記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに《9.苦 言》

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マジミールは言葉を失った。
あれだけ大切にしてきた想いを、王子はここで自ら散らそうとしているのか?

「それではあまりにも王子が不憫でなりません・・・・」

「他に何か良い手があると言うのか? あいつを捕らえられれば話は別だが」

当初セイラルは愛しの姫を見つけ出す事が叶った暁には、その周囲に最善の注意を配りながら擁護し、全てが片付いてからアーリアに近付き交友を深めて正式に自らが求婚をする心積もりでいた。
それが弟の行動によって全ての計画が露となって消え失せたのだ。

「・・・・しかし、それではアーリア様の不快はまぬがれますまい。これ程までにずっと大切に想われて来たお方を・・・・」

「嫌われるかな・・・・。それでも絶対アイツには譲れない! 分かるだろ!? 」

「お気持ちはお察し致しますが・・・・」

何か他に良い案は無いかと、このひと月半ずっと考えて来た。
だが、他の手は考えられなかった。奴の執着心はそれ程半端ではないのだ。

「婚約者とは言え、真面に話しすらした事の無い相手に会ったその日に闇の中で抱かれるとは彼女も想像すらしていないだろうな。本当は私なのに・・・・」

おそらく彼女は知らない。かつての自分たちの関係を・・・・。

「また貴方が悪者になるのですか?」

「私とは限らない。気付かれなければ直接辛い立場に立たされるのはお前だ。お前は身に覚えのない理由でアーリアに嫌われるのだろうからな」

寂しそうに王子は微笑を浮かべた。

「王子はそれで良いのですか?」

「良くは無いが・・・・、これは賭けだ」

アーリアが闇の中で私が分かるか。
想い出してくれるか? 再び愛してくれるのか? それとも憎まれるのか・・・・・。
かつての恋人ラルとして、王子セイラルとして、仮の姿である従者マジミールとしての自分。
どれを取っても辛い選択であることは事実だった。
自分が本来の姿を名乗れず、アーリアの気持ちも分からぬ以上、関係を持った所でおそらく自分には背徳しか残らないだろう。
自分が自分自身として愛しい者を腕に抱けないと言うのは何と言う因果か。
かつてもそうだった。
自分は名を偽りただのラルとして彼女と知り合い恋をした。

傷を負い、何とか逃げ遂せ、彼女の屋敷近くの川辺で倒れている所を救われた。
敵兵であると気付いたにも関わらず、己の屋敷から医薬品や食料を持参して数日にかけて内緒で動けるようになるまで近くの小屋で面倒を見てくれた。
動けるようになり、感謝の言葉を述べ、何とか自力で城まで戻り平素な生活に戻ってからもずっと彼女の事が頭から離れなかった。
間もなく停戦し、こっそり彼女の邸近くのあの川辺まで想い出を辿って行ってみた。
すると彼女はそこに居たのだ。

『私のラル・・・・。貴方はどこにいるの?』

彼女の問いかけに、思わず咄嗟に物陰から飛び出した。

『私はここにいる!』

突然の出来事に戸惑いを隠せない彼女を、有無を言わさずその腕で抱きしめた。

『会いたかった・・・・』

涙を流しながら彼女はそう言ってくれた。

それから想いを通わせるのに時間はかからなかった。
会う度に逢瀬を重ねるような仲になり、将来を誓った。

だが、運命は過酷で停戦はやがて終止符を打った。
再び敵国となり、会えぬ日々が続き、そして城が落ちると分かった瞬間、死ぬ前に一目でも良いから彼女に会いたいと思ってしまったのだ。

他国の者とは知りながらも、まさか敵国の王子だとは思わなかっただろう。
素性は明かしていなかった。リアは『貴方も私も国の被害者だ』と言ってくれていたから。
この戦争を起こした国を継ぐべき者と知れるのが怖かった。
本当は被害者では無く加害者側の人間なのだと知れる事が・・・・。

彼女がもし、自分を敵国の王子と知る事があったのだとすれば、それはおそらく自分の死後だったに違いない。

彼女は何を思い、転生したのか?
私の事を少しは覚えているのだろうか?
この世でも、再び愛してくれるのだろうか?

セイラルはアーリアへの思いが一層深まっている事を強く感じた。

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