記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《2.感 興》

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現在このカンザルには、城より派遣されている管理官が駐在している。
一期を三年とし、担当官が交代しながらその地を任されている。
今の管理官は今年が3年目、退王が療養時に仮住まいとして使われていた旧領主邸に住みながら管理を任せられている。
最初の目的地である旧領主邸に到着すると管理官が心待ちにしていたとばかりに満面の笑顔で対応してくれた。

「良くお越し下さいました。さぁどうぞこちらへ」

管理官に案内され通された中庭には食事の用意が既になされていた。
テーブルにはしぼりたての牛乳に季節の野菜、冷静スープにフカフカの白いミルクパン、この土地で作られる豊富な乳製品の数々。
豊かな緑の草を食み育った牛のフィレ肉のソテーは、甘いバターにほんのり香るレモンバームの匂いが鼻を心地よく燻り、噛んだ瞬間肉汁が溢れ出し転がすだけで蕩ける程柔らかく最高の一品だった。

「これは美味しい!」

王子に扮するマジミールも自分もお付の騎士等もその食事をペロリと平らげたがサニエルだけはメイン以外の食事には何一つとして手をつけなかった。

「お口に合いませんでしたか!?」

管理官の問いにサニエルが少し気まずそうに答える。

「いや、この臭いがね・・・・」

どうやらサニエルは乳製品が全般苦手な様だ。
この地の領主になろうと言う人物がこの反応と言うのは如何なものなのだろうか?
自分が考えても先ない事だが、この苦々しい表情を見れば、これも退王がサニエルに与えた一つの試練なのかもしれないとさえ思えて来るから不思議だ。

「野菜も城のものよりも甘みがあって実に新鮮で良い味を出していますね。お気に入りでしたら今度料理長に紹介してはどうでしょうか」

「そうだな」

従者扮するセイラルがそう問えば、王子扮するマジミールがそう答える。
傍から見ていれば王子の様子を伺い、従者が気をきかせている様にも思えるが、実際は少し異なる。
本物の王子であるセイラルが感じた事を王子扮するマジミールに納得させる為に皆に分かる様に頷かせていると言うのが現状だ。
少しややこしいやりとりの仕方だが、物事の取り決めを行う際に二人の間ではこれが現状において最も有効な手段だった。

その二人のやり取りを冷ややかな目を向け見ていたサニエル王子は、給仕の者がトレイに乗せて持って来たデザートの木苺のプティングも顔を顰めて手で払うとハンカチで口元を押さえた。
出されたものは本当に肉以外口にしないと言う徹底ぶりで、好き嫌いの域もここまで徹底されれば感心させられる。

セイラルは一国の王子と言うものはどのような理由があろうと人前で己の感情を左右するよう表情を見せるものでは無いと、常々母方の祖父であるジナス国王に教えられて育った。
衣食住全てにおいてもそうだが、教養も心身の鍛錬も一国を担う王子としてとても必要な事だった。
だが、サニエルはと言えば全てにおいて蔑だ。どのような教育を受けて来たのか見なくても分かる。
真面に剣の鍛錬もせず、勉学に勤しむ訳でも無く、何から何までこうも甘やかされて育てばこの様な人間が育つのだと言う事をセイラルは改めて納得した。

食後、視察先の牧場や乳製品の製造をしている場所を案内された時だった。
今まで明らかに視察への嫌悪感丸出しだったサニエルの表情がパッと明るく輝いた。
原因は一目瞭然だった。
熟年の女性の中にただ一人作業を手伝う年頃と思しき者の姿。
その娘はサニエルと目が合った瞬間、頬を押さえ、恥ずかしそうに老齢の夫人の後ろに隠れた。
ずっと嫌な物ばかり見せられ続けて飽き飽きしていたサニエルがそこに目を奪われるのは必然だったのかもしれない。
娘の行動に気をよくしたサニエルは、今までの仏頂面は何だったのかと言うほどの咋な態度でニッコリ微笑むと近づいて行った。

「作業は面白いか?」

第一王子扮するマジミールと共に作業の衛生面と効率性についての話を伺っていたセイラルは見るからに物欲しそうな目つきで娘に声を掛けるサニエルの姿に思わず薄笑みを零した。

(「現金なものだ。女一人で急に視察団らしき行動を取り始めた」)

だが、そう思える反面、心の中は怒りで震え煮えたぎる思いだ。
アーリアに対し、あのような不埒な真似をして謹慎を食らった直ぐ後だと言うのに、あの様に露骨な態度。
全く懲りていないと言うのは目に見えて明らかだった。
反省所か懲りてもいないと言うのか!!
もぅ2、3発殴っておけば良かったと、セイラルは心底思った。

だが、サニエルが取るこの予想道理の反応は今の自分達にとってとても喜ばしい事だった。
王子姿のマジミールと顔を見合わせるとセイラルは何か意味有り気に微笑を浮かべた。

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~ Comment ~

NoTitle 

サニエルが裏で手をまわして乳製品に毒でも混入したのかと思いましたが……そこまで頭よくはないかサニエル(^^;)

ポール・ブリッツ 様 

はい。この時点でのサニエルはおバカです。
彼はこの章で色々な意味で多分興味深い存在になって行くと思います。
少し明かすと、ポイントは何故退王様程の人が彼を見離せないのかという事です。
引き続き楽しんで頂ければ幸いです。

いつも有り難うございます。
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