ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《55.私 情1》(アレク視点)

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まだ夜も明けてない早朝、外から馬車の車輪と蹄鉄の音が近づいて来た。
何事かと思い、愛しいマリーの安らかな眠りを妨げてはいないかと心配になり寝顔を確認すると、そっと寝台から一人抜け出し窓の外を眺めた。

(リレントだ!)

それに馬車の中にはヨハンナの姿もある。
状況から昨夜の雨で何処かに被害でも出て、おそらく出仕が早まったに違いない事が推測出来た。
急ぎリレントが用意してくれていた衣服に袖を通すと、昨夜脱ぎ散らかした衣類を集めて上着の内ポケットから小箱を取り出した。
それはいつも彼女に会う時には必ず懐に用意していた大切な代物で、今朝目覚めたマリエッタに直接手渡そうと考えていものだった。
だが時刻は、まだ夜も明けきらぬ早朝。
長い夜を共に過ごし、疲れ果てて眠っている彼女を起こすには忍びなくて、起こさぬ様にゆっくりと寝台の傍まで近づくと、馬車の音にも気づかずに依然安らかな寝息を立てている愛しいマリエッタの寝顔を見て思わず顔が綻ぶ。
ずっとこのまま眺めていたいと言う衝動に駆られるが、それは許されない事だった。
分かっているのに、それでも何処か離れがたくて……、食い入るようにしばし見つめた後、やはり何も告げずにこのまま離れる事は出来ないと決意し、横に置かれてある台に目を移した。
常備されてあるメモ用紙に手を伸ばすと急ぎ簡単な……、けれど心を込めたメッセージを書き添えて、その横に手にしていた小箱をそっと置いた。

「今朝は少しぐらい出仕を遅らせて、二人でゆっくりとした朝を迎えたいと思っていたのだが……、致し方ないな……」

ポツリとそう呟きながら、安らかな寝息をたてているマリエッタの唇にそっと口づけを落した。

「……ぅ……ん……」

一瞬ヒヤリッとしたが、少しゴロンと寝返りしただけで、その後目を開ける事も無く再び安らかな寝息が聞こえて来たのでホッとした。
どれだけ離れがたく思っていても、時は無情だ。
かすかに近づいて来る足音を耳にし、否応なしにも時が刻々と迫って来ているのだと感じさせられる。

(これまでか……)

小さく扉を叩く音がして、ついに時間切れとなった。

離れがたいと言う思いをグッと堪えて飲み込むと、愛しいマリエッタと共に過ごしたかつての母の部屋を後にした―――。



リレントの迎えの理由は予想道理のものだった。
急ぎ既に城で待つ、国務尚書閣下の許へと出向きその内容を把握する。

「この橋が崩落してしまえば我が国と隣国ステガルドとの交易に大きな支障を来す事になる。国土部門と連携して早急に技術者を確保し予算内で改修工事を進めてくれ」

「はい。お任せ下さい閣下!」

昨夜の豪雨で被害を受けたのは、我が国と隣国ステガルドとを直接繋ぐ唯一の橋であった。
他にも幾つかの被害の報告はあったが、これ程大規模なものは今の所他に報告は上がっていない。
この橋が崩壊すれば、ステガルドに入るには南の隣国から東へ渡り二国間を経由する手段しか他には残されて居ない。
それだとかなりの労力と時間を費やす事となりその上、能率も下がる。
早く事の真相を明らかにし、マリエッタとの平穏な日々を過ごしたいと思っている自分にとって、それは大変困った事態だった。
橋の復旧は最早自分にとっても死活問題だ。
何としてもこの橋の崩落をくい止める為に早急に何か手を打たねばならず、その為には早々に国土部門と連携してこれから復旧対策本部を立ち上げ、如何に効率よく稼働し一日も早く改修工事に進められるかが今自分に課せられた一番の仕事である事は認識している。
だが分かっているのに告げられて一番に頭を過ったのは、自分の留守中のマリエッタの事だった。
おそらくこのままでは暫く屋敷には戻れない。
その間に心細い思いをさせはしないだろうか……。
いや、それだけでは無くこれを好機と見て、よもやマニエール男爵やあのロナルドが策を講じて何か動き出しはしないだろうか?
私的な事に頭を囚われている状況ではないと分かっているのに、一旦頭を過ると心中穏やかではいられなくなってしまう。

「補佐官殿、聞いておられるか?」

「はっ、はい、勿論。えー、今回の件で捻出できる国家予算は……」

改修部門の責任者と話していたのに、このように気の抜けた態度では……。

(駄目だ!このままでは政務に支障を来す!)

とりあえず、予算の話だけを早急に何とか終わらせると休憩の合間を見計らい、急ぎ信頼を寄せる従者の許へと足を向けた。

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※次回もアレク視点入ります。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新お疲れ様です。
マリーの寝顔をガン見してる所も、会議で重要な時でも
マリーのことばっか考えているアレクにおいおい大丈夫かコイツ(国務尚書閣下も多分そう思ってるでしょうね(笑))っと突っ込みながらも、微笑ましく思いました。
ここで私事と公事をきちんとわけることができるのが大人の男というものですが、彼もまだまだ若いってことですね(笑)

でもやあっと、ずっと思ってた女の子と結ばれることができたからですから当たり前なのかもしれませんね。記憶の彼方~の感想でも言いましたが、抱けば抱くほどもっと独占欲が出るんでしょうね。
こういう両想いが確定した後の、こういう心情映写は微笑ましいし、ヒーローがどれだけヒロインを大切に思ってるかわかるのでとても安心してお話を読むことができます。

まだ問題はありますが、すべての問題が終わればこういうようなアレクの我慢が解放され、ためてた激情がマリーに向かうのは間違いなさそうなので(笑)、二度目の初夜、及びそれからの結婚生活がどんなに甘く激しくなるのか今から楽しみです。
マリー、今から体力付けなければなりませんね♪

NoTitle 

こんにちは。
初めての夜、その後一緒に朝を迎えるはずだったのに
アレクのマリーに対する離れがたさ、
とてもよく伝わってきました。

でも、ちゃんと指輪と手紙を残して…。
マリー視点で読んだ時も感激しましたが
マリーのことを本当に大切に思っているんだなと
感じました。

僭越ながら、繊細な心理描写が素晴らしいと思いました。

yama様 

今日は。
アレク全く余裕ないです(笑)
もうずっとそばに置いときたくて仕方ないです。
仕事を放り出せるものなら放り出したいと言うのが彼の率直な今の心境なのですが、それが出来ないのがアレクなので、そこは彼なりに葛藤があったようです。
アレクが平素でいられるようになるには、一体どれ位かかるんでしょうね?
とりあおず表向きは取繕えるようになっても、何かにつけてアレクは心配しそうな気がします(笑)

独占欲は……、更に強くなりそうですよね(笑)
彼の激情がどの程度なのかは彼のみぞ知るですね。想像はつきますが、最後は筆の走るまま、任せたいと思っています。(体力はどうだろう?(爆))
ラストは何処まで書くかなぁ。(まだはっきり決めてません)
でも、結婚後のエピソードは書いたとしても番外編かな?多分。

いつもコメント有り難うございます。

Sha-La様 

今日は。

アレクの当日どんな思いで一人出て行ったのか、上手く伝わったようで良かったです。
二人の朝を迎えられなかったけれど、想いあふれるほどに持っていたと言うアレクの気持ちを、ここではとにかく伝えたかったので。

私は出来る事ならば読む側にもキャラの心の動きを直に捉えて貰いたくて、何時も心理描写は大切に書かせて頂いているつもりだったので、そう言って頂けると、とても嬉しいです。

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

ふうむ。
まあ、色恋に夢中になるのはいいですが。
って、前のコメントで触れたか。。。
皆さりげなくやっているモノですがね。
なかったかのようにして。
特に日本人は。

LandM様 

今日は。

今の彼にさりげなくは無理そうでしたが、恋にうつつをぬかせるのも、暫くはここまでですかねぇ(笑)

そろそろ何かが動き始めるかな~。

いつもコメント有り難うございます。
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