ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《79.虚 勢》

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逃げようと思えば逃げられる距離は十分にあったと思う。
けれど逃げなかった……。と言うよりも、足が竦んで一歩も動けなかったと言う方が正しい。
我ながら情けないと思うけれど……。

「やあ、随分と久し振りじゃないか。あれからまたずっと臥せっていたと聞いていたけれど、今日は随分と元気そうじゃないか」

「ロ、ロナルドも……、お元気そうね」

「何やらお母上と周囲を攪乱させる作戦に出ているようだが、やる事がいちいち嘆かわしいな」

何処から見ていたのか?
母と私の姿をかなり前から捉えていたかのような発言に、更に身が竦む。

「そっ、そんなつもりは……」

「無いとでも? 笑わせるな! つもりはなくてもお前等の今日の行動がどれだけ妹を追いつめているのか、知らずにやっている訳では無いんだろう? 盗人猛々しいとは正にこう言う事だな。お前には俺と言う婚約者が既にいると言うのに!」

「まだ正式なものでは無いけれど、そう言う立場にいる事は理解しているわ。けれど、正式に書類が受理されない以上、先に進められるものでは無いと思うの」

「そんな事知るかよ! 時機にそうなる事は決まってるんだ!」

「時機に? 時機にって何時? 当てにならないわね。そんな事私は認めていなッ……、ぁっ……」

告げられた言葉に、思わず否定的な言葉を投げかけそうになりながらも、何とか母から告げられていた言葉を思い出すことが出来て、自身の言葉に歯止めをかけた。

「いえ、……まだ如何なるか分らなのに、公にする事では無いと思っているのよ……。貴方も父も先走り過ぎているわ。それに何故ここでテロネーゼさんの話が出て来るの? 訳が分からないのだけれど」

『本当の被害者は私なのに……』
と言う思いを内に秘めながら、必死にその言葉を飲み込んだ。

「お前、アイツの家の紋章の入った指輪を嵌めていたんだってな」

告げられた……、一番恐れていた言葉に、一瞬胸の鼓動が大きく脈打つが、想定範囲のその言葉に冷静に対処できていると思っていたのだが、続く言葉が私の声を一瞬詰まらせた。

「妹が泣きながら俺に訴えて来たよ。アイツに裏切られたって」

「えっ?」

(……裏切られた?……)

思いもよらなかった言葉が告げられて一瞬混乱し、目の前が真っ白になった。

「妹はな、ずっと前から奴に惚れていて、やっと最近話が纏まりかけていたんだ! それをお前が突然やって来て奴の態度が急に変わりやがった」

「そんな……こと……」

突然知らされた事実に、私は如何答えて良いのか分らない……。
落ち着け……。とにかく落ち着かなくては……。
もしかして、これが……、この事が、アレクの言っていた事なのだろうか?

『とにかく何を見聞きしても、私を信じてくれ。今はそれしか言えない……』

涙に濡れる私を抱き寄せ、切な気に私に告げた先程のあの姿が思い出される。
確かにこの話を事前に聞かされていなければ、私は平素でいられなかったと思う。
けれど……、アレクにテロネーゼとの結婚話が出ていたなんて……。

(ううん、信じない……、きっと何かの間違えだわ!)

アレクを信じると決めたのは他の誰でも無い、私自身だ。
それに……、アレクは私と再会したばかりのあの頃も、周囲に纏わりつく彼女たちに形式的な対応しかしていなかったと思う。
デビュティーの早朝に届けられた見事な薔薇の花束は、ずっと私の事を想い育てて来たと言っていた。
そんなアレクが、簡単に他の人に靡くなんて思えない。

(けれどこんな時は、如何すれば……)

半分真っ白になりそうな頭を、必死に働かせようと試みて、何とかその事に成功する。
そして導き出した対応は……、少しばかりぎこちないものだったかもしれないけれど、今の自分にはそれが精一杯だった。

「……そんな事、私には関係ない事だわ!」

「関係……ないだと?」

「そうよ。彼がどんな行動を取ろうと、それは彼の自由だわ……」
  
「気にならないのか? 指輪もあいつから貰ったものなんだろ?!」

「知らないわよ」

「知らないって何だよ! 奴の家の紋が彫ってあったって聞いたぞ!」

「本当に知らないのよ。それに考えても見て。指輪に入った紋なんてパッと見ただけで何処のものかだなんてどうやって分かるのよ。たかだか4、5ミリ程度の太さの指輪に刻まれた紋かなんて目視で判断できる筈無いじゃない!」

「確かに言われてみれば……。では、違うのか?」

「そんな事どうだって良いじゃない。それよりも私の事は婚約者と公言しながら心配ではない様ね。呪術のかかったかもしれない指輪を嵌めさせられた話も聞いたのでしょ?」

「まさかお前も聞かされていなかったのか?」

「当然じゃない!」

「では、あの指輪は一体……」

「母の実家に私宛に届けられたのよ。指輪があまりに綺麗なものだったからつい、こんな所に嵌めてきたりして……。てっきりお父様が私の機嫌取りに贈って来たのだと思っていたから。けれど……、もし早死にしたら私が呪ってやるんだから!」

「本当に……、違うのか?」

私に念押しし、何度も確認するロナルドの姿。
あの戯言を、簡単に信じてくれるのかどうかは未だ分らない。
けれど……。

私は虚勢を張りながら、会場へ入る前に母から告げられた言葉を忠実に守ろうと、懸命に平静を装う事に集中しようと心掛けていた。

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白薔薇は束縛にふるえる
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NoTitle 

更新、お疲れ様です。
売国奴め、よくもぬけぬけと彼女の前に現れましたね。
この売国奴の妹も、勝手に勘違いして周囲にいいふらかしてアレクとはそういう仲だという話を作り上げたんでしょうね、まったく似た者同士です。
こういう場合、ヒロインが勝手に勘違いして落ちこむシーンとかあって、大丈夫かこの子って展開ありますけど、事前にアレクに言われたことと状況から察してマリーが冷静に対処しようとしている所にちょっと彼女を見直しましたね。

ただ、指輪のことばっかり話してて、婚約が時期にそうなるとか、今も抜かしてるとか、上層部が既に彼の犯罪の証拠を掴もうとしているのに気づいてなさそうなのは間抜けですねえ。

マリーに関してはよく頑張ってますね。少しぎこちないけど相手が自分が賢いと思っている馬鹿だから何とか虚勢を保っていられますね。万が一の時にはちゃんと助けは来るはずですから、この卑怯者に負けないで頑張れ。

yama様 

今日は。

本当に、ロナルドはこういう奴です。
で妹の件も暴露すると大体あってるかな。ホント似たもの兄妹です(苦笑)
ここで今までのマリーのパターンから言ったら絶対に落ち込む所なんですが、既に終盤に突入しているし、彼女もここらで成長を見せないと不味いだろうと言う事で、頑張って貰っていますがまだまだそれでも危なっかしい状況です^^;(笑)

婚約についてのロナルドの「時期にそうなる」発言は、ロナルドが今一番趣を置いていることがマリーとの早急な結婚ではないと物語っている事も一理あります。(結婚さえできれば早急でなくても良いや程度)

そうそういざとなれば助は来るはずですからマリーにも出来る所までは一人で頑張って切り抜けて欲しいと思います。

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

「どうでもいい」は大切な精神です。
割り切りが大切なんだと思います。

LandM様 

今日は。

マリーのように物事を突き詰めるタイプの人間は中々「どうでもいい」と言う割り切りが出来ないものですが、ここは柔軟に……。これから社交夫人としてやっていくにはこういう事が大切になって来ます。
今回は苦し紛れに出た言葉ですが、良い傾向だと思っています^^

いつもコメント有り難うございます。
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