記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに《29.見 透》

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従者姿のセイラルは王子の自室に戻ると、上着をマジミールに預けソファーに深々と腰を下ろした。

「流石に今日は疲れた・・・・」

「ご苦労さまでございました殿下。お湯の用意が整ってございます。一様染毛料もご用意しておりますが・・・・」

「今夜は必要ない。隠しておいてくれ」

「・・・・お渡りになるおつもりなのですか!?」

「・・・・・当然だ」

「口出がましいかもしれませんが、今日この様な時に無理強いなさるのは、アーリア様のお気持ちを逆なでする事になりは致しませんか?」

「・・・・そんな事は分かっている。良いから他の者に見つからぬ様に早く隠しておけ。早朝、湯の用意が出来たら置いておいてくれ」

「・・・・はい。畏まりました」


湯殿で染めた髪を洗い落して貰いながらセイラルは思う。

(「この髪を染めない夜はどれ位振りだろうか・・・・」)

母の母国であるナジスの国を後にする前夜、初めて薄い透けるようなこの金髪をマジミールの明るい茶髪に染め上げた。
染料はマジミールがいつも調達してくれている。
あれから2年間良く続いたものだ。
色を落した髪の色は、マジミールが王子に扮するセイラルの髪より幾分薄い。
マジミールは明るい色とは言え元々が茶系の為、如何染めても少し薄暗くなる。
それでも15年ぶりの母国の者は、誰一人としてマジミール扮いるセイラルが自国の第一王子だと疑う事をしなかった。

「お前はずっと落とさないのか?」

「ええ、私は洗えば染まるタイプでも色落ちし難い染料を使っておりますので。今落とす必要はありませんし、この部屋のベッドから地毛の色の髪の毛が抜け落ちている事があれば不味いですし」

マジミールはいつも王子の部屋のソファーベッドを、書斎に置かれてある私室のベッドをセイラルが使っている。
本来一介の従者にこのような待遇が許されるべきではないのだが、マジミールはこの国において初となる騎士の称号を持つ従者であり、その実力を認められている事から第一従者兼任の護衛騎士として今では多くの者に認められている。
王子も通常在室中においての世話の一切を第一従者であるマジミールが担い他者の関与を通常認めていない。
それ故、第二、第三従者が王子と直接関わる事は滅多にない。故に彼らは通常王子と第一従者不在時における世話を一手に担っている。
王子付き従者と言えども第一従者が在室時は王子の部屋に関与しない。それが他の従者との暗黙の了解となっている。

「それに私まで色を変えてしまえば急場での対応が出来ませんから。何者かに呼ばれ、マジミールも王子も不在と言うのは収拾がつきませんし」

最もだ。ここにいる人間は全て我らの本当の姿を知らないのだ。本来の姿に戻れば、声はすれども姿は見えずの状況以外作れなくなる。

「済まないな。お前にもこの2年、随分と苦労をかけている」

「いえ。それが王子の幸せの為でしたら、それこそが私の幸せでございます」

「お前は出来過ぎているよ。本当に」

「そんな話初めて聞きますが・・・・。一様有難く承っておきます」

「こいつ・・・・」

いつもこの湯殿では、セイラルは本性を出す事が出来る。
ここ以外でこのようなきわどい話の内容に関して羽目を外す事は無い。
何処で何者に聞かれているか分らないからだ。
湯殿は守られた部屋の中の更なる密室。
それがセイラルにとってもマジミールにとっても一番今は寛げる場所だった。


「・・・・・アーリアの件だが・・・・、今日明日どうこうしようと言う気はない。とりあえずサニエルは1週間自室で謹慎処分だ。部屋から一歩も出られぬのだからアーリアと会う事も無いだろう」

「そうですね」

「傍に居るだけだ。今のアーリアを支えてあげたい・・・・。だから少しだけ過去に触れるのも良いと思っている。状況次第だが・・・・」

「そうですか・・・・」

「何も聞かないのか?」

セイラルは何処まで話すつもりなのかとてっきり色々問われるものだと思っていた。

「セイラル様のなさる事です。むやみにアーリア様を傷つける事は絶対になさらないでしょ? 元より出来る筈が無いと思っておりましたから」

「お前には敵わない・・・・」

セイラルはフッと苦笑いを浮かべた。

誰も居ない暗闇の寝室で、ずっと待ち焦がれていた愛しい者と二人きり。
実際は何処まで理性が保てるのか分らない。
先程の肌が透けるような薄いシルクのナイトドレス。
アーリアが身に纏う下の柔らかな素肌が薄っすらと顔を覗かせ、一瞬食い入るように目が奪われた。
直ぐに視線を変えてはみたが、あの姿が今も脳裏に焼き付いている。
そして、あの衝撃的な出来事も・・・・。

「主寝室の明かりを抜いていてくれ。出来るだけ姿を悟らせない為にも宵闇に近い状態にしたい」

「はい、畏まりました」

そう告げマジミールは湯で濡れた手足を拭き取ると湯殿を後にした。

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