記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《16.劃 策》

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サニエルと押し問答した挙句、明後日時間を作りますからと約束し、何とかその場を収めたファンネはその日の夕刻かなり疲れた様子で王子の部屋へ訪れた。

「もぅ、本当に大変だったのですから・・・・」

自室で愚痴を聞いていたセイラルは何度目かの労いの言葉をファンネに掛けていた。

「お前が居てくれて助かるよ。流石にファンネだ」

「それにしてもサニエル王子、かなり苛立っておられるようですね」

「上々、上々」

にこやかに王子とマジミールの表情を他所に、マリーサは終始ファンネに謝り通しだ。

「本当に申し訳ございませんでした」

「良いのよ。これは貴女のせいでは無いのだから・・・・」

微笑んではくれているが、見た目にもかなり疲れている様子が伺えた。

「しかし、予定道り罠にかかってくれますでしょうか」

「二つに一つだろうな。逆鱗に触れてマリーサに手を出し咎められるか、情に流され抱え込む方を選ぶか」

「どちらに致しましても手は既に考えてありますから何の問題もございません」

「それに致しましても良く思いつきましたね、あのようなクッキーとは」


それは5日程前の事だった。
マリーサとの茶会を何かに利用できないかと皆で話し合いをし、最近素行の良いサニエルに何とか羽目を外させる事でこの所、手を拱いている暗殺者側への牽制をかけられないかと思案に暮れていた時の事だった。

「実はここに良い薬があるのです」

マリーサがある薄緑色の粉末を取り出した。

「これは?」

「即効性はありませんが、数種類の強壮作用のあるものを混ぜた薬です。気分を高め、軽い疑似的な媚薬のような効果も齎します」

「媚薬!?」

「はい。あくまで疑似的なものですが。マゼランド様の調合によるもので服用後直ぐには何の変化もありません。ですが、徐々に症状が変わってきます。サニエル王子はお酒を多く嗜まれるのですよね?」

「ああ、未成年だから大声では言えないが、毎晩晩酌は欠かせないそうだ」

「そして、これは飲酒によって作用が増幅します」

マリーサの言葉に皆の視線が集まった。

「これをサニエルに服用させると言うのか?」

「はい、服用後茶会の席か、或いはその後何でも良いのですがサニエル様に腹立たしく思わせるような事が起こるだけで薬の作用も手伝ってそれを増幅させます。更に飲酒して頂ければきっと一時的に過剰反応して下さると思うのですが・・・・」

「確かに上手く行けば、良い起爆剤にはなると思うが・・・・、しかしどうやって?」

「そこが問題なのですが、茶会の席に私が調合したと言う事で混ぜたハーブティーを差し入れしようかと・・・・。私も飲用する事になりますが、こう言うものは多少訓練でも効果を知る為に飲まされて来ましたので、私には大した作用はありません」

「無理だな。特に飲用物は警戒される。おそらく持ち込んでも使われる事態無い。毒殺等で一番多く使われる手だ」

自分も幾度となく使われ、それは身に染みていた。

「そうですか・・・・。無理ですか・・・・」

あれだけ雄弁に語っていたマリーサが力なく肩を落した。
暫く沈黙が続いたが誰の口からも名案は発せられず、セイラルが大きくため息をついた。

「他の案を考えよう。やはり飲用物と言うのは元々無理がある」

その時だった。

「あの・・・・それは、加熱しても問題無い物ですか?」

ファンネの突然の言葉に、一体何を言い出したのかと皆訳が分からぬと言った表情だった。

「別に、使用の注意点は飲酒による増幅作用としか聞いておりませんので、別に問題ないかと・・・・」

「茶会ですよね。手作りの菓子を焼いて持っていくと言うのは駄目でしょうか? 生地に練り込んで焼いてしまえば見た目も分りませんよね?」

「確かに粉末ですし良いかもしれませんね。クッキーなどは見るからに物が残りますし、普通証拠を残してまで事を起こそうとする者は少ないですから先入観はありません。それに即効性も無く飲酒に寄らなければ特別な作用を促さないのであれば問題ないかと」

「使うならば、それしか無いか・・・・。着眼点としても茶葉よりは遥かにマシだな」

「ですがサニエル様は乳製品が駄目でしたよね。菓子類は物によっては食べられると聞いた事はありますが、クッキーはバターの香りも濃厚ですよね?」

「大丈夫です。不思議と焼き菓子系ならば食べられます。茶会等でも今までフルーツ類のクッキーは好んで召し上がっているのを見た事がありますから。中でもプラムが一番のお好みです」

「やけに詳しいな」

「私の好物ですから。つい、手に取る時に目が行くのです」

「お前の食い意地がここで役に立つとはなぁ」

「王子!!」

「決まりですね」

「・・・・ですが、一つ問題が・・・・」

「何だ!?」

「私クッキーなど焼けません。いつも弟たちと剣ばかり振り回していたので、女らしい事は何一つ・・・・」

「大丈夫ですよ。それ位私が作って差し上げますから」

ファンネはニッコリ微笑みそう告げた。

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