれて

ゼロはローレライの許へ訪れる少し前、公爵に地下室での一件の報告と共に、ルシオン、ローレライの偽名での訪問についての真相を明かし、謝罪した。
公爵は、最初はとても驚いていたが、告げられた事情を真摯に受け止めると、不肖の息子の行いに頭を抱えて深く項垂れた。

『……留守がちな男親、一人で育てたのが間違いだったのか……』

妻を早くに亡くした頃、まだ幼かった公爵家の二人の子供たち。
子供たちを妻の実家に預ける事も多く、前王が存命中は、王弟と言う立場から王宮に留まる事も多く、家庭よりも国政をつかさどることを優先していた。
その罰が当たったのかもしれないと嘆いていたが、おそらくそれだけでライサンドがあのようになった訳ではおそらく無い。
どんな境遇に置かれても、真面に育っている人間はごまんといる。

そして、全ての真相が明るみになろうとしている今、二人には今日の出来事と、これからの事をきちんと話しておかなければとゼロは思っていた。

「ライサンドが、公爵が政務官経由に王へと宛てた書状を、自らの手の者にすり替えさせようと動いている。仔馬も予定より早く動かされてしまい既にここには居ない。おそらく王宮に向かっていると思う。今エルに追わせている」

「!!………」

ローレライは絶句した。
やっとドレアスを取り戻せると思っていたのに、またも奪われてしまうなんて……。

「もし、フリードルが間に合わなくて、王宮に入ってしまったらどうなるの? もうドレアスを取り戻す事は、難しくなるのではないかしら……」

ローレライは昨夜の衝撃的な一夜のショックも癒えぬままの状況に加え、ドレアスの件でいつもよりも更に悲観的になっているようだった。

「大丈夫だよレライ。フリードルは何時だって頼りになる奴じゃないか。今回だってきっとやり遂げてくれるさ。なぁ、そうだろう!?」
  
ルシオンからの問いかけに、ゼロはどのような言葉を掛けてやる事が正解なのか、少しばかり戸惑っていた。だが、嘘はつけない。

「エルが駄目ならば、他の何者が追い駆けようと所詮無理だ。単独で馬を走らせれば昔から奴の右に出る者はいない。今はエルが何処までやってくれるかを信じるしかないと思っている」

ゼロは、フリードルがエルと名乗る以前から、自分の右腕である事を認めている。
左腕は勿論シドだ。
その二人が居るからこそ、今自分はここに居られるのだ。

「フリードル……、お願い……、ドレアスを助けて……」

ローレライは両指を組み、神に祈るようにそう告げた。
 
「シザーレは公爵の依頼を受け、キールの者の中にライサンドに組している者がどれだけいるかを現在調査している。ランドンの姉の事件に関しても、公爵が留守の間に起こった事で、公爵は当時ランドンの父についても歪んだ形の報告を受けていて、それを鵜呑みにしてしまっていたらしい。その事を調査資料を添えて公爵へ提出した所、今では息子を信じてしまったことを酷く後悔しているらしい。事実が明らかになった今、二人にも謝罪し、ニックには改めてキールへの再復帰を、ランドンにも父の後継者としてここへ留まれるよう取り計らってくれる心づもりでいるらしい」

ルシオンは、驚いたような眼差しで両目を見開いた。

「……あいつには、もう?」

「いや、この件はシザーレから報告を受けたばかりだ。まだ二人はこの事を知らん。だが、お前はランドンの主だ。知っておく権利がある。だから話しておく」

「分かった……」

理由は知る由も無かったが、ルシオンはランドンが今まで何かに酷く苦しんで来た事を誰よりも理解しているつもりでいた。
彼が自分の傍から離れる事など想像つかないが、今後どのような道をランドンが選ぶにしても、快く受け入れてやる覚悟だけはしておかなければならないと、自らに言い聞かせた。

「大丈夫か?」

「……平気。で、ランドンは? 今、どうしてるんだ?」

「ランドンにはニックと一緒に、キールを辞めた者の中に、ブラックナイトの思想に賛同出来そうな人材を探して貰っている。最悪の場合、ライサンドの息がかかっているキールの者と、内戦に発展する恐れもあるからな」

ニックとランドンは引き続き、ブラックナイトのメンバーと行動を共にしているらしい。


フリードルは今ブラックナイトのエルとして、全力でこの二つの件を阻止しようと動いてくれている。
仔馬の輸送に関しては、きっと造作もなく追いつけるだろう。
しかし書状の件に関しては、早馬で昨夜の段階で屋敷を発たれているとすれば、既に王宮に着いている可能性もある時刻。
どう考えても、無理があった。
だが、どのような困難な状況になろうとも、エルは『無理でした』と言って、そのまま帰って来るような、無能な者ではない。
間に合わなければ間に合わないなりに、きっと何か手を打ってくれる筈だ。
書状が王の許に既に届いているとすれば、直ぐにでもライサンドに王宮に来るようにとの伝令が届けられる筈だ。
本来ならば公爵も一緒にとの同行を求められる筈だなのだが、嘘の書状を作ってまでも父の爵位を奪おうとまでするライサンドが、同行を求められるような内容の書状を偽造するとは到底思えなかった。
きっと何らかの理由で公爵が王宮に出向けない理由を作っているに違いなかった。

「こちらにいるライサンド側のキールの面々を、今のうちに根絶やしにしておかなければならない。偽の書状が届けられ、我王からライサンド出仕を求められたら不味い事になる。ライサンドの仲間のキールの者は、公爵の許しが無くとも躍起になってライサンドを助け出そうとする筈だ」

そうなる前に、災いは何としても絶っておかなければならない。

ゼロは、何れ王宮には出向くつもりではいた。
だがそれは、我王を引き摺り下ろせるだけの準備が整ってからだと思っている。

「その前に、状況がそれを許さぬかもしれんな……」

ゼロがポツリと呟いた。

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風波 涼音

Author:風波 涼音
オリジナルの王道恋愛ファンタジーを書いています。(ハッピーエンド推進)〇〇年振りに執筆を再開しました。少しずつ自分のペースで書いていきたいと思います。

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