記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《22.変 化》

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約束を取り付けたその日、サニエルはいつもマリーサと会っていた楓の木の側で待っていた。
母に告げられた事を憂鬱に想いながらも、それでも自分が抗えない事を知っている。
今は唯、言われた通り紳士的に、紳士的にと心で唱えながら何処か緊張した気持ちを解そうと何気なく大きな幹を見つめ上げた。
なるようになる。もぅ色々考える事は止めようと思った。

青々とした空を見上げれば楓の木の枝に少し大きめの青い鳥の番が巣作りをしている事に気が付いた。
いつか、同じような光景を見た事がある気がするのは気のせいだろうか?
思い出そうとした途端、何かモヤモヤと頭の中に雲がかかる。
ここ最近何かにつけこの現象が現れる。
時々偏頭痛にも悩まされ、結局何も考えられなくなる。
よくよく考えてみればカンザルに赴いた頃からだろうか。だが、その頃から日常的に感じていたイライラ感も収まって来ている気がする。
マリーサに出会えたからだろうか? その頃から徐々に自然と目が樹木や他愛もない草花にも何故か目が向いた。
そして、今日はいつもと違って何かを思い出せそうな気がした。

(ズキリッ!!)

途端に、頭にいつもより強い痛みが走った!
思わずその場で頭を抱え込みしゃがみ、大きく呼吸しようと必死にもがいていると、隠れていた護衛の騎士が心配し、傍に駆け寄って来た。

「サニエル王子! 如何なさいましたか?」

喋れないが、何とか片手を上げて待てのポーズを作ると、そのまま目を閉じ浅く息をする。
やがて、少し痛みが落ち着いて来てフゥーっと大きく息を吐き出した、

「・・・・ああ、すまない・・・・、大丈夫だ。いつものだ。急に来てびっくりした・・・・。もぅ収まったから大事ない」

もう一度大きく深呼吸すると、呼吸を整えた。

最近回数が多くなってきた不可解な持病の偏頭痛。
痛みが治まると、いつも何処か頭がすっきりして、物事を冷静に捉えられるようになっている事に気付いた。

額に滲む汗をハンカチで拭いとり騎士を追い遣ると、もぅ一度先程見つけた鳥の番の巣作りの様子を眺めた。

・・・・ああ、そうだ。あれはブルーオラフィンチだ。そう言えば、子供の頃は野鳥が好きで、観察にと供の者に城の裏山に連れて行ってもらった事も多々あった。
何故自分はあれ程好きだった事を今の今まで忘れて居られたのだろう・・・・。
どうしてだか分らないが、いつもモヤモヤしていた霧が少しだけ部分的に晴れて何処かスッキリしていた。

「へぇ、こんな所にも居るんだな」

目を細めのブルーオラフィンチの番を見ていれば不思議と心が落ち着いた。
そう言えばブルーオラフィンチが楓の木に巣を作ると言う事を誰かが自分に教えてくれた気がした。それが誰だったかまでは思い出せないが、いつも優しく寄り添いその者とのひと時がとても楽しいものであった事だけは思い出せた。
突如心に溢れて来た楽しかった記憶。
今までの自分には本当の意味で楽しいと思える記憶は無かった。
子供の頃の記憶を全然思い出せない自分にとって、唯一今思い出せた記憶は今とても大切な物のように感じた。
それと同時に何故か溢れて来るこの場所でマリーサと過ごした雑談まがいの話の数々。
情報を探るべく動いていた筈なのにどうしてそう急に思えて来るのか?
遠い記憶を思い出せたからだろうか?
考えてみれば他愛の無い話など色事以外久しく友人等とも交わしたことが無かった事に気付いた。何故だかあの友人たちとの語らいも今は何処か滑稽に思えて来るから不思議だ。
アーリアとは何故ここが好きなのか、田舎ではいつも何をして過ごしていたなどと言う今考えても平凡で少し前まで滑稽だと思っていた普通の話も沢山した。
だが何故も苛立つ事も無く落ち着いて話が出来た。
その中で、お互いラズベリーパイが好きな事をも知った。何故だかその事がとても嬉しかった。
乳製品が苦手なくせにバターをふんだんに使ったパイが好きなんてと大笑いされたのを今も昨日の事の様に思い出され。
今までの自分だったら笑われた時点で激怒していた筈なのに、マリーサとだったら何故一緒に笑う事が出来たのか?
思い出しただけでもほんのり笑みが漏れて来るのは何故か、自分でも不思議だった。
そんな事を思い出していると、遠くからパタパタと駆けて来る足音が聞こえた。
その音がピタリと止まり振り返り、目を向けるとマリーサが少し離れた所で佇んでいた。

「マリーサ・・・・」

「・・・・あの・・・・、先日は申し訳ございませんでした。きちんとお詫びもしないまま・・・・、あの・・・・」

俯きながらとても話し難そうに言葉を紡ぐ。

「遠すぎて聞こえない。もっとこっちへ来れば?」

「あっ、はい。申し訳ございません・・・・」

どうやら、この反応からして手紙で嫌われてしまったと思い込んだ自分の考えが浅はかだった事に気付いた。

「ねぇ、どうして?」

「はい?」

「どうして茶会に来るのを止めたの?」

「それは・・・・、侍女に上がったと言うのに、王室の方の口にする物に毒見が必要と言う初歩的な事も知らずに、くっ・・・・クッキー等と言う物を差し入れしようなどと言う自分の浅はかな考えにほとほと嫌気がさしました。平民とは違い、尊いお方だと言う事が本当の意味で私は分かっていなかったのです。本当に申し訳ございませんでした」

そう告げるなりマリーサは深々と頭を下げた。

「・・・・それだけ?」

「えっ!?」

「茶会に来なかった理由・・・・」

「はい。それ以外にどんな理由があるのですか?」

「いや、それは私に聞かれても・・・・」

「・・・・そうですね・・・・」

「そのような事が理由だとは思いもしなかった。普通、好きなもの差し入れされたら喜ぶと思わない?」

「いえ、私も単純にそう思ったのですが、給女の方に毒見の件を教えて頂き、自分の不甲斐なさに気付きました。高貴なお方に平民の浅はかな考えを押し付けようとしていた事に気付いた次第です」

「こう言う事に平民も王族も関係ないと思うけど。結構嬉しかったけど」

「えっ!? 迷惑ではなく?」

マリーサはとても驚いた表情をしていた。

「・・・・マリーサ。私は奇人でも変人でも無いんだけど・・・・」

自分の言葉があまりにも意外だったのか、マリーサは瞳を見開き驚いたような少し途惑ったような様子ではあったが、やがて表情が柔らかくなるとにっこりと微笑んでくれた。

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~ Comment ~

NoTitle 

こう読んでいくと、どうしてもサニエル王子の顔に、「スイートプリキュア」に出てきたメフィスト様のイメージがダブるんだよなあ。

なぜだろうなあ(^^;)

ポール・ブリッツ様 

うわぁ、思い出せない!! でも息子が仮面ライダーの後何度か見た記憶があるぞ!!
サニエルは既に何となくお気づきかと思いますが、今後かなりイメージが変わっていくと思います。

いつも有り難うございますす。
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