ずっと心に決めていた
ずっと心に決めていた《132.追 手》(アレク視点)
今おそらく一番会いたくないと思っていた人物。
その者が、奥方を振り払いながらこちらに向かってやって来る!
思わず額に手を当て、その姿に頭を抱えた……。
さて、如何したものか?
状況から見ると、どうやら夫人は男爵を説き伏せる事に失敗した様子。
時間からして、この場所に直接やって来たと言う事は、戻って来た侍女にでも事を問い詰めた結果なのだろう。
男爵に限らず一旦感情が高ぶって来ると人は容易に他人の意見に耳を貸さないものだ。
加えて男爵の場合それが人並み以上に過剰に反応するように見受けられる事から直面した場合、容易に説き伏せる事は困難に思われた。
「どっ、如何致しましょうか旦那様ッ。国務室への直路の方角から……」
こう言う状況に不慣れな為、かなり慌てた様子のサンデスを宥める為にも、ここは私がより冷静な判断を下す事が問われる所だ。
「落ち着け、退路が全て絶たれた訳では無い。直路を辿るばかりが近道ではない。戻るぞ!」
「はっ、はいッ」
急ぎ振り向き元来た道を戻ろうとしていると、後方から『待て! この小僧ッ!!』等という声も聞こえて来たが、それを待ってやる言われはない。
勿論無視して後を追う形で来た道をひた走る。
その場を離れたばかりのマリーの名を呼び傍まで駆け寄ると、その右手を急ぎ取った。
「えっ?! アレク?? 一体???」
何が起こったのか全く分かっていない様子で、小首を傾げる仕草の何と言う可愛い事か!
だが、それを見入る余裕は何処にもない。
「リレント様、マニエール男爵様ですッ」
私に続き駆けて来たサンデスが、事情を伝えるその言葉に驚た様子で目を見開くと、私の手の中にある小さな手が縋る様に強く握り返して来るのを感じた。その手は微かに震えている。
「大丈夫だ。何があってもマリーを渡す気はないから。それよりも、少し予定を違える事になるけれど、構わないかい?」
「ええ」
「一緒に来て貰っても良いかな?少し疲れさせちゃうかもしれないけど」
「そんな事気にしないで、少しでもアレクと一緒にいられるなら、その方が嬉しいわ」
「そう?」
こんな時だと言うのに互いに顔を見合わせると、思わず綻んでしまうのは許してほしい。
我等の様子に瞬時に状況を見極めたリレントが、目配せした私に対し頷いた。
どうやら今の会話だけで私の考えは全て飲み込めたようだ。流石だ。
直ぐには無理だろうが、サンデスにもこれからこう言った物事を冷静に捉え、瞬時に相応的機転をきかせると言ったものを習得して行って欲しいと思う。
まあ、これもそれなりの場数を踏まなければまだまだ難しいだろうが。
リレントは更に表情を険しくすると、強い口調で言葉を吐き捨てた。
「サンデス! お前はお二人と共に旦那様を西棟から城の中へ! 南の回廊から北へ抜ける途中の三本目の松明を東へ進めば城中門まで出られる道がある。そちらから国務室へッ」
「はっ、はいッ!!」
「私は男爵をこちらで食い止めますッ。旦那様、御急ぎを!!」
「済まない。とりあえず、ロナルドの件は今日の惨事だけは報告してやれ。妹の件でとは言え政務騎士団から聴取されていると聞けば、奴に固執する状況も幾分変わってくるかもしれないしな。そうなってくれれば私としても今後少しは状況を打破しやすくなるんだが……」
少しの期待を抱きつつ、言葉を畳んだ。
「心得ております」
既に私の考えの全てを把握しているであろう彼の口ぶりは、精神的に追い詰められそうになっている自分を安堵させるものだった。
不安そうにこちらを見上げるマリエッタに私は微笑みかけると、その手の甲に口づけた。
「何があっても私はこの手を離す気は無いから安心して。西棟まで少し走るよ」
「はっ、はいッ!!」
一瞬の出来事での的確な判断。ここで邸にそのまま戻るのは如何考えても得策ではない。
だったら残された道は一つ。一緒に連れて行かない手はない。
男爵には、これから私が何処へ赴くか等知る由もない。ならばマリーと共に最初の案を実行するのも一案だと思い至った。まあ強制はできないし、これも全てはマリエッタ次第なのだが……。
少しの不安を抱きながらの行動ではあったが、この状況でリレントも瞬時に同じ判断をしたと言う事が、更に私を安堵させていた。
きっと頃合いを見計らいリレントは男爵を解放するだろう。
だが、こちらから逃げたとなれば通常向かうと思われる先は裏手門だ。裏をかくには、この案は最高だと思っている。
私は後ろを振り返る事をせず、そのままマリーの手を握り走り続けた。
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その者が、奥方を振り払いながらこちらに向かってやって来る!
思わず額に手を当て、その姿に頭を抱えた……。
さて、如何したものか?
状況から見ると、どうやら夫人は男爵を説き伏せる事に失敗した様子。
時間からして、この場所に直接やって来たと言う事は、戻って来た侍女にでも事を問い詰めた結果なのだろう。
男爵に限らず一旦感情が高ぶって来ると人は容易に他人の意見に耳を貸さないものだ。
加えて男爵の場合それが人並み以上に過剰に反応するように見受けられる事から直面した場合、容易に説き伏せる事は困難に思われた。
「どっ、如何致しましょうか旦那様ッ。国務室への直路の方角から……」
こう言う状況に不慣れな為、かなり慌てた様子のサンデスを宥める為にも、ここは私がより冷静な判断を下す事が問われる所だ。
「落ち着け、退路が全て絶たれた訳では無い。直路を辿るばかりが近道ではない。戻るぞ!」
「はっ、はいッ」
急ぎ振り向き元来た道を戻ろうとしていると、後方から『待て! この小僧ッ!!』等という声も聞こえて来たが、それを待ってやる言われはない。
勿論無視して後を追う形で来た道をひた走る。
その場を離れたばかりのマリーの名を呼び傍まで駆け寄ると、その右手を急ぎ取った。
「えっ?! アレク?? 一体???」
何が起こったのか全く分かっていない様子で、小首を傾げる仕草の何と言う可愛い事か!
だが、それを見入る余裕は何処にもない。
「リレント様、マニエール男爵様ですッ」
私に続き駆けて来たサンデスが、事情を伝えるその言葉に驚た様子で目を見開くと、私の手の中にある小さな手が縋る様に強く握り返して来るのを感じた。その手は微かに震えている。
「大丈夫だ。何があってもマリーを渡す気はないから。それよりも、少し予定を違える事になるけれど、構わないかい?」
「ええ」
「一緒に来て貰っても良いかな?少し疲れさせちゃうかもしれないけど」
「そんな事気にしないで、少しでもアレクと一緒にいられるなら、その方が嬉しいわ」
「そう?」
こんな時だと言うのに互いに顔を見合わせると、思わず綻んでしまうのは許してほしい。
我等の様子に瞬時に状況を見極めたリレントが、目配せした私に対し頷いた。
どうやら今の会話だけで私の考えは全て飲み込めたようだ。流石だ。
直ぐには無理だろうが、サンデスにもこれからこう言った物事を冷静に捉え、瞬時に相応的機転をきかせると言ったものを習得して行って欲しいと思う。
まあ、これもそれなりの場数を踏まなければまだまだ難しいだろうが。
リレントは更に表情を険しくすると、強い口調で言葉を吐き捨てた。
「サンデス! お前はお二人と共に旦那様を西棟から城の中へ! 南の回廊から北へ抜ける途中の三本目の松明を東へ進めば城中門まで出られる道がある。そちらから国務室へッ」
「はっ、はいッ!!」
「私は男爵をこちらで食い止めますッ。旦那様、御急ぎを!!」
「済まない。とりあえず、ロナルドの件は今日の惨事だけは報告してやれ。妹の件でとは言え政務騎士団から聴取されていると聞けば、奴に固執する状況も幾分変わってくるかもしれないしな。そうなってくれれば私としても今後少しは状況を打破しやすくなるんだが……」
少しの期待を抱きつつ、言葉を畳んだ。
「心得ております」
既に私の考えの全てを把握しているであろう彼の口ぶりは、精神的に追い詰められそうになっている自分を安堵させるものだった。
不安そうにこちらを見上げるマリエッタに私は微笑みかけると、その手の甲に口づけた。
「何があっても私はこの手を離す気は無いから安心して。西棟まで少し走るよ」
「はっ、はいッ!!」
一瞬の出来事での的確な判断。ここで邸にそのまま戻るのは如何考えても得策ではない。
だったら残された道は一つ。一緒に連れて行かない手はない。
男爵には、これから私が何処へ赴くか等知る由もない。ならばマリーと共に最初の案を実行するのも一案だと思い至った。まあ強制はできないし、これも全てはマリエッタ次第なのだが……。
少しの不安を抱きながらの行動ではあったが、この状況でリレントも瞬時に同じ判断をしたと言う事が、更に私を安堵させていた。
きっと頃合いを見計らいリレントは男爵を解放するだろう。
だが、こちらから逃げたとなれば通常向かうと思われる先は裏手門だ。裏をかくには、この案は最高だと思っている。
私は後ろを振り返る事をせず、そのままマリーの手を握り走り続けた。
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~ Comment ~
LandM様
今日は。
とりあえず、毎日ではありませんが、橋の工事の間は手紙のやり取りもあった設定にはなってますが私の設定ではリレントが来た時に走り書きして(マリーの身を案じたり、早く会いたい位は書いてた)その場で預ける程度のものでした。
アレク本当に忙しくて、でも早く帰りたくて寝る間も惜しんで仕事していたので(苦笑)
想い的にはすれ違ってはないんですけどね(爆)
いつもコメント有り難うございます。
とりあえず、毎日ではありませんが、橋の工事の間は手紙のやり取りもあった設定にはなってますが私の設定ではリレントが来た時に走り書きして(マリーの身を案じたり、早く会いたい位は書いてた)その場で預ける程度のものでした。
アレク本当に忙しくて、でも早く帰りたくて寝る間も惜しんで仕事していたので(苦笑)
想い的にはすれ違ってはないんですけどね(爆)
いつもコメント有り難うございます。
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NoTitle
豊臣秀吉は妻のねねによく手紙を送ってましたからね。
中には「帰ったらゆっくり抱き合って話そう」なんて熱々な手紙も残っているぐらいですからね。