記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第3章-《4.反 論》

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ずっと相容れぬ関係であった腹違いの兄だったが、それはかつての自分にとってだ。
全てを思い出した今の自分にとって兄と兄の従者、そして今ここに居る祖父とその周囲の者こそが正道なのだと言う事は容易に理解出来る。
父の人格は否定するものではないが、祖父からこの数週間教わった事でただ一つだけ王として訝しく思わざるを得ない事があった。
父は情に流されやすいのだ。
諸々の政務は真面目に取り組んでおり王としての職務を熟し国を治めていると思う。
だが、情に流されやすいと言う点は、一国の王としてはかなり危険な材料と成り得る事がある。
母に対してもそうだが、父は情で訴える者に対してはかなり弱いのだ。
疑いを持って尋問した事案等であっても、涙に絆され減刑したのではないかと言われているものも多くあると聞く。
それは平等に裁かなければならない場にあっては如何かと思うのだ。
人事や改革においてもそれは例外では無く、最初全く興味すら抱いていなかったものであっても絆されてくると余程的外れな提案で無い限り受け入れてしまうのだ。
故にそれが身近な者からの切々たる意見などで有ったら大穴だ!
それもあってか現在父王を支えている重鎮の中には母の一族の関係する者も多い。
祖父から教えられたこの国の格言の一つに『全ての者に平等な権利』と言う言葉がある。
貴族や公的役職に付く者、収入による地位的格差については難しいものがあるのは現実だし、場合によっては必要不可欠な場合も確かに存在する。
全てにおいて権利を主張する事は出来ないにしても、人権としてはあらゆる者が皆平等でなければならないものだ。
今の政権下では難しいかもしれないが実際祖父の時代においては、貴族と平民の諍い事による事案等もかつての資料により平等に処理している実績が残されてある。
だが、父の政権下においてはその点において疑問視しなければならない見解が多く見受けられるのだ。
王たる父の全てを否定する訳では無いが、情に流されやすい今の政権下ではその格言は当て嵌まるものでは無かった。
それに、母の親族に関わる事案は、かなり考慮されたものが多く見受けられた。
書類に書かれている事がおそらく全てでは無い。
その事はセルについて書き記された事案でも十分理解出来た。

古い時効となる未解決事件の資料の中には自分が生まれた直後から度々起こっていたとされるセイラル王子暗殺未遂の事案もあった。
その数何と公にされているものだけでも7件。
自分が生まれる以前には何と1件も存在しないのだ。
何も知らない自分がざっと目を通して知り得た事から推察してみても、その傍らにおそらく母方の親族、或いは協力者が加担している事は間違いないと思う。
一国の王子のこれだけの数の暗殺未遂事件が何の手がかりも無いまま放置されている等通常では有り得ない。
きっとこの裏で母が加担している事は否めない。 

「母はずっと兄の死を望んでいました。・・・・今更ですが刺客を送っていたであろう事も傍に居て薄々気づいていました。それを今まで容認して来たのは、当時は如何でも良い事だと思っていたからです。どうなろうと私には関係ないと思っていましたから。だが今は違う!」

「・・・・サニエル・・・・」

「私は兄の死には母が何か絡んでいると思えてなりません。マリーサを手の内に取り込もうとした位です。『全ての者に平等な権利を』これが国の格言の一つであるとされるのであれば、父は母を問い正し裁くべきです。今まで父や母に擁護され続けて今この場所に留まって居られる私の様な者が発言する権利も無いのかもしれませんが、だからこそ声を大にして言いたい! 全てを過去にして問われない罪があってはならないのです。死者にこそ・・・・、死者の遺族にこそこの権利はあるべきだ!!」

セルの死については今更公には出来ないかもしれないが、母の思惑道理になる事はもぅ沢山だった。
あの後、当時の資料を探し出して貰い再び読み返すと、セル以外にも処刑されていた者や罪を問われ解雇されている者も多く居た。
自分が過去に犯してしまった罪は、全て両親の手によって丸く治められている。
恩は感じるが、今はそれに甘んじているだけではいけないと思っている。
だから母にも、これ以上罪を重ねて貰いたくなかった。
父にも情に絆されない憮然とした厳格な王になって欲しかった。

「分かった。そこまでの思いがあるならば、この話は明日また改めてしよう。お前にはまだ話すべき事がありそうだ」

何か意味有り気な言葉を含めた祖父の発言に、思わず顔が強張るのを感じた。

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