ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《39.湯 場》(アレク視点)

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不意打ちだった。
絶対にマリーの意に反する行動はしないと、心に決していた筈なのに、突き付けられた彼女の柔肌に色っぽいうなじを目にすると、最早自分を押さえる事は不可能だった。
彼女の反応で我に返り誤魔化してはみたものの、マリーにどう思われてしまったのか想像に難くない。
今更ながら自分のしでかしてしまった事実に背徳感を禁じ得ない。
この状況で……、ただですら雷雨で恐怖しているこの時に、これ以上マリーを怖がらせて如何するのだと、脱衣場を後にして自身に言い聞かせてはみたが、彼女への想いをこれ以上押し殺す事にやはり限界を感じた。

『大丈夫だよ。別にマリーの嫌がる事を無理強いする気は無いし、そこは私を信頼してくれて良い。それに今日の私はヨハンナの代わりに徹するつもりだから、遠慮なく何でも言いつけて。眠る時の子守歌が必要ならば歌ってあげるから安心してくれていいよ』

先程までは本気でそう思っていた筈だったのに、もしマリーから、本当に寝台の側に来て眠るまで子守歌とは言わないまでも、傍に居てくれと告げられてしまったら?
平素に応えられる自信が、今の自分には全く持てなかった。 

何の明確な約束も出来ないこの現状で、決して彼女に触れるべきでは無いと言う思いは今でも揺るぎない。
ロナルドの件は間違いなく黒だろう。まだ正式に確定した訳では無いが、だからと言って決して彼に遠慮をしている訳では無い。
ただ過日の件でのマリエッタの受けた衝撃を思えば、今自分の欲望そのままに彼女に触れるべきでは無いと言う結論に至ったのだ。
せめて、傷ついた彼女の心が癒せるまでは……。
ずっとそう心に決めていた筈なのに、感情とは上手く行かないものだ。
あれ程それが彼女の為なのだと、強い意志を持つのだと自身に言い聞かせ、今まではそれで上手く行っていたのに、マリーとの心が通い合った瞬間から、否応なく心の枷が幾つか外れてしまった気がする。
今回の件もしかり。先日も。
当初の計画では、こんなに早くにマリーをここに招き入れる計画では無かったのだ。

「しっかりしろ! 自分がマリーを守るのだと決めた筈だろう!?」

彼女を今度は自分が傷つけてしまうかもしれないと思うと、その事だけが酷く恐ろしく、自らを戒める為に、敢て声に出して言葉を口にした。


マリーが湯に浸かって何分が経過しただろうか。
一旦は治まりかけていた雨が再び息を吹き返したように激しく窓を叩きつけている。
遠くで時折稲妻が天を切り裂き光っている。ゴロゴロと再び小さな音が近づいていて、こちらへ来るのも時間の問題か。

マリーは大丈夫だろうか?
まだ小さな音だから問題は無いか……。

気にかかり、湯場の側でしばらく待機をしてみたが、中から悲鳴らしき声は何一つ聞こえて来なかった。
まだ大丈夫なのだと、何処かホッとして胸を撫ぜ下ろしはしたが、それでもやはり気に掛かり、その後も何度か行ったり来たりを繰り返していた。
そんな中である事にフッと気付いてしまった。

(……静か……すぎないか?)

脱衣場に近付けば、湯場の中からの水音が微かにでも聞こえて来ても良い筈だ。
そう思えて来ると時間の経過と共に、今度は嫌な予感ばかりが頭を霞めはじめた。

(いや、そう簡単にこう言う事は起こるものでは……)

一度はその事を打ち消してはみたが、やはり気になって仕方無い。
再びお湯場の傍まで行き、声を掛けるべきかどうか一瞬戸惑う。けれど、もしもと言う事がある。ここは状況的に手を拱いておける時では無いと自身を奮い立たせた。

「まっ、マリー? 大丈夫かい?」

『……』

(まさか気付かぬ内にもう上がってしまったのか?)

思い直して一旦寝室へ足を運び、他の部屋も探してみたが、やはりマリーの姿は何処にもなく、再び湯場へ駆け戻った。

(まさか!? ……いや、しかし……)

「マリー!? いるのか? いたら返事をしてくれ!!」

『……』

中からは依然何一つ返事も無ければ、物音一つしない。

(やはり、何かがオカシイ!!)

状況的に見て、迷っている暇は無かった。

「ごめん。入るよ!」

一か八か。この時点で脱衣場に衣類が無ければとりあえずはそれで良い。だが、もしあったならば……。
居てもたってもいられず大きく深呼吸をすると、再び脱衣場へ足を踏み入れた。


結果―――。
脱衣場には、抜き散らかされた衣類と、棚には着替えのナイトドレスもそのままに残っていた……。
息を飲み、棚の上に置かれていたバスローブを手に取ると、急ぎ湯場の扉を荒々しく開け放った。

「マリーッ!!」

湯船の縁に倒れ掛かる様にしな垂れる愛しいマリエッタの姿に、ほんの一瞬だけ立ち竦むと、震える手で急ぎ彼女を抱き上げ、そのまま寝台へと運んだ。

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