記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第2章-《33.吃 緊》

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これ程時間の経過がもどかしい事はかつて無かった。
もう直ぐ陽が落ちる。そろそろセイラル様も戻られても良い頃だ。
あの後アーリアがダンスのレッスンに行くのを見送って、ファンネはマリーサの様子を一度見に行ったが、高揚感が凄い様でかなりお喋りだった。
何処か落ち着きは無かったがとても異常的には見えなかった。
本人曰く、ふわふわしてとても気持ちがいいのだそうだ。
見た目症状は比較的軽く感じられるが、これがどのように変化していくか分らない。
何時薬が切れるのかも・・・・。
多かれ少なかれ、必ず禁断症状は訪れる!
ファンネはとにかく落ち着かず、部屋の中を用も無いのにもどかし気にウロウロしていた。
時折、廊下に出て落ち着きなく過ごしていた。時間の経過をこれ程気にしたことは今だかつて無かったかもしれない。
そこに何やら遠くからかすかに声がした。更に大きくなる声と靴音。
慌てて飛び出せば、視界にはっきりとセイラル王子とマジ―ミールの姿を捕らえることが出来た。

(あぁ‥‥、やっと戻って来てくれた・・・・)

その姿を見てファンネは力が抜けた様にその場でヘナヘナト腰が折れ、床に座り込んでしまった。


床にへたり込むファンネの姿に、従者姿のセイラルと、王子姿のマジミールは慌てて駆け寄った。

「ファンネ! どうした!?」

「・・・・安心して、腰が抜けてしまって・・・・」

「ま、まさか、アーリア・・・・様に何かあったのか?」

「いえ、アーリア様は御無事です。・・・・ですが・・・・」

護衛兵が気になり直ぐには何も喋れない。
言葉にしたいのにする事が出来ず、もどかしく思っていると自然と涙が溢れ出し頬を伝った。

「!!」

ファンネの気持ちを汲み取ってくれたのか? セイラルはファンネを抱き上げた。

「捻られた足がそんなに痛いのですか? こちらで少し冷やしましょう。宜しいですよね、王子」

「勿論だ」

ファンネの異変に気づき、セイラルは護衛兵に気付かれないように自然な状況を作ってくれた。


「大丈夫か?」

とりあえずソファーにそのまま横たえた。

「申し訳ございません。それよりも、大変なのです! 早くマリーサの所へ行ってあげて下さい!!」

半分身を起こし、必死で懇願するファンネの姿に一瞬にして緊張が走った。

「サニエルが何かしでかしたのか!?」

「いえ、サニエル様ではございません。何でも側妃様の爪の中に仕込まれたタジルスと言う薬物で傷つけられたとかで・・・・」

「何だと!?」

愕然とした。

(タジルスだと!?)

タジルスはかなり強い麻薬効果のある薬だ。
一度体内に取り込めば何をした所で全部を体外に排出する事は叶わない。既に先王の時代に危険禁止特約令が発せられ製造禁止となっている薬物だ。
それをどのような経路で入手したと言うのだ!?

「マリーサは・・・・、どうなってしまうのでしょうか?」

「今の症状は?」

「1時間程前は、凄い高揚感があるようで落ち着きがありませんでした・・・・」

「身体に取り入れて今どれ位だ?」

「さぁ、昼前に後1時間少しで症状が出る筈と申しておりましたので・・・・」

「既に6時間以上か・・・・。マジミール、とにかく直ぐに侍医の手配だ! 城の侍医は信用できん。退王様の主治医にお願いしよう。事情を話せば直ぐにも急ぎお貸しして下さるだろう。私はこれから一足先にファンネとマリーサの部屋へ赴く!」

「はい!」

「幻覚はどの程度だ?」

「・・・・幻覚・・・・ですか?」

セイラルは書斎から持って来た分厚い本を捲りながら、何かを探している様だった。

「ああ、酷い高揚感の中に時折幻覚を見ているのではないのか? 天使が現れたりだとか非現実的な幸せな類のものを。酷いのか!?」

「いえ、そうは言っておりませんでした」

本をせわしなく捲っていた手が、一瞬にして止まるとセイラルは声を荒げた。

「ちょっと待て! マジミール!!」

部屋を出て行こうとした王子姿のマジミールを引き止めた。

何かが変だ。
セイラルは本を再びパラパラと捲ると、ある一文を真剣な眼差しで食い入るように読みいる。
やはりだ。
タジルスは、幻聴や恐怖心などの麻薬患者の末期的症状が最初の段階から現れる事が多いとある。
皮膚からも侵入する事もあり、麻薬の中では最も取扱いに注意が必要な薬だ。
それなのに自ら会話が出来る状況であると言う事はどう言う事なのか?

「マリーサは、自らこちらの問いに答えられる状況なのか?」

「・・・・はい・・・・」

セイラルはマジミールと顔を見合わせた。
マジミールの表情を確認して、セイラルがフゥーと大きく息を吐き出した。

「引っかかる所だった・・・・。よくよく考えてみればあの側妃がこのような危険な薬物を自らの爪に危険を顧みず仕込む筈が無いのだ・・・・」

「そうですね。人の手を借りてさせる事はあったとしても、自らの手でとなればおそらく違いますね・・・・」

「ああ。間違いないだろう。では何の薬だ? 症状からすれば確かに薬物的なものを使われた痕跡は確かに伺えるが・・・・」

「皮膚に乗せるだけでは皮膚に吸収し辛い粒子の荒い薬物でしょうね。比較的軽いものに多い類の」

「はぁっ!? 何を言って・・・・」

ファンネは二人の会話に呆気に取られた。

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