パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第5章2》

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翌日、早朝から邸の中は慌ただしかった。
陽が昇る前には発つと昨夜フリードルから告げられた為、朝の4時だと言うのに朝食はいつもより品数も多く豪華だった。
殆どは軽食タイプのものが中心で、いつものようなパンとスープに焼きベーコンにサラダだけでなく、きのこのソテー、マッシュポテト、ベイクドビーンズにソーセージ、他にも幾つかあるが、最後に鶏の丸焼きまで出て来て『朝からこんなに食えないよぉ』とルシオンが呟いた。

「そのような贅沢な言葉を吐くものではありませんよ。次は何時まともな食事にありつけるか分らないのですから、最後の晩餐のつもりで十分に味わって食べて下さい」

皿にベーコンと温野菜のロール巻きを取り分けながら従者ランドンがそう告げた。

「最後の……晩餐って……」

「言葉のあやです。旅の間は真面な食事は出来ませんので、そのつもりで十分味わって食べて下さい」

「まともな食事が出来ないって……、店で食事をする時間もないの?」

「いつものお気楽な旅とは違うのですよ。時間の問題ではありません。……まさかとおもいますが、目的地と地図を確認していないのですか? 食事のできるような店なんて移動中に何処にあるんですか? 宿も運が良ければ夜は野宿を免れるかもしれないって程度ですよ」

「ええっ?!」

「昼は干し肉とパンだけだと思っていたのだが、先程伯爵より加工ソーセージとチーズも頂いた。良かったな。これで着くまで宿に泊まれなくても夜は真面な食事が出来そうだ」

付け加えられたフリードルの言葉に、ルシオンの右手からナイフか音を立てて落下した。

「のっ、野宿なの!? それにそれが真面な食事って……」

「乗馬が趣味のローレライ様は気にしていませんが、ルシオン様がいつものようにダラダラ走られ度々休憩などと言われる様でしたら夜までに宿場町に着けるかどうか……。たとえ着けたとしても到着時刻が遅くなれば部屋も無いかもしれませんし、最悪野宿はフリードル様が仰るように致しかたないでしょうね」

従者の言葉に、唾をごくりと飲み込むと、ルシオンは大きな声をあげた。

「早く変わりのナイフッ! こんな裕著な事してられないじゃないかッ。早く食べて少しでも早く出立しなければ……。レライも、そんな芋ばかりつっついてないで、肉を食べろよ。いっぱい食べておかないと昼からとんでもないぞ!」

「大丈夫よ、お兄様。人間1日や2日飲まず食わずでも死にはしないんだから。それに外で食べるお食事も素敵じゃない。パンに干し肉もあるのでしょう? 草原だったら香菜も見つけられるかもしれないし、挟んで食べるととても美味しいと思うわ。夜は星空を眺めながら過ごせるかもしれないのね。素敵じゃない。何だかとっても楽しみだわ」

「レライ……」

はしゃぐ妹の姿に、ルシオンは妹に同意を求めるのはやめた。

ルシオンはこう見えて出来れば食はきっちり3食取りたいタイプで、決して贅沢な食事を好むわけではないが、お腹が減ると色々と口うるさくなるタイプだ。その反対にローレライは食べられれば何でもいいタイプで、1食位食べられなくても全然平気だし、食材に対する拘りも特になく、国の食生活事情が変わってからは元々の興味もあった事から食べられる野草や山菜、木の実やキノコ類も好んで摘みに行くようになり、食生活の潤いに幾らか貢献している。
それに元々厩舎で休む事も平気な様子から、野宿と言う言葉に対しても左程抵抗はないようだ。

フリードルはそんな二人の様子を微笑ましく眺めながら、とりあえず旅の鉄則は食べられる時にしっかりと食べる事だと二人に言い聞かせた。

ローレライも今日の朝食は少し多すぎると感じながらも、これが子供を送り出す両親のせめてもの親心なのだと分かっていたから、いつもより多く口に運ぶように心掛けていた。

「ふぅー、もう沢山だわ。これ以上食べたら走るのに胃もたれちゃいそう」

「はっはっはっ。お腹いっぱいになったか?」

「ええ、十分に。お父様、お母様、色々とお気遣いいただき、有難うございます」

娘からの感謝の言葉に伯爵は目を細めて頷き、夫人は笑いながらも目頭を少し押さえていた。


朝食を終えると皆で厩屋へ行き、一緒に旅する馬達の体調を最終確認する。
どの馬も問題はなく、最後に取り付けてある馬具の最終点検をし、いよいよ各々が騎乗する。

「ドレアスは必ず見つけ出してくるから」

もう1頭の雌の愛馬アドレアに頬を寄せながらそう約束すると、心配そうな両親や家の者達に見送られながら4人はイシュラルを後にした。



目的地であるトランゼの街は、イシュラルから120マイル以上ある。
通常荷物を持ち騎乗した馬が一度に走れる距離と言われているのは12マイル~25マイル程度。
馬の力量によって差は大きいが、ジュリアス以外は皆既に長旅の経験があり25マイルの距離は現段階でも疾走は十分可能だ。
心配だったのは女性であるローレライの体力と、今回初の長距離疾走となるローレライの雄の愛馬の存在だったのだが、フリードルはジュリアスと呼ばれる馬を初めて見た瞬間から、大丈夫だと何処か確信するものがあった。

ジュリアスは見た目の馬体のバランスも良く、足の蹴り具合もしっかりして安定していた。多少締まり具合が走り込んでいる馬と違う部分もあるが、それは大きな問題では無かった。
走り出すまで少しばかり気になる所ではあったのだが、その心配は暫く走っていている姿を見て直ぐに解消された。
馬脚がしっかりしているせいか騎乗するローレライの負担も少なそうに思われる。
持久力も全く問題なさそうで、疲れるどころか距離を追う毎に清々しさが増すようにも感じられる。
初めての長距離を走る馬で、その様に余裕ある軽やかな疾走を見るのはフリードルにとっても初めての事で、それも驚きだったがそれどころか他の馬……いや、自らの愛馬と同等の余裕があるようなさまに度肝を抜かされた。
その姿を見て、フリードルは今頭の中を過っている強硬的手段が可能であることを何処か確信していた。


当初、フリードルが書状を手渡しイシュラルに戻りながら考えた計画では、初めての長旅となる馬もいることから強行的な手段は全く考えずに、ごく平均的な初めての旅でも負担無く進められる比較的穏やかな計画を立てていた。
長く走っても25マイル。それが限界だろうと思っていたのだ。

しかし、いざイシュラルに戻りローレライから連れて行こうと思っている馬だとジュリアスを紹介された時に状況は一変した。
ジュリアスの特徴がフリードルの知るある名馬にとても良く似ており、最初は我が目を疑った程だった。

初代サランドル王が愛馬として騎乗したと伝えられている名馬は、青鹿毛に額のくっきりとした三日月の白斑の馬であったと言われおり、ジュリアスはその馬の特徴とあまりに酷似していたのだ。
先王の時代までは額に三日月の白斑の馬は足も速く、持久力もあり、頭も良い三拍子揃った名馬で王家の馬として珍重されていた。
フリードルの知る限り、額に三日月の白斑の外見を持つ血統馬の主は何れも王族に近い貴族数名だけで、しかもその中に青鹿毛の馬はいなかった。

(それを何故ローレライが所有しているのか?)

『10歳の誕生日に母の友人から馬をプレゼントされた』と言う話は以前から聞いてはいたが、まさかそのような風貌の馬だとは思ってもいなかったのだ。

経緯は如何あれ、ジュリアスと言うあの馬はおそらく王家の馬の流れを汲むもので間違いないと思う。
ならばそれなりの場所で管理されてしかるべき馬であり、そうなれば生半可な宿に管理を任されない。となると、最初に目指すは比較的治安のよいサングリアの街しか考えられなくなった。
勿論そうは考えても、実際には走り出してみな詳しければ事は決められない。たがジュリアスの風貌を見る度に、やはりここは信頼できる馬屋の管理も整った常宿でなければ安心できないとの思いが強くなっていた。
ジュリアスの走り具合と、他の馬の体調にもよるが、出来れば昼間少し長めの休息をとり、無謀かもしれないが1日目は46マイル先のサングリアの街まで行けないものかと考え始めていた。


仔馬の失踪についても、ローレライもルシオンも単純な物取りだと決めつけていたが、盗まれた仔馬が父であるジュリアスと風貌がそっくりだとなって来ると、事はそう単純なものではなくなるとフリードルは感じていた。
馬の盗難事件における発生率は、高値で取引される血統馬がこの所断トツの一位だと聞いている。
これが事件として関わって来るのであれば、事はきっと簡単には済まなくなるだろう。

「少々厄介だな……」

フリードルは馬を走らせながらジュリアスの風貌を横目で見、苦笑いを浮かべ呟いた。

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※この作品は「パウリンの娘」の改稿作品です。

現在「小説家になろう」サイトで先行改稿中
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
こちらでは只今第7章4(33話分)まで改稿中です。

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