ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《75.造 言3》

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それからと言うもの、私はまるで蚊帳の外で何やら殿方の噂話に花が咲き、一層の親睦を深めて行く母とマグノリア伯爵夫人。
母の見事なまでの話術に私は舌を巻くばかりだった。
そしてマグノリア伯爵夫人が少し言い難そうにある話を持ち出した時、母の瞳がほんのり輝きを帯びて意味有り気な笑みを含んだ気がした。

「……いえね、今更の出来事なのですけれど、少し前にお嬢様ととある侯爵の密会現場を目撃した等と言う話を耳にしていたものですから、ロナルドの件もありますし、実はずっと心が落ち着かずにおりましたの。事実は……、ええ、聞かなくても勿論わかっておりますけれど、それについての話も時折まだ他のご夫人方との対話の中で出て来る事がありますもので……。自分の口で申し上げるのも憚られるのですけれど、ほら、情報通として私世間で知られておりますでしょ? ですから真実を知る権利があると思いますのよ。お嬢様の件、次回からはハッキリとお答えしても宜しいのですわよね?」

ついに来た!
母は確信をつかれて如何返答するつもりなのか?
大きく波打つ心臓の音が伯爵夫人に聞こえてしまうのではないかと私はドキドキしながら必死で心を落ちつけようとしていた。
それなのに母は何処までしたたかなのか? 感心しすぎて思わず呆気に取られてしまった。

「まあ! 密会だなんて仰る方がおられますの? 私今初めて伺いましたわ。……こう言う心ない事を公言なさる方がいらっしゃるから娘は外にも出れなくなるのですわ。ああ、可哀想なマリエッタ……」

すると今度は悩ましげな表情で私の方を見つめ……。

「ああ、マリエッタ……。貴女の事はこのお母様が、何があっても守ってあげますからね」

私をきつく抱きしめながら鼻を啜らせる素振りの母……。

(お母様……、少し、くっ苦しいのですけれど……)

視界に入る伯爵夫人の表情は、親子愛溢れる? 姿を目にして心なしか潤んでいるような……。

「やはり……そうですわよね。ええ、ええ。先程のお話を伺っていて、私も聞き及んだお話はきっと唯の噂話に過ぎないのではないかと思っておりましたのよ。ですけれど……」

言葉を詰まらせ……、徐にハンカチを取り出し目頭を押さえている……。
それに対し母は、またまた悩ましげな表情で愁いを帯びた眼差し。

(お母様……、それは少しやりすぎではないですか?……)

「噂も良い所ですわ……。元々我が領地は王都より離れているものですから、娘はこちらに親しい友人もおりませんの。ですから社交界デビューを前に都会の洗練されたお嬢様方や殿方と上手くやっていけるのかと、それはそれは不安がっておりましたわ。ですがいざ訪れてみれば幼い頃に交友を深めた侯爵様がいらして下さり、お声を掛けて頂いたものですから以来誠の兄の様に慕い、時折悩み事を聞いて頂いていたのですわ。今回のロナルドとの話も突然決まったものですから、心なしか最初戸惑っておりましたの。けれど若い殿方の思考の傾向について等、侯爵様もこういった場で姿を見かければお気に掛けて下さっていたものですから、お声を掛けて下さったりして御教授賜っていたのだとか。私もいつも遠目からではありますけれど見守らせて頂いていておりましたのよ。とても微笑ましく思っておりましたのに……。それがあのような噂話になるだなんて……。ねぇ、マリエッタ」

「はい、侯爵様には私も本当に感謝致しております……」

「やはり、そう言う事でしたの」

「何も知らずに若い二人を目にすれば、色々な噂を立てたくなる方々のお気持ちも理解出来ますけれど、内々に婚約話の進んでいる娘を、幾ら信頼できる殿方だと申しましても世間体もございます。その様な真似、私とても出来ませんわ。それに先日お邸に招かれた折には、私も同行させて頂きましたのよ。侯爵も早くにお母君を亡くされていて、私の事もとても慕って下さっているものですから、色々と私的なことについて相談にものっておりますの」

私とアレクの事をあれだけ応援していてくれたのに、良く言うものだと思わず感心してしまう。
けれど伯爵夫人はと言えば『私的な事』と言う言葉を耳にして更なる興味を引いたのか、心なしか表情は目に見えて輝きを増したように思えるのは気のせいだろうか?

「まあ、それはどの様な?」

「それはお答えできませんわ。誰が聞き耳を立てて聞いているかも分りませんもの。これはあくまで内々のお話ですから」

敢て聞きたくなるように話を持ち掛け、それで聞けば渋るだなんて……。
私には絶対に出来ない芸当だと思った。

「内々の? では、何かのお話が進んでいらっしゃるのね。そう言えば少し前にレナンドの婚約者のマストラーゼ伯爵のご令嬢に求婚されて断られたと言う話もあったようだけれど……」

「その事に関しては私も方々でお噂を耳に致しましたが、本人曰く全く覚えのない事だと申しておりましたわ」

「まあ、そうでしたの?」

「はい。とある友人に頼まれて噂になった頃に手筈を整えてやった事はあると申しておりましたが、それだけだと……」

「まあ、そうとは知らずに私ったら……。確かに侯爵は周囲からの信頼も厚い方だと聞き及んでおりますもの。その事の方が信憑性もあり素直に頷けますわね。本当に噂話とはどれだけあてにならないものなのか……、ほとほと今までの自身の軽薄な行動に呆れ返りますわ。これでは主人に叱られるのも頷けますわね」

「いえ、そのような事はございませんわ。こう言う噂話なくして貴族夫人同士の交流は有り得ませんもの。話が戯言と知りながら流すのはあくどい事ですけれど、そうで無い者は不可抗力と言うものですわ。そう言った事までいちいち気に掛けておりましたら夫人同士の交流など成り立ちませんもの。それにあのお話も全くの事実無根と言う訳では、あっ……」

母は言葉を口にするなり両手で口元を塞いだ。

それを見逃さないのは噂好きの嵯峨なのか?
目ざとく夫人の瞳がキラリッと輝いた。

「あら、今何を仰ろうとなさいましたの?」

「なっ、何でもございませんわ」

「今何か仰いかけましたわよね。『事実無根と言う訳では……』と言うのは侯爵様のお話ですの? どの様な?」

ここに来て終始押され気味な態度をとってはいるが、内心また何を思っているのか?
娘だから分かる事だが母は多分この状況を楽しんでいるように思えてならない。

「もう、伯爵夫人にはとても敵いませんわ。では少しお耳をお貸しになって」

そう告げると母はマグノリア伯爵夫人の耳元で何やらボソボソと話し始め……、何を言っているのかは良くは聞き取れなかったけれど、明らかに伯爵夫人の瞳はキラキラと輝き始めた。

母はと言えば少し困った様な素振りを覗かせながらも何処か笑みを湛えているようにも感じられ、母が本当に待っていたのはこの状況では無かったのかと初めてこの時気付けた気がした。

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NoTitle 

宮廷って恐ろしいところだなあ……わかっていたけど(^^;)

これがアラキーンだったらマリーさん10分で食い殺されてますな。がんばれ母君。

続き楽しみにしてます~♪

ポール・ブリッツ様 

今日は。

宮廷はある意味女の戦場ですからね。
マリーは全然まだまだなので、お母さまが頼りです。
これからどんどん計画が進行して行きますのでお楽しみに♪

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