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ファンシーの扉

オリジナルの王道恋愛ファンタジーを中心とした小説です。最後にはホッと出来る物語作りを目指しています。(R設定がある時は冒頭に記します。独自の判断でご注意ください) 尚、過去の作品については『◆ALL』をご覧頂きページの下の方にあります「Next」を押すと過去の作品まで全がご覧頂けます。作品のキーワード検索も『◆ALL』ページ左上よりご利用頂けます。

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第25話

信じても良いですか?旦那様ッ

妻の視線が突き刺さる。
もう誤魔化しも何もきかないと言う現実を突きつけられている事は、否が応にも理解できる。
私は覚悟を決めると、ゆっくりとした口調で続く言葉を口にしはじめた。

「警戒はしていたのだ。私が結婚後に直帰するようになった事を不服に思っていたようだし、だから結婚後は職務以外で奴と行動を共にすることも避けていたんだが、あの夜はとても直ぐに帰る気分にはなれられず……、他の部下に誘われるままに酒を交わしに出かけた。そこに避けていた筈の奴が、不意を衝いて現れた。だから、ヤバいとは思っていた。奴とは以前は良く一緒に行動をしていて……、シルビアが心を病んでいたあの件にも深く関わっていたから……」


「えっと……、確か旦那さまの同期の部下と、いま仰いました?」

「ああ、そう言った」

「えっ? でも……あの……、ですけれど、旦那様の同期で一番お近くにいらっしゃるのは、あのお優しいグレンソ・マグリニー第2連隊長様しか、いらっしゃいませんわよね? 私の……、思い違いだったかしら……??」

「思い違いって……、まさか……。おいッ! なんでお前がグレンの事を、そんなに良く知っている素振りなんだ!?」

確かにグレンの事は結婚式後のお披露目会の席で、大勢の親族や関わりのある国の重鎮等、隊長クラスの部下たちと共に紹介はしたが、その数は100名を優に超える。とても一度顔を合わせただけで覚えられる類のものではないし、妻の言いようにも何処か引っかかるものがあった。

「あ、はい。ご紹介頂きましたし、それにマグリーニ連隊長様には、騎士のお仕事について等も、あの後ご丁寧にご教示頂きましたので……」

「なん……だって!? いつ……、それは何処での話だ!!」

私は身を乗り出し、妻に問い正した。

(グレンの奴、私の知らぬ間に、妻と……、まさか会っていたのか!?)

お披露目の席では妻と離れることは無かったはずだ。妻が退出するまで、ずっと行動は共にしていた。
という事は、何処か別の機会でという事か!?

「えっと……、結婚休暇を終えられた翌日だったでしょうか。非番明けだと仰っておりましたのに、わざわざ邸にお立ち寄り下さいまして、色々と私の知りませんでした騎士のお仕事の業務外での関わり事の重要さ等についても切々とお教え頂き、とても有難く思っておりました。それに、とても親切にしてくださいましたし、騎士としての旦那様のご様子をお伺いするのも楽しくて……」

「……あいつーっ……」

あの日、出仕するや否や例の奉仕への誘いがグレンよりあったのは確かだ。
だが、既に妻に対する深い愛情を覚えていた私は、即座にその件を断った。
そして、今後は今までの関係を全て清算するつもりであることも話した。グレンは『成程な……』と頷いてくれたものだから、私は勝手に納得してくれたものだと思っていたのだが、後の事件を思えば、当時から全く快く思っていなかったという事か。
だから妻を言いくるめ、帰宅が遅くなることも了承させ、裏で根回しもし、あの頃から今後も私を、あの既に思い出したくもない泥沼の世界へ連れ戻すつもりでいたと?
そういえば妻は結婚当初から『こんなにお早いお帰りで、ご無理をされているのではありませんか?』と私をいたく心配していたが、あれは私の身体を心配しての言葉ではなかったのだ。あの優しい言葉までもが、グレンに私を加担させる為のものだったとは……。
私はグレンの知略に嫉妬すら覚えた。

「……旦那様?」

「ここまで用意周到な奴だったとは……。だから私は出し抜かれたのか!?」

「……はあ?」

「いや……、奴には何もされなかっただろうな!?」

「はい、別に特別なことは何も……。挨拶の抱擁と、手の甲に口づけられましたけれど、それは形式的なものですし……」

「!!…………っ」

グレンと妻の当時の様子が、妄想となって脳内を駆け巡り、私は嫉妬に狂いそうになった。

「あの……、それよりも旦那様。あのお優しいマグリニー連隊長様が……?」

妻はとても信じられないと言った表情だ。

「奴とは腐れ縁で、色々と今まで公に出来ない事も共にやって来た間柄だった……」

正直に、グレンとの過去の関係性を認めながら話す。
妻の前で、グレンがどれだけ紳士ぶっていたのかは想像ができた。
今の妻の頭の中で、グレンはきっと『清廉な優しい人』という位置にある。

「えっとぉ??……」

「私はお前と出会って、女に対する認識を改めたが、奴は結婚後もずっとその事を改める事も無く、関係を続けている。婚外子もいて奥方が育てている。奴は今まで私を同類と見なしていたし、私も奴のように生きていくのかと正直ずっと思っていし、そう話していた。だが、そうでは無かった。シルビアが私を変えてくれた……。だが奴は、おそらくそんな私を快く思っていなかった。それで私に罠をはめたのだろう。私を再び奴の都合の良い世界へ連れ戻す為に……」

「それは……、あの……、複数の女性との……、あの……」

妻は少し羞恥に満ちた表情で瞳を反らし言葉を詰まらせながら、確認の為の言葉をゆっくりと紡ぐ。

「そうだ。あの夜……娘の事で嫉妬を覚えた私は、やけ酒を煽りながら……つい、愚痴を零してしまった。すると思いのほか深酒になってしまった……。いつの間にか薬を盛られ、その事に気づた時にはもう遅かった……」

「……薬を……、盛られた!? まさか……」

「本当だッ! 普段だったら絶対にそんなヘマはしなかった。だが、あの日の……、お前たちの話の内容は、私にとってはそれ程に大きな痛手を齎すものだったのだ。だから、気を失っている間にグレンの宛がった女に衣服を緩められ、馬乗りにされている事にも気づかなかった。目が覚めて、愕然とした……」

「うっ……馬乗りって……」

「ここまで来たら隠していても仕方ない。シルビアが気にしている香水の香りはその女のものだ。勝手に私を剥いてモノに手をかけていた……。私は薬で痺れて身動きができない状況だった……」

「そんな……っ」

「心ならずも淫口行為を許してしまった事に、疑う余地はない……。この目で直視し愕然とした。その件についてはシルビアに何の申し開きもできない。謝った所で簡単に許されるものではないかもしれないが、本当に済まない……。だが、聞いてくれ! それ以上の事は本当に許してはいない! だから、私はお前を裏切ったつもりは毛頭ない!」

「そんな……都合の良い話って……」

「シルビア!」

「それに、そんなの……分からないじゃない! 気を失っていたのなら……何をされていたのか分からにいのなら……。思いは無かったかもしれないけれど……、何もなかったとは……」

「それは大丈夫だ。まだ私のモノは反応してなかった。……挿入が出来ず、あの女は苦渋を強いられて翻弄していた……」

「!!……っ。そ……、んな事……」

妻は頬を染め羞恥しながらも、小さく震えていた。

「都合の良いことを言っていることは自分でも分かっている。だが、信じてくれ! もし、本当にお前を裏切っていたら、今私は……」

「いやッ!! それ以上、聞きたくない!!」

「シルビアッ!!」

「……旦那様が私を裏切ったとまでは言わない。……けれど、ごめんなさい……。今は混乱して感情がついていかない……。しばらく一人にして……。これ以上混乱してこの子をまた危険な状況に追い込みたくないのっ……」

「……分かった……」

子の事を持ち出されれば、私には今これ以上の弁明は難しい……。
妻は今までに無いほどに動揺しているし、混乱している。
それは理解できた。

妻の状況は、想定内のものだった。
だが、その状況を目の前に突きつけられた現実は、私が想像していたものよりも遥かに重いものだった。
妻に言われた通り、速やかに部屋の出口に向かおうと重い足どりでゆっくりと歩き出す。そして扉の取っ手に手をかけると立ち止まり、今一度だけ私は妻を振り返った。

「全ては私の落ち度だ。何の申し開きもできない。だが、これだけ聞いてほしい……」

「……な……に?……」

「本当に心から……、私はシルビアだけを愛している……」

「!!っ……」

私はそう告げると、ゆっくりと扉を閉めた。
妻の涙に揺らぐ大きな瞳を愛おし気に見つめながら……。

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※父の病状が思わしくなく、更新が途絶えてすみません。色々ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。更新できる時はしますので、すみません。
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離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第24話

信じても良いですか?旦那様ッ

何処から話せば良いのか?
何処を如何話せば良いのか?
迷いはあったが、そこはもう事の発端から正直に話すしかないと思った。

「……原因は、私の浅はかな嫉妬からだ……」

「……えっ?」

「嫉妬して、酒の勢いに任せて部下に愚痴った……。お前が簡単に……、私たちの娘を殿下に差し出す等と言い出したのもだから……」

「はい?」

想像もしていなかったのか、妻は小首を傾げてこちらをじっと見つめている。

「瞳を輝かせ、白馬に乗った王子様が等と黄色い声をあげ騒ぎ立てられて苛立っていた……」

「苛立って? って……、でも、相手は将来白馬に乗って娘を迎えに来てくれる本物の王子様なんですよ??」

「だから、殿下の馬は白馬ではない!」

「でっ、でも、王子様は、お妃さまを一生涯大切にしてくれるものなんですよ?」

「それは、物語の話だろう? 現実はそうは甘くない!」

「そんな事はありません! 白馬に乗った王子様は、完全無欠の絶対的な王子様なんですから!!」

身を乗り出し、妻の瞳がまたあの時のような輝きに満ちている……。
妻にはどうやら私のこの想いは、理解してもらえない様だ。

「……そんなに……、王子が良いのか?」

「えっ?」

胸のもやもやが収まらない……ッ。

「……私よりもか!?」

「はいっ??」

思わず自らの口から零れ出た本音に気付き、羞恥して顔を背ける。

「ぁ……いゃ……。王家の者は……、ああ、側妃を持てるが……良いのか?」

「えっ? ……そく……ひ??」

迷いつつ口にした言葉に、妻のテンションが一気に急降下していくのが感じられる。
どうやら側妃で回避発言は功を成したようだ。

「お前は、私が他の者の許に通う事すら好ましく思っていないのだから、娘の夫が歴然と正式な側妃とは言え、他の者のもとに通う事も許せないのではないのか?」

「勿論です!」

正に当然だとでも言いたげな妻の反応に、何処か安堵している自分がそこに居た。

「だったらこの話は無しだな?」

「えっ、でも、娘の王子様に……、側妃っていませんよ?」

「当たり前だ。10やそこらの子供に側妃がいてたまるか! そんな淫乱王子は話にならん。将来的な話だ」

「えっ? ええ??」

妻は諸外国の……、いや、この国の王家の制度を知らないのか?
全く持ってこう言う事には疎い、無知な妻である。

「だから、それは本の中だけの話だ。絵本や童話に出て来る夢物語は現実には程遠い。いうなれば理想の産物だ。実際には諸外国の多くが側妃の存在を公式に認めているし、現王にも側妃の存在は……」

と、妻を言い竦めようと思っていたのだが、何だか妻の眉間に皺が寄って……。

「そんな事は、絶対にありません!」

見る見るうちに妻の機嫌が損なわれていくのが感じ取れた。
まさか……、今度は地雷を踏んでしまったと言うのか?

「いや、だが……、世の中というものはそういうもので……」

世情を話してみたが、全く持って話にならない。

「聞きたくありません!」

告げた先から突っぱねられて、途端に妻から睨まれた……。
そして、更には思ってもみなかった方向へと空気が変わって行き……。

「あ゛っ、……旦・那・様!?」

「なっ、何だ?」

「……だから、浮気を……、容認しろと?」

とんでもない妻の妄想が、思考となって繰りひろげられて行くこの展開。
背中に冷たいものがいやがおうにも流れ落ちて行く。

「違う! 私は単に娘の幸せをだなぁ……」

「……娘にかこつけて、陰険です!」

「だから話は最期まで聞け! そうではないと言っている! そんなに興奮したら腹の子に良くないだろう!?」

ダメだ。今の妻には言葉が通じない……。
って言うか、妻はこんなに怒りっぽかったか?
そういえば妊婦はホルモンの関係で何とかと、医術師が……。

「……そうではないって、だったら何なんですかぁ!?」

どの様に伝えれば、私の言葉を……、このもどかしく思う胸の内を妻に理解してもらえるのか?

「私はただ……」

「……ただ?」

言わなければならないのか?
この羞恥なる胸の内を……。

「っ……、くそぅッ! 今後、どのように殿下が成長されるかも分からぬ状況で、愛するお前の産んだ子を、早々にかっさらわられるのだけは、私は御免なのだッ!」

如何伝えたら良いかなど結局分からず、羞恥に思いながらも率直に本心を吐き出した。断腸の思いで……。
何を言っても無駄ならば、もう羞恥の言葉でもなんでも吐き出す以外にないと心に決めて告げてみたのだが、思いがけず妻がほんのりと頬を染めている事に気付いた。

「……シルビア?……」

やはり、率直なる本心は伝わるものなのか?

「それって……、私の事ですか?」

「勿論だ! お前以外に誰がいる!?」

それは間違いない思いなので、自信をもってそう告げてみれば、満面の笑みで私に両手を差し出そうとしている妻の姿が視界を横切り、私はやっと何とかこれで夫婦の危機を乗り越えられたと思い安堵し、妻の手を取ろうした瞬間、その手は何を思ったのか、急に引っ込められた。

「ぅ……嬉しいですけれど……、そのようなことで……、まさか誤魔化すおつもりなのですか?」

上手く危機を回避できたと思ったのに……、やはり結局は、そこに戻って来るのか……。事はそう簡単には行かなかったようだ。

「別に……誤魔化してはいないぞ。真実だぞ?」

「ならば、その真実が如何すれば、クランベル8番の方と繋がるのですか!?」

上手く話を持って行けたと思ったのに、やはりダメだったのかとその場で私は項垂れる……。

「……やはり、全てを話さなければならないのか?」

「勿論です。何も疚しい事が無いのでしたら、お話しできますよね?」

「…………」

羞恥となる告白をしたというのに、次は結局……、おそらく地獄へと突き落とされるかもしれない事を告げねばならないのか? 私は……。
前途の……、決して明るくも無いであろう話をする為に、私は再び息を大きく吸い込んだ。

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離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第23話

信じても良いですか?旦那様ッ

知られたら最後、容易に信じて貰えないだろう状況は示唆していたが、流石にそれが現実となってしまい、目の当たりにするとかなりキツイものがある……。

「……シルビアっ……」

手を伸ばし、妻の頬に触れようとした途端、再び身を引かれた……。

今更後悔しても詮無い事なのだが、あの時……、危ういと思っていたグレンを目の前にして、酒のペースを緩めることが出来ずに妻と義母の愚痴を零しながら飲みふけってしまったのは己の失態。
だから、ここは妻を責めるべきではないと分かっているのに、信じて貰えない事でこれほど怒りがこみあげて来るのは何故なのか!?
それは自分の懸命なる想いが既に妻に届いていると信じていたからだ。

(クソッ!!)

心の中で、思いを飲み込み叱咤すると、何とか回避する術は無いかと回らない頭で考えた。
おそらくこの状況だ。
本当の事を全て告げた所で、容易に信じて貰えるとは到底思えない。
あの状況は己ですらまだ信じ難い事実なのだ。
ならば……。

「……実は、部下に誘われて、勤務後に飲みに出かけた。シルビアの事が気になっていたんだが……。遅くなってすまない……」

「そんな事を聞いている訳ではありません! 話を反らさないでください!!」

とりあえず、帰宅が遅れた事を詫びて様子を伺ってみる事にしたが、状況はあまり芳しくは無さそうだ。

「いや、聞いてくれ。そこに女給がいてだなぁ」

「はあ!?」

突然の女給発言はやはり不味かったか?
だが、女給が居たのは事実だ。

「シルビアは知らないだろうが、民間が経営する大衆酒場には深夜でも女を雇っている店がある」

「……夜半過ぎに……ですか?」

疑わしい目つきで私を見据える妻の眼差しがいたたまれない。

元々箱入り娘だった侯爵家の末娘だった妻。
一般市民が集う場、それも民間が経営する夜の酒場の実情など知る由も無い。
状況からして容易に信じて貰えるとは思えないが、この事実をまず受け入れて貰えなくては話が進まない。
結婚してから今まではたまたま機会も無かったが、民間からの登用のある我が騎士団のような部署では、結構常識的にこういう酒場での実情は知られている話だったりする事だ。今後もこのような場に足を踏み入れる可能性はあるのだから、ここは信じる信じないは別としても知って、多少は受け入れて欲しい所だったりもする。

私を見つめる妻の純粋な無眼差し。
妻のあの瑠璃色の澄んだ瞳で見つめられると、如何言う訳か正直に何もかもあらいざらい話してしまいたくなってしまうから不思議だ。
だが、今のこのような反応では、やはりこのまま最後までは話せないッ。
それにこの件に関しては、私自身、身の潔白を信じてはいるが、状況として意識を手放していた時間があった以上、どのような言い逃れも出来ない出来事だったと思っている。
だから嘘ではないが、部分的に略式化し、全てを話さずに済めばそれが一番だ穏便に済ませられるのではないかと思っている。
これが上手く行くか否かは神だけが知る領域だが……。

「そうだ。昼間よりかなり給金も高いらしい。事情があって働いている者も居るらしいが、実情は出会いを求めて……と言う女もいるのは確かだろうな。故に結構アピール度の高い衣服や鼻に突く香水を身に着けている輩が居たのは確かだが、私は端から相手にはしていなかった」

「…………」

疑わしい眼差しで、無言に私を見据える妻の眼差しが痛いッ。

「勿論、それでも隣にずうずうしく座って来る女が居たのは事実だ。直ぐに追い払いはしたが、残り香位はついていても不思議ではないだろうな」

「……残り……香?」

あまりにベタベタ付きまとわれ、直ぐに下がらせたが、給女から馴れ馴れしく腕を取られたのは事実なのだが、その事に何か疑問を覚えたのか?
妻の一言で、かなり私の内なる動悸が酷くなる。
情けない……。
こんな事で私は最後までしっかりと妻に話し切る事が出来るのか?
だが、やるしかないのだ。他に道は無い!

飲みには数としては少ないが、今までも結婚後に他の部署の団長等に誘われて帰る事はあった。だが、通っていたのはこのような民間の飲み屋街にあるような店では無い。
機密も守られるような高級店だ。
よって深夜に女の出入りなども勿論無い。
密かに高官などが情報交換用に隠れ家的に使っているような店だ。おそらく妻も義父の職業柄知っていたのだろう。これまで多くを問われた事も無かった。
だが、この聞き慣れない庶民的な店に関しては、おそらく疑問も多く出て来るだろう。
一体この説明で何処まで信じて貰えるのかと思っていれば……。

「……胡散臭いです!」

早々に、一蹴りされた……。
状況的には事実なのだが、世間慣れしていない妻には如何やらこのような店と言う時点で受け入れ難かったらしい……。
やはり、これは直ぐにでも本当の事を……、全て包み隠さず話した方が良いものなのか?
だが、民間の飲み屋の実情すら受け入れられない妻に話した所で、その後のあの忌々しい……思い出すにも反吐が出そうな実情を、到底信じて貰えるとは思えないッ。

「……いや、だが……」

本当に如何したものかと考えあぐねていると、何を思ったのか?
妻が突然肩にかけていた上掛けの裾を握りしめると、声を震わせ始めた。

「ああ……、そう言う事だったのですね……」

何だ? この反応は??
ここに来て、まさか理解して貰えたのか?
いや。だが……、私と目を合わせようともしないのは可笑しくないか?
それに心なしか唇も微かに震えてないか?
これは、まさかとは思うが……、いつものパターンなのか!?

「えーっと……?」

今までの妻の思考的素晴らしい妄想力を思えば、何だかとても嫌な予感が頭をよぎり始めた……。

「……それは……、そういう民間にある、如何わしいお店に通われていた……と言うご報告なのでしょうか?」

…………。
何故ここで、そう言う風に受け取る!?

「違う! 別にいかがわしくは無い! 酒を出すだけの店だ!」

「……そんな筈は……ありません! 民間の……、夜半過ぎまで営業しているお店は色を売るお店ばかりと聞いています!」

そう来たかッ!
しかし、それは庶民に対する偏見だぞ!

「その考えは庶民に対する冒涜になるぞ。改めなさい」

ここはきっちり訂正する。後の事もあるし、こちらも必死だ。

「本当に……あるのですか?」

「勿論だ」

「……嘘ッ……」

「嘘では無いッ!」

何故信じて貰えない?
何故妻はこうも頑なになっているのか!?

「だって、あの香りは……、クランベル8番ですのにッ!」

「はあっ?」

何か……突拍子なる発言が……。
何だ? クランベルの……8番って??
いや、勿論私もクランベルと言う高級化粧品を扱う店がある事は知っている。名の知れたブランドでご夫人等の話題にも上る事もあるからその名位は知ってはいたが……。

「妖艶さを醸し出す魅惑の香水クランベルの8番。女性の美を追求した素晴らしい香りだとデビュティーに際し、メーカー様よりご紹介に預かりました。ですが私は好きではありませんでした!」

「……そうなのか?」

妻は一体何を言おうとしているのか?
しかし、良かった。
あの忌々しい女の香りを、妻が嫌いで……。私もあの手のいかにも誘っている系の香りは嫌いだと思いながら、ゆるく安堵した表情を浮かべていると、妻から怒られてしまった。

「空惚けないで下さいッ! 社交界で一番流行している香りです。先頃まで数多くの方々と関わりのあった旦那様が知らないとは言わせません!」

「いや、確かに知らない香りとまでは言わないが……」

「隠し立てされるのですか?」

「隠し立ても何も私はッ」

って言うか、何故たかが香りで妻はこうもエスカレートしてしまっているのか?
と思っていれば、続く妻の発言に私は度肝を抜かされた。

「好きになれない香りでしたが……。けれど、旦那様がお好みでしたら、今後は使用も検討したいと思います!」

何だって!!?

「いや、待てッ! それは止めてくれ!!」

妻があのドギツイ香水をつけるだと!?
冗談じゃない!
妻にはそんなものはいらない!! 私はありのままの妻の香りが好きだッ。
妻が好んで使っている淡いローズの香油の香りを好ましく思っているし、妻自身から滲み出るあの柔らかな香りが何より欲情を駆り立てる!

「私では……、やはりクランベルの8番は似合いませんか?」

「絶対に似合わないから止めてくれッ!」

と、強く出て後悔した。
妻がかなり肩を落として項垂れたのだ。
やはり、流行の香りが絶対に似合わないと言う発言は少し不味かったか?

「……そうですか……。だからなのですね?」

「えっ!?」

「クランベルの8番は確か、かなり良いお値段だったと記憶しています。特に30~40代のご夫人等に最も人気が高く、現在入手も困難で順番待ちとお聞きしています」

「そうなのか?」

「そのような高価で入手も難しい商品を、容易く民間の方々がお手にできるものでは無い無いのに……。私が浅はかでした」

「いや……、だからそれは……」

もしかして……、私は何かしくじったのか?

「クランベルの8番を使用しているご婦人が、旦那様と密接的な状況にあったのは明白なのに、私ったら往生際が悪くて……」

「えっ!?」

「……旦那様、もう嘘は沢山です!!」

妻は奥歯を噛みしめながらも気丈に振舞おうと、涙目になりながらも必死に耐えていると言った様子だ。

「ッ……ちが……ぅ」

私は自らの愚かさを叱咤した。

「で、相手は……、何処のご夫人なのですか!?」

「違う……本当に、違うのだッ!」

「この期に及んで、まだそのような嘘をッ!?」

信じて貰える貰えないは別として、本当の事を包み隠さず全て暴露しようと、この時心に決めた。
何もかも正直に……。
所詮妻にはやはり隠し事など私は出来ない性分なのだ。

そして、全てを話して、もし信じて貰えなければその時は……。
いや、今その事を考えるのは止そう。
私の妻に対する実直で誠実なる思いだけは、現実がどうあれ伝わるものと今は信じたいッ!

「……実は、嵌められた……」

「はあ!?」

「同期の同僚の部下に……」

「旦那様が……ですか!?」

一瞬だけ怪訝そうに私を見つめる妻の眼差し。

「…………」

しかし項垂れたように暫く無言で口を結んでいると、想像だにしていなかったのか?
妻は私を覗き込み、驚いたように瞳を見開らいた。
そして、何度も瞬きを繰り返している。
その表情が何とも言えず愛らしく、今このような状況なのに思わず妻を抱きしめてしまいたくなるのは己の妻への深い愛情の表れだと思う。
だが、今ここでそれをするのは流石に不味いと、腹の底に力を入れてじっと我慢した。
そして、ゆっくりと私は口を開く。

「そうだ。この、私がだ……。だから信じてくれ! 私の心は、本当にお前を裏切ってはいないのだッ!!」

懸命なる思いは、絶対に伝わるものだと信じている!
瞳を反らさずに、妻に強い視線を送る。

「……本当に?」

「本当だッ!」

「……ならば話して……」

私の苦痛に歪んだ表情が痛々しく感じられたのか?
妻は静かに……、優しく私に問いかけると更に私の瞳を覗き込む。
少しだけ表情の和らいだ妻の優しい眼差しが、最後まで私に向けられ続ける等と言う都合のいい解釈は到底できないと分かっている。
それでも、真実を告げるべき時は今なのだと自身を強く奮い立たせる。
私は覚悟を新たにした。
愛する妻を信じて……。

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離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第22話(シルビア視点)

信じても良いですか?旦那様ッ

旦那様が、私の事を大切に思って下さる気持ちは、本物なのかもしれない……。
けれど、今の状況で如何すればそれが私一人に向けられるものだと信じられると言うの?
今のままでは、私はこの先旦那様が外出する度に、ゆっくり休む事すら出来なくなってしまうと思う……。

最初は旦那様の側にずっといられるのならば、贅沢な事を望んではいけないと自らに言い聞かせて来た結婚だった。けれど、旦那様は私だけだと言ってくれた。
その言葉はとても嬉しかったし、ずっと続いて行くものだと信じていた。
けれど今は裏切られた……。そんな思いが溢れている。
もしかしたら心の何処かでは、こういう日がいつか来るのではないかと言う危惧する気持ちを拭い切れずにずっと持っていたかもしれない。
昨日までの私は、旦那様の側に居るだけで幸せで……、満ち溢れた気持ちになれた。だから誰かと旦那様を共有する日がこんなに早くに訪れるなど、夢にも思っていなかった。

いつか訪れるかもしれないと思っていても、現実を突き付けられた直後の精神的負担は、かなり大きいものだ。
加えて今の自分の身体的状況を思えば、それは決して好ましいものだとはとても言い切れない。
自分自身の心情的問題は、胎教に少なからず負担をもたらす事はおそらくは拭い切れず、それは出来る事ならばこの子の為に……、少しでも心安らかに過ごしたいと言う私の想いを否定させるものでしか無くなってしまう……。
だから私はせめてこの子の為に、何かあるならば包み隠さずに全てを告げて欲しいと思った。このように大きな出来事を受け入れるには、少なからず心の準備がいるものだから……。
だから何処か煮え切らない……、今の旦那様の口先だけ言葉など聞きたくも無かった。
旦那様が私に何か隠し事をしている事は明白で疑う余地は無い。
その真意は分からないが、分からないままでは今の私に安らぎの時間など有り得ないと思った。

誰かと旦那様を共有するの? 誰と!?

そうしたいとは思わないけれど、それで旦那様を繋ぎ止めておけるのならば、今はこの子の為に耐えるしかないのだと、心に深く思いを刻んだ。
告げられる言葉がどんなに辛いものであったとしても、この子の為ならば耐えて見せると覚悟を決めた……。
心で旦那様を繋ぎ止めておくことが出来なくても、今の私にはこの子がいる。
旦那様から貰ったこの小さな命だけは……、今は私だけのもの。
この子だけは誰にも奪えない!
大切な、大切な私の宝物……。
なのに私は己の精神的な弱さから、またしてもこの子を危険な目にさらしかけてしまった。
なんて私は弱い母親なのだろうか……。
私はまだ膨らみのない腹部にそっと手を当て、芽生えて間もない命に言葉をかけた。

(弱いお母様で、ごめんなさい……)

だから強くならなくては。この子の為に……。
強い母となって、何があってもこの子を守ることが出来る母親でありたいと、心からそう思い奥歯を噛みしめた。

「どっ、どうした? 何を泣いているのか!?」

腰をかがめ、心配そうにこちらを覗き込む旦那様の言葉で、私は頬が涙で濡れている事に気付いた。

「具合が悪いのか? だったら直ぐに医術師をッ!」

この子の為に……、強く!

「……いいえ、結構です。その必要ありません!」

私は気丈な声で旦那様の言葉を払いのけた。
これは私自身の心の問題。医術師の先生に診て頂いた所で、何の解決が出来るものとも思えない。

「だが……」

私の中に渦巻くこの思いを払拭できる者がいるとすれば、それは唯一人だけ。旦那様をおいて他にはいない。だから医術師が解決できるもので絶対に無いのだ。

旦那様は今回の事を、遅くなったから宿舎で仮眠だけを取って帰って来ただけだと私には告げていた。
だが、宿舎で仮眠を取っていただけの者が、不意打ちのようにあのように血にまみれの破れたシャツに女性ものの香水を匂わせて居るものだろうか?
如何考えても、そんな事は絶対にあり得ない!
宿舎に夜勤の給女が居ると言う話も、いまだかつて聞いた事も無い。
ならば考えられることは唯一つ。旦那様はやはり私に嘘をついていた……。と言うことになる。

……もしかして、以前懇意だった女性の所へ、行っていたのかもしれない……。
そんな思いが脳裏をかすめた。
私が動けない事を良い事に、再び顔を出し、そして……。
先程の夢の中の出来事が、再び私の心をかき乱す。
だが、あれは夢なのだと……、それを否定する自分も存在している。
だから、そこに迷いが再び生じる……。

旦那様は私だけだとあの時告白してくれた。
正直に、真っ直ぐな瞳で私を見つめ、それまでの事も包み隠さず話してくれて、私は旦那様の言葉をこれからは信じていけると、そう思った。
想いを告げてくれてからの旦那様は、今まで本当に優しかったし、もうきっと他の方の所に通う事はないだろうと信じられた。数時間前までは……。けれど……。

あの夢で見た事が現実の事のように如何しても思えて来てしまう。
考えれば考える程それは払拭できないものとなり、私を大きく悩ませる。
そして私は大きく首を振った。

「そんなこと……」

「……シルビア?」

思わず零れ出た心の声が旦那様を信じたいと訴えていた。
けれど、そう思いながらも、心の何処かでそれを否定させられ、挙句にはあのような現実を目の前に突き付けられては、やはり如何しても信じきれないッ。
あの血に染まり、裂け、鼻に突く異臭を放つ旦那様のシャツ。あれは紛れも無く突き付けられた事実だ。
ならば私は現実を真摯に受け止め、強くなる為にその事を踏み台にして、今から気丈に生きて行かなければならないのでは無いのか?
あの時倒れ、自分の精神的弱さから、この子を危険にさらしたかもしれない事も重く受け止めなければならない。今思い出すだけでもあの時感じた衝撃は苦しい程に胸が痛くなる。
突き付けられた現実は否定できない……。
ならば私はもっと強くならなくてはッ。この子の為に!
私には、この子を守らなければならない義務がある!!
この子を守る為ならば、私は何だって出来る覚悟なのだから、絶対に強くなれる筈だ!

私は目を反らさずに真剣に旦那様を見つめ返した。
旦那様は何処か訝し気な表情の私を見て、何も気づかないのだろうか?
おそらくは再び燃焼した恋の病に惚けていて、鈍感になっているだけなのかもしれない……。
私の想いに何の理解も示そうとはしていない旦那様の様子に落胆を覚えながらも、私はお腹の子に勇気を貰い、旦那様を再び強い視線で睨めつけた。そして……。

「……せん……たく場の……」

「んっ?」

「洗濯場の……、脇に女性ものの香水を漂わせ、血に染まり破れたシャツが廃棄されておりました。その件について旦那様に是が非でもお聞きいたしたい事がございます!」

私は声を震わせながらも、強い意志を持ち旦那様に問いかけた。

「っ!!…………」

私の気迫に満ちた眼差しは、旦那様には衝撃的だったのか?
一瞬目に見えて旦那様が息を呑む様子が伺えた。
私はすかさず更に勇気を振り絞ると、言葉を畳みかける。

「あの……、破れたシルクのシャツは間違いなく旦那様のものでした。最初は夥しい血痕に何かあったのかと心配も致しましたが、あの香りで私はっ……ぅぐッ」

突如数時間前の……、あの時の鼻腔を擽られた生々しい臭いと香水の忌々しい香りが思い出されてしまい、私は再び胸の奥に何かが競り上がって来るのを感じ、口もとを両手で慌てて塞いだ。

「しっ、シルビアッ、大丈夫か!?」

「触ら……ないでッ!」

身を乗り出し、背をさすろうとする旦那様の手を、私は必死に払い除けた。
今は、どうしても触れられたくは無かった。他の人を抱いたかもしれない手でッ……。

「し……、シルビア……」

私の突然の反応に呆然と立ち尽くす旦那様を尻目に、燭台に置かれた呼び鈴に私は手を伸ばす。
すると直ぐに待機していた侍女が駆けつけて来て、旦那様の脇をすり抜けると処置用の容器を私の目の前にかざし、手を添えた。

「ああ、奥様ッ……」

「ぅぐぐっ……」

「…………」

旦那様はその姿に、ただ茫然と……、放心状態になりながら見ているだけだった。

胸の中に痞えていた物を何とか吐き出すと、やがて気分も少しだけだが再び楽になる。
軽く用意された冷水で口をゆすぎ、侍女に礼を言うと直ぐに下がらせた。旦那様との話はまだ終わってはいない。

「……大丈夫……なのか?」

「ただの悪阻ですから、お気遣いなく」

「だが……」

「私には、旦那様に全てをお聞きする権利がございます!」

「はぁ――っ……」

旦那様は私の言葉に、大きなため息を一つつくと、項垂れた。

「……見てしまっていたとはな……。早急に処分するように言っておいたのだが……」

(はあ? 処分!?)

やはり……、旦那様はあの事を隠すつもりだったのだ!

旦那様の言葉に、私はまた収まりかけていた思いが、ふつふつと煮えたぎって来るのを感じた。

「私にお隠しになったまま、また以前の方の所へ通われるおつもりだったのですね?」

「えっ?」

「確かに……、今の私は旦那様の御相手も出来ませんし……、旦那様にご不自由をさせてしまう事は、申し訳ないとは思います。ですが……、私がこのような状況の時にと言うのは……、何処か酷すぎは致しませんか!?」

「……何を言っている!?」

「空惚けるのですか!?」

「違う!」

「昨夜は何方とお会いになられていたのですか? 城に上がっていただけでこのような流血事が容易に起きるとでも!? それも女性の残り香が付きで!ふざけないでください!!」

「だから、それはッ!」

「いい加減、お吐きになって、スッキリなさっては如何ですか? 私はもう……、疲れてしまいました。何を聞いても最早驚きはしないので、仰ってください!」

「私を……信じてはくれないのか?」

「この状況で、旦那様を信じられるとでも!?」

私はキッパリと、旦那様を否定する言葉を投げつけた。

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離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第21話(シルビア視点)

信じても良いですか?旦那様ッ

衣服の乱れた豊満な美女に唇を寄せる旦那様の姿が突如視界に飛び込んできて、私は慌てて視線を外す。
一体如何して突然私がこのような場面を見せられているのか?

しかし、その状況は誰が見ても、この艶めいた美女と旦那様の間に何かがあったであろう事を推測させるもの。それは何処か気怠そうな美女の姿から一目瞭然の事だった。

『また来てくださるわね?』

『そうだな。考えておこう』

悪びれる様子も無くそう告げる旦那様の姿に、私は心の底から失望を覚えた。

『考える必要があるの? 貴方、小娘相手に全然満足出来ていなかったのでしょう?』

『……そうだな。こうやってお前に会ってみると良く分かる。妻はまだまだ子供だった』

その言葉に、胸の奥がズキリと痛んだ。

『だったら、これからもいらして? 私だったら奥様以上に満足させられてよ』

私は、己の未熟さを目の前で突き付けられて、失望のどん底に陥ってしまった。
駄目なのだ……。
所詮私などでは、どれだけ頑張った所で沢山今まで浮名を流してきた旦那様を満足させられる筈等、元から無かったのだ。
けれど……、それでもッ。

(「だめ……、ダメです。旦那様ッ!」)

他の誰かと旦那様を共有する事なんて考えられないッ!
私は必死で大きく手を伸ばした。

もう、聞き分けの良い妻になんて、なりたく無い!
結婚当初は、旦那様に浮気されても仕方がないと思っていたけれど、本当はそうでは無かった。
本当はずっと誰よりも旦那様を独り占めにしてしまいたいと思っていた。
旦那様の隣で、ずっと寄り添っていたいと……。

(「旦那様ッ、お願い!!」)

けれど必死で叫んだ私の声は、旦那様にはちっとも届かない。

『さあ、もう一度いらして?』

妖艶にほほ笑む美女は、旦那様の背に再び腕を回す。

(「嫌よ……、嫌ですッ。他の方なんて見ないで旦那様ッ!!」)

旦那様は私の声を無視して、その女性を寝台の上に再び組み敷いた。

ああ、酷いです。旦那様ッ。
如何したら私に気付いて下さるのですか!?
やはり、全ては未熟な私のせいなのですか?
だから、その方の許へ再び通われるようになったのですか?

(「だっ、ダメ――ッ!!!」)

旦那様と豊満な美女の唇が再び触れようとした瞬間、私は声の限りに必死に叫んだ。

如何して? 旦那様……、如何してなのですか?
私の事だけを愛していると……、言って下さったのは嘘だったのですか?

(「……旦那様なんて……、もう……だいっ、嫌いッ!……」)

私はその場に、泣きながら崩れ落ちた。

もう誰も、信じない……。
何も信じられないッ!


そう思っていると、何処からか聞き覚えのある声が聞こえて来た。

(私を嫌うとは……、聞き捨てならないな)

(えっ!?)

遠くで聞こえるような、くぐもった声が耳の奥底を擽る。

何故目の前にいて、いくら叫んでも振り向いてすらくれない旦那様の声が、違う所から聞こえてくるのか……?

(全く……ッ、一体どんな夢を見ているんだか……)

(……夢……?)

私は何処かもどかしい様子の声音に、必死で耳を傾けようとした。

(私への不満があるのならば、何でも聞く。頼むから目を開けてくれ……、私を見てきちんと言ってくれッ)

(……目を……開けて……?)

私は、そう告げられて息を呑む。
ゆっくりと、重い瞼を持ち上げようと試みた。すると……。


「ああ、シルビアッ」

「ぁ……、旦那……、様?……」

目の前には、少し不服そうにはしているものの、私を覗き込むように真剣な眼差しで見つめる旦那様の姿。

「良かった……。倒れたと聞いて、どれ程心配した事かッ」

(ずっと……、手を握っていてくれた?)

私の手に、そっと唇を寄せる旦那様。

「私……」

今まで見ていた事は、全て悪い夢だったのだと言う事に気付き、私は胸を撫ぜおろす。
そして自らを叱咤した。
なんて、馬鹿な私。
これ程までに私の事を心配して下さっていたのに、旦那様を信じきれなかったなんて……。
そして、そっと腹部に手を添えた。

大丈夫なのかしら?

倒れた時の記憶が全く無くて、突如不安に駆られてしまう。

「何事も無かったから良かったが、本当に肝を冷やしたぞ」

良かった……。

「ごめんなさい……。あの……、何時から……こちらに?」

「半刻程前に戻った。駆け付けて支えてくれたセイバスに感謝しなくてはな。そのまま床に倒れていたら、打ちどころが悪ければ大変な事になっていたかもしれないと主術医に酷く叱られたそうだ。本当に気を付けてくれよ。今後はくれぐれも一人で出歩くようなことはしないでくれ」

「御免なさい……」

記憶は無いけれど、如何やら己の不注意で、この子を危険な目に再び合わせていたのかもしれないと思うと、本当に申し訳ない思いでいっぱいになる。
母親としての自覚が足りなかったと、深く反省をした。

しかし、私は何処で何をしていて倒れてしまったのか?

「あの……。それで、私は……何処で?」

「覚えていないのか?」

「えーと……。まだ頭が少しボーっとしていて……」

すると側に待機していた侍女が教えてくれた。

「洗濯場でございますわ、奥様」

「洗濯……場?」

「はい」

「ずっと寝ていろとまではいわないが、邸の中でも油断は大敵だと言う事は胆に銘じておいてくれ」

「本当に、申し訳ありませんでした……」

私は皆に心配をかけてしまった事を心苦しく思い謝罪した。

「しかし、何故洗濯場などに行ったんだ?」

不思議そうに首を傾げる旦那様。
確かに何をしに私は洗濯場へ赴いたのか?

「確か……、少し眠ったら、気分がとても良くなったものだから、気分転換に邸の見回りでもしようかと思って下へ降りたの……」

懸命に記憶の糸を紡ごうと試みる。

「見回りなど、子が生まれるまではセイバスに任せておけば良い。今は身体の事だけを考えていてくれッ」

「はい……。ですけれど……。ぁっ……」

思い出してしまった……。

「しかし、夢の中とはいえ、私を嫌うなどとはけしからんな。お前に会いたくて、私はこれでも急ぎ城から戻って来たと言うのに」

「…………」

「如何した? 急に表情が険しくなったぞ?」

「いえ……」

「まさかまた私を疑っているのか? 勘弁してくれ。シルビアが倒れたと聞いて、私がどれ程心配した事かッ」

本当に真剣そうな眼差しで、私を心配そうに旦那様が見つめているようには感じられる……。
けれど、ならば如何して旦那様のシャツに女性ものの香水の匂いが?
それに、あの血痕は何を意味するものだったのか?

「嘘……」

「えっ?」

「ならば何故……あんな香りが?」

「シルビア!?」

私は旦那様に、思い出してしまった胸を燻り続けている思いを、吐き出してしまおうと心に決めた。

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風波 涼音

Author:風波 涼音
オリジナルの王道恋愛ファンタジーを書いています。(ハッピーエンド推進)〇〇年振りに執筆を再開しました。少しずつ自分のペースで書いていきたいと思います。

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