ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《82.後 盾》

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腕を掴まれる感触に、思わず肩がビクンと固く跳ねる。
何を言われるのか、何をされるのか……。
けれど少なくとも周囲の目がある。手ひどい事だけはされない……、と思う。
それでも、そうと頭では分かっているのに、蛇に睨まれた蛙のように身体はいうことを利いてはくれなかった。

(何か言わなくては!) 

このままでは駄目だと思い、必死に頭の中をフル稼働させていると、……急に状況が変わった?

「ぅうわぁ! 何だ! お前ッ いっ、いきなりッ!!」

突如掴まれていた腕が解かれ、慌てて声のする方に目に向けてみれば、ロナルドが少し身を縮ませて真っ赤になりながら耳に手を当てていた。

「殿方がこの様な公式な場で女性を追いつめるような真似をなさるものではないわ。場所は弁えませんと。この場に居るのですから今日がどの様な日か、勿論御存知ですわよね?」

いつもより、かなりおっとりとした口調で……、それでいて張りのある声で気品に満ちた仕草。涼し気にこちらを眺めている夫人の姿は、まぎれも無く自分が良く知る人物だった。

「だから何だよ! おっ、お前こそ、いきなり耳に息吹きかけやがってッ。そっちこそ非常識だろ!」

真っ赤になって耳を押さえたまま夫人を見下ろしている。
私とは別の意味で余裕なさ気のロナルドは、なんかちょっと間抜け面に見えて……。
もしかして、私の前では気勢を張っていただけかもしれないと思える程だった。

「あらぁ、ごめんなさい。感じちゃった? これ位の状況で理性を削がれるなんて、まだまだ青いわね」

「いきなりやって来て失礼な奴だな!」

「礼儀を弁えないのはどちらかしら? 敬愛する国王陛下の誕生の宴で、か弱い女性に詰め寄り怯えさせるなど、殿方としてあってはならない行動です。謹んで頂かなければ」

「余計なお世話だ! 自分の女に何をしようと、周囲にとやかく言われる筋合いはねえよッ!」

「まあ、怖いお顔。マリエッタさん、こう言う殿方とのお付き合いは、私お勧めできませんわ。直ぐに短気を起こすような殿方は高みには登れないものよ。私、お友達には将来的にも有望の方とお付き合いして頂きたいと思っているの」

「お友達って、お前の知り合いなのか!」

「もっ、申し訳ございません……」

「誰だよ、こいつ!」

「アリシラ・ガブリエラント・ベアレーゼ侯爵夫人よ」

「はあ? 笑わせるな、何言ってるんだ?! 冗談も休み休みに言え! お前如きがベアレーゼ侯爵家と関わりがある者と知り合な訳……」

暴言を吐きながら茶化すような仕草で、こちらを眺めていたロナルドだったが、周囲に人が集まって来て、口ぐちから陰口のような囁き声が聞こえて来ると急に口を閉ざしてしまった。
そして、少し何か考えるような仕草を見せた後……。

「……まさか……、本当なのか?」

「私、今まで冗談なんて言った事ある?」

今までの粋がった暴言は何だったのか?
ロナルドは目に見えて狼狽えたような表情に変わった。

「いやっ、あの……、これは……ッ」

無理も無い。
ベアレーゼ侯爵家と言えば王宮での権力も絶大だ。
現王太子妃殿下の御実家で、私とてアレクとのつながりが無ければ、おそらく一生会話すら交す事も無かったと思う。

「ねえ、マリエッタさん。こちらが貴女の仰っていた例の殿方なの? 随分と無作法な方なのね」

「申し訳ございません。ベアレーゼ侯爵夫人とは露知らず、初めてお目にかかるもので、存じませず失礼致しました」

丁重な口調で、慌てた様に深々と頭を下げるロナルドの姿。
昨年家督を継いだ新ベアレーゼ侯爵は、王太子殿下との義兄弟仲も良くその信頼も厚い。殿下の指示の許、旧体制下の最早戦力外と思しき老齢の官吏たちを隠居に追いやりながら新体制を整えつつ、国の行政などを監理している内務尚書兼推進改革委員の筆頭だと言われている。
加えて王太子殿下とお妹であられる妃殿下との仲も睦まじく、おそらくは次世代的に王宮で王侯貴族の筆頭的立場になられる人物であると誰もが今囁いている人物だ。
ロナルドが慌てるのも無理はない。
額から滲む汗が、どれだけロナルドに緊張を強いているのかが伺える。

「それで、貴方は何方だったかしら……?」

「ロナルド・セオン・ドワイヤルと申します……」

「ドワイヤル……。そうそう、グラッセ侯爵の周りをうろついているあの令嬢の兄上ね。何か先程も随分と纏わりついていらして、自己顕示欲の強い方の様だと感じ入ってしまったのよねぇ。お気をつけて差し上げた方がよろしくてよ」

「……と申しますと?」

「何やら大そうな指輪をチラつかせて侯爵を誘っていらしたようだわ。周囲に集う他の令嬢方に随分と反感を持たれていた様だけれど、あのままで大丈夫だったかしらね?」

「「えっ!?」」

ロナルドと二人して、おそらく別の意味で思わずベアレーゼ侯爵夫人を凝視した。

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風波です。本日UP予定の「ずっと心に決めていた《82.後 盾》」は、0時15分頃より投稿していますが、1時を回った今でもサーバー混雑の為只今UP出来ない状況です^^;
こういう時は今後下記のTwitterで連絡しようと思います。(今回も既にTwitterでは連絡済)
【Twitter】『風波 涼音 @Fancynotobira 』へ
宜しくお願い致します。
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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。
助けに来てくれたのはアリシラさんでしたか!

ただこんなにタイミング良く助けに来てくれるなんて、たぶんアレク辺りから頼まれて自分のことを片付けたあとマリーの様子を見てくれていたのでしょうか?
しっかしこの売国奴、相手のことがわかった途端、態度を変えるなんてなんて典型的な小物(笑)
たとえ貴族でも、この社交界で達振る舞う上例え自分より身分が下でも紳士的に振る舞うのが礼儀のはずですがねえ。

そしてあの女、やっぱり指輪を自分のもののようにしてましたね。アレクもそれを読んでてあの女の相手をしてるんでしょうが、噂が広まっている以上、あの女の味方は減ってきているはず。
アレクがどんな風にあの女達と対峙しているのか楽しみです。

yama様 

今日は。

はい。今回の登場はアリシラ様でした。
80話でチラッとお母さまが仰ってましたが、アレクが頼んでました。
ロナルドは粋がっていますが、元々大物になれる器ではないですね。
小賢しい事を色々やってのし上がろうとするけれど……って感じの人でしょうね^^;

妹は何か持ってましたね(笑)
あちらも色々頑張って居る様ですが、如何返り打たれるでしょうかね?
そちらもきちんと書く予定なので、また楽しみにして頂ければと思います^^

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

こういうときは耳にそ~~と息を吹きかけて
静かに笑って誤魔化すのも淑女の嗜みです。
・・・なんて、小説を見ていて思った。
( 一一)

LandM様 

今日は。

そうですね。それも考えたのですが、アリシラ様は今回実はロナルドをあおりたいと思っていらっしゃるので、今回はその類の言動を取り入れる事にしました。
とは言え無言の余裕をかますのも素敵ですよね。
今回出せるか分かりませんが、王太子妃様が(息を吹きかけたりはしませんが)それに近いキャラ設定です。

いつもコメント有り難うございます。
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