記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに《10.祝 事》

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広間には華やかな衣装に身を包んだ紳士淑女が溢れ返っている。
今日この場で発表される2年前に帰国した第一王子セイラルの婚約者を見ようと、皆が期待に胸を膨らませていた。
いつも紳士的な態度で、浮いた話一つ無かった第一王子の急な婚約が先日王室より発表されてから1週間。今日が初のお披露目となる。皆の興味は嫌がおうにもそのハートを射止めた婚約者に向けられている事は誰の目から見ても明らかだった。
王子の婚約者であるマーチェリー伯爵令嬢とは何者か!?
殆どの者がその名を耳にするのは初めてだった。と、言うのもアーリアは社交の場に度々顔を出すような娘では無かったからだ。
直に話が聞けるかもしれないとわくわくする者、我が子の伴侶を探すのだと意気揚々とする紳士淑女、一夜の華を求める者、そして鋭い目つきで今夜の主賓に目を向ける者、人それぞれ想いは様々だ。

やがて高らかなラッパが鳴り響き、王、王妃を筆頭に、第一王子セイラルと婚約者であるマーチェリー伯爵令嬢が入って来た。
第一王子セイラルと婚約者の登場で、城内はざわめきと共に割れんばかりの拍手に包まれた。

「今日は息子セイラルの婚約の祝に際し、皆々に集まって貰った事を嬉しく思う。本日より王子の婚約者であるマーチェリー伯爵令嬢アーリアには城へ入って貰い、一月後の婚儀に備えて貰う。皆にも今後この王族の一員となるアーリアを我ら同様温かく見守って貰いたい。本日は無礼講じゃ。皆も祝い、思う存分楽しんでくれ」

王の宣言が終わると、城内に優雅な管弦楽の演奏が流れ始める。
最初の曲はこの国で有名なラヴァーズワルツだ。
このような祝辞において一番に主役の二人が中心となって踊るワルツだ。

「アーリア嬢、お手を」

「は、はい」

アーリアは差し出された手を拒むことが出来なかった。
王子の手を取ると共に中央へと歩み出る。
互いに一礼をして手を合わせた。
城内からは拍手が沸き起こり、二人を祝福した。

(「何故この様な事になってしまったの?」)

表向きには笑顔を作りながらも自然と視線が伏し目がちになるのは仕方ないだろう。
フッと瞳を上げればその先に従者マジミールの姿が視界に飛び込んで来た。

(「こちらを見ている?」)

アーリアが頬を染めると、射ぬかれるように見つめられた気がした。

(「ああ、王子・・・・。その嫉妬を剥き出しにするような目つきで私を見ないで下さい。私とて心苦しいのです・・・・。それに誰かに気付かれたらどうするのです?」)

二人は互いに手を取り合い、身体を近く寄せながらも全く違う事を思っていた。

やがて演目が変わると二人はその輪から離れた。
途端に好奇心旺盛な令嬢らが周囲を取り囲み人垣が出来る程だった。

「王子様。アーリア様とはどうやって知り合いになったのですか?」

「やはり王様からのご要望ですわよね」

「違うわ。私はアーリア様がアプローチしたって聞きましたわ」

鋭い好奇の目で皆二人を囲みながらも視線の矛先はアーリアに向けられていた。

「残念ですが、どれも外れです。私の一目惚れです」

王子に扮したマジミールが微笑みそう告げた時、鋭い言葉が発せられた。

「そのように言えと命じられたのですね。何てお可哀想な王子様。この結婚が政略的なものである事は皆も既に存じ上げておりますのにその様なお言葉をお掛けになるとは何とお優しいのかしら。貴女の御爺様がお持ちの鉱山から何でも大量の天然のダイヤが発掘されたのですってね。それの3割を国に納める代わりにご結婚をお決めになったともっぱらの噂ですわ!」

全く寝耳に水の話だった。アーリアはその様な話を聞いた事が無い。
研究者の祖父からは天然ダイヤを発掘したとは聞いていたが、そのような鉱山だの何だのを所有している等全く知らない。たまたまある調査に駆り出された時に偶然天然ダイヤを見つけたと聞かされただけだった。
その話が何処でその様な鉱山などと言う大きな話になったのやら、全く理解に苦しむ。

詰め寄られ、アーリアが一歩引いた時だった。
何処からともなく聞こえて来た鋭い声に、皆の視線が捕らわれた。

「これは、如何言う事ですか!? マーシャル侯爵令嬢」

そう告げ話の中に飛び込んで来たのは王子付の従者マジミールだった。

「いっ、痛いわね。離しなさいよ! 貴方如きに触れられるのは不愉快です!!」

「不愉快はこちらの方です。王子の婚約者を愚弄する発言はお控えください! そのような鉱山の話はこちらには入って来ておりませんし、王子がお忍びで街を訪れた店先でアーリア嬢と出会い見初められたのが真相です。私がその場で命を受けアーリア嬢の素性を調べ上げ王子にお知らせしたのですから間違いございません!」

「その通りだよ」

マジミール扮する王子もにっこり微笑みそう告げた。

「それに、この物騒な物はお仕舞下さい。食紅ですか!? これをこっそり散らしてアーリア嬢に恥をかかせるおつもりだったのですか!?」

従者王子が捉えた侯爵令嬢の右手には赤い色をした液体の入った小瓶が握られていた。

「ち、違うわよ! 新種の紅よ! 失礼しちゃうわ。お化粧直しに行く所でしたのに」

「それは失礼いたしました」

従者王子はにこやかにほほ笑むとその手を離し、侯爵令嬢を見送った。

(「私を守って下さった?」)

アーリアはその姿に見惚れずにはいられなかった。

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~ Comment ~

NoTitle 

ふふふ…そりゃ~嫉妬にもなるわよねぇ~
分かっていても~(^m^)
そしてナニゲに自分の株は上げとくんだね~!
王子と従者とで間に挟まれて大変よぉ~(><)
先に教えておいてあげればいいのにねぇ~…

とはいっても気持ちのすれ違いなジレジレが
やっぱり読んでてぎゅっとくるので~(笑)
楽しみにしてジレジレしときます^^b

はのん様 

そうそう、分かっていても嫉妬しちゃうよね^^
で、自分の株はしっかり上げます♪
って言うか手を出さずにはいられない!(爆)

先に教えるのも考えたんだけど、やっぱりラルが嫌がっておりました(笑)
彼もジレジレが好みのようです。自分の首絞めてるだけなのにね~♪

いつも有り難うございます^^
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