ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《118.証 憑》(アレク視点)

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黒衣の集団の中に唯一人だけ万全と輝く裏地が黄金色のマント。
肩から前部に吊るされている金の飾緒(モール)を身に付けることを許されているのは、この国でただ一人だけだ。
いつもこう言う場では自らの能力を最大限に生かし少し離れた距離で王の護衛を務めながら城内の全ての警務的情報を収集把握しながら指示を出す者。警護に務めている者の全ての長である警務騎士団統帥長をおいて他にない。

「良く……抜け出せたな。全く……」

まさかの彼の登場に、思わず言葉がポツリと漏れた。
この場にはきっと、先程姿を垣間見た彼の側近であるユリウス殿が現れるとばかり思っていたのだが……。

「この距離ですと遠隔護衛でしょうか? 全く統帥長殿のお力は想像の範囲を超えていますね」

「奴にしか出来ない芸当だな」

我が国の警務騎士団には通称黒騎士隊と呼ばれる一定以上の剣の腕と共に、ある種の何らかの術を同時に用いる事の出来る黒衣に身を包み遠隔的に人々を守ることが出来る黒騎士隊と、俊敏さとあらゆる剣や武器に長け、情報収集や厳密な調査のエキスパートとなっている紺衣に身を包んだ通称青騎士隊と呼ばれる2つの能力からなる編成が組まれている。
こう言う城で開かれる国家的行事開催時には二人一組の編成で黒騎士隊が遠隔的に監視しその目に留まった不審者を青騎士隊が調査し二人で対処すると言う二重編成で組み込まれる事が通例と言われている。
その両騎士隊の長であるのが彼、警務騎士団統帥長パウウェル・サンドールで、通常こう言う場では王の護衛の任に一人で就いているのだがそれには理由がある。
我が王は、常日頃から自らを特別視した様な護衛と言うものを煩わしがるきらいがあり、側に付けたがらない。特にこう言う祝いの席では尚更だ。だが警護する側にしてみれば、こういう時こそ人ごみに紛れて思わぬ敵が隠れている事も多々ある為、結局誰よりも複数の術を有する事が出来、剣の腕も国内屈指の腕前であり、遠隔護衛については誰よりも最も遠距離を視ることが出来る彼が一人で王の護衛の任に就いていると言う訳だ。
勿論今この場においても遠隔護衛はおそらく行われており、彼の指示で直ぐ動けるように青騎士も王の側に隠れて待機しているのだろうが。
加えて彼はこの場で起こる全ての警務的役割の指示も出す訳だから、その精神力と言うものは誰もが絶対に真似できるものでは無い。
普段でも堅苦しい護衛を王が嫌う故、時折護衛の目をすり抜けて姿を見失う事もあるらしく、他にもやるべき事が多々あるにも関わらず、彼は他の者に王の護衛を任せている傍らで、それでも城内に居る時は何かと意識の隅で王の姿を監視していると言う。
何かの異変を感じた時には、自らの側近兼黒騎士隊隊長であるユリウスをつける事もあるらしく、彼の苦労は尽きないようなのだが、それに加えて本日のこのような騒ぎ。
彼には少なからず申し訳ないと言う気持ちも正直ある。

彼とは、父が亡くなり15歳で家督を継いで出仕して間もなくの頃、叔母を介して王太子殿下夫妻宅の晩餐会に招かれた時よりの付き合いで、その後出仕の折でも良く面倒を見て貰うようになった。
叔母の計らいで王太子殿下とも度々茶会の席で顔を合わせるようになり、将来新政権後についての改革案なども共に語るようになり、いつしか親しい友となった。
あの時共に語った事をいつか現実のものとする為に、今は各々の置かれた立場で私達は精進している身だ。

だが、そんな彼が何故この様な場に現れるのか?
王の宣下がなければ、本来この様な場まで王と距離を置く事は先ず無い筈なのに……。

それ故彼の登場に、辺りに居る者達が皆、息を飲んでいるのが伺えた。

「テロネーゼ・セオン・ドワイヤル、貴女が城内において招いた混乱の一部始終は、我が精鋭の手により既に調べがついている。よって是非お話を伺いたい」

口から零れ出た言葉は、とても彼でなくてはならないと言う様な特別な内容とは思えない。

「こっ、混乱なんて、妹は起こしていません! 妹はただ、グラッセ侯爵家の指輪を拾って届けただけで……」

「そうです。兄の言う通り私は被害者です。このような手傷までおってッ」

「黙れ! その件に関しては、既に侯爵より紛失及び盗難双方の届がなされてある」

「とっ、盗難って……そんな……」

まじまじと提出された盗難届の書類を目の前にし、呆然と立ち尽くすドワイヤル兄妹の姿。

「盗難届については状況を見定め、直ちに返還に応じた場合はこの申し出を却下するとの情けある覚書もここに記されているが、どうやらそうでは無かったようだな」

紛失届の事は知らせていたが、盗難届まで提出していたことは敢て伏せていた。
あくまで本人達の良識に、そこは任せてみようと……。それは私が最後にかけた情けにも似た感情だったのかもしれない。

「そっ、それは……ッ」

目に見えて狼狽している二人を私は冷ややかな目で見つめていたが、傍に居るマリエッタだけは私の上着の袖を震える手で握り締めながら、何処か同情的ともいえる眼差しで、女の方を見つめていた。
この期に及んで、この女の何処に同情をする余地があると言うのか、私には全く理解出来なかったが、そんなマリエッタを私はとても好ましく思う。
彼女の腰にそっと腕を回すと、私は素早く自分の方へと引き寄せた。
少し驚いた眼差しで頬をほんのり染めて私を見上げる彼女が愛しくてたまらない。
私はマリエッタを抱え込みながら状況を、依然冷めた目で見守っていた。

「加えてこの場にて警護の任に就いていた我が配下の者よりも、既にグラッセ侯爵に対する恐喝未遂の現場を見届けたとの報告も受けている!」

「きょっ、恐喝だなんて……、私はただ……ッ」

しかし、この茶番じみた出来事を処理するだけの為に、一体何故彼ほどの……、警務騎士団統帥長と言う役職の任に就く者が現れたのか?
それだけは不思議でならなかった。
まさかロナルドの件が既に固まったのか?!
いや、それはない。隣国ステガルドとの交渉は始まったばかりだ。だとすれば……。

(あっ……)

ある事が頭を過り……、私は少し申し訳ない気持ちで我が友パウウェル・サンドール警務騎士団統帥長を見つめた。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。


現れたのはパウウェルさんでしたか。
上層部は意外と速く問題解決の糸口を見つけられているようでしたね。
彼らの優秀さが伝わってきます。アレクにとってのマリーのような精神的不確定要素となるものもなさそうだしいざとなったら頼れる人達ですねえ。

売国奴達は売国奴達でもう『何故ごめんなさいといえんのだ!』な状態にまたなっています(笑)
マリーはマリーでいい子すぎますよねえ。

アレクは何かを察したようですが、意外と物事は良い状況になっているのかな?

yama様 

今日は。

はい。現れたのはパウウェルでした^^
彼はもうバリバリに頼れる人なので、アレクも何の心配も無い事でしょう。
彼の所では他にも色々調査されているようですし。

ああ、この兄妹は……中々ご免なさいと言えないですね^^;
マリーは本当に良い子なので、彼女には是非このまま幸せになって貰いたいですね^^

アレクが気付いた事は次回何だったか判明します。
きっと告げられたら皆さんに頷いて貰えると思うのですが、如何でしょうか?(笑)
状況はかなりいい方向に向かっているかな。

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

こんにちわ(^ω^)

弁解の余地なし、とか思ってしまいましたけど、テロネーゼさんもさすがに強気な態度が通用する相手ではナイと判っちゃいますよねえ・・・相手の役職が有無を言わさないとというか。

好きな人を巡っての指輪騒動が、ヤブをつつきすぎて大蛇が出ちゃった心境のテロネーゼさんな気がします(;・∀・) 確かにアレクさんを恐喝していましたよね、正々堂々と(笑)

パウウェルさんの登場の意味、次回楽しみにしてます!

ユズキ 様 

今日は。

二人とも、何とか弁解しようと試みてはみたものの、それがまかり通る相手ではないのだと、そろそろ気付き始めているでしょうか?(笑)

>好きな人を巡っての指輪騒動が、ヤブをつつきすぎて大蛇が出ちゃった心境のテロネーゼさんな気がします(;・∀・)

正にそれを今ひしひしと感じているのではないかと思われます。
あそこまで公に恐喝もどきをバリバリしていたら(笑)
パウウェルもおそらく面倒な奴らと思っている事でしょう。

パウウェルの洗われた本当の理由、告げられ納得して頂ければと思います。

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

・・・。
・・・・。
・・・・・・。
確かに茶番ですね。
モノに心を奪われた妄執という名の茶番ですね。
それを冷静に見つめ直す機会ですね。

LandM様 

今日は。

的確な表現、有り難うございます^^
確かにモノに心を奪われた妄執という名の茶番ですね(笑)
パウウェルが否が応にもそこは冷静沈着に処理してくれる筈なので、そこをまたご覧頂ければと思います。

いつもコメント有り難うございます。
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