記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《30.詭 謀》

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廊下を出た所で、護衛の者に大丈夫だからと一言告げると、共に側妃様の部屋まで向かった。
中へ入ると直ぐに部屋に居た侍女も側妃様は追い出し、目の前の椅子に座る様に言われた。
どうやら直ぐに身の危険は無さそうな事に、何処かホッとした。

「貴女の事、色々調べさせて貰ったわ。何故平民だなんて嘘をついたの? あの子に同情でもかわれようと思ったの!?」

「・・・・言っている意味が、良く理解出来ないのですが・・・・」

「貴女本当は男爵家の令嬢だったんですってね」

「!!」

マリーサは一瞬にして血の気が引くのを感じた。

「そっ、それは・・・・」

「事故で家族を失い、カンザルに住む祖母にその後引き取られたようだけれど、何故本当の事を告げなかったの!?」

どうやら工作が間に合ったようでホッとした。書類上では両親も弟たちも皆事故で亡くなった事になっているのだ。

「近年はずっとカンザルに身を置いていました。過去の出来事など今の私には必要ありません。振り返った所で失った者は所詮帰って来ないのですから・・・・」

「思っていたよりも結構現実的な物の考え方をするのね。サニエルの口ぶりからは、もっとおセンチちゃんかと思っていたけれど・・・・」

「現実を否定するには失った代償があまりに大きすぎましたから・・・・。そう考える事で、やっと上を向いて歩けるようになったのです・・・・」

「・・・・そう言うもの? 失った事の無い人間にはさっぱり分らないけれど、まぁ良いわ。それと、もぅ一つ。貴女カンザルにずっと居たとサニエルには告げていたようだけれど、こちらの調べでは少なくとも最近まで2年間空白の時期があるのよ。周囲の家の者は家事を手伝っていたと言っている様だけど、それ以外の場でお前の姿を目にしている者が居ないの。それは不自然では無い?」

「・・・・私の事をサニエル様からお聞きでしたらお分かりかと思いますが、私は人づきあいが苦手で、外にもあまり出た事がありませんでしたので・・・・」

「その様な者が視察等と言う人が多く訪れる場に姿を見せると言うのは不自然だわよねぇ」

マリーサを涼しげな眼差しで側妃は見据えた。

「・・・・それは・・・・」

「それに本当に人付き合いが苦手で2年も家事ばかりをしていたような人間は、こんな手をしていないと思うのだけれど」

側妃はマリーサの腕を掴んで再び引き寄せた。

「先程は違和感を覚えただけではっきりと気付きはしなかったけれど、お前のこの腕、結構筋肉がついているわねぇ。チーズ作りと言うのはそんなに腕っぷしに筋肉がつく仕事なのかしら? まるで鍛え抜かれた者の腕じゃないの!」

腕を捲し上げられ問い詰められた。

「そっ、それは・・・・乳缶の重さで鍛えられたもので・・・・」

確かに女性でこの腕の筋肉の付き方は不自然だ。だが、まさかそこまで気付かれるとは! 全くの想定外だった。

「ここに来たのも、もしかして何か思惑があってなのかもしれないと勘ぐってもみたけれど・・・・、まぁ、それも今となっては既もぅどうでも良いのわね」

「えっ!?」

今となっては?
言葉に何処か不自然さを感じた。

「実はねぇ、さっきお前を傷つけた私の爪の中には、タジルスと言う花のエキスが塗られてあるのよ」

「!!」

「2時間程するととても気分が良くなる筈よ。とっても楽しみじゃない」

ふふふっ。と側妃は薄笑みを漏らした。

マリーサは愕然とした。
タジルスは一種の麻薬効果のある花だ。
体内に入ったとはいえ微量だから効果は薄いかもしれないが、それでも体内に依存する筈だ。薄まればやがて禁断症状が現れる・・・・。背筋に冷たい汗が流れた。

「・・・・そうなのですか?」

正直かなり焦ってはいたが、ここで薬の作用を知っていると知られる事はもっと不味いと思った。
首を傾け、全く何の事だか分らない振りをした。

側妃はマリーサの様子をずっと見据えている。

「・・・・何も知らない所を見ると、思惑違いだったのかしら・・・・。まぁ良いわ。どちらにしても貴女には既に拒否権は無いから」

「・・・・あの・・・・側妃・・・・様?」

「薬の効果が切れれば、凄く苦しいのよ。喉の渇きに平常心も失われるわ。でも、大丈夫。また身体に取り入れれば元通りよ。だから、貴女にはこのお薬を渡しておくわ。おれを毎日1滴食事の何かに混ぜてセイラルに取らせなさい。そうしたら、お薬の切れる頃に仲間に新しいタジルスを届けさせるから」

「!! こ、これは・・・・」

「今の貴方に教えるべきものでは無いわ」

「な、ならば出来ません・・・・。そのような事は・・・・」

「禁断症状が現れてもそのような事が言えるのかしらねぇ」

「・・・・・・」

マリーサは、結局震える手で、戸惑いながらもその薬を受け取った。
おそらくセイラル様が期待しているのはこう言う事だ。

側妃はかすかに微笑を浮かべた。

「では、頃合いを見て手紙を届けさせるから貴女の良識ある判断に期待するとするわ。もぅ良いわよ。下がっても」

「・・・・・失礼致します・・・・」

去り際に、側妃の高らかに聞こえる狂喜の声を耳にしながら、まんまと側妃の罠に嵌ってしまった己自身を酷く恥じた。
でも、このままでは終わらせない!と言う強い意志もあった。

結局この日、マリーサが再びサニエルの部屋を訪れる事は無かった。

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