記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに《22.対 妃》

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側妃のこれ程までに怒りに満ちた形相は中々お目にかかれないだろう。
それでも、今事を荒立たせることは不味いと感じたのか、思ったほど大げさな言葉は返って来なかった。

「ま、ままままぁ、何という恥知らずな!! わっ、私は我慢しましょう。ですが、陛下に対する今の発言は許せません!」

そう来たかと、幾つか用意していた言葉を返そうとしたら王妃が制する様に片手を挟んで待ったをかけた。

「いえ、今の発言はマジミールが正論です。陛下、幾ら何でもこの様な目にあったばかりの令嬢に対し今の側妃様の言葉あんまりですわ。私共は今、マーチェリー伯爵家より大切なお嬢様をお預かりしているのです。ですのにこの様な事がもし公になり伯爵のお耳にでも入れば、幾ら温厚な伯爵とて許しはしないでしょう。それにもし、この様な目に遭われたのが王女さま方ならば陛下はどうされます?」

王妃のその問いに、暫く口を噤んだままの王だったが、やがてゆっくりと口を開いた。

「側妃が心ない事を申した・・・・。マーチェリー伯爵令嬢、許してくれるか?」

「・・・・はい・・・・」

アーリアは泣きながらも王に向けて微笑んだ。分かってくれたのだと思うととても嬉しかった。 
それなのに・・・・。

「あ~。嫌だ、嫌だ! 『泣けば私の勝ちよ!』みたいな、そのお涙ちょうだい的なその態度! 王妃様や陛下までも手玉にとって、本当は好色女のくせにこれだから位の知れた小娘は曲者なのよ!!」

何故王はこの様な女に執心しているのか、全く理解出来ない。若い娘であればその我儘な性格も時として可愛いものなのかもしれないが、もぅそのような齢でも無かろうに・・・・。

アーリアは、側妃の言葉に「泣いてなるものか!」とグッと奥歯を噛みしめ、涙を見せまいと必死に耐えていた。

「・・・・わ、私は、その様な者ではありません! それに、こっ、この様な・・・・事なんて・・・・、は、はじめ・・・・ぅっくっ・・・・」

泣かずに必死に言葉を紡ごうとするが途中でどうしても涙が溢れ出し、それ以上は無理な状況に陥ってしまった。

「・・・・もぅ良いですから。皆、本当は分かっていますから・・・・」

従者姿のセイラルがアーリアに優しく声をかけた。
それ以外、掛けてやる言葉が見つからなかった。
『頼むからこの側妃の口を誰でも良いから少し黙らせてくれ!!』と願った時だった。
心の声が通じたのか、突然凛とした声音が部屋中に響いた。

「馬鹿な犬程よく吠えるって本当ね!」

パッと扇を口元に広げてそう告げたのは王妃だった。

「なっ!・・・・」

「あら、失言。アーリア嬢の事は既にう・ち・の・第一王子セイラルに相応しい者と陛・下・も・認めておりますのに、飼い犬に手を噛まれるとは正にこの事ですわね。息子のしでかした事を棚に上げ、幼気な娘を曲者呼ばわりされるとは、私ならとても恐れ多くて口に等出来ない言葉ですわ。流石陛下の御寵愛される側妃様は一味違いますわね」

王妃は言葉を言い終えるとチラリと王を見据えた。

「コホンッ。まぁそれは、少し口が過ぎるのではないか? ナジリルよ」

「・・・・へっ、陛下!!」

側妃はまさかの王妃を庇護するような王の言葉に戸惑いを隠せない。

「し、しかし、サニエルがこのような姿に・・・・」

今度は瞳をウルウルさせ、縋る様な眼差しで王をチラ見している。見るからに芝居じみたその動作に騙されるとすれば王は余程の馬鹿か、愚か者だ。
すると王はチラリと息子の顔を見やり、顔を背けた。

「うむ・・・・。とはいえ、これはちと・・・・酷いかのう。どうだ? このマジミールに謹慎処分を下すと言うのは?」

王は恐る恐る王妃を見やり、様子を伺いつつそう述べた。

こちらへ来るまでの間、事が事ですので、これ以上第二王子を庇護する発言は控えた方が良いと王妃は王には釘を刺しておいた。
王もその事は認めて下さり、王妃はこの問題に関しては優位に話しが進められるとおもっていたのだが、やはりこの王はあてにならないと理解した。
王が側妃に腑抜けにされている以上、これではやはり息子を守れるのは自分しかいない。
王妃は息子の為に立ち上がる。

「陛下! それではあまりにセイ・・・・、いえ、身を挺してまで王子に仕えて来たマジミールを蔑にしすぎます!!・・・・・本来ならばもっとお褒めの言葉を賜っても良い行いではございませんか? 良く王子の婚約者を守ってくれたと・・・・」

「うむ。それは認める。マジミール、良く王子の婚約者を守ってくれた」

「身に余るお言葉、痛み入ります」

「とは言え、やはりまかりなりにも仕える国の王子をここまで殴りつけると言う行いは如何なものかな。当然こやつの行いは許されるべきものではない。しかしこやつも可哀想な奴なのだ。同じ王子に生まれながらも側妃腹と言うだけで今までかなり辛い目にもあったらしい。勿論サニエルにも謹慎はさせる。だからお前もこの処分を受け入れてはくれぬか?」

「・・・・はぁ・・・・」

(「何て甘い! サニエルを・・・・弟を堕落させたのは間違いなくこの二人だ! 妾腹だ何だのと言う事は関係ない!」)

自分がこの城に戻って来てからのサニエルには、そのような偏見を向ける目など全く見受けられなかった。
どちらかと言えば、構われ過ぎていると言っても過言でない状況だった。
全てはこの側妃の一言によるものなのだろうが、既に父もそれに感化されているのは明らかだった。
甘やかされ続けて堕落したのがサニエルの身の上ならば、本来の責任は親にある。
だが、じきに成人を迎える。そうなれば、色々と口を挟む者も出て来るかもしれない。
セイラルは自分がここを離れて育った環境を、今日ほど感謝した事は無かった。

「今回の所行は今までに無い酷い行いだ。町娘をたぶらかす等とは訳が違う。兄の婚約者に手を出そうとは、本来あってはならぬ所行だからな」

(「いや、町娘をたぶらかす事を認めるような発言は王として本来不味いのではないのか?」)

そう思った時だった。

「それは違うのではないか?」

重々しいく低い声が王の言葉を遮り、部屋に居た一同は固唾を飲んだ。

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