記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第3章-《12.心 中》

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アーリアはファンネに連れられ自室に戻された。
あの後呆然と立ち竦み、一人ではとても立っていられる状況では無くなりファンネに肩を貸して貰いながら支えられるようにしてこの部屋まで戻って来たのだ。
突然告げられた愛する者からの突拍子の無い提案にとても驚き、そして落胆した。
あれ程までにきつく抱き寄せ私を離さないと言ってくれたのに・・・・。
急な変貌ぶりに戸惑うばかりだった。

「ファンネ・・・・私、どうすれば・・・・」

「全てはアーリア様のお心次第です」

「‥・・そんな事言われても・・・・」

常識的に考えて無謀な提案だと言う事を分かっていながらそれを私に強要するなんて・・・・。
でも、考えようによってはそれ程までにセイラル様の思いを尊重しておられるとも受け止められる。
と、言う事はセイラル様を手に掛けたかもと言う疑念は自分の思い過ごしだったのかもしれない。
ならばマジミール様を信じたいと思いながらも何処かで信じきれずにいた自分はやはりマジミール様の言う通り試されても仕方ない存在なのかもしれない。でも・・・・。

(国葬に・・・・それも婚約者だった立場で婚礼衣装姿だなんて・・・・)

アーリアは思い悩むばかりで、その日の夕食には殆ど手が付けられなかった。
食事を口元に運ぼうとする度に出るのはため息ばかり。とても物が飲み込めそうな状態では無かった。
マリーサに進められて辛うじて大好きなゼザートの苺のブティングだけは喉を通す事に成功したがとても味気なくそれすら異物のように感じられた。

マジミール様の眼差しはとても真剣なものだった。
とても冗談で告げているものでは無かった。
自分が喪服で出席すれば、あれ程までに深い愛情を示してくれたのに私を・・・・見放してしまうのだろうか?
永い時間を経て、やっと巡り合えた運命の人・・・・。
こんな事で失う事になるなんて絶対に嫌だと思った。
そんな事を考えているとまた再び涙が溢れて来て・・・・。
結局その日は一睡も出来なかった。


朝日がカーテンの隙間から顔を覗かせると、ファンネが朝の挨拶にやって来た。

「おはようございますアーリア様。お目覚めでございますか? 今朝はアーリア様がご病気の時に好まれてお召し上がりになっていたと言う食事をターニアより聞き取り揃えてみましたので、きっと少しはお召しになれると思いますよ」

休暇中のターニアに代わり何時もの冷たいタオルを差し出され、アーリアは何の迷いも無く腫れた目に押し当て冷やそうとしたその時、ファンネから発せられた驚きの声にびっくりしその姿を凝視した。

「何て事でしょう!! アーリア様・・・・、もしかして夕べは一睡もされなかったのですか?」

「えっ!? あの・・・・」

確かに色々考えていたら目が冴えて眠れなかったのは事実だが・・・・。ああ、目がそんなに腫れてしまったのかと思っていたら・・・・。

「何てことでしょう!! まぁ、お可哀想に・・・・。直ぐにアイパックをお持ちいたしますね」

パタパタと忙しそうに部屋から出て行くファンネを呆然と見送り、何だったのかと思いつつ、とりあえず傍にある引き出しの中から慌てて手鏡を取り出し覗いて見ると、泣きはらしたような真っ赤な目の下には見事なクマが出来ていた。
自分のその姿が手鏡を覗く度にとても滑稽に思えて来て、情けなくて再び涙が溢れて来た。

戻って来たファンネは、泣いている自分の姿に再び驚いていた。

「大丈夫ですよ。これで30分もパックすればクマも粗方取れますし目の腫れも少しは引きますから」

違う・・・・。
自分は目の腫れや目の下のクマを気にしている訳では無い!

「・・・・違うの・・・・。マジミール様の事を考えていたら・・・・とてもやりきれない気持ちになって・・・・。昨夜も色々考えていたら、ずっと・・・・眠れなく・・・・て・・・・うっく・・・・」

昨夜あれ程泣いたのに、もう枯れ果てたと思っていた涙は再び止めども無く流れ始めた。

「あぁ、アーリア様・・・・」

そう告げるとファンネはアーリアを泣き出した子供を包み込む様にやんわりと抱きしめた。

「・・・・嫌なの・・・・。何があってもマジミール様と離れるのは・・・・ひっく・・・・嫌なの・・・・。そんな事になるのなら、私・・・・死んで・・・・しまいたい・・・・うっく・・・・」

「アーリア様、そこまで思い詰めなくても・・・・。マジミールはアーリア様を否定しているのではありません。マジミールをアーリア様が信じられるか、信じられないか全てはそれだけなのですよ。どんなに理不尽な言葉であってもアーリア様がマジミールを信じられるのならば、何も泣く必要はありません。急にマジミールが突き放したような形になってしまって戸惑ってしまったのかもしれませんが、マジミールは決してアーリア様を否定している訳ではありません。彼の真意は、今は計り知れないかもしれませんが、アーリア様がその頑なな態度を少しでも解き放ち、マジミールを信じる方向に趣を変えて下されば全ては解決するのですよ。世間の反応がそれ程怖いのですか? マジミールを失うよりも」

アーリアはその言葉に一瞬息が詰まりそうになった。
世間一般の常識に囚われ、それは出来ないものだとずっと決めつけていた。
だが、世間の反応より何より自分が今一番恐れているのはマジミール様が自分の側から離れてしまうかもしれないと言う恐れだった。
嗚咽を伴い涙しながらもアーリアは小さく首を横に振った。

「・・・・何でも・・・・する・・・・。ひっく・・・・、マジミール様の言う様に・・・・する・・・・」

ファンネはアーリアの背中をポンポンと癒す様に叩きながら慰めた。

「それは良うございました」

にっこり微笑み告げられたその言葉はとても温かで、アーリアはとても安心でき、その腕の中で温もりを感じながら、今まで眠れなかったのがまるで嘘のようにスーッと夢の中に落ちて行った。

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