「パウリンの娘」
パウリンの娘 《番外編》

主と従者 《パウリンの娘番外編》

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サザーランド国最南端に位置するイシュラルは広大な牧草地帯を有する豊かな自然に恵まれている。
領主アシュド伯の子息ルシオンの従者であるランドンは、主と共にその牧草地帯を遠乗りする事を日々の日課としていた。
しかし、天候にも恵まれ清々しい朝だと言うのに今日の主は遠乗り所か朝食も取らずにベッドから起きる事を渋っていた。

「ルシオン様、もぅ時間が無いのですからいい加減に起きてください!」

「放っておいてくれ! 今日は気分が悪いから行かないって何度も言っているだろう!!」

「・・・・大人げない・・・・」

「何か言ったか!?」

「いえ。10歳の子供のようだと思っただけです」

「うるさい!!」

「失礼致しました」

主のルシオンは22歳。
大らかで人となりも決して悪くは無いが思い立ったら周囲を顧みずに突っ走る所がある。
時折自分本位になりすぎ、はた迷惑な行動を起こす事もあるが本人はその事に全く気付いておらず、その事が常々従者を悩せていた。
だが、普段はここまで子供じみた我儘を言う方では無い。
どうやら余程堪えているらしい。

今日は予てから理想の女性としてルシオン様が掲げて可愛がっていた幼馴染で従妹のマドリード嬢の結婚式。
主の気持ちを察したご両親が、ギリギリになるまでこの事実をひた隠しにしていた事がそもそもの原因だった。
事を荒立たせまいと昨夜になるまで隠し続け、ついにこの事実を知る事となった。
昨夜は心配かけまいと気にする素振りを見せずに振る舞っていたが、今朝になり、この始末だった。
こういう時いつも一緒に宥めてくれる6歳下のお嬢様。
今日も何とかご協力頂きたい状況だったが、お嬢様は花嫁の介添人をされる事もあり、早朝から起きられ既に出かけられてた後だった。
いらしたら助けて頂きたかったのに・・・・。

「お嬢様は着飾ったご自分の姿をルシオン様に見て貰える事をそれはそれは楽しみにしていらしたのに行かれないのではどれ程残念がられる事か・・・・」

「それは・・・・何だ・・・・、別に式になんか行かなくても帰ってから見ればいい!」

ルシオン様はお嬢様をとても可愛がられており、お嬢様の言葉に弱い所がある。
その泣き所をついたつもりだったが、どうやら今回はこの程度では駄目らしい。

ランドンは深いため息をついた。

別に差ほど関わりを気にする事のない者の結婚式ならば、この状況を見過ごすことも出来るが相手は父方のお従妹。
お嬢様と年齢が近い事もあり幼い頃よりかなり深い交流もあったらしい。
とてもこの程度の我儘が通じる状況では無く、ご両親は暫く待っておられたが、これ以上は待てないと先ほど後を自分に任せると出て行かれた。

それから既に1時間は経過しており時間に余裕が無くなりギリギリの状態だった。
説得しながらもずっと考え込み、そしてランドンは単純な思い付きだったが苦肉の策として最後の手段に出た。
卑怯だと思われ様が、何としても式には連れて行かなければならないし、仕方がない。

「分りました。もぅ良いです。何も申しません。行けば活路が見出せたかもしれないのに・・・・。いやぁ、残念でした」

諦めたように大げさに悲壮めいてランドンはそう告げた。

すると先程の言葉は何だったのか!?
行き成りガバッとベッドから飛び起きるとルシオンは目を見開いた。

「おい、何か手があるのか!?」

その輝く瞳に少しばかり心が痛んだ。
だが、この際そんな事は構っていられない!!

「いえ。唯の私の戯言ですから聞き流してください。私は欠席の旨伝えて参りますので少し失礼致します」

何食わぬ表情で素っ気なくサラリとそう告げた。

「いや、待て! 気分は治った!! 行く!! で、それは何なんだ!?」

まるで水を得た魚のようだ。
生き生きと言い放つ主の純粋すぎるが故の単純な反応にランドンは申し訳なく思いつつも含み笑いを抑え込むのに必死だった。

「それより早くお仕度されないと間に合わなくなります。話は後程」

「ああ、そうだな」

とりあえずは屋敷から出さなければならないので、ランドンは誘導的に主を導いた。

馬車に乗り込みやれやれと肩の荷を下ろした時だった。

「それで、手とは何だ!?」

式場に向かう馬車の中で、待ちきれないとばかりにルシオンは答えを問うて来た。
ランドンが思いついたのは本当に苦肉の策で、本来誰もが一番に思いつく事だった。
だが、ここで単純な事のような物言いはどうしても避けたかった。
何だそれ位の事かと言われてしまえばそれで終わりだ。
如何に重要な事かと思わせるかが今後の鍵になる。

「これの利点はまさかそのような事を言う者は誰もいないであろうと皆が信じきっている点です。常識を背く事で得られるからこそ最大チャンスが生まれるのです」

「と、言うと!?」

「式最後の誓約前に神父様が問われる異議申し立ての確認です」

「まさか・・・・それで異議を申し立てると言うのでは無いだろうなぁ!?」

「流石ルシオン様は目の付け所が違われる!!」

もぅ褒め殺すしかない!
心で苦笑いしつつそう思った。

「そうか!? いや、しかし・・・・それではあまりに無作法ではないか?」

掛かった!
ランドンは心の中でそう叫んだ。

「貴方様が無作法と言われますか!? まさかそのような常識的で正当な理由づけされた答えが帰って来るとは夢々思っておりませんでした。長い間幾らでも告白するチャンスがあったのに実行出来ずにいた自分の愚かさにも気づかずに悲観してさんざん周りに迷惑をかけ、挙句子供のように駄々を捏ねて拗ねて寝ていた方の言葉とはとても思えません」

自分を労わり、今日はやけに優しいと思っていたら、やはりランドンだったとルシオンは思った。

「お前、言いたいことを次から次へとズケズケと・・・・」

「それがお分かりならば取るべき行動は自ずと見出せるのではありませんか?」

これで諦めてくれるとランドンは思っていた。
万事全て解決とは言わないまでも、幾らか落ち着いてくれると思っていた。
が、今度はとんでも無い事を言い出した!

「・・・・でも、マドリードは俺と結婚するって言ってくれたんだ・・・・」

何だって!?
そのような話は寝耳に水だった。

「はぁ!? それは初耳です! しかし状況によってはそれは話が大きく変わってきますよ!!」

ランドンは初めて聞く主の告白に少し心がドギマギした。
そして大きく深呼吸し気持ちを落ち着けようとした。

「で、それは何時の話ですか!?」

事と次第によっては家同士の問題に発展する!
大きく構え、主の返答を待った。

「10歳・・・・」

「8年前ですか? それは覚えているか・・・・微妙な年齢ですねぇ・・・・」

思ったより随分前の話だが、貴族間の間ではその年齢で正式に婚約をする者も珍しくは無い。
それにその年齢だとしてもお互いの気持ちがあったのならば、婚約をなされる前にでも正式にルシオン様に一言なければいけないだろう等と考えを巡らしていたら・・・・。

「いや、俺が10歳の時だから12年前」

「はぁ!? それは無理でしょ~!! マドリード様5歳じゃないですか!!」

5歳の子供の戯言をこの年になるまで後生大事に思い信じきっているのがルシオン様らしいと言われればらしいが・・・・この年でこれでは年頃の娘は引くだろう・・・・。

「それは、多分・・・・マドリード様覚えてませんよ。例え覚えていたとしても煩わしいでしょうね」

半ばあきれ顔でランドンはそう呟いた。

「何でそんな事分かるんだよ!!」

「いや、お嬢様が“私も初恋の人と結婚できたら理想なのに~”なんておっしゃっておりましたので、おそらく物心ついた時にはルシオン様は想い人として、既に眼中には無かったものと思われます」

「・・・・・」

ルシオンは言葉を失い、ランドンは大きくため息をついた。
そして、その主の表情を見て決意した。

「分かりました。では、行きましょう。行ってはっきりさせて、潔く諦めて下さい!」

「おい。俺がフラれる事が前提なのか!?」

「当然です!」

この話が本当で、ルシオンがその事にずっと拘っていたなら荒治療が一番得策だろう。

「嘘でも良いからこういう時は頑張れとか大丈夫ですとか言うものじゃないのか!?」

「本当に嘘でも良いのですね!? 嘘でも! でしたら、」

「・・・・もぅ良い・・・・」

小さい教会での式だと言っていたし、どうせ参列者は20~30人位だろう。
その話が本当ならば自分はとんだピエロだ。
それ位ならスパッと言ってこの際潔く・・・・諦めきれるか!?

自分自身マドリードを見て、どのような気持ちになるのかルシオンはランドンと話している内に段々分からくなって来た。

だが、ランドンの言葉で確かに少しは踏ん切りがつき変われるかもしれないと思い始め決意した時だった。
馬車は進み、隣の領地サイザードに入ると街一番の大きな教会の前にピタリと停まった。

「おい・・・・マドリードは小さな教会で結婚式を挙げるって言ってなかったか!?」

「はい。そうですが」

「では、式場に急げよ! こんな所で油を売ってる暇は無いんだ!」

「ですから、ここです」

「はぁ!? これの何処が小さいんだよ!! 参列者100人はいるよな!?」

「そうですね。でも、昨年結婚された姉君のドリーマー様はご結婚相手が侯爵家でしたので参列者300人はおりましたからそれに比べると随分小規模だとは言えます」

良く見渡せば参列者の中に股従兄弟でドーリアの領主の子息フリードルもいる!
マジかよぉ・・・・。

「どうして、お前までここにいるんだよ・・・・」

フリードルを見てルシオンがポツリと呟いた。

「花婿のサイナスは近衛第4班班長で私の直属の部下だ」

現在王宮の士官で近衛騎士隊の隊長の肩書を持つ股従兄弟の部下と言う事はあいつも騎士の称号を持っているのか!?
それにサイナスだって!?

「では、相手はサイザードの領主の息子なのか!?」

「そんな事も知らずに式に来たのか?」

ルシオンはキッっと従者を睨んだ。

「お前・・・・本当はこの事知っていたんじゃ・・・・」

「流石ルシオン様です! しかしあの時点で幾ら私が説得した所で今後の貴方の為になるとは思えませんでした。その場で諦めると言ったとしても、それは口先だけで暫くすればまたウジウジと悩むことは目に見えています」

言い終わるとランドンは深々と頭を下げた。

「お前、本当にそう思っているのか!?」

「・・・・言っても聞き入れて下さらないのですから荒治療するしか仕方ないじゃありませんか・・・・」

頭を下げたままボソリとランドンが呟いた。

「・・・・・それが本心か!?」

「それは、ルシオン様が一番お分かりでいらっしゃると思いますが!?」

下げた頭の横から上目づかいでチラリと主を眺めると微かにニヤリと笑った。

ああ、またこいつに嵌められた!!
あれだけ人を焚き付けておいて、言うだけ言ったらスッキリするかもしれないとまで思い込ませておいてこの状況!
とてもじゃないが、こんな大勢の前で異議を申し立てるなんて事出来る筈無いじゃないか!!

「小さな教会と聞いてどうせ20~30人とか思っていたんでしょうが、結局人数で決断が鈍ると言う事はそれだけの感情しか持ち合わせていなかったと言う事です。本当の相手に出会ってしまったら何でも出来る筈なんです。相手の為なら死をも厭わない程に・・・・」

ランドンは一瞬何かを思い出したように遠くを見つめると、意味を含めたようにいつもとは違う少し憂いを満ちた瞳でそう告げた。

「何かお前悟り切ったような言い様だな。まさかその年でお前の経験上とか言わないよな!?」

訳あって屋敷で世話になるようになりあれから5年。
主は何も聞かないでいてくれるが、いつかは生まれ育った場所や家族の事も話さなくてはならない時がきっと来る。
事実を告げたその時でも自分はこの主の下に留まる事を許されるのだろうか!?

「私はルシオン様のお世話に手一杯でその様な感情を持ち合わせる余裕がありません」

「そっ!!」

「今、"嫌味な奴~っ"て思っていらっしゃるでしょ!?」

「ウルサイ!!」

「元気になられて本当に良かったです」

ランドンはにっこりとほほ笑むと深々と頭を下げた。

年の割に幼いが、とても大らかな主ルシオンと18歳にして既に世を悟り切っているような従者ランドン。
まだ過去を語る気にはならないけれど、ランドンは主の事をとても大切に思っている。
これからも精一杯主が道を踏み外すことなく共にあり助けて行ければと心に願うランドンであった。

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~ Comment ~

NoTitle 

主従やっぱいいわ(笑)
従がずけずけで主がやりこめられるのが
楽しいです♪
本編書きながら番外編書くのって大変ですけど…^^;
お疲れ様でした~~m(__)m

はのん様 

満足頂けて良かったです^^
話の間にポツリと入ってる分にはサラリと書けますが二人だけ中心となると、短くいつものページ数で終わらせるつもりが3倍の量になってしまいました^^;
本編にも少し添える話にしたかったので、少し書き難い部分もありましたが、何とか繋がったでしょうか!?
本編がちょっと停滞してしまいストックの余裕が無くなってきたので、何とか頑張ってこれから追い上げます!(笑)

NoTitle 

なんだかコントに近いような気もしますが。
案外、そういうのは効果があったりなかったりですが。
何よりも、その後どういう行動を取るかが大切ですからね。
その辺は信じる力!!・・・だけでは無理なんですよね。

LandM 様 

はい。この時はそれを敢て目指しました。
この二人のそう言う関係気に入っているので、走ってみました。
そうですね。信じるだけでは駄目ですね。
まぁ、ランドンの場合恩義を重んじているのもかなり大きいですが。
いつも有り難うございます。
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