パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第4章3》

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夜が明けると被害を収集する者達で邸の外は慌ただしく人が行き来していた。
領主であるアシュド伯も、近隣の各領主に向けて警戒を促す書状を認めている。
まだ調査が始まったばかりで詳しい状況は掴めてはいないが、被害があった全容だけでも伝えておかなければと言う概念に囚われている様だった。
こう言う事件は一度おきると周囲での再犯も良く耳にする。いち早い情報の提供は各領主にとっても有難い情報に違いない。

調べに訪れた役人の話によれば手口としては良くあるものだそうだが、些か腑に落ちない点も幾つかあるようだった。
王都周辺で良く起こっているこの手の窃盗事件は主に畜産に勤しむ農家で、牛や馬、山羊、豚、鶏など食に著しく関わる多く需要されるものが殆どらしい。
グラッセ家の場合も家畜が襲われたと言う点では同じだが、手口がどうも少し異なるようだった。
今までの事件の場合、多くは直ぐに売りさばける親の家畜を強奪するものが主体で、子も一緒にと言うケースは殆ど無く、ましてや子だけを盗み親には目もくれずと言うものは初めてのもののようだった。
貴族の屋敷が襲われる場合にしても、良くあるのは高値で取引される高級馬が盗まれる事が殆どで、それ以外のものに手を出すものはないと言う。
まあ、王都周辺の貴族の邸や領主宅ではグラッセ家程多くの家畜を育てている邸も無い為、それは何とも言い難い所ではあるようなのだが、腑に落ちないと首を傾けていた。
手口にしても厩舎人や農夫の頭を鈍器の様なもので殴打し、気絶させ窃盗に及ぶ手口は良くあるものだから特別如何とは判断しにくいものがあるようだが、場所として今回王都より遠く離れた地を選んだと言う事は、犯人が大掛かりな窃盗集団であれば捜査をかく乱させる為に仔馬や仔山羊強奪と言う新たな手口を用いたと言う事も考えられなくもないとの事だったが、その反面、公にされている犯人情報を聞いた何者かが類似行動を及んだと言う考えも捨てきれずにいると言う状況の様だった。
と言う事で、事件についてはっきりとした事は、まだ何一つ分かっていないのだ。

盗みを生業とする窃盗集団の犯行ならば同情をかけてやる言われは無いが、これがもし、重い税を強いられ生活苦に悩んだ挙句に民の誰かが起こした事件だったとすれば、本当に悪いのは民の生活も顧みずに贅沢三昧をし、増税を強いる我王であって民はその被害者となる。
同情はするが、何れにしても犯人の目的が如何言うものであれ、今のローレライにはとても寛容な態度でいられる自信はなかった。
とにかく何があっても、どんな事をしてでも、ドレアスだけは自分が見つけ出さなければならないと言う思いに駆られていた。
ある意味、ドレアスがこれからのローレライの運命を握っていると言っても過言ではないのだから……。



数日後、イシュラルから北に70マイル程離れたドーリアの地でアシュド伯の屋敷に夜盗が押し入ったと言う話しを聞きつけたローレライの兄ルシオンが従者のランドンを伴い急ぎ帰ってきた。

「え――っ!! 屋外だけなの?! 俺てっきり誰か攫われたと思って急いで帰ってきたのに……。途中で屋敷に戻るって言うフリードルにも偶然会ってさ、この事話しちゃったよ」

「ルシオン様が最後まできちんとお話をお聞きになられないから早合点されるのです。事情を知って伝令を送って下さった侯爵様からのお話を最後まで聞こうともなさらず、途中でいきなり『帰るぞ』と仰られて……」

従者のランドンがそう付け加えると、『またか』と言うように両親は少し呆れ顔だった。

「夜盗が押し入ったって聞いたものだから気が動転しちゃってさ」

兄ルシオンはローレライの6歳年上の23歳。
淡い黄褐色の髪に茶色の瞳が良く言えば温厚で気さくな性格をより表している風にも感じ取れる。
少し粗忽だがローレライは優しい兄が大好きだ。

「ああ、いつものお兄様だわ」

そう言うと、兄に駆け寄りしがみ付く。

「私、色々あって……、ずっと緊張感が解けなくてとても辛かったの。でも、お兄様を見ていたら何があっても心は自由で良いんだなって思えて落ち着けるわ。お兄様が帰って来て下さってホントに良かった。有難うお兄様、大好き」

兄の腕に包まって頬を摺り寄せるローレライの姿は心底安心しきっているようだった。

ローレライがこれ程の緊張に強いられている事もかなり珍しい事で、ルシオンもまじまじと妹を見つめ返すと心配そうに目を向けていた。

「大丈夫なの? レライもしかして少し痩せた? ちゃんと食事はとれてるの?」

「とりあえず、出されたものは食べる努力はしている……。でも、食欲はあまりなくて……。だけど、きっともう大丈夫。お兄様が帰って来て下さったから、今日からはいつもより少しはお食事が取れると思うの」

「そう? それは良かった」

目を細め愛し気に妹を見つめる兄ルシオンの優しい眼差し。
満面の笑みでそう告げる妹の姿に、ルシオンはとても満足そうだった。

「ホントにレライだけだな。俺を歓迎してくれるのは」

微笑を浮かべながら皮肉っぽくルシオンがそう告げると、伯爵が軽く咳払いをしている。

「あら、貴方が帰って来た事を私たちが喜んでいないとでも思っているの? そんな筈無いじゃない」

母も笑顔でそう答えるとルシオンに近付き抱擁を交わす。その横で父伯爵はと言えば、やれやれと言うような含み笑いを浮かべながら、愛するべき我が家族の姿をじっと眺めていた。

ローレライは久方ぶりに家族が揃い、これでやっと少しは心が穏やかに過ごせるような気がしていた。


※1マイル=1.60934km

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※この作品は「パウリンの娘」の改稿作品です。



現在「小説家になろう」サイトで先行改稿中
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
こちらでは只今第7章2(31話分)まで改稿中です。

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