記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《32.決 意》

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迷っている暇は最早無かった。

「時間がありませんからファンネ様に報告させて頂きます・・・・。これは、側妃様からセイラル様に毎日1滴ずつ飲ませるようにと託った薬です。何の薬かは分りませんが、おそらく麻薬か毒物の類では無いかと思われます。セイラル様の判断を仰いで下さい。私は申し訳ございませんが暫くお暇を頂き、自室にて身を隠し、これからの事に備えますので、ファンネ様、少しお手伝い願えますか?」

そう告げると、ファンネは時計を見上げた。
その仕草にハッとした。
誰も留守を預かる者も居ないまま、黙って部屋を空ける等出来よう筈も無いのに・・・・。

「・・・・ごめんなさい。今ここを離れる訳には・・・・」

「いいえ。私の方こそ考えなしに・・・・。今離れるのは流石に不味いですよね。すみません。浅はかでした。気を引き締めているつもりなのですが、何処か抜けていて情けないです。先ない事を申しました。お忘れ下さい・・・・」

「何を馬鹿な事を言っているの! 怒るわよマリーサ! 平常心で居られなくて当たり前じゃないの。聞いた私ですら少し震えていると言うのに、貴女は気丈過ぎる位だわ! 本当は辛いでしょうに・・・・」

ファンネの方が少し涙目だ。
マリーサには既に時間に余裕が無く、追い込まれた状況だから気を張っていられるが、傍から見ていればこう言うものかもしれないと、ここでもかなり物事を冷静に捉えていた。

「ファンネ様・・・・」

「・・・・とりあえず薬の効果が現れるまでに、後1時間はあるのね?」

「はい」

「アーリア様とターニアが戻ったら直ぐに話しをつけて貴女の部屋へ向かうから、とりあえず今は部屋へお戻りなさい」

「・・・・申し訳ございません・・・・」

「しっかりするのよ。何があっても私は貴女を絶対に見放しはしないわ。必ず何とかしてあげるから! セイラル様もその気持ちは同じだと思いますから」

「はい・・・・」

マリーサは部屋へ赴いた時の最低限の処置だけをファンネにお願いし、自室の鍵を預けた。
もし、ファンネが現れた時、意識が正常な状況を保てなければ、説明すらできないであろうから・・・・。


アーリアとターニアが戻って来るのを今か今かと待ちわびていたファンネは、その姿が見えた途端に傍まで慌てて駆け寄った。
止ん事なき事情で少しの間で良いから抜けさせてくれと必死で嘆願した。
ファンネの正に危機迫る様な訴えかけに、二人は顔を見合わせてとても心配そうな表情で見つめ返した。
こちらは気にしなくても良いからと直ぐに行く良いと了解を得ると、ファンネは急いでマリーサの部屋を目指し走った。
部屋の前へ着くと声を掛けながら、もどかし気に急いで鍵を開けた。
 
「マリーサ、入るわよ!」

「ファンネ様・・・・」

マリーサは自分の周囲に水やありったけの食料をかき集め、寝台の格子の四隅に紐を結んで何かの準備をしていた。

「・・・・貴女、何をして・・・・」

「とりあえず、正しい対処方法が分りませんので自分の身を確保しておこうかと・・・・。どの道、薬が切れてしまえば禁断症状は免れませんから、暴れ回るかもしれませんし・・・・」

マリーサは寝台に手足を縛り付け、身動きの出来ない状況を作ろうとしている様だった。

「そこまでする必要があるの?」

「気休めかもしれませんが、何があっても後悔したくは無いので・・・・」

ファンネは若かりし頃、看護人としてとあるお屋敷に仕えていた経歴を持つ。
それ故他の者より色々な知識も多い方だが麻薬依存についての知識は素人に近かった。
だが、それでも最低限の対処療法の知識はあった。
彼女のやっている事はおそらく間違ってはいない。けれど・・・・。
そこまで自分を追い込もうとしているマリーサを見るのは辛かった。

「王子が戻られたら直ぐに内々に侍医を差し向ける様にお願いするから。薬の効力が弱まってからは禁断症状だけでは無く、それ以前に依存性の高いものもあるから・・・・」

「その事は私も知っています。体内に蓄積したまま永遠に放出されないものも中にはあると言う事も・・・・」

「タジルスは、麻薬の中でもかなり危険な部類の薬物の筈よ。この処置が本当に正しいのか私にも分らない。けれど出来るだけ早く輩出する事が必要なのは確かだと思うわ。でもこれだと用足しは如何するの?」

「確かに、そこまでは考えてはいなかったです・・・・。ですが、もし・・・・暴れ出してしまったら・・・・」

「おそらく今すぐそれは無いでしょ? ならば専門の知識のある者に相談した方が良いと思うわ。寝台の位地を変えて一番便利な壁際に移動しましょう。紐も扉には届かない距離までにすれば当面は大丈夫でしょ?」

「分りました」

二人で距離を測り寝台を移動すると、縄を結わえ直した。

「王子が戻ったら、必ず早急な判断を仰いで対策をとるから。それまでは不便だけど我慢して頂戴」

「有難うございます、ファンネ様」

マリーサがそう告げると、ファンネがギュっとマリーサを腕の中に包み込み抱きしめた。

「・・・・貴女が何故この様な酷い仕打ちをうけなければならないの? 許せない・・・・。絶対に私は側妃様を許しはしないから!!」

「大丈夫ですからファンネ様。怖くないと言えば嘘になりますが、これが私の選んだ道ですから、何があろうと後悔はありません。マゼランド様の許へ赴いた時にそう決めたんです。それにこれは誰のせいでもありませんから」

あまりにも揺るぎない程しっかりしたマリーサの心構えに、ファンネは溢れ出る涙を止める事が出来なかった。

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