パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第3章4》

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夏至が過ぎ二月ほど経ったこの時期は、イシュラルでも陽射しは幾分弱まりを見せ、とても過ごしやすい季節となる。

「最近は忙しくしていたからこの感覚を忘れていたけれど、たまにはこうやって寛ぐのも良いわね。風も心地よいし、ザビーネ様をお誘いして良かったわ」

「そうですわね、お嬢様」

朝食を終え、テラスに早速クッキーと紅茶の用意を侍女のメイテルに頼んだローレライは、ザビーネがいつ訪れても良いように早々に待機していた。
ザビーネには帰りの身支度が落ち着いてからお越しくださいと伝言を届けてあった。

生活するのが精一杯の領民の事を思うと、このようなゆったりとした時間を過ごす事も贅沢なのかもしれないと思えて来るのだが、今日これから待ち受けているである事は今後イシュラルの領民を平穏な生活に導いて行く事についても、ゆくゆくはきっと大きく関わりを持って行くに違いない。だから必要な事なのだと良心の呵責を感じながらも、ローレライは自らに言い聞かせていた。

「お嬢様、ザビーネ様がいらっしゃいましたわ」

侍女の声に、少し考え込んでいた様子のローレライはその場で立ち上がると、テラスとの境の窓枠に隣する扉を見つめ深々と頭を下げた。

「お誘い有難う。嬉しかったわローレライ」

待ちわびていたザビーネが現れ満面な笑みをつくる。

「慌ただしい時にお呼び立てしてしまい申し訳ありません」

「いいえ、私の方こそ。昨夜は思う事があったものだから、突然にあのようなお話をして驚かせてしまって御免なさいね」

訪れるなり突然告げられたザビーネの労りの言葉に、ローレライは大きく首を横に振った。

「そんなッ。私の方こそ昨夜は予想だにしていなかった突然のお話だったもので、びっくりしてしまいましたが……、ご心配には及びません。こちらこそあのように取り乱してしまい、お恥ずかしい限りです」

瞳を閉じてザビーネも優しく首を横に振る。
互いに相手を労わり話をする関係は、気付かれぬ様にと遠目から心配し優しく見守っている母であるアシュド伯爵夫人からも好ましく思えるものであったに違いない。

「それにしても、ここは温暖で陽射しも柔らかくて本当に良い所ね」

「はい。自然以外何も無い所ですが、それだけは自慢できます」

満面の笑みでそう答えるローレライの姿は、ザビーネにもきっと更なる好印象を齎したに違いない。

ローレライは、自らはもとよりザビーネにもきっと昨夜話しそびれてしまった事があったに違いないと思っていた。
けれどザビーネの様子は予想とは異なるもので、最初その事柄に触れようとする所かどちらかと言うとあえて避けているのではないかと思える程だった。
先程の言葉に加えて、イシュラルの自然の素晴らしさや伯の民に対する姿勢を褒め称えたり、他愛もない事ばかりを話題にしていた。

おそらくこれはローレライを気遣っての事だろう。
だが、このままでは聞きたい事も互いにままならないに相違ない。
何も考えずにこう言う他愛の無い話をしながらお茶をする事も大切な事には違いないが、それはゆったりとした時間がこれからの関係性にも許されるならばだ。
ザビーネは正午過ぎにはイシュラルを離れ王都へと帰って行く身。互いに持てる時間はそう残されていないのだ。
刻一刻と過ぎて行く時間の中で、ローレライはきっと自らがきっかけとなる言葉を口に出さなければ、ザビーネはパウリンの話にはこれ以上、決して触れる気は無いのだと何か確信めいたものを感じていた。

『ならばここは自らが思い気って言葉を口にするべきでは無いのか?』

ローレライは自身に問いかけ、にこやかに話をするザビーネの瞳を凝らすようにじっと見つめると覚悟を決めてた。

「ザビーネ様、昨夜……、私があんな風になってしまわなければ、まだお話しされたかった事があったのでは無いのですか? 」

突然のローレライの言葉に、ザビーネは少し驚いたように瞳を見開いた。そして何か考え込んでいるようだった。

「はっきり申しまして、まだ全然冷静でいられる状態ではありません。ですが、このまま自分の保身の為に手を拱いたままでお話をきちんと伺わないでいる事は、何か違う気がするのです!」

ローレライの真剣な眼差しに、ザビーネは大きく息を吐き出した。

「貴女って方は……。やはり思った通りの方だわ」

そう呟き微笑むと、何か心に決めた様だった。 

「今から私がお話ししようと思っている事は、知ったからと言って婚約者を探し出す事に役立つようなものではありません。昨夜以上の衝撃を与えてしまうかもしれないですし、捉え方によっては今後の妨げになり得るかもしれませんが、それでも構わない?」

ローレライは一瞬言葉を詰まらせたが、コクリと小さく頷いた。
少し指先が震えているのが伺えて、緊張の度合いも計り知れる。

ザビーネは暫く瞳を閉じたまま何か考えを纏めている様だった。

『どの様な話が飛び出すのか?』

ローレライも気が気では無い様子を隠せないが、次にザビーネから紡ぎ出される言葉をじっと待っていた。

何分過ぎた頃だろうか?
何かを決心したかのように、ザビーネは顔をあげ大きく瞳を見開くと、パウリンの最初の力の持ち主となったサザーランド国、初代ザランドル国王の妃となったオルガゾーレの記述を話し始めた。
昨夜にも況してあまりにも衝撃的なその内容に、ローレライは自分の中から血の気がスーッと引いていくのを感じた。

「……では、今迄の王の為され様は、全て私のせいなのですか? ……私がパウリンを手に生まれたから王は……」

顔面が蒼白しているローレライの姿を見て、ザビーネは慌ててそれを否定した。

「いいえ違います! 国が滅びの道を歩もうとしているからこそ救う為に貴女が生を受けたのです。貴女が第二のオルガゾーレとなり、この国を救う新王を導くために!!」

ローレライは、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。

しかし、記述が紛うもので無いならば、そう言う事になってしまう?

「では、私の婚約者と言うのは……」

「次にサザーランド国を治めることになる新王です」

「!!そっ……」

ローレライは驚愕し、震える両手で自身の口を慌てるように塞いだ。だが直ぐにその手をゆっくりと降ろすと続く言葉を吐き出した。

「でも、それが誰かは……分からないのですよね?」

「はい、貴女のパウリンだけが知っている事ですから」

そう告げるとザビーネはオルガゾーレのパウリンは今も代々受け継がれているものであり、今所有している者が自分である事を告げると、それぞれのパウリンの持つ役割についても知りうる限り詳しく語った。
そして、この事は王と後継者以外には家族であっても決して口外せぬようにと付け加えた。

“この世に存在する唯2つだけのパウリン”

ローレライは記述に現れたパウリンの娘が自分である事を認識すると、その使命と運命を重く受け止めた。

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※この作品は「パウリンの娘」の改稿作品です。

現在「小説家になろう」サイトで先行改稿中
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
こちらでは只今第7章2(31話分)まで改稿中です。

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