ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《111.真 実10》

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アレクシスの言葉に更なる勇気を貰い、私は内なる心を奮い立たせた。
見つめ返せばそこには温かみを帯びた瞳があり、その事は今の私にとって十分な効力を齎した。

テロネーゼ嬢は苦痛に満ちた呻き声をかすかに発してはいたが、アレクの指示に従い従順な態度を見せていた。
動きのとれる右腕を微かにアレクシスに沿えるようにまわす仕草は何処か切なげで、その姿に思わず目を逸らしてしまった。
今までの彼女の抵抗を思うと、心の何処かでアレクシスに対する想いの深さを感じずにはいられなかった。
少しだけ言葉では言い表せないモヤモヤを胸の奥に抱きながらも、私は今の彼女ならば状況を受け入れてくれるのではないかと期待した。
彼女の……、そして今の自分たちの為に出来る事は唯一つ。
私は大きく深呼吸をすると踵を正した。

「さあマニエール男爵令嬢、貴女はただこの指輪に対する本当の想いだけを内なる心に秘めていればいい。後は如何すれば良いか、分かるね」

「はいッ」

私の心の準備が整った事に気付いたアレクシスが、爽やかな凛とした張りのある声で更なる勇気をくれる。
その声は何処か指輪は二人で守るのだと、投げかけているようにさえ感じられた。


私はゆっくりと、慎重に指輪にそっと手で触れる。
触れられただけでも余程痛むのか? テロネーゼ嬢は指をピクリッと震えさせると、表情をかすかに歪めた。

「だっ、大丈夫?」

「ッ……。これ位……平気ッ……」

表情が引き攣りながらも平素を装う様に私を睨みつけ、明らかに強がりにも取れるような発言に、苦笑いを漏らすしかない。
如何あっても私と対となるこの状況下で弱音を吐く姿を見られたくない様で、アレクシスの胸に顔を沈めたまま、時折小さく声を殺して痛みに必死に耐えている様だった。
少しだけ複雑な思いを抱きつつも、邪念は捨て何とか彼女の痛みを和らげてあげることを最優先に考えて集中しなくてはと、私はゆっくりと瞳を閉じ心の中で言葉を唱えはじめた。
彼女の為でなく、今度は私達二人の未来の為に……。

《あなたはアレクシスから託された私の大切な指輪なの。お願いだからこれ以上、人を傷つけないで。私以外の人に寄り添わないで。私の許に戻って来て! お願い!!》

強く念じたその時、触れただけでは全く動く様子も無かった指輪が、私の心の声に応えてくれたかのように指に吸着する様に触れて来るのを感じた。まるで自らの意思でもあるかのように。

(えっ?!)

目の前で起こっている状況が上手く捉えられない……。
どうやってパンパンに膨れ上がっている、あのテロネーゼ嬢の指から指輪が私に吸着しているのか理解出来ない。
まるで指輪が押し広げられたように私の動作に合わせて吸い寄せられるように密着しているのだ。
少しおそるおそる動かしてみても、それは全く変わる事無く、その動作によってテロネーゼ嬢に更なる苦痛を与えている様でも無いようだった。
まるで魔法でも見ているかのようなその様子に、私もアレクもテロネーゼ嬢も……、そして直ぐ側で見守っていたロナルドも、固唾を呑んでその状況を食い入るように見守っていた。

「……うそ……だろ……。この状況で……まさか、指輪が動き出すだなんて……」

呆然と佇みながらも、ボソリと告げられるロナルドの言葉。
私自身も本当に夢でも見ているような現象だった。

結局、本当に嘘のように、指輪は何の抵抗も無く私の動作に合わせてすんなりと動きだし、添えられていた私の左の掌にポトリと落ちた。
二倍以上にも腫れて膨れ上がっていたテロネーゼ嬢の指から……。

「…………」

驚きすぎて言葉が出て来ない……。
けれどやがて、誰もが目を疑う奇跡のような現象に、暫くの沈黙が続いた後、何処からともなく小さな拍手が聞こえて来た。
それは連鎖反応を齎したように、みるみるうちに大拍手へとなって行く。
私はその突然の状況に如何して良いのか分らず戸惑うばかりだった。

「凄いわ。如何やったのかしら?」

「ねえねえ、マニエール男爵家って何かの術者の家柄だったかしら?」

口々に告げられる周囲の反応に如何対応すれば良いの分らず、額から冷や汗が滲み出て来る……。
周囲にはきっと細かい部分は見えていないから、尚更何が如何なってあの抜けそうにない指輪が抜けたのかが気になって仕方が無いのだろう。
人々の興味を引く大きな出来事が生じたお蔭で、私たち二人の事を噂する話が一切聞こえて来なくなったのは喜ばしい事だ。
けれどそれに代わって耳に聞こえて来るのが自分自身ですら戸惑ってしまっている不思議な現象であるのはいただけない。それに繋がるテロネーゼ嬢と兄であるロナルドの身勝手極まりない噂話は良いのだが……。
本当に人から称賛を受けると言う事に馴れていないものだから、どう対応して良いのか分らない。すっかり時の人になった気分だ……。

「ねえ、アレクシス……。私どうしたら良いのかしら?」

「噂なんて何れ消え去るものだ。そのままにしておきなさい」

「でも……」

「心配せずとも直ぐにそれすら掻き消すほどの騒ぎになるだろうから、私達は安心して観衆を決めこんでおけば良いさ」

「えっ?」

アレクシスに告げられた意味が分からず、私は彼を見つめながら小首を傾げた。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。


周囲がいるから口調自体は他人行儀のそれ。
しかし、込められた想いは充分にマリーを奮い立たせてくれたようですね。

マリーの祈りが指輪にも届いたよう、この不思議な現象は周囲から見ればとっても幻想的で素敵なものだったのでしょうね。

力はあるのは指輪の方なのに、マリーに何かしらの力が勘違いされてることに戸惑っているのはしかたないのですが、あの兄妹の醜聞ならいいって…やっぱり彼女もあそこまでされれば根には持ってるんですね(笑)

アレクは次に何が起こるのかわかっているようですが、その出来事にマリーはどう反応するのかな?

NoTitle 

・・・ん。
ファンタジーらしさがこの辺りから出てくるのですかね。
誰かがつけることで価値を見出す。
そういうモノがあってもいいですね。
それがファンタジーですからね。

yama様 

今日は。

周囲の手前言葉は致し方ないと言う所ですね(笑)
それでもどことなく二人の世界を描きたくて一応頑張ってみました^^

そうですね。この不思議な現象、表現するのが少し難しかったんですが、そう伝わっている事に安堵しました。
遠目で見ていればおそらく魔法や術のようにしか感じられないでしょうし、結局はこういう事になってしまいますね。
マリー自身は自らに力がある訳でも無いので当然戸惑ってしまいます^^;
流石に「呪術ってこう言うものなんです」とはあからさまに言えませんしね(笑)

あの兄妹たちの事は、流石のマリーでも全て無かった事にして許せると言うよりも言われて仕方がない人たちと思っている感じでしょうか。

アレクは次に何が起こるかは分かってますねぇ(笑)
でも、その前に彼は何か考えがあるようですよ♪

いつもコメント有り難うございます。

LandM様 

今日は。

今回はファンタジーらしさのちょっとした見せ場だったと思います。
次回ちょっとある意味横道逸れてアレクが暴走気味になりますがその後また戻ります。(今書いているので正確に何話か分かりませんが)

価値観は人それぞれ違うと思うので選択させるのも一つの手だと思ってます。

いつもコメント有り難うございます。
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