ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《77.造 言5》

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母がここで重大な何かをしようとしている事は、私にも分かる。
流れる空気が少しピリピリしている気がするのは自身の緊張から来るものなのか?
そう思っていると、大きく深呼吸をした後、ひときわ張りのある声を出し、母が私に話しかけて来た。

「でもあのお話し、本当かしらね?」

先程までとは違うパターンに、少しだけ戸惑ってしまう。

「おっ、お母様、あの……これって?」

途端にキッと睨まれ、慌てて告げられていた事を思い出し言葉を返した。

「ええ、本当かしらね……」

「今騒ぎになっている例の指輪、正当なる持ち主以外の者が指にすると災いが起こる術が施されているのだとか」

「えっ!? そうなの?」

そんな事、聞いていなかったから驚きだった。

「何でも前回紛失した折には、我がものにしようとした娘が正気を無くして身を投げたのだとか。欲に目が眩むと災いが生じると言うけれど、怖いわねぇ」

「ええ、本当に恐ろしいお話だわ」

「東殿のテラス脇の中庭には、何やら物さがししている方たちも居ると聞いたけれど、大丈夫なのかしら……」

「やだ、お母様。それは急いで教えて差し上げた方が……」

「けれどこんな戯言の様なお話し、誰が信じて? 邸の者の情報ならいざ知らず、それに余程の事がなければ主の命には逆らわないのが貴族の邸で働く者の務めだわ。立派な心がけだとは思うけれど、主がしっかりしていないと働く者は哀れね」

母から告げられた突然の情報に、私は驚きを隠せず、固唾を呑みながら真剣に話を聞き入ってしまった。

周囲を見渡せば、こちらの話が気になるのか?
チラリチラリと行き交う者たちが様子を伺う様な仕草。
話しが聞こえた者達が、内容を気にしはじめたのかもしれない。

この国では古くから、呪術師なるものの存在が確認されている。
元々は国の人々を救う為にと治療や祈祷、雨乞いを行う者が現れたのが始まりだ。
その後未来を占う力を持つ者が現れ、呪術、占術を用いて人々の悩みを解決するようになり確固たる地位を築いていた時代もあったと聞いている。
だがその後、呪術を悪用する者が現れた事から呪術は禁じられるようになり、今では表立って呪術を行う者を見る事は無くなったが、確実にその力を用いていた者の流れを汲むものは存在しており、今も何処かにいるのだと信じている者も少なくはない。
自分はそういった者を見た事は無いが、王家などではある機関が今でも国を守る為に登用しているのではないかと噂する者も居る。
占術師は正式に今でも王家に仕える者がおり、国の行く末の吉凶を時として占い導く者として重宝されている。
呪術を行う者が今も現存するのかしないのか?
過去に存在していた事が確かな為、古い指輪に何らかの呪術がかけられていたとしても不思議では無い。
私から指輪を奪ったテロネーゼさんも、勿論この事実は知らないだろうが、グラッセ家に伝わる指輪と言う事は知っている。
グラッセ家の起源は古く、この話が真実であっても何ら不思議では無い。
他の者達にしても、指輪が如何言うものなのか分らず、何も知らずに探しているのなら尚の事、事実を知れば恐怖に慄くかもしれない。
そうなれば探す事を諦めてくれる事も考えられる。
だが、もし誰かが既に手にしていたとしたら?
この話を聞けば手放そうとしてくれる可能性も出て来るのではないだろうか?
その場合何処かに放置するか……、噂される呪術の影響がどの程度及ぶのか気になればアレクの許に届ける者も出て来るかもしれない。
その事に気付いた時、期待に胸を躍らせる一方で、フッとある事が思い出された。

『大丈夫だから、マリー。全ては私に任せてくれないか? 決して悪いようにはしないから……』

指輪を諦められないと告げた時、アレクが私に投げかけてくれたあの言葉。

「あっ……」

「目先のものに囚われてばかりだと、中々気付けない事もあるわね。色々な意味でね」

まだ手元に戻って来るとは限らない。けれど……。

私は指輪を失くしたと言う目先の事に囚われるあまり、今まで周囲の事がまるで見えていなかったように思う。
この様な状況下の中で、指輪の行方を探る事がいかに大変な事なのか考える事も出来ずにいた。
浅はかだったと思う。アレクを責め立てるような真似をして……。

私は心の中で何度もアレクに謝罪と感謝の言葉を繰り返していた。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。
ふうむ、この国にはそういう呪術が公的に存在が認められているってことですね。
あの指輪にその術がかけられているかどうか真実はともかく、そういうのは噂だけでも効果はあるものなんですよね。
もし、それをあのテロネーゼとやらも知ったとたん、顔を青ざめているのでしょうか?もしそうなら少し溜飲が下がりますし、逆に気にしないのなら、どれほど身の程知らずなんだと思ってしまいますね。

それにしてもマリー、アレクを信じようとしてよかったね。
運がよければ労せずして指輪が戻りますし、もしそうでもなくてもアレクがマリーのために手を回してくれたことは事実としてマリーを支えてくれるはず。
指輪はアレクにとってはただの証で、なくてもマリーとの気持ちは失われないものとはわかっていますが、やっぱり何だかんだちゃっかり戻ってきてくれた方が後味は良いですよね。

少しずつ、事態に光明が見え始めてきた所でしょうか、障害はまだあるはずですが、アレクと上層部の根回しを信じて前にしっかり進んでいってもらいたいところです。

yama様 

今日は。
仰る通り、指輪に術がかけられているのか否かは別として噂の効力を狙っての事です。
テロネーゼはこれでどう出ますかね?(笑)

マリーも今回ばかりは必死です。
自分の置かれた状況と立場を弁えて、不器用ながらも一生懸命です。
指輪は戻って来るのか来ないのか。それも今後気になる所ですね。

そうですね。少しずつ事態に光明が射しかかった感じですかね。
まだまだ互いに試練は有りますが、頑張って貰いたいと思います。

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

呪いや伝説というものはこれから作られていくものなのだ!(^^)

NoTitle 

呪術師ですか。
確かに文化としてありますからね。
ファンタジー書いているのくせに呪術師の発想がなかった。
(*´ω`)

ポール・ブリッツ様 

今日は。

そうですね。
こういうものは信じる人が居ればこれからも作られて行くものですよね。

いつもコメント有り難うございます。

LandM様 

今日は。

何か無いかと考えた時、思い出しました。こういうものがあったと言う事を!(笑)
この類の資料は「パウリンの娘」を書く前に色々調べまくってある程度頭に入っていたので、違和感なく今回作品に取り入れる事が出来ました。
結構この類は色々調べてみると面白いですよ^^

いつもコメント有り難うございます。
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