ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《153.密 事》(アレク視点)

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書斎に籠って何時間が過ぎただろうか?

明日の着工式の前までに必要な書類は2時間程で片付け、早々に部屋を出ようとした途端、再びハンデルに呼び止められた。

「旦那様、着工式後の予定について少々お話がございます」

「何だ?」

「実は、御旅行のお話を伺っていなかったものですから、色々と予定を組んでおりまして、その件でご相談が……」

「変更しろ。帰ってきたら直ぐに対処する」

「ですが、こう言う大事業の際は足場を組んで最初の基礎工事の一鍬は領地の当主が杭を埋め込むと言う習わしがございます。その予定を旦那様は如何なさるおつもりなのでしょうかと思いまして……」

「足場は何日で組めるのだ?」

「予定では2日程で。急な御旅行の予定は聞いておりましたが、休暇は1週間程頂いておりますし、私はてっきり3日目に行われる杭入れが終わられてから出立するものとばかり……。それで、全ての予定をこの2日間に入れ替え調整をしておりましたもので、変更するに致しましても日程調整をご相談しない事には……」

「大丈夫だ。元々2.3日で戻る計画だった」

「それは無理と言うものでしょう? 先程リレントより聞きましたが、旦那様は早朝出立予定だったとの事。本日の着工式典後となりますと、早くても出立は正午過ぎ。マス二エラに到着するのは深夜です。明日からの交渉が1日ですんなり決まるとも思えません」

「お前、私の結婚話に今更水を差す気なのか?! 返答次第では、お前でも黙っていないぞ! 」

「まさか。マリエッタ嬢はずっと以前より旦那様が唯一の御人と心に決めておられたお方。旦那様のマリエッタ嬢に対する執着は、このハンデル深く心に刻んでおります。求婚をなさってからの旦那様の挙動不審な数々の行動は、とても王室と深く関わりのある名家の当主とは思えぬ行動で……」

「まっ、待てッ! お前、何処まで知っているんだ?」

「何処までと言われましても……、まあ色々と?」

「……色々って……」

「そうですねぇ。最初はほんの興味本位でしたが年頃となられた旦那様が、非番の前日、時折帰宅が遅くなるようになり、ついに旦那様も人並みに何処かのご夫人の許に通われるようにでもなったのかと思い気になってお調べしたのが始まりでしたが、まさかあのような所行に動じるとは、如何にも初々しく……」

「一体、何時の事だ?」

「最初はマリエッタ様に最初の求婚をなさった頃でしたでしょうか? まさかマリエッタ様のお邸に深夜時折通われお部屋の灯りが消えるまでただ眺められるなど、可愛く思ったものでした」

「何だ、その事か」

「後は15歳の誕生を祝うガーデンパーティの折、御招待されなかったと落ち込んでいらっしゃるかと思いきや、農夫に変装されて祝いに訪れる領民の集団に紛れてこっそり参加されていた事ですとか、昨年はマリエッタ様がご友人の結婚式の介添人を務めるとお聞きになり、式場となる教会へ視察と称しお出かけになられ、こっそり様子を伺っていた事ですとか」

「そんな事までか?」

「旦那様の行動は全てお見通しです。私の情報収集力を侮らないで下さい!」

「す……べて?」

「はい。まあ当初の行動はどれも微笑ましいものでしたが、最近の所行は少々頂けませんでしたねぇ」

「最近のって……、まさかッ」

「マリエッタ様とドワイヤル家のご子息との御婚約が噂されるようになってから何度か『貴美の館』へ出向かれてました時の事ですとか……」

「いや、待てッ。お前、あれはだなぁッ!」

『貴美の館』と言うのは貴族や金持ちの子息が出入りしている、属に言う……色を売る店だ。
マリエッタがやっと手に入ると思っていたあのデビュティの後、正式な求婚を断られた直後他の者との婚約間近の話が囁かれるようになり、私は当時自暴自棄になっていた。
いつも幾ら誘われても断っていたのだが、ある日同僚から、私が以前より持ち歩いていた絵姿に良く似た娘が居ると誘われて、ついフラフラと『貴美の館』について行ってしまったのだ。
同僚の話では色を売るだけでは無く、金さえ払えば何でもござれで占いもするし、話だけを聞いて貰っても良いと言うのだ。話だけでも聞いて貰えるのであれば行ってみてその者と話をしてみたいと思ったのがそもそものきっかけだった。
会ったその者は、確かに雰囲気は何処となくマリエッタに似ていた。
事情を話せば、その者はマリエッタと呼ぶことも許してくれ、最初は話をする為に何度か通った。
だがその内、その者が優しく私の話を聞いてくれていたのは、実の所自身の価値を高める為に私を誘惑し利用しようとしていただけなのだと言う事を知る事となった。こう言う所は受けた客のクラスによってその者の価値も上がるのだそうだ。

『貴方って本当に可哀想。でも、怖がらないで。私が慰めて差し上げるわ。たまには私に触れてみて』

憐れみを施すような女の言葉巧みな誘いに、本当のマリエッタを得られないのならば、せめて彼女に似た女と……。と言う思いが心の何処か芽生えていたのかもしれない。
告げられるままに、その時初めて女に自らの肌に触れる事を許した。

だが、触れられても何のときめきも感じられなかった。それは何故なのか?

『今度は貴方がマリエッタに触れてみて?』

『マリエッタに……』

女はかねてからの私の言いつけを守り、自身をマリエッタと名乗り、私を誘った。
誘われて、おそるおそる女の柔肌に初めて触れてみた。だが、夢で見た程の甘い感情は持てなかった。
それでも最初は、触れていればその内、私も世の男たちのように思い溜まった憂さを晴らせるに違いないと思っていた。
その女の言う通りに服を脱がせ抱いてみれば今とは違う感情が持てるのかもしれないとも思った。
確かに触れれば柔肌は気持ち良かった。だが話に聞くように、吸い付くような女の肌に自らの唇を這わせたいとはとても思えなかった。そこは何処か冷めていた。
触れればさわり心地が良い……。ただそれだけだった。

『あんっ……、もっと強くぅ……ぅふっ』

少し触れただけで羞恥心の欠片も無く過剰なほどの声を漏らす女の姿。
これのどの部分に、世の男どもは欲情を感じるのだろうか?

『ねぇ、はやくぅ……』

ねだる女の声に感情が覚めて行く……。それ所か次第に嫌悪感まで溢れて来た。
そして、ついにそれは耐えがたいものとなった。

『止めろッ。お前の声は聞くに堪えないッ。お前はマリエッタじゃない!!』

『私はマリエッタよぉ。何を言っているの? さあ、来てぇ』

『こんなのは違う……。違うんだッ! こんなのは私の求めているマリーじゃないッ。私のマリエッタは、男をこの様には決して誘わないッ!!』

拒絶した瞬間、今まで私の言った通りのマリエッタを演じていた女が豹変した。

『はあ!? 貴方馬鹿しゃないの? 男に触れられて何も感じない女なんていやしないわよ。そんなの生男の妄想よ。女なんて男に触れられればどんな男にでも抗えない生き物なのよ。そして男は女を抱く生き物なの。だから女のいない男は色を買うんじゃない! それなのに、貴方信じられないッ。これだから真面目くさった理想だらけの貴族のボンボンの筆おろしっなんて嫌だったのよッ』

如何やらこの女は私の同僚の男に色々と頼まれていたらしかった……。

『……おまえにおろして貰わなくても結構だ! 私は何があっても彼女を諦めないッ!!』

『女を抱けない男なんてサイテーッ!!』

『言葉を誤るなッ。私は本当に愛した者以外抱こうと思えないだけだッ!!』

怒りに任て自らの吐き出した言葉に、己の馬鹿さ加減を自覚し嫌気が差した。
男の多くは憂さ晴らしに女を抱く事もあるかもしれない。
だが、自分はそうはありたくないッ。
マリエッタへの想いはそう簡単に諦められるものでは無いのだ。
抗えるだけ抗ってみよう。全てはそれからだ。
その事に気付き、私はマリエッタへの本当の想いを再確認した。



「で、結局のところは如何だったのですか?」

「私にはマリエッタ以外、有り得ない。それを自覚しただけだ」

「やはり、そう言う事でしたか。面白身に欠けますなぁ。グラッセ家の男は……。ホントに一途すぎて、亡き旦那様とそっくりです」

「別に父上に似るつもりはない。私は私だ」

「まあ、私から見ておりましても、マリエッタ様への執着と、旦那様の本気の度合いは痛い程感じておりますので、ご協力はさせて頂きます。それなりにあちらでの手配を只今させて頂いている所でございます。明日の正午過ぎに出られるのでしたらマス二エラへの到着はおそらく深夜。そのような時刻に元マニエール男爵様のお邸を訪ねる訳にも参りませんので、今マス二エラに早馬を送り宿の手配をしております。元マニエール男爵様へは面会申し入れの書状もその者に託しました。元々お二人の吉事についてマニエール家はお認めになられていないのですから、元男爵が理由は如何あれ旦那様のご訪問に好意的対処をされるとも思えません。そこでリレントより先程今宵の詳細も聞きましたので、その上で対策を練らせて頂きました。おそらくこれで門前払いを食わされる事だけは無いように思います。ですから1日で話を纏めて下さい。決まらなければ、また後日お出かけください。良いですね」

「お前、鬼だなぁ」

「如何とでも。これで俄然やる気が出て来たでしょう?」

「漲る程だ!」

「それはようございました。では、後はこの書類だけ纏め上げて下さい。そしたら帰して差し上げます。まあせいぜい頑張って」

そう言い山積みされた書類は、先程片付けたものの2倍はあった。

「嘘だろう?……」

結局私が書類を片づけ本邸を出たのは、空が薄っすらと白み始めてからだった……。


女を抱くのに憂さなど有り得ない!

そう確信したのは、マリエッタに触れた、あの初めての夜の事だった。

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「パウリンの娘」改稿作
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
只今第6章3(24話分)まで改稿中です。


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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。


改めてみると、アレクの行動ってストーカー以外の何物でものないですよね(笑)
それこそマリーがアレクのことをどうとも思ってなければ気持ち悪いのと一言で終わりそうなほどの。

前にアレクの女性経験が気になっていたといってましたが、
こうして見るとアレクもマリーが初めてだったようですねえ。
このマリーに似てる女性の時と比べてマリーに触れた時は
とっても心地よく感じたのでしょうね。
やけに手慣れてると思ってましたが内心いっぱいいっぱいだと思うとニヤニヤしてきます(笑)
初夜のシーンをアレク視点で見てみたいと思いました。

ただちょっとアレクはマリーに自分の理想を重ねすぎかなとは思いました。
娼館のマリーそっくりの女性はそういう考えでなければ生きていけない世界だろうし、マリーだってアレクの前だけでは身も心も開きたくなることだってあるかもしれませんからね。

ハンデル氏は内心やれやれといった感じでしょう主に対する対応も完全に慣れてるますね。
さて、アレクがその欲望をマリーに思う存分味わわせるのはいつになるのかな。

NoTitle 

アレクくんわかりやすいやつ……(^^;)

yama様 

今日は。

ホントに(笑)
まあ、アレクはとりあえず最初の求婚に出向いた時点で、もうマリーは何れ自分のモノになると信じていた状況だったので、本人には会えないまでも、内なる所でかなり盛り上がってました。
故に妄想が広がって行ったと言う。。。(笑)

とりあえず、アレクもマリーが初めてでしたが、色々な事はそれなりにそう言う館通いの同僚がいたり、他にも男だらけの職場なので女遊びする者もいたりで色々と耳年増的状況にありました。
それなりに本で勉強もしていたし、マリーを屋敷に連れ帰った後は、現実的な問題が発生し親友に、相談したりもしていました。
そう言う状況だったので、知識を総動員していっぱいいっぱいでした(笑)
アレクの中には男がリードすると言う構図があったので。。。
なので、マリーが初めてだったと聞いてかなり楽になったかな。お互い初めてなら多少不具合があっても簡単にはバレナイでしょうしね(爆)
初夜のアレク視点書くとしたら完結後ですかね?
でも次回今の所アレク視点にしようと思っているので、今回思い出してしまった過去の事とか、アレクは少し触れるかな?書いてみないと分かりませんが。。。

娼館の一見は、アレクにとってはある意味ショックだったんでしょうね。理想と現実の相違に。
でも、今となってはマリーの反応は何もかもが可愛くて仕方ないと言う状況なので、何があってもきっと大丈夫でしょう^^

思う存分は中々難しいかもしれませんが、ちょっとはあるかな~(笑)

いつもコメント有り難うございます。

ポール・ブリッツ様 

今日は。

ホントにアレクは分かりやすい性格です。
絶対に浮気なんて有りえないだろうし、絵に描いたような一途な奴です(笑)

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

そういえば。
黒田官兵衛は当時では珍しく一人の妻しかいない非常に愛妻家だったと聞きますねえ。そして、部下のどんな部下の不手際があっても、死罪にしなかった戦国時代で一番生命を大事にする人だったとは伝えられていますね。
そのため、結構やっかみと色々言われたらしいですが。

アレクもそういう人になるのかな。

LandM様 

今日は。

ある意味黒田官兵衛と似ているかもしれませんね。

>一人の妻しかいない非常に愛妻家だった

これ絶対実戦出来るでしょう^^

部下の不手際は、程度にもよると思いますが、通常死罪とかはないでしょうね。
悪徳な罪人とかは容赦しないと思いますが。。。

いつもコメント有り難うございます。
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