記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに《52.当 惑》

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早朝主寝室から姿を見せた主は、それはそれは清々しい笑顔だった。
鼻歌でも出て来そうな程の満面の笑顔で、一目見て事が成就されたのだと悟った。

湯殿の世話も断り、今朝は自ら湯に浸かようだ。
今日ぐらいは一人できっと幸せに酔いしれたいのであろう。
何処まで話されたのかは分らないが、告げられぬ以上自分が介入する事では無い。
だが、宵闇の中で下したであろう主の決断一つで自分の今後の行動も異なってくる。
出来るだけ事を詳しく知りたいと言う思を拭えない事は分かって貰いたい。

そのような事を考えながら着替えの用意をしていると、髪をしっかりマジミール色に染め上げて、上機嫌で主が湯殿から出て来た。

「今日から晩餐も含む全ての飲食はアーリアの部屋で共にとれ。その様に準備させる」

「アーリア様には?」

「私とお前以外の者の確認なしに物を口に入れるなと言ってあるから問題は無い」

「では全てをお話しになられたのですか?」

「いや、話してはいないが・・・・、すまん。今の私がマジミールである事とセイラルが協力者である事は明かした。背徳を背負ったままと言うのはやはり耐え切れなかった。・・・・許せ・・・・」

「いえ。それは当然の事です。過去は過去、今は今なのですから」

過去の想いを捨てきれずとも、囚われ続ける必要は無いのだ。
今この想いこそが王子にとっての真実なのであろうから。

「だが、私の本来の素性と本当に命を狙われているのが私だと言う事は告げていない。そこまでの負担をアーリアにまで負わせる訳にはいかない。だからその代わりに鬼畜な弟が目的を果たせなかった腹いせに、どの様な報復を仕掛けて来るか分からないと話しておいた」

「左様ですか」

「何があってもアーリアは守って見せる!」

「微力ながら私も協力させて頂きます」

「また、お前の負担を大きくさせてしまったな・・・・」

「いえ・・・・、それはどうかお気になさらずに。殿下の幸せこそが、私の幸せなのですから」

「お前は出来過ぎた。・・・・時折不憫に思う事がある・・・・」

「そうですか? 私はこれでも結構有意義に過ごさせて頂いているつもりなのですがね」

「そうか?」

「そうです。・・・・ですが、実はその件に関しては少々心配事が・・・・」

「何だ?」

「殿下は耐えられるのですか? 当初の計画ではサニエル王子にはアーリア嬢と王子姿の私の仲を見せつけた方が良いとの事でしたが・・・・」

予てからの計画ではどんどん毒でも何でも盛って貰い、尻尾をださせる事が目的だった。

「・・・・そうだったな・・・・」

「勿論必要以上に手出しするつもりはございませんが、肩を抱き寄せたり、耳元で軽く囁く程度の仕草は必要不可欠となります。状況によってはそれ以上の事も・・・・」

「分かっているからいちいち説明するな」

傍から見ていてもかなりイラついている事が窺い知れた。

「いえ、こればかりはしっかり聞いて頂きませんと。この計画が失敗すれば、それこそ裏をかく事もまかりならなくなります。さすれば今まで協力して頂いた方々にも多大なご迷惑がかかります。ですから難しい様であれば無理はなさらないで下さい。何とかそれを回避できるように新たな案を立てますから」

「それでは駄目だ。そうなればアーリアを抱え込んでの計画がされるのだろう!? もぅアーリアの身をこれ以上危険には曝せない!」

「・・・・ですが・・・・」

「・・・・昨日までとは違う。・・・・私は何があっても今後アーリアの愛を疑わない!」

過去に関係なく、告げられた婚約者でも無く、地位も何も持たぬ一介のしがない従者としての今の自分を求めてくれたアーリアだ。何があっても私から離れる事が無いと今なら信じられる。

「では、アーリア嬢は納得されているのですね? 漠然とラルがセイラルと思っていたままの状況でしたらそれも可能だったのでしょうが、ラルが今の従者のマジミールだと思っているのであれば王子としての今の私を容易に受け入れられないのではないですか?」

大きな落とし穴だった。
あの時は感情に任せた咄嗟の判断で事に及んでしまったが、考えてみればやはりマジミールであると言う事はやはり明かすべきでは無かったのだ。

「二人の今後の為に、セイラルとの婚約をこのまま持続する事については何とか納得させたのだが・・・・」

「納得しているのとセイラル王子としての私と親密に出来ると言うのは違うのではありませんか?」

「・・・・そこまでは、考えて居なかった・・・・。どうしようかマジミール・・・・」

全ての話を詰めたつもりだったセイラルは、新たな問題に頭を抱えた。

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