記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第3章-《3.欠 落》

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兄が死んだ・・・・。
告げられた言葉に不自然さを抱きながらも、現実は受け入れなければと思い、冷静にならなければと努力した。
幼い頃共に遊んだ記憶も無く、思い出されるのは険悪な酷い言い争いばかりな兄との想い出。
想い出と呼ぶにはあまりにも酷すぎた。
告げられた言葉に多少の落胆はあるが強い悲しみのようなものも抱けない自分は何処か人間として欠けているのか。
だから、記憶を無くし、自らの心を失っていたとはいえ、自分はかつてあのような酷い行いが出来たのだろうか・・・・。

「・・・・・」

衝撃の告白に何も告げられぬままでいると、祖父もその事を察してくれたのか、何も言わずにそっと肩に手を置いた。

「ナジリルからは、お前を早々に返せと早速手紙が届けられていた。お前は今後どうしたい?」

「!!・・・・私は・・・・」

突然告げられた言葉に戸惑わずにはいられなかった。
母は一体何を考えているのか?
いや、考えるまでも無く望みは予てから分かっていた筈だ。
だが、母の計画が簡単に成就できるものでは無いと思っていたし、ここに来る事を決めた時点で母と決別する事は既に決めていた。
ゆくゆくは兄とも和解し、何か力になれればと思っていた。
だから母の許に戻ると言う選択肢など自分の中には微塵も存在しない。
だが、兄が他界した今となっては・・・・。

「既にナジリルは第一王子の告別の義で、お前を正式に次の王太子と発表するよう王に嘆願する書面も届けている。お前に言う事では無いかもしれんが、私はあの者の神経を疑う」

祖父君はため息交じりにそう漏らしたが、自分とてそれは同感だった。
己が母の事を自らの口では非難する事も戸惑われるが、だからこそ身内として言葉を口にせずにはいられなかった。

「・・・・申し訳ございません・・・・」

先日まで、非道な行いばかりをして来た自分が易々と口にした所で重みは無いかもしれないが、あの母の息子として生を受けた以上、今の自分には黙認できぬ事だった。

母は人として何かが欠落している。
漠然と今まで感じていたそれは、祖父の屋敷に来て常識ある人々と触れる中でより強いものになっていた。
当時のセルの死を知った直後の自分は、おそらくまだそのような事にも気付く事無く、きっと母の様になりたかったのではないかと思う。
周囲から何と言われようとも、屈折する事なく己の意思を貫き強固なままでいられる強い心を持つ母のように。
弱い自分を許せずに捨てたかったのではないかと思えるのだ。
子供の目で見る母は怖い所もあるが自分をとても大切にしてくれた。
強く、何があっても何者にも屈しない態度は立派だと思っていた。
だから自分に命令される言葉の数々も、全ては自分の為を思い言ってくれているものだと信じて疑わなかった。
母は何をしても許される存在で、王である父ですら母の言う事に異議を唱える事も殆ど無かったように思う。
それは母が尊敬されるに値する人物であるからだとあの日まで本当にそう思って疑う事もしなかった。
だが、あの時・・・・、母に抱いていた肖像が無残にも粉々に砕け散ったのだ。

子供の頃分らなかった母の非道的行いの数々も、心を無くしていた頃には何も感じなかった感情も、本来の自分を取り戻した今となってはどれだけ酷いものかが分かる。
過去の記憶を無くし、自分を見失っていた6年間の時が無駄でなかったと感じるのは、全てを否定し続け抗い続けた事で心が強固に成長できた事だった。
自分が今、記憶を無くした時の心の弱い優しいだけの少年では無くなっている事が唯一の救いだった。

「お前に謝って欲しい訳では無い。お前とは今後について話し合いが必要だと申しているのだ」

「何故今私の事なのですか? 私の事よりも今すべき事があるのではありませんか?」

「サニエル?」

サニエルは何かを決意した様に、強い眼差しで祖父をじっと見つめた。

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