記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《31.切 実》

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マリーサは護衛の者の案内で自室へ戻ると慌てて洗面場へ駆け込んだ。
側妃に付けられた傷口に口を当て、何度も吸いつき吐き出した。
応急処置を自ら施してはみたが、時間が経ちすぎていてどれだけ効果があるか見当もつかない。
側妃から爪を立てられて既に30分以上が経過し、おそらく自分には後1時間と少しで平常心が保たれなくなるかもしれない・・・・。

タジルスがかなり強い麻薬であると言う知識はあった。
側妃様の言われた症状は一般に良く知られる麻薬患者の初期症状だ。
それがタジルスに当て嵌まるのかどうかは分らないが、強さから言えばそれ以上の何らかの症状が出ても可笑しくはないと思う。麻薬とはそう言うものの筈だ。
経験が無い以上確かな事は言えないが、これから起こるであろう最悪の事態を想定して対処を考える必要が今はあった。
何とか上手く行き、薬の効能が途絶えたとしても、その後が最大の問題だ。再度服用しないとなれば必ず禁断症状が襲って来る。
その状況下では、おそらく直ぐに仕事に戻る事も困難に違いない。
どれ位で戻れるのか? 戻れるようになるのかさえもハッキリ言って今は分らなかった。

このまま一人で薬を抜く事はおそらく不可能だ。仕事を無断で休めば必ず誰かが様子を見に来てしまう。
ならば異変に気付かれる前に全てを話しておくことが先決だと思った。
今は強い意志を保ててはいるが、実際薬の効果が現れればどうなるか分らない。
意識がはっきりしている内に全てを報告しておく必要があった。

侍女の服にとりあえず着替え、アーリア様の部屋へと向かった。
後30分程で正午だ。昼食にはセイラル王子も戻られる筈だ。
急いで赴けば、そこにはファンネが一人で部屋を整えていた。

「あらマリーサ、戻って来たの? 今日は非番なのだからゆっくり休んでいてくれて構わないのに」

ファンネは茶器を整えながらマリーサに話しかけた。

「・・・・アーリア様は、まだ戻られて居ないのですね・・・・。セイラル様も未だ?」

良かった。アーリア様にこの事を知られ、心配を掛けずに済む事に何処かホッとした。

「ああ、事後報告ね。セイラル様への連絡ならば夕刻にでも、いつもの様にアーリア様の湯の時間に合わせて顔を出すと良いわ。今日は居ないのよ。先日発掘された鉱石の採掘現場で問題が生じたらしく急に赴く事になって今は御留守なのよ」

ああ、最悪だ・・・・。

「・・・・そうですか・・・・」

項垂れるマリーサに、ファンネは何処か異変を感じた。

「如何したの? マリーサ。少し顔色が悪い様だけれど・・・・」

「すみません・・・・。急用だったもので・・・・」

その言葉に、ファンネは手を止め、マリーサに向き直った。

「・・・・何かあったの!?」

今ここで告げるべきなのか?
告げる事はファンネに大きな負担をかけてしまうのではないのだろうか?
そう思いながらも、今ここで告げなければ最悪セイラル様が計画されている全ての策が封じられてしまうのではないかと言う懸念に、迷いながらも言葉を口にした。

「・・・・嵌められました・・・・」

「えっ!?」

あまりにも意外な言葉だったのか? ファンネも直ぐには反応できなかった。
マリーサは手首の袖を少しまくり上げ、爪立てられた跡をファンネに見せた。

「側妃様の爪に薬が仕込まれておりました。タジルスと言う麻薬効果のある薬だそうです。後1時間程で私にはその効果が現れると思います」

「何ですって!!」

まさかの出来事にみるみる内にファンネの表情は蒼白となり、目に見えて狼狽えている事は明らかだった。

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