ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《117.戯 言》(アレク視点)

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ポリゼベーテ伯爵夫人が立ち去る姿をマリエッタと二人して深々と頭を下げ見送っていると、何処か人を馬鹿にしたような陰湿な含み笑いが聞こえて来た。

「いい気なものですね。妹を貶めて、そう言う計画だったのですか」

駆け付けた侍医の傍らで、治療の動向を見守っていた筈の男が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ると突如毒を吐いた。
どうやら聞き耳を立てていたのか、はたまた周囲から何かの情報を得たのか、更にまだこの男の相手をしなければならないのかと思うと気怠さを覚えた。
だが、それは致し方ない事かと腹をくくった。
不本意だがマリエッタとの婚姻に関しては、今は未だこの男に話しが優位で進んでいる状況は認めざるを得ないから、そこは冷静に受け止める事にした。

周囲には幾分少なくなったとはいえ、まだ観衆がくすぶっている。
だがその多くは侍医が駆けつけた事により、私達よりもあの女の方に注目が向けられているようだった。
そんな観衆の隙間から、後方で微かに目にした黒衣の人影。
あれは見知らぬ者の姿では無く、おそらく私が良く知る警務騎士団に身を置く人物の姿だったと思う。
彼は何時からここへ来てくれていたのか?
指輪が抜けてから、そう時間を置かずして侍医が訪れたのも彼の指図だとすれば、全てが符合する。
通常こう言う場合、病人や怪我人などは臨時で設けられている救護所に収容され侍医の処置が行われる。だから侍医自らが出向いて来るこの状況は特例に等しい。王族クラスに並ぶ対応だ。
それ故誰かが裏で手を回してくれた事は間違いなく、その経緯について考えた時、きっと彼が状況を考慮してくれたに違いないと感じることが出来た。
お蔭で、残る観衆の目の多くは侍医の診察を受けているあの女の周囲に向けられる事となったのだ。
よって我等とポリゼベーテ伯爵夫人との会話は、多くを他の者におそらく知られてはいない。
この事である程度の騒ぎになる事は致しかないと覚悟をしていから、こちらの意を汲み、公になる事を最小限に留めるようにと働きかけてくれたであろう彼の指示はとても有難い事だった。
にも関わらず、やはり邪魔をする気なのか? この男は……。

「この件とお前の妹の件は別問題だ。混同するな」

「都合の良い話ですね。侯爵家の当主と言う地位にある貴方が何故我々の間に口を挟む必要があるのか理解に苦しみますよ。貴方ならもっとご自分の覇業の為になる相手も望のままの筈だ。なにもこんなたかが男爵家の女如きの為に……」

「……口を慎め!」

怒りを抑え、そう告げるのが精一杯だった。

この男は、何を言っているんだ?!
仮にも自らの伴侶にと望んだ筈の相手に対し、何と言う侮辱的な口を叩くのだ!
一秒たりともこの男の目の前に、マリーを曝したくないと本気で思った。

「何処を慎めと? まあ貴方が何をした所で、所詮悪あがき以外の何ものにもならないと思いますが、せいぜい妹の涙が無駄にならない程度に、頑張られる事ですね」

これはせいぜい書類位は正式に出せるようにならなければ話にもならないと言っているつもりなのだろうか?
何処か嫌味を含み挑発をするようなこの男の発言に、更なる苛立ちを覚えた。

(今言った言葉を絶対に後悔させてやる!)

心に強く誓いを立てて、思わず拳を強く握った。

側に居て怒りに打ち震えているのが分かったのか、マリエッタがそっと私の腕を掴むと心配そうにこちらを仰ぎ見ていた。何か言いた気に……。
ああ、分かっている。ここで抗っては相手の思う壷だと、私もその事は十分に理解している。
リレントの強い視線も後押しとなり、私は決して毅然とした態度を崩さなかった。

「大丈夫だ。このような挑発に乗るほど私は愚かでは無い」

「挑発?! ハッ、真実ではないか!」

何を言った所で、この男にこちらの思いが率直に伝わる事はおそらく無い。ならば取る態度は一だ。

「では、是非そうさせて貰おう。貴方の妹の痛みが無駄にならないように……、ですね」

柔らかな笑みを浮かべてそう告げてやると、まさか私からその様な反応が返って来るとは思ってもいなかったのか、奴の表情が一層激しくなった。

「なッ!!」

怒りを向けられた所で、最早痛くもかゆくもない。円満な態度で返り討ちにしてやると心積もりでいると、あの女の手当てが終わったのか侍医が声を掛けて来た。
その声に慌てて男は妹の側へと駆け寄った。
状況としては悪くない。とてもいいタイミングだったと思う。

「とりあえず応急的修復術は施しましたが、思ったよりも痛みや腫れも引きませんので、おそらく折れた個所は複雑化しているものと思われます。本来ならば開術を施しながら修復術で治して行くのが一番なのですが、お嬢様がそれを拒まれますので、このままでは完全な快復は望めません……。痛みもおそらくは残るでしょう」

「そんなッ……」

軽い骨折程度ならば侍医によるこの場での修復術で骨を繋ぐことが本来ならば可能な筈だ。だが砕けていたり複雑化した骨折等の場合は部位を開き直接目視で細かい修復術を行う必要があるのが通例なのだが、この女はそれを如何やら拒んだらしい。その場合完治は難しくおそらく痛みも残るだろうとの事なのだが、それを示唆すればあの女はつべこべいわずに治せと言い張っているらしい……、あの女らしい発言だと思ったが、そこまで憎まれ口を叩けるのであれば、あの女の場合それ位が丁度良いのではないかとさえ思えてしまう。
だが、その話を聞きマリエッタは何処か沈みがちだ。

「きっと、大切な薬指に傷を残すのが嫌なのよ……。可哀想に……」

この期に及んで、この情け深い言葉を紡げるのはマリエッタならではだと思った。

「適切な侍医の見解を受け入れられないのであれば、それは致し方ないわね。後は彼女個人の問題よ。私達には何の責任も無いわ」

叔母上の言う通りだ。我等の出る幕は最早何処にも無い。

「そうだ。マリーが責任を感じることは何一つない。全ては奴らが自ら起こした事だ」

マリエッタはの肩を優しくたたき慰めながら様子を伺う。
マリエッタの優しさがあの女に少しでも通じれば良いのにと願わずにはいられない。
そんな事を思っていると、突如後ろから数人の者が駆け寄る足音が聞こえて来て、慌てて振り返るとその姿を凝視した。
まさか、奴がこの場に来てくれるとは……。
思いもよらぬ者の登場に、私は彼に視線を送ると満面の笑みを湛えた。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。



私生活がお忙しい中、このようにしてお話を書いて頂いていることに感謝しながらお話を楽しんでいます。
リアルが大事ですので、涼音様のペースでごゆっくりお話を進めてくださいね。完結を目指される以上、最後まで応援しております。


お話に関しての感想につきましては、売国奴を始め悪役は自分の物差しで相手の心情を下種の勘繰りではかっていますが、たとえそれが事実だとしても遠吠えにしかならないから不快を通り越して呆れ果ててしまいますよね。

こいつも本気でマリーを想ってたならともかく、ただ利用するだけのようですし、それに関しては歪んでいるもののまだ妹の方がましな感じもします。

マリーはマリーでいい加減そんな女ほっとけよってなりますがそれも彼女の美点でしょう、それを相手に付け込ませる甘さにさえならなければマリーは成長したということにはなりますね。


さて、新しく表れた者はアレクが奴と言ってるからどちらかといえば敵のほうか、アレクにとってはこれもチャンスなのかな?

yama様 

今日は。

そう言って頂けると有り難いです^^;
私は書き始めたら何が何でも完結させることが大事と思っているので、そこは頑張ります♪有り難うございます。

本当に、ロナルドもテロネーゼも自分の尺度でしか物事を測れないので呆れ返りますよね。こういう人たちはもう放置が一番です。
マリーに関しても本当に利用価値があると言う尺度でしか捉えていないので、心底マリーに惚れ込んでいるアレクシスから見れば憤り以外感じるものはありません。(本当に彼は今腸が煮えたぎる状況で居ます)

本当にマリーはそんなのほっとけって感じなんですが、彼女気にしちゃうんですよね……。書きながらこの言葉が出て来た時、とっても彼女らしいなと思いつつ、だからと言ってこれ以上絆されることは無いなと確信して書いていました。そこは彼女も分かっていると思います。

新しく現れた奴は、敵としての奴なのか、はたまたとても親しい人間に対しての親愛を込めた奴なのか?
次回そこは分かるので、お楽しみ頂ければと思います^^

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

こんにちわ(^ω^)

アレク視点、やっぱ男はそう考えるだろうけど、女子はそうは思わないものだよね~とあらためて思うw
マリーさんの性格からすると、同情しちゃうのだろうし、同じ女として判っちゃうんですよね。そういう年頃の乙女心が理解できないあたりは、アレクさん未熟ですね(・ω・) まあロナルドさんもいるし盲目状態でそれどころじゃないでしょうけどw

アレクさんが満面に笑みを浮かべる人物、次回楽しみです(^ω^)

ユズキ様 

今日は。

やっぱり、こういう傷って言うのは女は考えちゃいますよね~。
特に年頃の娘だと尚更。
アレクはマリーの為ならば思考フル回転で色々考えちゃいますが、他の女……特にどーでも良い輩の事は全く眼中にないです(笑)
それに「絶対にこんな男にマリーは渡さない!」って今必死こいている最中なので、余裕も勿論ありません。

アレクが満面の笑みで迎える人物は、ヒント。新キャラではありません。
っていう事で、次回直ぐに素性は暴露されるので、お待ちください^^

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

もとより女性の世界は分からない世界ですが。
女性は女性の慈しみと矜持がありますからね。
そこを忘れぬのも大切なことですね。
薬指かあ。。。

LandM様 

今日は。

こういうのは確かに男性には理解しにくい点もあるかもしれませんね。
左手の薬指と言うのには神聖な場所に私は思えます。
今の職場につく折に、規定により結婚指輪を外す事になっていたのですが、それにも当初凄く抵抗がありました。
勿論外さなければならない理由は理解しているので、受け入れられるものでしたが。
まあ、拘らない人もいるでしょうし、私は傷ついても指輪で隠れる程度の傷なら返ってラッキーと思うかもしれませんが、それでもやはりできれば傷つけたくないと思ってしまいます。
やっぱり一番大切な指には変わりがないかな。うん。

いつもコメント有り難うございます。
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