パウリンの娘

パウリンの娘《第29章14》

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取り乱し泣き叫ぶ母の姿を目にした時、アイスラントは呆然と立ち竦み、力なく剣を床に落した。

「ローレライ、しっかりして。ローレライ!! 早く医師を!! お願い!!」

兵はアイスラントと共に来た騎士等に取り押さえられた皇太后の姿に呆然としていた。
どう手を出せば良いのか分からず王の様子を伺うが、力なくただ項垂れる様子に戸惑た。
動揺し、医師を呼ぶ様に叫ぶザビーネの言葉等耳に入っていない程に。

アイスラントはローレライを膝に抱き、泣きじゃくる母の姿が一瞬幻のように映った。

「・・・・ローレ・・・・ライ!?」

何時になく力ない震える声で、やっと言葉を発した。
足が縺れるとは正にこの事で、駆け寄ろうとしても足は思うほど早くは動いてくれなかった。何と言うもどかしさ。
傍まで辿り着くと、母から奪うようにローレライを受け取り抱きしめた。
その肩は震えていた。

「・・・・ゼ・・・・ロ・・・・」

最近は敢てアイスラントと呼ぶようにしていたが無意識に自分に一番しっくりくる名前を咄嗟に口にしていた。
愛する者の腕に抱かれ、ローレライは薄っすら微笑み腕を伸ばすとアイスラントの髪に触れようとしたが、伸ばした先で意識を手放した。

「医師を・・・・。何をしている医師を呼べ!! 私が王だ!!」

先程の映像とアイスラントの王宣言。
玉座の王は無気力に項垂れあてに等ならず、兵は明らかにその言葉に困惑した。

バタバタと不揃いな足音が聞こえて来て、息を切らして大勢の騎士や兵が集って来た。
その先頭に立っているのは捉えられていた最高司令官オーラルの姿だった。

「何をしておる!! 新王陛下の御前に剣を向けるとは何事だ!!」

謁見の間に駆け付けるや否やオーラルは声を荒げた。

最高司令官の怒号で迷いの吹っ切れた兵は我に返った様に額づくと、持っていた剣を収め急ぎ医師を呼ぶべく走り去った。
その直後、評議の間へ伝令に赴いたマチウスも他の仲間を連れてやって来た。
衝撃的な場面に出くわし思わず皆目を伏せる。
掛ける言葉が見つからない・・・・。
それでも課せられた義務がある。シザーレは気丈に振る舞った。

「評議の間での勝敗は我々の勝利です」

報告するが、アイスラントは最早その言葉に何の反応も示さなかった。
ただローレライを大事そうに腕の中に抱え込み涙こそ見せていないがその痛々しい姿に思わず目を背けたくなった。
誰もが近寄れぬ空気の中、その姿を目にしたハビロードが一人前に出て腰を下ろした。

「アイスラント様、止血致しますからお手を緩めて下さい」

「・・・・ハビ・・・・。頼む・・・・助けてくれ・・・・」

蚊の鳴くような声でアイスラントがそう告げた。
この様にか弱い一面を見るのは初めてだった。

「大丈夫です。傷は少し深いようですが、臓器に達しているようなものでは無いと思います。意識を失ったのは、おそらく出血によるショック症状です。このままにはしておけませので、今出来る処置をさせてください」

アイスラントはローレライを抱いたまま力を緩め、ハビロードに全てを任せた。

上着の袖を捲り中のシャツを切り裂き止血用の布を作ると傷口に宛がい処置を始めた。
心なしか出血は少なくなって来たように見えるが気のせいだろうか?
戦場でこの様な場面は幾度となく見て来た筈だが、今はとてもそれを正視出来なかった。
己の弱さと向き合い、アイスラントはローレライへの深い愛情が溢れ出す想いをもはや止める事が出来ないと自覚した。

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~ Comment ~

NoTitle 

これで乱闘騒ぎも終わりみたいですね。

内乱に発展しないでよかったよかった(^^)

惨劇の本番はこれから、ってことは……ないですよね。(^^;)

ポール・ブリッツ様 

はい。乱闘騒ぎは流石にこれで終わりです。
ホントに内乱が起こる前に抑えられて良かったです^^

惨劇の本番がこれから、ってことは流石に無いですが、ちょっとしたトラブルはあります。
今までの事を思えばこれも可愛いもんですが^^;

いつも有り難うございます^^
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