記憶の彼方とその果てに

記憶の彼方とその果てに -第3章-《23.侍 女》

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サニエルの部屋で侍医の治療を受け侍女の額の傷は5針縫う怪我だった。

「本当に申し訳ない・・・・。本来ならば父に申して詫びを入れさせるべき事なのだろうが、何分今の状況を考えると・・・・」

「いえ。状況は理解出来ますから・・・・」

「落ち着いたら父にも話し、正式な形で謝罪に赴く手筈を整えるように・・・・」

「そのようなお気遣いは無用です。元々嫁ぎ先から出戻りの身で行き場の無い所を祖父の伝手で雇って頂いているのはこちらなのですから。結婚前の若い娘と言う訳ではありませんし今更傷が出来た所で何も困る事もございませんからご安心ください。それに額と言っても上の方ですし前髪をおろせば左程目立たなくなると思いますし・・・・」

「本当に済まなかった・・・・」

これが若い侍女であったならば責任を取って貰い受けろと言われても可笑しくない家柄だ。
こう言っては何だが、怪我をしたのがこの中堅所の侍女で良かったと何処かホッとしている自分が居た。

治療が終われば次に気になるのは先程の諍い事の件についてだ。
二人の侍女とジリルから色々と聞き出した。

「と、言う事は今回の一件はその私の屋敷を造ると言う計画が認められなかった事にあるのですね」

「はい・・・・。それだけではなく、王様に提出していた諸々の計画が宰相殿の手によって悉く握りつぶされてしまいまして・・・・」

「と、言うのは?」

「王太子の即位式を先延ばしにされたのが一番の要因ではないかとは思うのですが、それ以外にも来月の晩餐会の計画や、サニエル様を交えての重鎮等との親睦会や、騎馬競技大会など計画していたものを、全て反対されてしまい・・・・」

「それは今の状況を考えれば、当然だろう」

「はぁ‥‥。ですが、ナジリル様にはそのような事は通用しませんので・・・・」

普通に考えれば王太子の喪も明けぬ内からそのような計画が成される筈も無い事位分かろうものだが、母と話しをする時、常識的な事を問う事は出来ないのだろう。
ならば、常識に囚われない見解を用意する必要があった。
如何すれば良いのか考えあぐねているとジリルが口を開いた。

「あの・・・・先程から疑問があるのだけれど・・・・。お母様は何故セイラルお兄様がいらっしゃるのに、さもサニエル兄様が王太子になる事を前提のお話をなさっているの?」

サニエルは侍女等とハタと顔を見合わせて少し慌てた。

「そっ、それは、ほら。母上はいつも私に王位を継承して欲しいと願っているものだから、それがつい、過剰的な行動を取らせているんだと・・・・」

目を泳がせながら、侍女の方に視線を向ければ口ぶりを合わせてくれた。

「そうですよ。何時もの事ですよ」

「・・・・そう・・・・」

全てを納得していると言う感じではないが、辛うじて妥協してくれた様な感じだ。

「それで、お兄様はどうなの? お母さまの言う様に王太子になりたいの?」

「いや。全く興味ない」

「お母様にも困ったものね・・・・」

「ああ、全くだ・・・・」

ナジルとジリルには兄であるセイラル王子の死は知らされて居ない。
元よりあの『セイラル王子が二人いる説』が本当であれば告げる必要も無い状況なのかもしれない。

「とにかく、母には私が王太子になるにせよならぬにせよ通例に基づく取り決め以外私が受け入れるつもりが無いと言う事を分かって貰わなくてはならないな。さすれば母の行動も多少は落ち着くだろう」

「そうですね」

「元より、今はそれ所では無いと思うがな・・・・」

一人であの母があのような状況を目の前に叩きつけられて如何しているのか?

結局それから間もなくして、側妃の部屋についている護衛の一人がサニエルの部屋の扉を叩いた。
知らせを受け、駆け寄ると母は老齢の紳士に支えられていた。

「お爺様!!」

駆け寄る侍女を紳士は苦痛に満ちた表情で愛おしげに目を向けていた。

「城を去ぬるつもりがあるならば私の許に来れば良い。お前の面倒位が見てやる」

その言葉に侍女は首を横に振った。

「いいえ、お爺様。私は今度こそ途中で投げ出すような事はしたくないの。暇を出されるまで側妃様のお傍におります」

その言葉に、側妃は一言だけ、小さな声で「仕方ないわね・・・・」とそっぽを向いて囁いた。

その言葉が自分に向けられる精一杯の強がりである事を侍女は知っていた。
にっこり微笑み「また、お世話をかけます」と一言返した侍女の寛大さにサニエルはとても感謝した。

側妃からの謝罪の言葉は聞かれなかったが侍女の顔はとても満足気だった。

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