記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《21.躊 躇》

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当初セイラル王子がどの様な者かも分らずに、側妃様の言う通り僅かながらに掴んだ情報をずっと流していた。
だが、直接世話をする事は無いが、その人柄は直ぐに十分好感を持てるものだと気付いた。
セイラル王子と第一従者マジミールはずっと互いに信頼し合い、とても理想とする王子と従者の関係を築いていた。
いや、それ以上だ。
互いに奢ることなく、信頼し合い、二人の間には王子と従者の壁は無かった。
正に親友、旧知の仲と呼ぶのにふさわしい二人だった。
マジミールは片時も王子に離れる事も無く、寝食も共にしている。

「身の回りの世話は一人で足りるから、それ以外の事をロドリコにも主に頼んでいるのだ」

王子は来たばかりの頃にそう告げた。

「王子は自分の持ち物に他人が触れる事を好まれない。物の配置も絶対に勝手に変えないように。それから書斎は私の私室を兼用しています。掃除も私が行いますから無用です。一切手を触れないで下さい」

「分りました」

第一従者マジミールの言葉に、本当に雑用なのだなとこの時理解した。
以来1年、留守中の部屋の管理は第二従者ロドリコと第三従者の自分に任されている。
第一従者マジミール以外は殆ど今でも従僕的扱いだ。
だが、第二従者ロドリコもそれに異論を唱える様子も無い。
それに彼は自分より少しは信頼されているのか時折用も託けられる。
入ったのは王子が帰城されて直ぐと聞く。やはり信頼関係の問題か?

「後は頼んだぞ」

「はい。お任せください」

部屋を出る時に第一従者マジミールは、いつも第二従者ロドリコに部屋の鍵を預ける。
従者とは言え、第三従者の身では一人で勝手に入室する事もままならない。情報を留守中に探るには無理がある。
留守中は第二従者ロドリコと部屋の掃除等を行うが、そう大きく手を掛ける事も殆ど無い。
本当に第三従者は必要だったのか?
おそらく自分はある意味セイラル王子にも救われたのでは無いだろうか?
私利私欲の為にセイラル王子を無き者にしようと考えているらしい側妃と、不憫に思い、おそらく良くても従僕待遇の自分を給金の良い従者として雇ってくれたセイラル王子。
人としてどちらが真っ当な人間か、言われなくても判断出来た。
だが、自分にはそれを口にする事など決して許されない事だった。

晴天のとある日、衣類の衣替えが行われるとの事で部屋にある大物衣類を皆廊下に出す様に言われた。
衣装棚の中も風を通すとの事で全ての扉を開け放った。
衣類を取りに来た下男にこれで全てかと聞かれ、ハッとして思い出した。
普段は触れない書斎にも王子の外套等が数着仕舞われている筈だと言う事に気付き、あわてて書斎の衣装棚に手を伸ばし外套を取り出そうとしたその時、第二従者ロドリコに止められた。

「勝手な事をするな! そのまま仕舞っておけ。これは後日確認を取ってこちらで対処すべき事だ」

「は、はい。申し訳ございません」

以前から、この書斎には何かあると思っていたが、このロドリコの反応でそれは確かなものになった。
衣類すら触れてはならぬとは何かあるのではないかと疑いたくもなる等と思いながら扉を閉めようとした正に時、思わぬものが視界を止めた。

(何だ? コレ・・・・)

マジミールの従者服の襟もとに1本の長い髪の毛。
扉を閉める振りをして取り去り自分のポケットにそっと仕舞い込んだ。
後でこっそり取り出してみれば、ゴールドを思わせるような茶髪のウェーブがかった、とても男には無い髪の長さだった。
これは何を意味するのか!?
四六時中王子と一緒に行動を共にし、寝食をも一緒にしていると報告した時のあの嬉々とした側妃様の態度。セイラル王子に跡継ぎを儲けられない理由が存在すると周囲に知れれば黙っていても何れ王位がサニエルに転がり込むかもしれないと、セイラル王子の男色家説の噂を最初に流したのは側妃様だった。
だが、襟元から女の髪が見つかると言う事実が何を意味しているか、普通に考えれば誰にでも想像できる事だ。
これは、不味い・・・・。
セイラル王子の婚約に続き、今度はマジミールまでにも女の影ともなれば、誰が見ても二人の男色家説は立ち消える。
告げれば側妃様は絶対に激怒する・・・・。
アーリア様との婚約も偽装的な物だろうと安易に捉え、鷹をくくっていた側妃様に、この事を報告するのが躊躇われた。

自分はあの二人が男色家等とは今まで一言も口にしてはいないが、空想癖の強い側妃様が勝手に自分の都合の良いように解釈し増長させていた。
だが、今更そのような弁解をした所で無駄だと言う事は分かっている。
ブロンソの額からタラリと冷たい汗が流れた・・・・。

自分の見知った者で長い髪の持ち主で同じ髪の色の者は身近には一人しか居ない。
それはアーリア様だが、まさかあのマジミールが主の女に手を出す筈も無いと一度は打ち消した。
まだ真相は掴めていないが、それでも一様報告だけはしておかなければならないと神妙な面持ちでつげれば、深いため息をつかれた・・・・。

「本当に貴方は役立たずね。従者の事なんてどうでも良いのよ! 本当であろうと無かろうとそれによってセイラルを蹴落とせなければ不必要な事だと何故分らないの!? もぅ良いわ! 他に利用価値のある娘を見つけたから」

「申し訳ございません」

頭を下げながら何処かホッとしている自分が居た。
マジミールは実に優しい男だ。
母が病に倒れたと知らせを受け、急遽休みを貰いたいと申し出た時も、こちらの事は気にするなと言ってくれ、おまけに王子の了解は得たからと直ぐに王宮侍医の一人を屋敷に寄こしてくれた。
側妃様のような見返りを求めない純粋な優しさが奴にはある。
その同僚を裏切りたくはないと言う自分も確かに存在していた。

(もしも奴が従者では無く王子であったならば・・・・)

考えても先ない事だが、そうであったならば、自分は側妃様の犬に成り下がったままでは居られず、何処かで変われたのではないだろうかと思う。
不思議だがあのマジミールにはそう感じさせる何かがあった。

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