ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《5.遭 遇》

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何処をどう走ったか最早分らない。
でも、ロナルドから逃げ出せたことだけは確かだった。

(ここは何処なのかしら?)

人々の集う灯りからは程遠い。けれど、耳を澄ませばかすかな水音が聞こえて来て少し先にはほんのりと灯りも見えている。
とりあえずその音のする方へと乱れた息を整えながらゆっくりと歩き出した。

父の為、家の為にこの結婚を受け入れなければと一度は思ったけれど、アレクへのこの想いを抱えたまま嫁ぐなど到底無理だと思い知らされてしまった。
こうなっては最早ロナルドの許へは戻れない。戻ろうとも思わない。
けれど、ならばどうすれば良いのかも全く分らず、歩きながら途方に暮れていた。

屋敷に戻れば、あのような事があったと告げた所でロナルドとの結婚はおそらく免れない。父に話しても叱咤されるのはおそらく私自身だ。間違いない。
ならば強い心を持ち、戻らない覚悟が必要なのだが、今の私には自分を擁護してくれる者も傍には居ない。何処にも行く宛てがないのだ・・・・。
ぼんやりと今後の事を考えながら歩いている内に灯りの側に噴水が見え隠れし、そこが中庭の一角らしき事を理解した。
とりあえず明るい場所まで辿り着けた事に何処かホッとし、そこで暫く今後の事を考えようと足を踏み入れようとした瞬間、直視した噴水の奥の対側には思いもよらぬ先客が待っていた。

「・・・・あっ・・・・」

突然目にしたアレクと見知らぬ貴婦人の姿に、私の鼓動は大きく跳ねた。

今までアレクが個人的に自分以外の女性と二人きりで居る場など目にした事が無かった。
だからあのように冷たくあしらわれるまでは少し自分の想いに期待もしていた。
けれど、この様な人気のない場所で美しい妖艶の貴婦人と二人きりと来れば、自ずと導き出される答えに、私の心は酷く乱された。

(そっか・・・・、アレクも唯の男の人だったんだ・・・・)

青年貴族に良く聞かれる、嗜みの一つと囁かれている男女間の出来事が瞬時に頭を過った。
当たり前の事に気付き、心がチクリと痛んだ。
全身が硬直し上手く動けない。
けれどその場から逃げ出したい気持ちの方が強くて、震える足で何とか気付かれぬ様にその場を後にしようと一歩、二歩とゆっくりと後退していた時、脇の枝に肩に掛けていたショールが取られた事に気付かず、驚き『キャッ』と思わず声を立ててしまった。

「誰だ!」

訝しげにこちらに目を向ける鋭い眼差し。

「ごっ、ごめんなさいッ・・・・あの、私・・・・ッ」

まるで二人を盗み見しているようなこの状況に、とりあえずその場で謝った。
アレクは驚きを隠せず、私を凝視してピクリとも動かない。

「あっ、あの、偶然通りかかって・・・・。おっ、お邪魔してごめんなさ・・・・ぃ・・・・」

自然と涙が溢れ出し、それを止める事は最早不可能だった。
アレクはこんな私を見て何と思っただろう。
盗み見していたとしか思えないこの状況に、私は戸惑い更に混乱してしまった。

「!! ・・・・マリー・・・・」

けれど何故だか何処か苦しげな眼差しで見つめられた。

泣く姿が余程哀れに思えたのか?
やがてゆっくりと差し出される長い腕。
その腕を取りたいと思う反面、憐れみを施されるのだけはどうしても耐え切れなくて、奥歯を噛みしめて必死に溢れ出す涙を振り切ると、差し出されたその手を払い撥ね退けた。

「触らないでッ!」

(もう、良い・・・・)

この想いとは、やはり決別するべきなのだと言う事を思い知らされた・・・・。

だが、何の悪戯なのか手を撥ね退けた拍子にショールが肩から滑り落ちてしまった。
少し破れたドレスの胸元を私は慌てて前を合せ、必死に隠した。
これ以上同情されるのは耐えられなかった。

「・・・・・ま、マリー?・・・・それ・・・・」

「だ、大丈夫だから・・・・」

「・・・・何が・・・・あった?」

神妙な眼差しで向けられる姿に、思わず縋りたくなってしまう。けれど・・・・。

「あっ、貴方には関係のない事だわ! 私と顔を合わせるのも嫌なくせにッ なのにこれ以上私に関わらないで!」

口から零れ出た言葉は思いとは真逆で、告げた先から必死に堪えていた涙が再び溢れ出してしまった。

「そうだったね・・・・。それこそが君の願いなのに、悪かった・・・・」

「!!」

酷いと思った。
自分の事は棚に上げて、何という言い草なのだろうか!?

「何故そんな言い方するの? 最初に無視したのはアレクじゃない! ・・・・もう良い・・・・。せっ、せっかく人が諦めようとしているのに・・・・。そんな卑怯な言い方しないでッ アレクの馬鹿!!」

私はアレクを睨みつけると、再びその場から駆け出しまった。

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~ Comment ~

NoTitle 

マリッジブルーと言うのは誰しもあるものだというのですが、
実際はどうなんでしょうかね。
自分が望んで結婚をするはずなのにそうではなかったと思う心境は分からないでもないですが。
・・・。
・・・・・。
・・・・・・それは男性ではわからない発想なのかもしれませんね。
女性の心をもっと理解できる男性になりたいものです。

・・・と小説を読んでいて感服する次第でございます。
ダブルコメントすいません。
面白かったのでつい。

LandM様 

マリッジブルーは、私も半信半疑でしたが確かにありました(笑)
新しい生活に対する不安とか、私の場合結婚を機に職場も辞めたので、完全な新しい環境に対するプレッシャーみたいなものもあったのかもしれません。(働いていたら働いていたで家事と両立できるのか?とか)
やはり理想と現実は違うので(笑)

>女性の心をもっと理解できる男性になりたいものです。

この言葉ポイント高いですよ!!
うちの旦那はそう思ってくれているのでしょうか!?(笑)

うわぁ、感服なんて、お恥ずかしい^^;
でも、楽しく読んで頂けているようで良かったです^^
Wコメ全然OKです。嬉しいです。

いつもコメント有り難うございます。
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