記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《5.責 任》

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自室に戻り、セイラルは必死で記憶を辿ってみた。
5歳までの幼少期に城に居た記憶は多くは無いが幾つかは今でも思い出せる。
何時も傍に居てくれたのはファンネで、母も王妃と言う仕事の傍ら結構手をかけてくれた方だと思う。
父と何処かに行った記憶は無いが、母と何処かに避暑へ出かけた記憶もある。
水辺に白鳥が降り立つ何処かの城だった。
それと良く傍に居た若い娘と、出かける時はいつも一緒だった若い男。
一人の時もあれば二人の時もあったがその内の一人がきっとオニール・ボブスレード男爵だったのだろう。だが顔までは記憶していなかった。
あともう一人、名前は覚えていないが馬番をしていた大男。その男はおそらく今も厩舎に居る初老のがたいの良いあの男だ。
余程難しい顔をしていたのか、マジミールがどうしたのかと聞いて来た。

「お前、幼少期の記憶ってどれ位鮮明にある?」

「そうですね。大きな事でしたら幾つか覚えていますね。ひと回り上の姉の婚約者が初めて家に来た事ですとか、父が骨折して暫く家に居た事、後、王子がナジスに来られると言って家族が騒いでいたのも覚えています」

「そうだよなぁ。覚えているのは特殊な事、それも断片的な記憶だけだよなぁ」

「何かあったのですか?」

「先程退王様に呼ばれただろう」

「はい」

「そこで5歳まで私の護衛騎士を務めていたと言う者に会ったんだ」

「そう言う方が退王様のお傍に居て下さるとは心強いですね」

「だが、突然告げられても何も想い出せなかった。今考えてみると、それらしき記憶は幾つかあるのにな・・・・」

「それは当然です」

ファンネや母の言う事も聞かずに木登りをして、降りれなくなったのを降ろして貰った事や、馬に乗せて貰い一緒に丘を駆けてくれた者が居た事、自分の盾となり救ってくれた者が居た事は思い出せた。
記憶の断片におぼろげに記憶する人物の何れかは、おそらくあのオニール・ボブスレード男爵だ。
自分が城を去る事になり一つ目の転機。だがその時は幸い王の護衛の任に就いたのだろうが、その王も病で早くに退位した。
新体制でも特別な問題が無い限り通例では要人はそのまま起用される事も多いが、父王は違った。側妃の縁者の多くを登用した。
お蔭で人生を狂わされた者はおそらく他にも居る筈だ。
王家に恨みを抱いても可笑しくない現状だったにも関わらず、オニール・ボブスレード男爵はそうはしなかった。
それ所か現在退王の下で自分の為に密偵まがいの調査を請け負い、今なお自分を守りたいとまで言ってくれた。

「その者は、まだ40半ばだ。今は城を解雇され退王の密偵の様な暮らしぶりをしているが、元は王の側近まで務めた立派な王宮騎士だ。その若さで惜しいと思わないか。私がずっとこの城に居ればまた状況は変わっていただろうに・・・・」

何もしない自分の為に、我が娘まで差し出そうとしている者に対して自分は一体何が出来るのだろうか?

「でも、そうすればきっと王子は今ここには居らっしゃらない。命を落とされ、私と出会う事もアーリア様との再会も有り得なかった」

「そうだな・・・・」

考えても先ない事だが、きっと自分が城を出てナジスへ行った事と、早くに祖父が退位した事によって失われた惜しい人材は自分が今知るよりもっと多いのだろう。
申し訳ないと思いつつも、その者等が今の自分を支えてくれていると言う現実。
今は何もしてやれないが、何れその恩に報いたいとセイラルは思っている。
近い内に今の現状を必ず打破し、我が命を狙う悪しき一派を一網打尽に出来ればそれはおそらく可能だ。
今城に蔓延る重鎮の三分の一は側妃の親族とその繋がりのある者。
尻尾を掴み、引き摺り降ろし、自分の地位も確固たるものになれば決して難しい事では決して無い。
その為にはもっと情報が欲しいのだ。
あれ程否定していたにも関わらず、色々考え始めるとオニール・ボブスレード男爵の娘に期待を募らせる自分がそこに居た。
情けないと思った・・・・。
一人では何一つ成し得ない自分が歯がゆかった。

唇を噛みしめ、悔しそうにしているとマジミールが言葉を口にした。

「もしかして、その元王子の護衛騎士と言うのはオニール・ボブスレード男爵ですか?」

「知っているのか?」

「はい。一度退王様の所で。そうでしたか。あの方が・・・・」

マジミールが感慨深げに囁いた。

「私とアーリアの為だけでは無い。今の私を支えてくれている者の為にも、私がしっかりしなければな。奴らをずっと日陰者にはさせない! きっと私が表舞台に連れ戻して見せる!」

セイラルは自分に課せられているものが己の運命だけでなく、ややもすれば過去において自分に関わった者達、ひいては退王を慕い協力してくれている者達の今後をも左右するのだと言う事を肝に銘じた。

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