パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第5章5》

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空が宵闇に染まり始めた頃、ようやく予定より少し遅くなったが無事、宿場町サングリアの街へと到着した。
建ち並ぶ店の数も多いが、殆どは店を閉めている状態だ。
この不景気で経営が立ち行かなくなったのだろう。街の規模の割には活気もあまり感じられず行き交う人も疎らだ。
フリードルの話だと昔は王都へ向かう他国の者が泊まる宿場町としてかなり賑わいを見せていたらしいが、ここ数年は不況のあおりを食らってこの通りの有様だと言う。

「今、我が国は内乱勃発もささやかれているから、他国の者はあまり近づこうとしない。この不景気に他国の珍しいものを買おうなんて輩は、我王とその恩恵に預かっている僅かな者達だけだろうしな」

街の中心部へ入ってからは、馬足をゆるめて会話を交わしながら足取りを進めている。

「まだいるんだ。そんな輩が。ホントに許せないよなぁ」

ちらほらと目にする隣国の衣装に身を包んだ者等に視線を向けるとルシオンがぼやく。

「民と同じ暮らしをしろとは言わないが、もう少し……、いや、無粋な話だったな。それが出来ていたら今こう言う状況にはなってはいないか……」

フリードルが飲み込んだ言葉は、きっと苦境に喘いでいる者達の真意に違いない。
だが、道端で気軽に話せる話では無い。
続く言葉を飲み込むと『言葉がすぎたな』と一言告げ、口を結んだ。

それから暫く無言な状況が続き、宿屋と思しき幾つかの看板を通り過ぎ、緑色の屋根の少し奥ばった造りで見た目が変形した2階建の建物の前に馬足を止めた。

「宿の者と話しをしてくる。少し待っていてくれ。それと、もし何か聞かれても余計なことは言わないでくれ。後で少し話すが、とりあえず私に話を合わせておいてくれれば何とかなるから」

「えっ? 何とかなるって……何が??」

「とにかく、詳しい事は後でだ」

「…………」

言っている言葉の先が見えずに困惑していると、時間にして5分程だろうか。早々にフリードルが黒衣を身にまとったを男を連れて一緒に出てきた。
この装束は、何の衣装なのか?

「話はついた。馬はこの者が管理してくれるから安心して良い。サビエル、頼んだぞ」

「はい、エル様」

『エル様って?!』

一同は驚きの表情を隠せない。
だが、事前にフリードルから告知を受けていた事から、少し驚いたが何とか平常を装いフリードルと一緒にサビエルと言う男の後をついて行った。
狭い路地の奥ばった場所の更に奥に、馬屋らしきものが存在した。
こんな狭い道の奥に馬屋がある宿屋は多分珍しい。

「こんな通り難い所に馬屋なんて何故作ったの?」

「我が宿の利便性を考えた造りとでも申しておきましょう。詳しい事はエル様がご存知ですので、私からお話する事はございません」

そう告げるとサビエルと名乗るその男はフリードルから馬の手綱を馴れた手つきで受け取り厩の一番奥へと連れて行く。続く指示を出され、それぞれも馬をその者に託した。

「詳しい事は決まり次第後で報告する。では頼んだぞ」

フリードルが傅く黒衣の男にそう告げた。


来た路地を戻り大通りへ出ると、今度は宿の前に主人らしき人物が立って待っていた。

「これはこれは良くいらっしゃいました。皆様エル様のご友人だそうで。大したものはご用意できませんがどうぞ。お部屋に御案内致します」

そう言うと中へと導いた。

案内された部屋は狭いが皆個室でローレライの隣の部屋にはフリードル、前にはランドン、その隣にルシオンと、どの体勢からでもローレライとルシオンが守られるように配置されている。
自分の部屋に荷物だけを降ろすと、皆がフリードルの部屋へと集まる。
フリードルから宿に入る前にそう告げられていたのだ。
ここで当然のような振る舞いで『エル』と呼ばれていたフリードル。
書状の件と言い、フリードルには昔とは違う何か謎めいたものをローレライは感じていた。


「詳しい事は話せないが、今私はある仲間と行動共にしている。その仲間は志しを同じくする者達だ。何よりも信頼のおける者たちで、仲間内では私は『エル』と言う字名で呼ばれている。伯爵と話した当初は『エル』としてではなくフリードルとして行動するつもりだったのだが、少し予定を変わらざるを得ない事態になっていると思う」

淡々と現段階で必要と思われる事だけを簡潔的に話すフリードル。
やがてその口から、思いもよらなかったジュリアスの風貌についての秘密を知らされる事になった。

「トランゼには行くが、おそらく情報収集だけできっと見つけられないだろう。仔山羊も仔馬の目くらましに使われた可能性が高い。何処かに盗まれた後放されたか市で売買される可能性もあるが、何か特別な特徴でもなければ見つける事は不可能だろう。仮に見つかれば賊を捜す手掛かりになり得るが……」

「そんなッ……」

ローレライは唯々驚愕するばかりだった。
ジュリアスとドレアスがそんな高貴な血統の馬だとは思いもよらなかったのだ。
何も知らずにローレライはメイテルと一緒に普通にジュリアス、アドレアと草原を駆けたり、散歩に出かけたりしてずっと過ごして来た。
ドレアスも普通に放していたし、それを知った誰かが盗んだのだとしたら……?
疑わしいのは今までジュリアス、ドレアスに接触した……、或いは目撃した事のある人物全員だなんて多すぎてとても分らない。
ローレライは愕然とした。

「とにかく賊の手掛かりが何も無い今、頼れるのは私の仲間たちだけだ。今回の件を、先程サビエルにも状況を掻い摘んで話したが、彼も興味深そうだった。告げれば上が動いてくれる可能性も高いだろう。しかし、あくまでも決めるのはローレライ、君だ。君が単なる物取りと思うならば私はサビエルに口止めをして、フリードルとしてこれからも一個人として行動する。でも、王家の血統馬として認めて探したいのであれば事はかなり複雑になる。エルとして行動した方が都合が良い」

詳しくは話せないと言っていたが、フリードルの仲間たちって一体どんな仲間なんだろうか?

「フリードル、一つだけ聞いていい?」

「ああ」

「あのサビエルって何者?」

「この国を守るべき特殊機関の者や騎士団の常宿の息子で、城に勤めていた時の私の直属の部下だ」

昔から知る彼の性格と、民を蔑み苦汁を強いる王の護衛を続けられないと言って城勤めを辞めたと言うフリードルの行動は信頼に足るもので、何処にも不安要素は見つからなかった。そして、仲間の一人は志を同じくする元部下だと言う。

「お兄様はどう思う?」

「任せるしか無いだろ。あいつは弟も同然の存在だけど、俺よりは頼りになるしね」

「ランドンは?」

「ルシオン様はご自分を良くお分かりだと思います」

ランドンがそう告げ、深々と頭を下げるとローレライもゆっくりと頷いた。

「フリードル、エルにお願いします!」

「了解した。では、これからは私を『エル』と呼ぶように。それと、私をエルと呼ぶ者以外は絶対に信用しない事。そうしなければ、任されたとはいえ私も責任が持てない」

「分かったわ。お兄様も、ランドンも良いわよね」

「仕方ないな」

「勿論です」

各々の了解を取ると、フリードルは部屋から出て行った。

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※この作品は「パウリンの娘」の改稿作品です。

現在「小説家になろう」サイトで先行改稿中
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
こちらでは只今第7章5(34話分)まで改稿中です。

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