パウリンの娘

パウリンの娘《第26章6》

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ベイズがアイスラントに説明していたのは正式な騎士の決闘の仕方だ。
騎士としての称号を一度でも賜っている者に対して決闘のやり方をいちいち説明すると言う行為は、馬鹿にしていると取られても仕方ない。
その事実を突き付けられてベイズは更に慌てた。
もぅ、負の連鎖としか言いようがない。
ベイズの頭にはとにかく早く説明して、自分のやりたいやり方で事を進めたいと思う気持ちしか無かった為、それを指摘されるまで気付きもしなかったのだ。
既に心に余裕なと有りはしない。
ベイズはそれ程までに追い詰められていた。

今まで戦いは己が手の中に転がすべきものであって、自分が転がされる事等ありはしなかった。
しくじれば自分がやられる!!
それを回避できる可能性が少しでも見出せないかと、焦りで回らぬ頭脳の全てを総動員した結果、得策とは言えなかったが一つの案が頭に浮かんだ。
それが正式な決闘方式だった。
己の身を守り、決して負けない手段としてはそれしかあれえなかった。
今夜は嫌な月も出ている。
月を恐れるつもりはないが、今夜の不況は全てそれが原因なのだと自分を慰めた。
月さえ元に戻れば私は負けなどしない!
己を奮い立たせようと必死だった。

「いや、そう言う事では無くてだな‥‥」

それでも、何処かで焦りを隠せぬベイズだった。

既に覇気を僅かも感じさせぬベイズ等、怒る気にもならない。
アイスラントは何でも好きにしろ、最後まで付き合ってやると言う慈愛満ちた気持ちにすらなって来ていた。

「まぁ良い。正式な決闘形式で行こう」

アイスラントの言葉にベイズはホッと胸を撫ぜ下ろした。

「決着は何処までとする? 死傷するまでと言うのは不味いだろうからな。手傷を負わせるか剣を落すまでと言うのはどうだ?」

「そっ、それで良い」

「しかし、通例に倣う事は難しいな。全く同じ剣と言うのは無理だろう。先程押収した物の中から勝手に選ばせて貰う」

一言一言に焦りの隠せぬベイズにアイスラントは譲歩したつもりだったのだが・・・・。

「そっ、それでは、申し訳ない。私が介添人として考えている者が幸い同じ工房で作られた良い剣を持っている。それを借り受けよう」

「ほぅ、良いのか!?」

「これでも私は騎士だ。こう言う事にかけて半端な事をしたく無い」

この男から最もらしい言葉が聞けるとは、疑念を抱かざるを得ないが、悪い話では無いと思い話に乗った。

“さて、どの様な策で来るのか? こちらの譲歩案を退けた位だ。少しは楽しめるのか?”

アイスラントは相も変わらず余裕に満ちた表情だ。

ベイズが呼んだ介添人は確かに良い剣を持っていた。
その剣に納得し、こちらの介添人にはサビエルを指定したが、その言葉に異議を立てた者は意外な者だった。
サビエルが小刻みに首を振っている。でも、声は発しない。
ベイズにかかり切りでサビエルは止血をして壁際にもたれかけさせ、そのままになっていたが、その様子にあの時一瞬感じた不信感はこれだったのだと思った!
中庭に来てサビエルの様子に少しずつ変化が出ていた。
最初は出血で貧血を起こしかけているのかもしれないと思っていたが、今の症状は明らかに貧血から来るような症状では無い。
額には汗が滲みだし、目の焦点は合っていない。呼吸も荒くなってきている。
あの者はサビエルにこの症状が現れる事を知っていたのだ。
意外だったのはサビエルが両利きだった事では無く、この症状が出ていない事だったのだ!
そうとなれば話は別だ。少しでも早く事を片づけ、サビエルを医術の心得のある者に診せる必要がある。

「大丈夫だ。心配ない。お前の手を煩わせることはない」

アイスラントは安心させようとサビエルに優しくそう告げた。
サビエルの目は何かを訴えかけようと必死だったが、もぅこうなっては何を聞いても時間の無駄だ。
夜の月は待ってはくれない。
サビエルの無言の制止を聞かずにアイスラントは位置についた。

ベイズ側の介添人の一声で、ついに決闘の火蓋が幕を開けた。

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