記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第3章-《5.利 欲》

 ←記憶の彼方とその果てに -第3章-《4.反 論》 →記憶の彼方とその果てに -第3章-《6.不 審》
ナチュリア国第一王子セイラル・グレシェード・ボナン・ガブリエラント王子の死が国王側妃ナジリルの許に伝えられたのは王子の棺が地下の安置所へ移された後だった。

落胆の拭いきれぬ宰相から重々しい口調でその事実は告げられ、側妃はその場でポトリと手に持っていた扇を落すとあからさまに傍にあったソファーにしな垂れた。

「あぁ・・・・、それで国王様は?」

徐に取出したハンカチで目元を押さえながらもその目からは涙すら流れておらず、言葉こそ悲痛めいて感じられるがハンカチの脇から覗く目元は何処か笑みを称えている。
王の身を案じる姿も口先だけのように感じられ、宰相の目にはあまりにも滑稽に見えた。

「自室に戻られ、お休みになられております。余程落胆されたご様子で・・・・」

「それは、そうでしょう。世継ぎの王太子を失い、心中如何ばかりか・・・・。貴方もこれから大変だわねぇ」

「・・・・恐れ入ります。尚、セイラル様の死については暫く伏せられます。他言無き様に願います」

「・・・・それはどう言う事なのかしら?」

側妃の顔色が変わった。何処か強張って見える。

「ご本人のご希望もございますが、正式な死因を掴めぬ以上直ぐに公けにすることも出来ぬと退王様が仰せです」

「・・・・そぅ、退王様が・・・・」

この時、後ろに振り向きざまにチッと言う舌打ちをするような音が聞こえた気がした。

一礼し側妃の部屋を神妙な面持ちで退出した宰相は、数歩歩いた所で狂喜にも似た側妃の笑い声を耳にした。

宰相は側妃の行動には予てから不信を抱いていたが、この時それが確信たるものに変わった。


王が既に自室に戻っていると聞くと、もぅナジリルは居ても立っても居られない心境だった。
全ては上手く行ったのだ!
もぅ、心はじっと等していられない!

「仕度をして頂戴。今から陛下のお部屋へ伺うわ」

「ナジリル様、なっ・・・・、如何なさるおつもりですか?」

侍女は主のまさかの物言いにとても慌てた。

「サニエルの事を頼みに行くのよ。決まっているでしょ」

側妃は得意げに上機嫌で侍女に対し言葉を紡ぐが、侍女はその言葉に真っ青になった。

「・・・・な、ナジリル様、いけません! 今行動を起こされるのは陛下の不快を買いかねません。先日も宰相殿からご注意されたばかりではありませんか!!」

側妃はセイラルの病が重い様だと送り込んだ密偵にしてセイラルの第三従者であるブロンソより伝え聞いた折、直ぐさま王に面会を申し入れ、もしもの場合の跡継ぎについて釘を刺しに赴いたのだ。
だが、それを宰相により叱咤されたのだ。
王からもやんわりとだが、今はその話をしないで欲しいと断られ、その時は口惜しくも一度引き下がざるを得なかったのだが、今となってはもぅ気にする必要は何一つない。

「何故不快を買うの!? セイラルは死んだのよ。話を進めても良い筈でしょ?」

その無神経さに侍女は呆れ返った。

「ですが、お世継ぎの王太子様を亡くされたのです。その落胆はこちらの計り知れるものではありません。それに事を早く進めようとしている事が公になれば御身内以外の重鎮等からも不敬な行為と見なされ兼ねません。ここは今後の為にも直ちに赴くのはお控え頂いた方が宜しいかと・・・・」

「あ~、もぅ全く面倒ねぇ!? では、何日待てば良いのよ!」

「正式な日時などの定めはございませんが、通例では全ての事が正式に定められるのは国葬の後かと・・・・」

「何ですって!?」

その言葉はナジリルにとって永遠とも思える時間の長さだった。

「そんなに待てないわ!」

「ですが、ナジリル様、事は慎重を期しませんと。何かあってから後で後悔しても遅いのです。もし退王様にでも不敬を買い、王弟殿下の御身内から王太子を迎えるようにと指示でもあればまた要らぬ争いごとに発展しかねません。ここはどうか穏便に事を運ばれた方が宜しいかと・・・・」

「あーもぅ、やってられないわ!!」

そう告げた途端、側妃ナジリルは怒りに任せて傍にあった茶器をひっくり返し滅茶苦茶にした。
侍女は慌てて茶器の破片を拾い集め始末する。
その間も暫く荒れ狂っていたのだが、やがて少し落ち着きを取り戻したのかソファーに腰を据えると口を開いた。

「・・・・良いわ。会ってお慰めもしたかったけれど、ならば手紙にしましょう。王様にはもぅ一人跡継ぎの王子が居るから落胆する必要が無いと慰めて差し上げるわ」

今は何も告げずにお慰めの手紙だけを認めた方が良いのではないかと侍女は伝えたのだが、分かったと言いながらも側妃が実際に認めたものには息子サニエルを王太子として正式に擁立し早く周囲に認めさせるようにと言う要請文が添えられていた。


王は側妃から届けられた慰めの手紙を読み最初は重々しく受け止め読み進めていた。だが暫くすると、深いため息を一つ零し落胆したように肩を項垂れると、傍に居た父である退王に力なく手紙を差し出した。

「恥知らずな・・・・」

手紙を読み終えた途端、吐き捨てられた父の言葉に、王は最早反論しようとはしなかった。

押して頂けると励みになります^^

にほんブログ村



総もくじ  3kaku_s_L.png パウリンの娘
総もくじ  3kaku_s_L.png 記憶の彼方とその果てに
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ&感謝
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【記憶の彼方とその果てに -第3章-《4.反 論》】へ
  • 【記憶の彼方とその果てに -第3章-《6.不 審》】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【記憶の彼方とその果てに -第3章-《4.反 論》】へ
  • 【記憶の彼方とその果てに -第3章-《6.不 審》】へ