ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《129.回 想5》(アレク視点)

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懐かしき想い出と共に、封じ込めてしまった感情。
あの頃の私は、微かに初恋にも似た思いをあの少女に抱いていた。
会えば温かな陽だまりの中にいるかのようなとても心地よい安らぎを得ることが出来た。
いつしか彼女とはこれからもずっと……、出来る事ならば共に在りたいと願うようになっていた。
だが母が他界し、続いて父も母の死の悲しみから逃れるかのように没頭する職務の中で、過労に加え流行病にかかり2年後、呆気なく後を追う様にこの世を去った。
その事で私の内に秘めていた想いは大きく方向を変える事となってしまった。

名のある侯爵家の長子として生を受けた時から、自らの向かうべき方向性は義務付けられていて、幾分早くはなったが高士教育過程を既に終了していた事から、出仕に対する心構えは既に出来ていた。
それが自らの抱く私的感情より優先しなければならないと言う事も理解していた。だから懸命にこれまで政務に打ち込み没頭し、ひたすら頑張って来たのだ。
その甲斐あってやっと近頃では周囲からも認めて貰えるようになった。正に全てが順調だった。
だがここに来て、縁談と言う名の一筋縄ではいかない難題が持ち上がってしまったのた。
はっきり言って閣下からの話があるまでは、全く眼中にない事柄だった。
だが自分が今、そう言う事に目を向けなければならない時期を迎えているのであれば、あの時心に堅く封じ込め置き去りにして来た過去の想いを、そろそろ振り返ってみても良いのではないのだろうか……。

今彼女に会ったら自分はどの様な感情を抱くのだろうか?
今無性に彼女に会いたいと思う気持ちは確かだが、それが意味するものは一体何なのか?単なる昔を懐かしむ意味での感情なのか、それとも別の意味を含むものなのか?
とにかく会ってみなければ何も始まらないし、次へは進めない。
それを見極める意味でも私はやはり一度彼女に会うべきだと思った。


次の休日、予定されていた我が領地の視察を早々に切り上げて、従者リレントと共にマニエール男爵邸のあるカスターゼまで馬車を走らせた。
揺れる馬車の中で思い出されるのは、やはりあの頃の幼き少女の屈託のない笑顔ばかりだった。

(こんな事では、もしマリエッタが変わってしまっていたら、私は落ち込むかもしれないな……)

等と自らの抱いた感情に突っ込みをいれて苦笑いを浮かべていると、リレントの添え口が待っていた。

『そのように楽しみにしていらっしゃるのでしたら、男爵家に面会の申し入れをなさいますか?』

『いや、良い。気にするな……』

形式ばった繕ったようなマリエッタに会っても意味が無い。
私は若い令嬢が取り繕ったような形式ばった姿が見たいのではない。あの頃のままの、伸び伸びとした彼女の姿を垣間見てみたいのだ。
晴れた日のこの時間は遠乗りに出かけるのが日課だと調べもついている。
この先にはマニエール家所有の馬場があると言うから、そこまで行けばきっとマリエッタの姿は垣間見れる筈だ。
そう思い、リレントの言葉をそのまま退けたのだった。

カスターゼに入ると幾つもの小高い丘が視界に入って来た。
緑の多い自然豊かな地だと、率直的に思った。
馬車の窓から入り込む香しい青草の匂い。王都から2時間も離れると空気も一味違うのだなぁと穏やかな感想を抱きながら丘の向こうに目を向けると、少し遠目だが艶やかな茶褐色の長い髪を靡かせ、馬に乗り颯爽と駆け抜ける若い娘の姿が視界に飛び込んで来て一瞬息を飲んだ。
目が離せなかった……。

(マリエッタだ!!)

直感的にそう確信する何かがあった。


娘は近くまでは来ないまま、結局はまた離れてしまい見えなくなってしまったが、一瞬だけこちらを気に掛けた様に振り返った。
彼女は私に気付いた様子は無かったが、その瞳の色はあの綺麗なマリンゴールドで、私の想像以上に現実の彼女は輝いて見えた。
まさか、この様な所で会えるとは思いもしていなかったが……。
ハッキリ言って、参った……。
あの頃と変わらない屈託のない笑顔で、後方から追い駆けて来る侍女を時折振り返りながら労わる様な仕草。
侍女を気遣う優しさも昔のままだ。
若い娘へと成長を遂げたマリエッタの生き生きとした姿は、またしても瞬時に私の心を鷲掴みにし、虜にしてしまったのだ。

『如何なさったのですか?旦那様』

微かに全身が震えていた。
感動で身震いすると言うのはこう言う事なのだと、この時初めて私は体感したのだ。
愛しい――。
胸にこみ上げて来る思いは、そう呼ぶことが相応しいと理解した。
正にそれは溢れ出る程で、思わずその場で先程リレントに否定した言葉を訂正すると、私はマニエール男爵の許へ訪れ求婚の意思を露わにしたのだった。

『正式な話は娘が成人をしてから伺おう』

男爵からはそう言われたが、かなり乗り気の様子で握手も交わした事から、私はこの話が既に決まったものと捉えて、マリエッタを想い2年の歳月を過ごす事となった。
以降、多く寄せられるようになった縁談事の殆どは有無を言わさず断った。だが、閣下からの申し出だけは無下にする事も出来ず、その対応にいつも困り果てていた。

『君が今は政務に打ち込みたいからと既に幾つもの縁談話を断っている事は承知している。けれどね、そろそろ如何かと思うのだよ。こうも縁談に消極的な背景には何かあるのではないかと噂する者もいる』

『そんな! 私は唯、本当に今は必用と思っていないだけで、ゆくゆくは……』

マリエッタとの話は、彼女が成人した後にと言う運びになっていた事から公にする訳にも行かなかった。もし男爵との約束を破り閣下とは言えども他者に知られるような事となり話が漏れれば大変な事になる。
話を反故にするとでも言われてしまえば取り返しがつかない!
それだけはどうしても避けたかった為、とても自の口から公にする事だけは出来なかったのだ。

『だったらそろそろ私の紹介する令嬢等に会うだけでも会ってみたら如何かね?とりあえず茶会の席を用意するから』

『…………』

結局マリエッタとの話を隠す為に『一度、会うだけならば……』との約束で、閣下からの申し出のあった数人の令嬢とは何度か茶会と称して邸へ赴きもしたが、全く心が動く事は無かった。

当時は閣下からの申し入れを、仕事一筋で全く結婚する様子も無い私を心配し、気に掛けて下さっているのだろうと漠然と好意的に捉えて受け止めていたのだが、今となり冷静に振り返ってみれば、自らの後ろめたい行いを隠す為……、ひいてはパウウェルの周囲を警戒して私から様子を探ろうとしていたに違いなかったのだ。

それから色々と我等には波乱も待ち受けていたが、今マリエッタはその最中でも私と共にある事を選び、傍に居てくれている。
それは私にとってこの上ない至福の時を齎していた。


※ 一部加筆しました。

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NoTitle 

難しい男だな・・・アレク・・・( 一一)
生き様はカッコいいと思うが、自分の気持ちに正直に生きるのも大切だと思います。

LandM様 

今日は。

アレク、ホント真面目ですからねぇ(笑)
まあ、今となってはマリー相手に対しては、正直にならざるを得ない状況になってますが(爆)
昔より幾分今の方が柔軟性はあると思いますが、それでももっと肩の力抜いて生きた方が楽と思う部分もありますね。書いていて。
まあ、それが彼の良い所であり悪い所でもあると私は思っています。

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

更新、お疲れ様です。

自分で考え行動して認められていく中、余裕ができたのかマリーのことも思い返していったんでしょうね。

しかし、田舎に住んでた人が都会に出て初めて田舎を客観的に見れるようになると同時に、一度離れれば身近な人のことも冷静にみることもできるようになるってことかなあ。

その後のアホみたいなマリーとのすれ違い劇はこういうアレクの直情的な本質のようなものがあったんでしょうね。今の冷静さはパウウェルさんと出会った後のことから身に付けたもののようですし。

とりあえずアレクもマリーも彼らを始めとして本当に助けてくれた人に感謝しながら二人の時間を大切にしてもらいたいな。

yama様 

今日は。

そうですね。周囲にも段々認められるようになって来て、振り返る余裕が出て来ました。

物事を客観的に見ようとした時、冷静な判断を下す意味で一旦離れてみると言うのも一つの手だと私は思っています。

本当に両思いなのに、あれだけすれ違って^^;
アレクは侯爵家の長子としてそれなりの教育も受けて来ている人ですし、表面的には周囲を見て冷静な判断を下すと言う事を意識として心がけて行動できる人です。ですが高みを目指そうとすればより強い意識が必要で、そう言う面はパウウェルだったり、推進改革委員の一人としての培う中で身につけて行きました。
でも、本質としてはああ結う所のある人です。そして事、マリーが絡んでくると未だに冷静な判断ができるか不安が生じるのは事実です(笑)

本当に二人は周囲の人たちに感謝しなければなりませんね。
多くの人を巻き込んだ分、幸せになって貰いたいです^^

いつもコメント有り難うごいます。

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