ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《23.略 奪》

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『舞踏会に参加することを悟られたくないのならば、人目が多くなる前に早く城へ入った方が良いわね』

侯爵夫人の計らいで、舞踏会開催時刻の2時間も前に早々と城へ入る事が出来た。
本来舞踏会参加者の受け付けは開始時刻の30分前からとなっている。
だがベアレーゼ家は王太子妃殿下のご実家という事から特例が認められている。
通常用意されている男女別の専用控室の他に特別用意された別室の控の間が存在している為、外部に知れる事無くその間ゆったりと室内で過ごす事が可能で、流石は王太子妃殿下の御実家だ。
開催時刻までは、出された紅茶や菓子で午後のティータイムを楽しみ、そして周囲が段々と賑やかになって来た午後7時過ぎに王宮舞踏会が開始された。
最初に国王様のお言葉を賜った後、皆で踊る最初のダンス。
私はその間、身を隠す様に柱の脇で周囲の様子を伺いながら状況を見守っていた。
やはりお父様もロナルドもこの舞踏会には参加している様だった。
一通り最初のダンスが終了し皆が少しずつ散って行く頃合いを見計らい、私は輪から離れて行く人ごみに紛れて指定された場所に移動し、アレクが姿を見せるのを待ち続けた。
けれど、この場へ既に来ている筈のアレクの姿を如何いう訳か直ぐに見つけ出す事が出来ずにいた。

(何処なのかしら・・・・侯爵夫人の話では確かこの辺りに・・・・)

身を乗り出すのが危険だと分かっていながらも、中々姿を見せないアレクの事が気に掛かり柱の脇に隠れ、時折こっそりと顔を覗かせながら垣間見ていた。
すると、何の因果か偶然にも最初に目が合ってしまったのは、一番会いたくないと思っていた婚約予定とささやかれた、あのロナルド・セオン・ドワイヤルの姿だった。
一瞬狼狽えてしまったが、気付かぬ振りをして視線を他所へと逸らしてみる。
けれど彼には通じなかった様で、次に目にした時には既に人ごみをかき分けるように一歩二歩と自分の方に向かって少しずつ近づいて来るロナルドの姿だった。
その眼差しは、とても冷ややかだ。

ロナルドは、どうするつもりなのだろうか?
無表情な彼の反応を思えば恐怖で身が竦みそうだった。

持っていた飲み物を途中で側に居た双子の兄レナルドに手渡すと、更に足を速めてこちらに向かって再び歩き出した。
胸の鼓動は今までにない程大きくさせ波打っていた。

(何と言われるのか? 何かされるのか?)

震える指先を重ね、押さえる様に握り締めた。
心臓の音が耳にまで聞こえて来るほどの緊張感に苛まれる中で、ロナルドが自分の前で立ち止まった。

「やあ、ずっと臥せっていると聞いていたけれど元気そうじゃないか。迎えに行ったら今日は出席できないとお父上から伺ったんだが、そうではなかったんだな」

「・・・・えっ・・・・。あの、思ったより頬の腫れも引いたものだから、気分転換に出てみようかと・・・・」

本当は頬の腫れなど3日で落ち着いた。
けれど他に言葉が見つからなくてそう告げてしまった。

「・・・・ふぅ~ん・・・・。まっ、いいか。で、あれから随分と考える時間はあったと思うけど考えは纏まった? 今謝るのならば先日の件は許してあげても良いよ。だが、一つだけ言っておく。今更私から逃げようなどと言う気は起こさない方が良い。我が伯爵家が婚約の準備に際し、支度金として既に男爵家にどれだけの援助を行っていると思う?」

「えっ・・・・!?」

突然知らされた事実に、私は狼狽を隠せない。

「既にお父上には約束の半額である50万リーベを支度金として支払っている」

「なっ、なんですって・・・・」

50万リーベと言えば我が領地の年間管理費に相当する金額だ。それを父が既に伯爵家から受け取っていると!?

「お父上は随分と喜ばれていた。分かっただろう? 既にマニエール男爵家が領地を管理する費用さえ賄えなぬほど貧困だと言う事が。だから今後はもっと考えて行動する事だな。今のお前が私を拒否する事等状況的に許されはしないのだから。分かったのならば今後は私に背かない事だ」

一見穏やかな口調で告げられた言葉だったが、その眼差しはいつにも増して強張り声音も低く私を見据えていた。

「ごっ、ごめんなさい! でも、私・・・・ッ」

そう告げる以外の言葉が最早見つからなかった。
自らの口で婚約するとはまだ一度も告げてはいなかったが、父の意向をそのまま受け入れたような態度を今まで取り続けて来たのは事実だ。
我が家の為を思えば金銭的な援助に加え婿養子にまで入ってくれるとなれば、これ程良い話は無い。
ここは私さえ耐えれば、きっと我が男爵家は救われる。

(けれど・・・・、行きたくないッ!!)

でも・・・・、直ぐに逃げ出したいのに足が竦んで動けない・・・・。
伸ばされるロナルドの腕が視界に入り、もう駄目だと思い、その場で両目を強く瞑ると波打つ心臓の音が更に大きく耳を突く。
今度こそ全てが終わってしまったのだと半ば諦め覚悟をし、奥歯をグッと噛みしめた。

(でも、こうなったら最後まで足掻いて見せるッ。梃子でも動くものか! )

身を固くして、この身に触れられたら今度こそ大声を張り上げようと心に決めていた。

だが、突如掴まれた腕は前からではなく後ろからで・・・・?
思いがけない状況に私は体制を立て直す事が出来ずに後へ倒れそうになるのを、温かい腕に支えられた。

「キャッ!!」

ほのかに香る爽やかなマリンシトラスの匂いに更に慌てふためいた。

(この香りは、まさかっ・・・・)

咄嗟に目を見開き鷲掴みに握られた腕の先に映る者の姿を凝視し、私は突如涙が溢れ出し声にならなかった。

「・・・・・・ッ」

呆然と立ち竦むロナルドの姿を目にしながら、行き交う人の波に押され途中で一瞬視界から姿が見えなくなったと思うと、その隙に私の腕を掴んで身を抱え込み近くにあった東屋の脇にその身を隠した。

温かい胸に顔を埋めさせられ、私の心臓は先程と違った意味で絶え間なく大きく脈打ち続けていた。

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~ Comment ~

NoTitle 

ふうむ。
金で買えないものを金で買おうとするのは愚かな行為ですが。
金で買えないものは永遠に金で買えないわけですからん。
心とか愛ってものは金で買えないですし。
買おうとする人を一般的に愚者と呼ぶのでしょうが。

LandM様 

きっとこう言う人たちの感覚は違うんでしょうね。
金に物を言わせる奴らって私一番嫌いなんですよ。
こう言う奴にはいつか絶対に制裁があると信じています。
正しくロナルドは典型的な愚者ですから。
まぁ、ロナルドの場合お金で愛が買えるとは思っていないかも。買えなくても良いと思っているかも(苦笑)

いつも有り難うございます。
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