記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《27.温 室》

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マリーサは側妃様宛に手紙の返事を認めた。
サニエル王子への見舞いを快く受け、指定された日時と時刻に伺う旨を伝え書き上げた。
事前に調べていたようで指定された日は自分の休暇の日になっていた為、全く何の問題も無かった。

お見舞いならば、手ぶらでと言う訳にもいかないし何か持っていこうと思わず以前話に出て来たラズベリーパイが頭を過ったが、とても作れないし何よりそのような差し入れをして変な疑念を抱かれるのも嫌だった。
何を持っていこうかと迷っているとファンネが庭師に話を通しておくから花を当日の持って行くと良いと勧てくれた。
城には季節の花々や国内の珍しい植物が何時でも見られる温度管理の施された温室があると言う。
見舞いには花がつきものだ。
それはそれとして形式的には良いかもしれないが、サニエル様は温室で育てられるような優美な花よりもきっと自然豊かな野花が好きだ。
自然をそのまま伝えられたら、一番喜んで貰えるかもしれない・・・・。
それに病の為に延期となったサニエル様の18歳の式典の日の予定日が、丁度マリーサが非番となったその日と重なっていた。
と、言う事はその日がサニエル王子の誕生日だと言う事だ。
何のお祝いも無くベッドの上だなんてきっと寂しいに違いない。
そう、思った時、マリーサはある事を思いついた。
自分にもあった。一つだけ出来る手作りの品。
子供の頃だけれど、母に教わりある時期夢中になり沢山作った数々の品。
今でもその作品の幾つかは愛用している。
もし、サニエル様にも使って頂ければ・・・・。
きちんとできるかどうかは分からないけれど、やってみる価値はあると思い、マリーサは休憩時間になると、いつもサニエルと共に話をしていたお気に入りの場所で楓の葉と周囲の草花を集めた。


休日の日。
その日はサニエルのお見舞いに行く事が気になっていたのか、いつもより随分早くにマリーサは目を覚ました。
軽く朝食を取り、仕度を済ませると約束の時刻より少し早めだがファンネに言われた通り温室に見舞いの花を選びに行った。

温室に入った途端、甘やかな清々しい香りに包まれ、思わず大きく息を吸い込んだ。
毎朝、このような香りに包まれて仕事をするのはどんな気分なのだろうかと、思わず顔が綻んだ。

「サニエル様へのお見舞いのお花ですね。伺っております。どうぞご自由にご覧頂き、お決まりになりましたらお声をお掛け下さい」

庭師はにこやかな笑顔でそう言ってくれたが、あまりに多くの見た事も無い種類の花を目にし、素敵すぎて見る度に気移りしてしまい、どれを選んで良いか全く分らない・・・・。
ならば見知った花をと思っても、バラだけでも何十種類もの色があり、赤と黄色と白しか知らない自分は度肝を抜かれた。

「凄いですね・・・・、原色以外のバラの花を初めて見ました」

「バラは比較的他の花より改良し易いですから、要望に応え、色々と改良を重ねております。私の自慢の花たちです」

庭師はとても自慢げに楽しそうに答えた。

「どれも素敵過ぎて選べなくて困っているのですが、あの・・・・、サニエル王子のお好きな花などご存知ですか?」

花は心を癒すが、人によりやはり好みは違う。
愛でるだけでなく香りで好き嫌いが分かれる花々もある。
どうせ持って行くならばやはり、少しでも喜んで貰える方が良いし、何よりこの中にサニエル王子の好きな花があるのならばそれを知りたいとちょっぴり思った。

「そうですね。もぅここ5、6年程全くお姿を見ておりませんでしたのでご趣味が変わられているかもしれませんが、子供の頃こちらへおこしの折はあちらの低温室で育てております自生欄の一種のスズラニウムとオリオネランがお好きでした。オリオネ山脈の裏側にしか自生しない珍しい品種で、先々代の王妃様の故郷の花と言う事でお持ちになり、以来こちらでも育てている品種です」

こちらですと案内され通された先には、厳かで優美さは無いが可愛いらしい花が鎮座していた。
スズラニウムの鈴の垂れた様な抹茶色の縁取りのある小さな白い花で、それより少し大ぶりの薄紫の少しゴージャスなのがオリオネラン。
それでいて強く主張するでも無いほんのりと柔らかな香りは、どちらもあの何時になく穏やかだった楓の木を見上げる先日のサニエル様に良く似合うと感じた。

「では、その先々代のお妃さまの故郷のお花を幾つかその二つを混ぜて包んで頂けますか?」

「畏まりました」

庭師はニッコリ微笑むと選んだ花を中心に引き立つように花束を包んでくれた。
時間まで温室をもう少しだけ見せて貰い、心を落ち着かせると自室から持って来たもぅ一つの品を抱えてサニエルの私室へと向かうべくマリーサは温室を後にした。

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