ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《120.発 動》(アレク視点)

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呪術についての言動は、くれぐれも気をつけるようにと言われていたから自分としてはそれなりに言葉を選んで口にしていたつもりだった。
叔母上についてもその事は言わずと理解されている筈だから、私から事前に注意を促す行動を取らなかったのも事実だ。
叔母上も最初は言葉に気をつけ、かなり配慮された口調で話されていたから安心していたと言うのもあるのだが、よくよく考えてみればあの叔母上の気性を思えば、やはり事前に釘を刺しておくことが必要だったのだと、今思い返してみればそう感じずにはいられない。
だから今回の件は全て私に責任があるのだ。

叔母上の口調が変化したのは、あの男がやみくもに呪術に対する疑わしき言葉を投げつけて来た事がきっかけだった。
幾つかの口論じみた言葉のやりとりがあった後、それとなくだったが、確かに呪術が蔓延っていた時代の背景の話を叔母上は口にしていた。
少し不味いとは思ったものの、でもあの場合は……、致し方なかった面も拭えなかったと理解している。
だが、それはあくまでもこちら側の個人的な見解でしか無い。
我が家としてはそれ位で済まされる話でも、国家、或いは王家にしてみれば、冷静に受け止められる話では無かったのだ。
一貴族としてみれば一族の中に王家の血が流れている事を誇りに思うし、時代の背景からして呪術のかけられた品々が現在所有されている事に対しても、少々扱いに気をつけなくてはならないが不都合と感じる程のものもなければ恐怖も何も感じない。それは我が家が長きに渡り既に呪術との共存が習慣的日常の一つとして受け入れられて来た事だからなのかもしれないが、おそらくそれは他の解術を施されて居ない品々を保有している高家の家々も同じだと思う。
だが、そう言う習慣が既に途絶えてしまっている家々の方が今の時代には多く、そうなればおそらく呪術に対する受け取り方が大きく異なる事は致し方ない。
呪術と言うものに対しては、良き時代を形成していた歴史の一部としては誇らしく思う反面、廃されるきっかけとなった黒き呪術がはびこり始めた時代においての印象はおそらく強い恐怖を覚える者達も多いと思う。
故に呪術に対する見解は人それぞれ異なる事も多く、重々しく受け止める年配層に比べれば、特に呪術に対する恐怖を取り除く為に近年、新教育方針改革案から盛り込まれた資料に基ずく教育を受けて来た若い世代にとっては、黒き呪術の存在自体は悪しきものと捉えても恐怖を感じる様には教えられてはいなかった。
故に呪術に対する危機感は薄く、あの女の様な輩が出て来るきっかけになったのかもしれなかった……。

「お前にもそれなりの言い分はあるだろうが、私は今国家における杓子で物事を計っているからな。そこは分かってくれ」

「勿論だ」

今が平穏な時代であるが故に、そこは配慮してくれと言いたい風だった。

「だが、まさかこの話がこんなに早く王陛下の耳にはいるとはな……」

「こう言う場では噂が独り歩きするのにそう時間はかからないからな。まあ今回の場合は、謁見の列をなすご夫人の一人が他のご夫人と話をされているのをたまたま王陛下が耳にされてな。噂好きのご夫人等がどれ程多いかと言う証明にもなったな」

「成る程。そう言う事か……。ご夫人等の噂話を正に侮るなかれ……って事だな」

「全くだ。と言う事で、納得したのなら早速始めさせて貰うが良いか?」

「ああ、頼む」

「ユリウス、彼らに防御を」

「はい、閣下」

この国には規制により、王陛下の命があって初めて発動する事を許されている術と言うものが存在する。
かつての呪術ほどの危険性はないが、それは忘却術と言うもので、使い方一つで他の者の人生をも大きく変えてしまう恐れがある事からその術は戦場以外の場での使用は本来堅く規制をされている。
小規模のものであれば他の黒騎士にはその術が使える者も居ると言う話しだが、細かく誰が耳にしたかも分らぬこの状況では調べながら術を施して行く事はかなり困難な状況だ。ならば大規模的な発動を施すしか無く、となればそれを熟せる者はこの国において唯一人しか居なかった。

我が国で、ある種の術の使用に規制を儲けるようになってから久しい。
事の始まりは、かつて我が国に輝かしき時代を作った呪術の歴史が大きく変わりはじめ、暗黒の時代へと陥れるかもしれない危うい事態となった経緯によるものが大きい。
当時それを救ったのが忘却術の存在で、悪しき術者に忘却術を用い、それを防いだのだと言う。
以降国家は破滅の道を歩む危険を取り除く為に、当時呪術を禁じる法案を可決すると同時に危険度の高い術の使用に規制をかけたのだと言う。
それが本当に我が国の為になっているのか如何かについては、多くの歴史家の意見が分かれるところではあるが、今呪術を廃し平和が訪れているのは事実だ。
故に呪術に対する必要以上の知識も今は不要だと言う事だった。

「では、グラッセ侯爵とベアレーゼ侯爵夫人、そしてマニエール男爵令嬢はこちらへ」

告げられた言葉に大きく頷くと、私はこの現実を重く率直に受け止め、せめてこれから行われるであろう彼の作業の邪魔にならない様に心がけた。
叔母上は、言わずとも何処か納得した様子だったが、マリーは全くこれから行われるであろう事を予測できない様で、何処か不安そうにこちらを眺めていた。

「大丈夫だ。何の心配も無いから。良いね」

「はい……」

その腕にマリーを引き寄せ、叔母上と共に大きく広げられたユリウスのマントの中に身を小さくして納まると、その姿を隠した。
それを確認すると、パウウェルが大きく深呼吸をし、無言で何かを唱えるような仕草を見せた後、次の瞬間神々しい薄紫の淡い光が上空に舞った。

「侯爵、目を瞑られていてください!」

ユリウスの言葉に私は瞳を閉じると、その光が城内に降り注がれるのを待った。

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~ Comment ~

NoTitle 

・・・呪縛というものは沢山ありますね。
血も呪縛ですし。モノという呪縛もある。
人は何かに縛られないと生きていけない生き物なのかもしれないですね。

LandM様 

今日は。
そうですね。呪縛系のものって結構耳にしますよね。
確かに、人は何かと縛られると言うのは適切なご意見かもしれませんね。
想いに囚われると色々な事に陥ってしまいそうですし……。

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