記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《7.偵 女》

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カンザルとその周辺への視察は3日間で終わり、一同揃って帰城した。
サニエルはカンザルからずっと離れる事無く、周辺への視察に同行しなかった。
ずっとマリーサ嬢の傍で作業を見守ったり、時にはなんと重い牛乳タンクを運ぶ手助けまですると言う入れ込みようで、それには流石のセイラルも度肝を抜かれた。
今までの執着とは明らかに違う方向性に少し途惑う程だった。

「しかし、流石と言うか何というか・・・・。ここまであっさりとサニエル王子がハマるとは」

「そうだな。今までにない反応だな」

都会の娘に無い、あの全く男馴れしていない初々しい恥じらう態度が余程気に入ったと見える。
だが、何より驚きだったのが、サニエルの態度だった。
流石に前回灸を据えられた事に懲りたのか、マジミールが馬車の中で来月には成人するのだからと切々と語ったと言う未成年者強制わいせつ罪における過去の施行例についての話に余程怯えたのか驚く程に紳士的だった。

サニエルは別れ際、時間を見つけてまた会いに行くと約束していたが、次に奴が訪れた時にはマリーサはカンザルを離れている手筈になっている。
この調子では奴は必死に探すだろう。それも狙いの一つだ。

カンザルでは滞在2日目の夜に、内々にマリーサ譲から謁見の申し出があった。
サニエルの様子に最新の注意を払い、示し合わせたその場所で初めて正式に顔を合わせた。

「この度は私の希望をお聞き届け頂き有難うございます」

しっかりとした物腰で深々と頭を下げるその姿は、今まで目にしていた儚げな彼女とは全くの別人だった。

「いや、こちらこそ貴女の勇気に感謝します」

互いへの労いの言葉から始まった初の顔合わせの席だった。

「父から大まかな経緯と話の流れは聞きました。そこでこれは提案なのですが、私をアーリア様の侍女として城に召し上げては頂けないでしょうか?」

「アーリアの侍女に!?」

「敵を知るには先ず相手の懐に入る。これは密偵としての基本です。ですが、このような状況でこちらからサニエル王子の懐に飛び込めば周囲から怪しまれる事は必見です。ですがアーリア様の侍女であれば問題無いと思います。そこにサニエル王子が自らの意思で私に近付く事になれば、何かを仕掛ける事も可能です」

「正式に密偵として城に入り秘かにサニエルの内通者となると言う事か」

「はい」

「いや、確かにそれが出来れば凄い事だが・・・・大丈夫なのか?」

「計画自体は問題ないと思います。この計画の発案者は私の師ですから」

「マゼランド殿の!?」

「師の計画には私も絶対的信頼を持っております。もし、失敗するとすれば、それは私の経験値の無さ以外の何ものでもありません。もしもの場合の案も既に考えてはありますが、これは全て城に上がらなければ・・・・、アーリア様の侍女として城に入らなければ成し得ない計画なのです」

セイラルの頭には当初、サニエルがマリーサを見初めて城に迎い入れ情報を引き出すと言う以外の案しか思いつかなかったのだが、そうなれば情報のやり取りに困難を生ずる。
話を聞けば、確かにこの計画の方が何倍もマリーサにとっても安全で、おまけに色々な可能性を秘めている。こんなに美味しい話は無いと思った。

流石は伝説の密偵マゼランド殿だ。
他にも城の公募が何処かに出ていれば兄妹弟子を幾人か潜り込ませたいとの提案があり、追って連絡する旨を伝えた。
急ぐ必要は無い。既に密偵は幾人か城内に放っている。
とりあえず彼女の安心の為にその事だけは告げておいた。

アーリアの侍女については公けに一般公募をしてはいなかったが、信頼の出来る侍女を探していると言う事は城に居る主だった家人は知っている。
誰かの紹介を介してマリーサが侍女として上がる事に問題は何もなかった。
それに自分たちが傍に居られない間、剣の腕を持つ彼女ならばアーリアを守って貰えるかもしれない。
それはセイラルにとっても願ってもない事だった。

「推薦人はどうする? 私では警戒心を煽られて不味いだろう」

「祖母を介して退王様の側近のお一人であるロベルト様に話を持っていこうと思っております。ロベルト様は退王様がこちらでご療養の折、領地の皆さまとのご交流もあったようですし」

「その事は私も存じ上げませんでしたが、ロベルト様を通じ話持って行けるのであれば一番安全策と思います。退王様もアーリア様が侍女を探されていた事を御存じですし、そのお話を聞いたロベルト様が今回の視察の件でマリーサ様の存在を思い出され、声をお掛けになったと言う事にすれば筋は一様通ります」

「分かった。ではその様に手筈を取ろう」

「有難うございます。唯、くれぐれも私がボブスレード男爵家の者と言う事はご内密に。サニエル王子には両親が早くに亡くなり祖母の家に身を寄せていると話してありますので」

「了解した」

会ってみて、ボブスレード男爵オニールが言っていた意味をやっと正確に理解できた気がした。
確かにとても15歳の娘とは思えない。
中々どうしてしたたかなものだ。
この雄弁さからは、とてもあのサニエルと交えている様子が想像出来ない。
どちらが本物の彼女で、どちらが作り物の姿なのか。
現時点でそれを暴く事は自分にも難しかった。

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