ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《33.予 兆》

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午後のティータイムをアレクの乳母のヨハンナさんと庭先で楽しく過ごしていた。

「では、アレクって雷が苦手なのですか?」

「はい・・・・。子供の頃、遠乗りの帰りに突然酷い雷雨に遭遇し近くの領主小屋に避難した事があるのです。その折に雨宿りをしていた小屋の直ぐ側にあった幹に雷が落ち火がついたのだとか。かなりの雨量だった為それが幸いして山火事にはならなかったのですが、その事に慌てて供の者と共に小屋を飛び出し雷雨の中を早々に帰宅したのですが、戻って来ました時は顔面蒼白でございました。その夜長く雨に打たれた事と恐怖の余りか三日三晩高熱に冒されまして、以来今でも雷を伴う豪雨は苦手なのです。ですから少々大人気ないのですが、その点については大きな心で捕らえてあげて欲しいと思っているのでございます」

「そうなの。それは災難だったわね。でも確かに、そんなに怖い思いをしたのであれば、殿方と言えどもトラウマになるのは頷けるわね」

「そう言って頂けると、私も安心でございます」

どの様な小さな事でも、自分の知らないアレクの事を聞けるのは楽しい。
でも、まさかアレクも雷が苦手だったなんて何の因果なのだろうか?
ハッキリ言ってマリエッタも雷は大の苦手なのだ。
今でも鳴り始めると一人ではいられない。子供の頃は夜になれば母の寝床に潜り込み、今もいつも側には侍女のルシカが居てくれたから特別困ると言った事は無かったけれど、これからは如何したものだろうか?
だいたいここに来てからは何時もアレクの乳母のヨハンナさん夫妻が傍に居てくれる。
けれど四六時中一緒と言う訳には如何しても行かない。
ヨハンナさんは比較的何時も傍に居て身の回りの世話までしてくれるが時々本邸に顔を出す事もあるし、御亭主は執事の助手的仕事を任されているので昼間に戻る事はあまり無い。夜は殆ど居てくれるが、それも毎日と言う訳では無い。
今後心配をかけない為にも雷が起ころうとも平然としていられる自分になれたら本当はいいのだろうが、今の私にそのような事が果たして出来るのだろうか?
母からは、『雷なんて今は苦手でも守る者が出来れば、皆結構何でも平気になるものよ』と言われてはいたが・・・・。
母も昔は苦手だったらしいが、私を産んでから結構平気になったらしい。まだ自分にはその心理は分らないが『母は強し』と言う事だろうか?
でもアレクがそれ程苦手なのならば、何とか私がしっかりしなければと心の中で考えていた時だった。
そんな事を話しのネタにしてしまったのが不味かったのか?
雲一つない程に晴れ渡っていた晴天はやがて揺らぎを見せはじめ、何やら山際から薄暗い雲が立ち込めて来て、遠くでゴロゴロと言う音が聞こえるような・・・・。

「あら、これはいけませんわね。どうやら雷雨にでもなりそうな雲行きですわ」

「らっ、雷雨になるのですか?」

「おそらく・・・・。如何致しましょう・・・・。今夜仕事を終えた後、主人が残り少ない薪をこちらにくべておいてくれる筈だったのですが、状況によっては今夜こちらへ戻れない事も考えられますわ」

「無いと、不味いのですか?」

「ええ、それは勿論。遅くなり湿ってしまえば使い物にはなりませんし・・・・。こうなったら私が数日分だけでも今の内に私が確保して参りますわ。申し訳ございませんけれどお嬢様、少し留守にしますが直ぐに戻って参りますので」

「では、私にもお手伝いさせて下さい」

「とんでもございません! 旦那様の大切な貴女様にそのような事はさせられません!」

「ですが・・・・一人では大変なのでは?」

「大丈夫ですよ。本邸には他の者もおりますし。とにかくお嬢様は家の中へ入って絶対に誰も中へ入れないように内鍵をおかけになさっていて下さい。ここにお嬢様がいらっしゃる事は、アレクシス様を始め従者のリレントと本邸の執事のハンデルに私と主人だけなのですから。ですからそれ以外の者が来ても絶対に扉を開いては駄目ですよ。それから、ここは普段は空き家となっておりますから、私が戻るまではカーテンを閉めて灯りを点ける時は窓辺から離れて灯りが漏れないようにお願い致します。もし灯りが外に漏れ、誰かに居る事を悟られると大変ですから」

ハッキリ言って、まだかなり遠くだがゴロゴロと言う音が鳴っているこの状況で一人で別邸に残るのは怖かった・・・・。
けれど、この場で『私も実は雷が苦手なのです』とは口が裂けても言えなかった。
これ以上迷惑をかけたくなかった・・・・。

「分りました。では、お気を付けてヨハンナさん」

「はい。では、行ってまいります」

そう言ってアレクの乳母であるヨハンナさんは荷馬車で本邸と兼用で使っていると言う薪小屋へくべる薪を確保する為に出かけて行った。

見送ると、とりあえずヨハンナさんから言われた通り部屋の中に入り内鍵を掛けて、私はアレクのお母様の部屋だったと言う幼い頃のアレクの絵姿が飾られてある、今使わせて頂いている私室に入った。
ここは何処か落ち着く。
どの部屋もそうだが、ほんのり暖かいパステル調の壁紙の色彩が温かみを帯びてそう思わせるのかもしれない。それに古いけれど何処かホッできるこの懐かしい香りが、ここに来て初めて一人で過ごす事になった私の心を何時も落ちつけてくれていた。

最初は壁の絵やお母様と集めたと言う草花の押し花集を手にし、心穏やかに眺めていたのだが、やがて窓ガラスを叩きつける雨音が聞こえて来ると少しずつ落ち着かなくなってきた。
降り出すまでに戻ると言っていたヨハンナさんは未だに戻って来ない。

「大丈夫かしら? ヨハンナさん・・・・」

ヨハンナさんの様子が気になり始めた。

本邸近くにあると言う薪小屋まで馬車で10分程だと言っていたが、屋敷に御主人を呼びに行き手伝ってもらうと言っていたからきっと直ぐには帰って来ない。荷台に積む時間を考えれば、おそらく1時間はかかるのか?
詳しい事はわからないが、何となくヨハンナさんは1時間もあればきっと戻って来ると頭の中で勝手に決めつけていた。
けれど、段々と外が暗くなって行くと言うのに、ヨハンナさんは未だに帰っては来ない。
何かあったのか?
あれから既に2時間だ。

外は既に暗くなりはじめ豪雨に稲光も時折現れ大きな音も発している。
唯ですら雷が大の苦手な私は、早々と寝台の直ぐ側に置かれてある手元の灯りだけを点けると、頭から布団をかぶり窓の外がピカリッと光る度に震えていた。
慣れないこの場所に・・・・、部屋に一人と言うのもかなり心許なかった。

『お願い、早く帰って来て!』

私は心の中でそう叫び続けていた。

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~ Comment ~

 

さらわれた? どうなるのかな。どきどき。

ポール・ブリッツ様 

ここはですねぇ。芸が無いです^^;
今回中編予定の話だったので(既に全然中編ではないですが^^;)出来るだけ余計な事はすまいと・・・・。当初は軽い謀略考えていたんですが、それやると更に10話は増えそうなんで止めました(苦笑)

いつもコメント有り難うございます。
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