ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《116.暴 露5》

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当時の話を聞き、思わず自分なら如何するだろうかと考えてしまった。
前王様のように協力して下さる方がいらしたら……、本当のアレクシスの想いを、家を飛び出した時点で知っていれば、或いは私も二人で逃げる事が出来ただろうか?
相手の家も全てを巻き込んで……。
思いは二人でと言う気持ちはあっても、行動できるかどうかの判断は直ぐには下せない気がした。

城に上がったポリゼベーテ伯爵夫人が最初に携わる事になった問題が苦肉にも祖父である宰相から依頼を受けた前王様のお妃問題だったと言う。
高官等は、年頃の様々な令嬢や各国の姫など数ある縁談を『気に入らない』『無理に婚姻させるなら臣に下るぞ』等と言い放ち、散々足蹴にし続けてきたて来た問題が、そう簡単に片付くものかと誰もが鷹をくくっていたと言う。
けれど、前王様の好みや気性を熟知していた夫人には、如何やらそう難しい問題ではなかったのか二つ返事で引き受けると、それから地方で開かれる小さな夜会にも出来るだけ多く顔を出し、若い令嬢等と語らい自分の知り得る限りの前王様の理想とされる令嬢を探し始めたのだと言う。
結果、見事に辺境の……貴族とは名ばかりの田舎の領主の娘ではあったが、王太子様の理想に叶うであろう者を見つけ出したのだと言う。
王都の貴族の令嬢達とは全くもって異なり、天真爛漫で無欲そうな自然味溢れる子爵家のとある令嬢。
領主と話をつけ王都に呼び寄せると、前王様の出席される夜会に顔を出させるべく、招待状を持たぬ彼女の為に表向きは自分の侍女として付き添わせ、連れて行ったのだと言う。
事情を知っていた高官等は娘を見るなり、夫人の事を『これだから何も分からぬ女を顧問官等にするからこの座間だ』等と小馬鹿にしていたと言うが、蓋を開けてみれば意外な展開が待っており、誰もが目を見張ったと言う。
決められた出会いと言うものに既に警戒心を抱いている前王様の想いを考慮して、それとなく自分の周囲に置いておいたところ、ものの見事に前王様の目に留まったのだそうだ。
夫人に『あの者は誰だ』と問い正すと、自ら声をかけられたのだと言う。
結果、あれ程今まで難色を示していた結婚と言うものに対し強い関心を示すようになり、自ら地方領主の許にまで足を運んだのだと言う。
これには高官等も諦め顔で、下級貴族と言う想像すらしていなかった出ではあるが、貴族と名がつくからには何れかの名家と繋がりが無いかと探りはじめ、結果としてその令嬢の曽祖父が元王室お抱えの薬術師の弟子であった事が判明し、ある時期城で働いていた実績があった事が判明した。
これぞとばかりに『お妃は元王室お抱えの薬術師ゆかりの令嬢』と公表したのだそうだ。
この事実は私も知ってはいるが、ここまでの詳細は初めて聞いた。
結果として前王様は即位され、1年も経たずして見事に若き王妃を迎え入れる事となったのだと言う。
当時前王様は既に三十歳目前で、ひと回り以上年下の妃に正にメロメロ状態だったそうで、その夫婦仲も睦まじく王室としては珍しく、一人のお妃から3男4女と言う子宝にも恵まれたと言う話しは誰もが知っている事実だ。
それにより国王の縁談を、僅か半年も経たずに纏め上げてしまった夫人をその後高官等も一目置くようになったのだと言う。

「以降王室顧問官に携わる傍らで、悩める貴族の子息や令嬢等の険しい縁談を纏めて来たのだそうよ。だから少し前の世代の方々には夫人に頭の上がらない方々も多いと聞くわ」

女性初の王室顧問官として歴史書で輝かしく名を刻まれている方に、そのような過去があった事を私は初めて知った。

「言っておくけれど、これはあくまでそれに携わった者達と一部の王家に近しい貴族の間でしか正確には知れ渡っていない話だから、内々にね」

「その様なお話を私にしても宜しかったのですか?」

「あら、だって貴女はグラッセ侯爵家に入る人だもの。立派に王家と関わりを持てる方となるわ」

微笑み、さも当然の様にそう告げてくれるアリシラ様の気持ちが、とても嬉しかった。

「さて、後はあの子の力量次第ね。どうやら今の所話は上手く進んでいる様だけれど……」

私達が色々と話をしている間にも、アレクシスとポリゼベーテ伯爵夫人の話は続けられており、耳を向ければ丁度興味深い話をしている最中だった。

「では、マニエール前男爵がそのような事を?」

「はい。ですから、如何か私にお力をお貸し頂けませんでしょうか……」

「確かに、前男爵夫人との縁を結んだのは私だけれど、そんな古い話を持ち出して今更如何にかなるものなのかしら?」

「分りません。けれどここに署名して頂ければ、後は何としてでも私が前男爵を説き伏せてみせます!」

深々と頭を下げるアレクシスの瞳には強い熱意のようなものが漲っており、私は驚愕の眼差しで、それを見つめていた。

「えっ?」

お爺様が何ですって?!
ポリゼベーテ伯爵夫人とのかつての関係性を初めて耳にし、それだけでも驚きだったが、署名って??
私は意味が分からずアリシラ様を凝視した。

「アレクシスはね、何とか貴女の婚約申請書を撤回させようと今までずっと奔走していたの。けれどそれは如何しようもなくて、ならば別の手をと考えて、今も幾つかの策を講じて働きかけてはいるのだけれど、どれもかなりの時間を有する事になりそうなのよ。そこで最後に苦肉の策を講じたの。それがもう一通の婚約申請書の提出と言う案なの」

「もう1通の……婚約申請書の提出?」

まさかの出来事に慄いた。

「親の同意を中々得られず不本意な結婚を強いられそうになっている恋人たちが、頼る事が許される最後の頼みの綱。けれど殆どの場合却下される事も多いし、そうなり世間に知られれば他の良縁は先ず望めない。だから今となってはそのようなリスクを冒す者は殆ど居ないわ。ましてや二重申請なんてもっと稀な話ね。けれど時として有効となり得ることもあるのよ。だからアレクシスは過去に有効となった事例を検証し、ある見解を導き出したの。貴女も申請書にサインしたでしょう?」

「……申請書に?……」

「覚えが無いの? でも申請書には貴女のサインが既に書かれてあったわよ。アレクシスは別邸に迎え入れて間もなくの頃にサインして貰ったって言っていたけれど……」

「あっ……」

そう言えば別邸でのある日の夕食後で、アレクシスと食堂で他愛の無い話をしていたある日、王都で話題の筆跡占いをする占い師の話になった事があった。
『機会があったら二人の事を占ってもらうからこの紙のここにサインして』と言われ、折り曲げられた紙の言われた部分に何の疑いも無くサインした事があった。今思い返してみればあの署名した紙が婚約申請書だったのだ。

「もしかして、抜き打ちだったの? だったら正式なものとは……」

「いえ、大丈夫です。私も婚約申請書の再提出を希望していますから!」

「そう?」

婚約申請書には申請人と推薦人として2名を記す欄がある。
申請人が当事者の親権を持つ者であれば推薦欄は無記名でも良いとされているが、申請人が当事者本人である場合は当事者両名の署名に加え、推薦人の記入が必要となるそうだ。
推薦人は、1名は必ず第3親等以内の親族の推薦が必要とされている。もう1名については成人していれば特に何も問われないらしいがアレクシスの調べによると、両名共に第3親等以内の親族か、或いは権力の高い者の推薦があれば確実性は高まるのだと言う。
話しを聞き、祈る気持ちでアレクシスをとポリゼベーテ伯爵夫人の動向を見つめていると不意に夫人が私の方へ向き直った。

「では貴女がここに記されているマリエッタ嬢なの?」

「はっ、はい!」

「この筆跡は貴方のもので間違いない? 本当に良いのね? 私が署名しても」

「勿論です!」

「貴方も食えない方ね。既に書類が用意されてあると言う事は、彼女とは既に想いを交されている仲なのでしょ? ふっふっふ。でも、良いわ。熱意は伝わったから騙されて差し上げるわ」

そう告げると夫人は書類を手にし、満面の笑みを浮かべた。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。



ポリゼベーテ伯爵夫人の前王のお妃問題の解決と言い、今回のことといい、男女の関係に関してこの国の人々を助けてきたってことですね。
彼女本人が前王に助けられて心に決めた人と結婚できたということもそういう道を選んだってことでしょうかね。


ふむ、売国奴との婚約に対抗する手段としてそういう手立てがあったのですね。しかし占いと称してマリーに申請書を書かせるなんてアレクも抜けがないなあ。
しかしマリー、いくらアレクを信用してるからって書類をちゃんと見た方がこれからもいいと思うよ。アレクが愛情をこじらせたヤンデレキャラだったらどうなっていたかと思うよ(笑)

まあ、これに関して今回即答するあたり、ちゃんと自分の意見をアレク以外にもはっきり言えるようになったなと思ったからこれからも流されずにそういう自信を持っていってほしいですね。

NoTitle 

こんにちわ(^ω^)

ワクワクするような味方を手に入れて、アレクさんとマリーさんの将来に明るい光が差しましたね~。ポリゼベーテ伯爵夫人が柔軟な思考の持ち主で良かったです。

それにポリゼベーテ伯爵夫人の当時の活躍のお話も凄く読んでみたいですw いつかサイドストーリー希望!

この間1話から通しで読んでいましたが、アレクさんてマリーさんよりもちょっと子供っぽい? という印象を新たに受けましたw マリーさんのほうが色々慌てたり世間知らずだけど、でも、何となくアレクさんのほうが子供っぽいなあ、と思ってしまったw マリーさんはあのお母様の娘ですものね。結婚したらどっしりときもが座りそうw

yama様 

今日は。

はい。ポリゼベーテ伯爵夫人は悩める恋人たちや男女の手助けをしてきました。
やはり自分自身の問題が大きく関わって、そして自身も助けられたことからこういう事をむ始めました。

アレクは当初から色々と考えて動いてました。
本人はとにかく一日でも早くマリーを確実に自分の許へ置きたいと思っているので♪
マリーもアレクを信じているから言われるままに書いたのですが、本当にこういう事は今後気を付けないといけないですよね(笑)
とりあえずアレクは今出来る事は何でもやる気でいるので、是非交渉も頑張って欲しいと思います(笑)

マリーはもう覚悟を決めているので、言っていい場所では堂々と公言してくれると思います。

いつもコメント有り難うございます。

ユズキ様 

今日は。

何とかポリゼベーテ伯爵夫人を味方につけられて、良かったです^^

>いつかサイドストーリー希望!

いやぁ、私も書きたいっす!マジで(笑)
ポリゼベーテ伯爵夫人の若かりし頃のサイドストーリィは今頭の中で、まだ王太子様と乳姉弟の状況で城に時折出入りしていた頃の話が頭の中で渦巻いてます。
毎日二人して結婚しろと言われた辺りの驚愕的反応のセリフが頭の中に飛び交ってます(笑)
密にバレンタイン企画で短編書きたかった位。(当時のポリゼベーテ伯爵子息との話か、王太子様に義理チョコもどき届ける話を)
とりあえず、二人で逃げる下りまでは頭の中に出来てるので忘れないうちにプロット書いておこうかと考えてます^^
書きたいものが多すぎて何時書けるか分からないけど^^;、このお話はいつか書きたいです。私も♪

うわぁ、最初から読んだんですか?お疲れ様でした。
はっはは。確かに恋愛についてはアレクも素人なので、行動が子供っぽかったりするかもしれませんね。
きっとマリーは私も将来的には凄く逞しくなると思ってます。
そう威張ったりする人ではありませんが、それとなくアレクを宥めたりする状況になりそうな気は私もします(笑)

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

どこの時代でも恋愛結婚はあるものですし。
そういう受け皿はあるものだと思います。
世間というのものは存外に広いものでございます。
マリーはどうなるんだろう?
(◎_◎;)

LandM様 

今日は。

そうですね。政略結婚が支流の世界ですが、こういう事があるから救われるのだと思っています。
後はアレクに頑張って貰って、早く二人には幸せになって貰いたいと思います^^

いつもコメント有り難うございます。
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