ファンシーの扉

オリジナルの王道恋愛ファンタジーを中心とした小説です。最後にはホッと出来る物語作りを目指しています。(R設定がある時は冒頭に記します。独自の判断でご注意ください) 尚、過去の作品については『◆ALL』をご覧頂きページの下の方にあります「Next」を押すと過去の作品まで全がご覧頂けます。作品のキーワード検索も『◆ALL』ページ左上よりご利用頂けます。

パウリンに導かれて《第12章4》

パウリンに導かれて

何処で聞いていたのか?
苦し紛れの自信をふりかざすライサンドに追い打ちをかけるように、一人の男が突如現れ口を挿んで来た。

「そんな筈はありません! 貴方は私が差し出した仔馬の情報を快く受け入れると、ソイドとその仲間に盗ませたではありませんか。私は厩舎で貴方からお褒めの言葉を賜りました日の事を、昨日の事のように明確に覚えております」

「お前は……、確かザグソンの……」

「はい、ニックです。アシュド邸の厩舎を襲った者達の手口は明らかにキールの手によるもの。道案内に同行したのが他の者でしたら逃れられた罪だったかもしれませんが、私であったと言う事が貴方の不運でした」

「……はははっ、こいつ……、何を言っているんだ? 頭が可笑しいんじゃないのか? 農夫風情が知ったかぶってキールの事について語った所で、誰も相手になどする訳が無いじゃないか」

ライサンドの本心を暴き出す為に冷静さを保とうと必死に取り繕っていたニクソンだったが、ここまで明かしてもなお、自の存在に全く気付くことのないライサンドの態度にイラ立ちの波が押し寄せて来ていた。
あの衝撃の日の出来事などは、きっと忘却の彼方。記憶の片隅に追いやられ、聞き及んだ所、昨夜の所行ですら反省の色が全く微塵も感じられないとの事。
ライサンドの横柄な態度に、ニクソンの怒りはついに最高潮に達した。

「……ラ・イ・サ・ン・ド……、貴様―ッ」

「なっ、何だ、お前……。この私に向かって……、いったい何を……」

突如変貌した目の前の男の態度に、ライサンドが飲まれたように一歩後退する。

「この私の顔を見忘れたか!! 6年前の事……、忘れたとは決して言わせないぞ!!」

ニックは牢屋の格子の間からライサンドに襟首を掴みかかった。

「ぅぐぐっ! お前、なに……ッ、くっ、くる……し……」

「ニック、今はいけません。留まって下さい。今、下手に手を出せば不味い事になります!」

傍で見ていたランドンが、慌てて止めに入った。
ニックのワナワナと震える手に、ランドンは制止するようにそっと自らの手を添える。

「お気持ちは分かりますが、ここは抑えてください。姉さんは貴方が不利な状況になる事を、きっと望んではいません!」

「くそぅ!!」

ニクソンは言葉を吐き捨てると、悔しそうにその手を振り下ろした。

ライサンドはランドンの姿を見て、忘れ去っていた筈のある人物の姿を思い出す。
それは幼い頃、剣術を教えてもらった事もあるかつてのキールの隊長の姿と、そしてもう一人……。

「ふふっ、こんな事が? ……死んだ筈の人間が二人もなど……、普通、有り得んだろう?」

「笑うな! 何が可笑しい!!」

ライサンドの微笑が再び火に油を注ぐ。

「口を慎めライサンド! 少なくとも私がここにいる限り、お前の思い道理にはさせん! 誰が罪人だと!?その言葉はお前が口に出来るものでは無い!!」

ゼロは昨夜の事を思い出しながら言葉を紡ぐ。
自身も感情を抑えきれず、腸が煮えたぎる思いを今味わっている状況なのだ。

「まぁ、いいさ。どうせもう間に合う筈もない」

ライサンドは自らが立てた計画が順調に進んでいる事を示唆すると、再び微笑を浮かべる。

仔馬が輸送されている事を突き止め、急ぎ追跡処理部隊を送ったゼロだったが、王宮内に入ってしまえば最早救い出す活路は先ず見出せない。事はライサンドの思惑通りに進んでしまう事になる。通常あの時間差で、追手が追いつく等と考える事は難い。
だが、ゼロ達はフリードル達に賭けていた。彼がソイド等に追いつき、取り押さえてくれる事を信じて。

「そうだな。間に合わんかもしれんが、お前の計画が全て成功するとは思わない方が良いぞ」

「思ってはいないさ。計画が全て成功していたら、私は既に今ここを抜け出せていた筈だ。お前がここに来る事は想定外だったからな」

ライサンドが少し悔し気に舌打ちをする。

恐らく、監視がタウリンが任される以前のキールの面々だけならば、ここを抜け出す手筈は万全だった筈。
だが、キールの中にライサンドの息のかかった者が居ると感じた時点で、ゼロはそれを排除すべく動いた。キールだけの監視体制の危険性を示唆し、ブラックナイトの面々に秘かに声をかけると監視させていた。
中には見過ごしておけぬ事態に気づき、既に粛清の為に捕らえた者も居る。その最たるは勿論ライサンドの息のかかったキールの面々だ。
そして、その粛清に値する数名を現在フリードルが追っている。
フリードルはゼロが最も信頼を置いている愛弟子だ。

(追いつきさえすれば、あいつならばきっとやってくれる筈!)

ライサンドの監視をクランケに交代させると、ゼロはシザーレを引き連れ地下牢を後にした。
叔父に全容を話し、ローレライの許へ戻る為に……。

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ずっと心に決めていた《189.突 入》(パウウェル視点)

ずっと心に決めていた

公になったロナルド・セオン・ドワイヤルの表向き罪状は、隣国シュテガルドにおいて留学時より行われていた不正所得にる悪質な隠蔽によるものとした。
裏で蠢く未解決事件の真相を暴く為には、奴を真の理由で拘束するにはまだ早い。
こちらが囮取引を持ち掛けたシュテガルトの輸入業者に視察させ、様子を探りながら奴の今まで巧妙な手口を割らせる必要があった。
その為、当初は視察まで奴を泳がせるつもりだったのだが、どうやら長期にわたる監視体制に危機感を覚えたのか、ここに来て不審な行動をしていると言う報告が上がって来た。
諸々の事情を知っているであろう奴に、今ここで逃げられる訳にはいかない!
何処かに鉱石の不正輸出に関わる密約的書類も存在している可能性もある。
危機感を覚え処分されるのも不味い事から、ならばその前に過去の不正を理由に引き釣り出し、拘束する事こそが現段階における最善だとした我等は、早々に命令書を申請することにした。
決して、悪友の幸せの為に、等と言う甘い考えは無い。

我がアクアリリス国では近年、国益となる人材育成に力を入れている。
貢献する留学者には特別奨学金が支給されると言う制度が存在し、一定の資格を取得し帰国後、国の求める職に就くことを条件とするものだ。
学費、留学時にかかる衣食住全てにおいての経費を国が全面的に支援するもので、奴の場合通っていた学部長の強い推薦で、将来的に理学分野における鉱物の学位を3つ以上取得する事を条件に、この制度を利用し留学した。
特別奨学金を受給者する者は、学業に勤しむ事を強く求められる為、留学中に特別な所得を得る行いも禁じられている。
その為、学力向上の為に必要と認められた経費加算についても追加申請し、要件を満たせば更なる助成金も支給されるようになっている。
留学生には勤勉な者が多く、この制度を利用している者は現在においても多くいる。
この件に関しては今まで問題が生じた事が全く無かった事から、申請も書類確認だけで難なく処理され支給されていたようだが、奴のおかげで今後の審査が更に厳しくなっていくであろう事に、疑う余地は無い。
だが、奴は求められた学位を全て取得して帰国しており、帰国後やがてはその道のスペシャリストとして国へと貢献し、更なる飛躍をしてくれる人材へと育ってくれるのであろうと思われていた。
だが、事実は異なっていた。
あろう事かロナルド・セオン・ドワイヤルは国の宝とされているアクアローズを不正に輸出する為の抜け道を見つけ出し、横流しに関与してしまったのだ。
始まりは留学先での女性関係からで、おそらく間違いはないだろう。
これが留学以前から行動だったならば、かなりの策士だ。
奴はシュテガルドでの密売に関する情報を得る為に、夜な夜なある店に通っていた。
そこで数人の女性と出会い、深い関係を持ちながら利用して行く事となる。
その中の一人が現在こちらの協力者となってくれている鉱石王して名高いブラッド・バーンの当時秘書をしていた女だ。
近づいたのが奴からだった事に間違いはないが、現段階において横流しを提示したのがバーン側なのか、或いはロナルドからなのかはまだ分かっていない。
だが、この件に関して奴が黒であることだけは確かな事だった。

「――よって、申請中であるマニエール男爵令嬢との婚約は正式に破棄。ご子息ロナルド・セオン・ドワイヤル氏を拘束致します」

我が側近ユリウスの言葉に、最初は好意的だったドワイヤル伯爵の態度が豹変する。

「……何だとぉ!?」

わなわなと手足が震え出し、今にもこちらへと食って掛かって来そうな鋭い眼つきだ。
目の前にいるのがあの口五月蠅い女と、小賢しい男の親かと思うと実の所非情に煩わしい……、いや、関わりたくないと言う気持ちにもなるが、今回は流石にそう言う訳にも行かない。

「こちらが正式な拘束命令書となります。ご子息は何方です?」

「……これは、罠だ……」

「はあ?」

「そうだ! 我が息子の才能をやっかんでいる奴らが、息子を陥れようとしているのだ!」

「…………」

「そもそもロナルドのような兄妹思いの優しい息子が……」

……兄妹思いは認めてやってもいいが、優しいはあり得ん。身勝手極まりない輩だ。


「心中お察し致しますが、そのような事を言われましても拘束命令書が下りました以上、私共には如何する事も出来ません。すみやかにご協力下さい」

「無理だ!」

ユリウスの優しい言葉も如何やら通じないらしい。
奴は現在政務騎士団の監視下にあるが、今現在外出していると言う報告はうけていない。
ならば間違いなく邸のどこかに隠れている筈。

「青騎士隊、突入準備!」

私の合図に青騎士隊が一歩前へ出る。

「かっ、勝手な真似は許さんぞ!」

「邪魔だてするのならば、公務執行妨害で貴方も連行しますよ、伯爵」

「な……っ!」

「何か言いましたか?」

「悪質な隠蔽等……、我が家は金に困っている貧乏貴族とは違う!そのような愚かな行いなどする道理がない! ロナルドは兄妹思いの優しい息子だ!」

息子が息子ならば、親も親だ。
そもそも金があるから隠蔽しないなど言う輩に限って、裏で工作をしている奴は多いものだ。
こういう考え方を持つ親の許で育つと、あのような子が育つのか?
自らの親が無頓着で良かったと、つくづく思った。

「話にならんな。青騎士隊、突入!」

マリエッタ嬢と奴の縁談話がなければ……、或いは我が悪友アレクシスとマリエッタ嬢が互いに深く恋に落ちなければ、奴の悪行がこれ程までに早く表舞台に出て暴かれることも無かったのかもしれない。
だが、二人は恋に落ちてしまった。
この事がロナルド・セオン・ドワイヤルにとって、一番の誤算だったのかもしれない。

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【ムーン様】魔術師の掟と幼い妻と『魔導師と妻のその後の攻防26』更新のお知らせ

お知らせ&感謝

いつもご覧いただき有り難うございます。

【ムーン様】魔術師の掟と幼い妻と『魔導師と妻のその後の攻防26』
を更新しております。

夫婦としての絆をはっきりした形で深め合う二人。やっとここまで辿り着きました。
あと1話か2話で纏め上げたいと思います。
ラストまでもう少しお付き合いください。

という事で、今回もR指定ありです。今回はR-18ガッツリです。規定年齢以下の方はご注意ください。
●『魔導師の掟と幼い妻と』を読む(掲載中の「ムーンライトノベルズ」内に移動します。こちらはR-18対応サイトです。ご注意下さい)

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パウリンに導かれて《第12章3》

パウリンに導かれて

地下へと続く階段を下っていると、シドの罵声が耳に突き刺って来る。

「この期に及んでまで、お前はまだシラを切り続けるつもりなのか!!」

どうやら聞き出すのに、かなり手間取っているようだ。

「シザーレ、変わろう」

「すまん……」
 
少しだけ申し訳なさ気にそう告げると、シドは肩をすくめながら頼むとばかりにゼロの肩に軽く右手を置いた。
シドの隣には昨夜からずっと地下牢の監視をしているタウリンも居る。こちらもゼロの訪れにすがるような眼差しで深々と頭を下げている。
ライサンドは地下牢に入っても反省の色は全く無いようで、それ所かそのふてぶてしい態度を一向に変えていない様子だ。

「やあ、アイスラント。随分と慌ただしいみたいじゃないか。何か大事でも起こったかい?」

悪びれるこちらを茶化すような白々しい態度に、ゼロがライサンドを鋭い目つきで睨みつける。

「仔馬を、何処にやった」

「唐突に、何を言い出すんだい? 訳が分からず困惑していると言うのに、そんなに怖い顔するなよ。相変わらず無遠慮であからさまな奴だなぁ。何が出来るって言うんだい? この囚われの身の私に」

「最初から、捕まった場合も想定しての行動だったのか?」

「はあ? だから訳が分からないって」

「その割にはお粗末な結果だったな。バラサインだからと言って、何でも自らの思い通りになると思っているとしたら大間違いだぞ」
「なッ……、人の領地まで来て、しゃしゃり出るなよ!」

「お前の領地ではない。伯父上の領地だ!」

「っ……、だが、何れは私のものだ!」

「私欲に塗れ、領民を食い物にしているお前が領主に等なれるか!」

「昔の事を未だに蒸し返すのかい? お前も結構了見が狭いんだ,ね。今の私は昔とは違う良識人になったと言うのに、まんまとあの女に嵌められた結果被害者だよ。サンドラもずっと物欲しそうな眼差しで私に気がある素振りを見せていたからわざわざ部屋まで訪ねてやったのに、どいつもこいつもホント大げさすぎるよ。……、あっ、もしかして今回の件は、お前が私を陥れる為に、あの女に私を誘惑させたのか? そうか、そうだったのか。やっぱり私は悪くないじゃないか!」

突拍子もないライサンドの都合の良い思い込み発言に、ゼロの拳が怒りでワナワナと震え出した。

「……お前と、言う奴は……ッ」

このように腐った人間が身内であると言う事に、ゼロは激しい憤りを覚えていた。
ライサンドと言い……我王と言い……、狂った輩にこれ以上付き合うのはもうウンザリだと感じていた。

「……私の事をどう言おうと構わん。しかし、あいつを侮辱する事だけは許さん! 気がある素振り!? 何処がだ! お前のような者を……、私は絶対に許さん!!」

「別にお前に許して貰う必要は無いさ。もう全ての駒は回り始めている。今更どうにもならない」

そう告げると、ライサンドは不敵に微笑んだ。 

「……何をした!?」

「まぁいいか。もう峠は越えている頃だしな、どうせ追いつけない」

「やはり、お前は伯父上の使者をッ」

「フッ、今更気付くとは、生ぬるい奴だな。そろそろ父上には隠居して頂く。私が父より拘束され、家督が危ぶまれた時の対処は既に言いつけてある。おそらく今頃父が持たせた書状は、私の手の者がすり替えている筈だ」

「……何だと!?」

「残念だったな。だから今更何をしても無駄だ。このバラサインでは、もう誰も私には逆らえなくなるという事だ! ふふっ」

小さく鼻で笑った後も、ライサンドの不気味なまでの笑いは収まらない。余程自らの策に自信があるのだろう。
だが、ライサンドの不敵な微笑みにもゼロは落ち着き払っていた。

「今、私の手の者が信用のおけるキールの者数名と、ソイドとその周囲の者達の行方を追っている」

「な……ッ!?」

ゼロの一言で、明らかにライサンドの表情が硬直する。

「このような話、お前には関係のない事だろうから気に留める事もないか。その者はかなりお前と故意にしているようじゃないか」

「……ばっ、馬鹿を言え! ソイドとは確かに面識はあるがそれだけだ。奴は父の大のお気に入りなんだぞ。そんな……、わっ、私の言う事など聞く訳が……」

明らかに落ち着きのない様子で事実を否定しようとするライサンドの様子にゼロは微笑する。
ライサンドはまさかソイドの事が知れるとは夢にも思ってもいなかったのだろう。
ソイドは現キールにおいて中心的人物の一人で、公爵からの信頼も厚い。その者が本当は自分の側にいると言う事実は、おそらくライサンドにとって、今までかなり強力な切り札だった筈だ。
だがその事実は、自らの保身の為に、決して受け入れられる事実ではない。
何があっても、ここはシラを切り続けるしか無いとライサンドは思った。

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ずっと心に決めていた《188.朗 報》

ずっと心に決めていた

囀る鳥の可愛い鳴き声に耳をくすぶられ、清々しい朝を迎えたつもりだったのに……。

「んっ……、まぶしっ……」

ゆるゆると瞳をこじ開けてみれば、カーテンを引き、こちらに微笑みかけるヨハンナさんの姿。
目にかかる日差しがかなり眩しく感じられ、どうやら陽がかなり高くまで昇っているらしい事に気付いた。

「私……、すっかり寝過ごしてしまっ……、あっ!」

自らの身に降りかかっていた状況を思い出し、慌てて身を起こした。

そうだ。確かアレクシスと共にマスニエラまで出向き、お爺様に婚約申請書の書類を書いて頂いて、夜を徹して馬車を走らせて、そして……そこからの記憶がない……。

「お目覚めになられましたか、お嬢様。そろそろ起きられませんか?」

「……おはようございますヨハンナさん。いつ戻って? ごめんなさい。私、どうやって……。床に就いた事も、覚えていないの」

「まだ夜が明ける前でしたから。お嬢様は余程お疲れだったのか、馬車の中でぐっすりお休みになられてお目覚めになられなくて。起こすにはしのびないからと、旦那様がこちらへお連れになったのです。今日はゆっくりお休み頂くようにと言われておりますから、大丈夫ですよ」

話の口ぶりでは、既にアレクシスはここには居ない様子だ。

「では、アレクシスは、もう領地へ?」

「もう、そのお時間かと」

「もう……って?」

「お戻りになり、その足で王城へと出かけられたのです」

「えっ? お城へ出かけられたの?」

確か、婚約申請の書類を提出するのは、明日になるかもしれないと言っていたのに……。

「きっと、ご友人のパウウェル様の所ですわ」

「パウウェル様って確か……、警務騎士団統帥長をなさっている?」

先月、夜会で紹介して頂いた時の事を思い出す。

「はい。この所ずっとお忙しくていらして、泊まり込んでいると仰ってましたから今回の件を踏まえて、色々とご相談したい事もお有りだったのではないでしょうか」

「相談……って……」

きっと、父の……、マニエールの家の事で、出向いたに違いない。
強硬的なスケジュールで、アレクシスもかなり疲れている筈なのに、私の家の事で無理をさせてしまっているのだと思えば、申し訳ない思いでいっぱいになってしまう。

「あら? もしかして……、お嬢様は、ご自分のせいで王城に出向かれたとでもお思いですか?」

「だって、そうなのでしょう? 私の家の事が無かったら、わざわざ疲れているのにお城になんて……」

「旦那様は、気が急いて仕方が無かったのですわ」

「……気が急いて?」

「はい」

弾むような声で、満面の笑みを浮かべるヨハンナさんの姿に、しばし考えを巡らせた。

今日は予定的に、領地の以外の事で、急な用事がアレクシスにはあっただろうか?
何も聞かされていなかったが、それにも関わらず私との事でわざわざマスニエラまで出向いてくれたのだとしたら、本当に申し訳の無い事だったと思っていれば。

「大切そうに、胸元へ仕舞われて……、ふっふっふっ」

「え?」

「嫌ですねぇ、婚約申請書ですよ。他に何があると言うんですか? 今の旦那様にとって、あの婚約申請書以上に大切なものなんて、マリエッタ様をおいて他には無いのですから、当然自ずと旦那様の中での優先順位も決まってまいります。領地の事など二の次三の次。提出されて戻られると仰っておりましたから、これでやっと正式にお嬢様をこちらへお迎え出来ますわ。それを思うと、私、嬉しくて、嬉しくて……」

確か、王城の公的機関の受付時間は……。

「……堤防の足場が如何とかって言っていたと思うのだけれど、それには間に合うの?」

「さあ、如何でしょう?」

「如何でしょう……、って」

「そんな事よりもお嬢様、そろそろお支度をなさいませんか? じきに旦那様も戻られると思いますし……」

「えっ? じきにって、今何時なの?」

「正午をまわった所ですわ。流石にお昼は食べられた方が宜しいかと思いますし、昨夜はお湯にも入っておりませんでしたから、旦那様が戻られる前に、身支度をされた方が宜しいかと」

「勿論よ」

流石に、戻って来たと言うのに、汗まみれでボサボサな姿で、アレクを出迎える気にはなれない。

『正午過ぎには一旦戻って来られると思う。午後のティータイムは一緒に凄そう』

昨日、確かに馬車の中でアレクシスはそう言っていた。

「大変! 急がなくちゃ。ヨハンナさん、お湯は沸いているかしら?」

「勿論です。ですがお嬢様、そんなに慌てなくても、旦那様がお戻りするまで、あと2時間はございますよ」

「ティータイムのお菓子、出来たら私が作りたかったの」

「お嬢様が?」

「簡単なものしか作れないけれど……、あっ。もしかして、もう準備しちゃったかしら?」

「いえ、それはこれからでございますが……、旦那様が喜ばれます。では、急ぎましょう」

起きるなり、私の慌ただしい午後が始まった。


湯につかり身を整えて、ヨハンナさんが用意してくれていた軽食を急いでいただいた。
そして、私の数少ないレシピの中から、手早く作れるマフィンを作ることにした。
ブルーベリージャムが常備されていると言うから、それも他の材料と一緒に投入し、ヨハンナさんにも少しだけお手伝いして頂いた。

「いい香りですね。上出来です」

「有難う、ヨハンナさん。おかげで間に合わせることが出来たわ」

「いいえ、お嬢様が結構手際が良くてビックリしました」

軽く雑談をしながら、アレクシスを待った。


アレクシスが戻って来たのは、ティータイムの時間を少し過ぎた頃だった。

「本当に、ハンデルの奴ッ。あいつは鬼だな! こうも全部私に振るか!?」

「まあまあ、旦那様。ハンデルも悪気は無いのです。留守の間領民を慰め諫めて下さったのです。領民にとっては、やはり何と言っても旦那様が一番頼りになるのですから」

「だが、なあッ!」

半ば不服を言い立てながら、馬車から降りて来ていたアレクシスが、私の顔を見るなり破顔した。

「マリー! 今戻ったよ」

「お帰りなさい、アレク。領地のお仕事、ご苦労様でした」

「ああ、マリーの笑顔を見たら、疲れなんて吹き飛ぶな。ただいま、私のマリエッタ」

満面の笑みで私を抱きしめると、いきなり深く唇を寄せて来た。

「んっ、アレ……っ、まっ……」

流石に2人きりでない時に、このような口づけは、恥ずかしくて、アレクシスの背を必死に叩く。

「……嫌なの?」

「嫌じゃないけれど……、恥ずかしいでしょ?」

「婚約者なのに?」

「申請書、出してきただけでしょ?」

「受理されたよ」

「受理されても、正式な決まった訳でもないのに……、こんな人前で……」

「だから、決まったんだって」

「えっ?」

「ロナルドの手配書が今日の午後に正式に公布された。それにより保留になっていた奴との婚約申請書は正式に破棄。既にマニエール家とドワイヤル家にもその旨が伝えられたそうだ。だからこれで私との婚約申請書だけが有効となる」

「……本当に?」

「本当だ」

「ああ、なんて素敵なの、アレクシス!」

私は自らアレクシスの首元に飛びつくと、彼の貪るような温もりを求めた。

マニエールの家の行く末を思えば、こんなに喜ぶべきことでは無いのかもしれない。
けれど、これでアレクシスと共に歩んで行けるのだと思うと、嬉しくてたまらなかった。

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風波 涼音

Author:風波 涼音
オリジナルの王道恋愛ファンタジーを書いています。(ハッピーエンド推進)〇〇年振りに執筆を再開しました。少しずつ自分のペースで書いていきたいと思います。

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