記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに《5.偽 装》

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王子の部屋の前へ戻って来た従者マジミールは部屋前で周囲を警戒し確認すると急いで中へ入り内鍵をかけた。

「どうでございましたか? アーリア嬢は」

声を掛けて来たのは王子の服装に身を包んだ男。
従者が外した手袋を受け取ると甲斐甲斐しく世話を始めた。

従者はソファーに座ると目を閉じ、祈る様に両手を合わせると額に押し当てた。

「やはり、間違いない。あれはリアだ!」

ハンカチを手渡した時の、礼を言って両手で受け取ると胸に抱え込むようなその仕草。
それは深い記憶の中に眠る、愛しい姫の所作と重なった。

「では、姫にだけには全てをお話しに?」

「いや、まだ危険は冒せない。敵を全て排除できていない」


今を去る17年前、ナチュリア国の王子は5歳の時に毒を盛られ生死をさ迷った。
それは丁度側妃腹の第二王子が生まれた頃と比例する。
おそらく手の者は当時王太子であった現王の側妃である者に近しい人物である事が推測されたが確固たる証拠が無かったと言う。その事に王太子妃は疑念を抱いた。

王太子は当てにならない。結婚して正妃が懐妊し、夜伽としての役目を暫く遠慮したいと申せば直ぐに数名の側女を置いた。
懐妊するまで王太子からも大切にされていたと言う思いがあった為、王太子妃は夫の突然の行動に酷くショックを受けた。
確かに政治的政略結婚だった。愛は求めていなかったが、それでも身体を重ねる毎に、愛は育つものだと信じていた。
それが裏切られたのは出産して直ぐの事だった。
王子が生まれたと分かるとその中でも寵愛していた娘を直ぐに側妃として正式に召し上げたのだ。その後その者との間には王子と更に双子の姫達を儲けており、王太子の寵愛は側妃に向けられているのは誰の目から見ても明らかだった。
とは言え、隣国の王女だった正妃の立場や序列の王位継承権は第一王子が先と言う事実は譲れない。
正妃の母国は大国で婚姻は国同士の関係を強固にする為のもの。それにより恩恵に預かろうとするこちら側としてはその利害関係を壊す訳には行かなかった。
王太子もその事はしっかり踏まえて行動しており、常に側妃よりも王妃を立て、王太子妃との間に深い愛は無かったかもしれないがそれなりの信頼関係は確かに存在していた。
側妃腹の王子を次の王太子にする等とは一度も口にする事も無く、その点では王太子妃の信頼を掴んでいた。
その証拠に王太子は第二王子が生まれてからも第一王子の事を蔑にする事は無かった。
だがこの時、第一王子が毒を盛られた件に関しても、必要以上に犯人を追い詰めようともしなかった。
もしも側妃に罪が及べば傍に置く事が出来なくなる。その事を躊躇したのかもしれない。
王太子の真意は分からないが、我が息子の命より、側妃への執着が勝るかのような行動が見受けられる夫を王太子妃はどうしてもこの時、信用できなかった。
そしてついに王太子妃は息子が助かると、守る為に母国への王子の遊学を王に希望した。
最初は反対していた王太子も父である王の説得と隣国の義父である王から先日の毒殺未遂事件の真相を問われ、次に王子の身に何かあれば戦いも持さぬ覚悟を突き付けられると、王子自らが己の身を守れるようになるまでの遊学をしぶしぶ認めた。
王太子妃は自分も付いて行きたい気持ちはあったが、今ここを自らも離れては王子の帰る場所まで側妃の子供に奪われ兼ねないと王に告げられる。
身を切る想いで乳母に王子を託し成人するまで息子を祖国に預けた。

それから15年の時を経て王子は成人し、いよいよ自国へと戻る時、王子は、予てからの先王と母である現王妃との約束を守って帰還した。

『セイラル、貴方は従者としてこの国に帰ってきなさい。きっと父上は気付かない』

王妃は何とか王子の居場所を守り確保してはいたが、三年前病に倒れた王が隠居し夫の即位後、第二王子を次王にと推挙する者が現れていた。
戻って来た所で第二王子を押す者にとっては厄介この上ない。
15年前の出来事が頭を過った。
そこで王子の帰還を祝って先王の希望を受け入れると言う形で、帰還祝いの武闘大会が行われる事となった。
先王曰く、王子の剣の腕を見せしめれば、牽制を促す事も出来ると言うのだが・・・・。

蓋を開けてみれば、そこで優勝したのはマジミール扮する王子だった。
従者として参加したセイラルも決勝に進んだのだが、主たる王子に剣は向けられぬと決勝戦を辞退した。
実質上この国の一位二位の剣の担い手が第一王子と常にその傍にある従者と分かると帰途に着く旅先から刺客に襲われていたセイラルの周囲は静かになった。
武闘大会での実力が幸を成した訳だが、全ての刺客の手がそれで収まった訳ではなかった。

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