パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第5章7》

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到着が遅かった事から夕食は、はっきり言って期待はしていなかった。
何処かに店でもあればと思ったが、この辺りには何も無いらしく、夜も干し肉とパンかと思っていたら家主の計らいで軽食を用意して貰えることになった。とても有難い。


部屋の扉の隙間から香しい南瓜のスープの匂いが流れて来て鼻腔を擽る。
程なくして用意が出来たとの知らせを受けた。

「先にお召し上がり下さい。私はエル様と交代いたしますので」

まだ夜も早い時刻だし、少しの間だけならば交代しても問題は無いだろうとランドンは言っていたのだが、フリードルは戻ってこなかった。

「如何したの? エルは?」

「食事のご心配は不要だと。まだ昼の残りがあるから大丈夫との事でしたが……。余程ジュリアスの事が気になっておいでのようで……」

「ジュリアスの?」

「はい」

ローレライは話を聞き終えた途端、残っていた食事を急いで口へ放り込み、カップに注ずれていたスープを一気に飲み干し主を見上げた。

「すみません。スープとパンだけでも小屋に持って行ってあげても良いでしょうか?」

「ああ、構わないよ」

「有難うございます」

家主がそう言いスープを注ぎに行くと、ローレライは立ち上がった。
如何やら自分で届けに行くらしい。

「ローレライ様、それは私がッ」

「良いの。これ位私にさせて」

「ですが……」

「エルに、少しお話ししておかなければならない事もあるから……」

「話すって今更何を? レライの事ならフリー……いや、エルは良く知っているだろう。今更何をフ……、いや、エルに話す必要があるの? あー、メンドクサッ」

エルと呼べとの指示が出てから丸1日が過ぎようとしているのに、ルシオンは未だその呼び名に馴れていないらしい。

「ルシオン様、ローレライ様にはローレライ様のお考えがあるのです」

「一緒に行く?」

「ううん。大丈夫」

「そっか……」

ローレライはそう告げ、家主からカップに注いで貰ったスープと包んで貰ったパンをトレイに乗せ、小屋へと運び始めた。



「エル。夕飯を持って来たわ」

「良かったのに……。悪かったな。でも良い匂いだな、助かる。そこら辺に置いておいてくれ。今は手が離せないから」

疲れた馬の足をマッサージしながらフリードルはそう告げた。

「手伝うわ」

「いや、大丈夫だ。気にしないでローレライはゆっくり休め。体力が一番無いんだから気遣をするよりしっかり休んで明日に備えてくれ。その方が助かる。明日はトランゼに入る予定だから気を抜くなよ」

「分かっているわ」

フリードルの言葉に促されて、ここにいても邪魔になるだけかもしれないと思いはじめたローレラは一旦は小屋を出かけたが、やはりあの事は話しておかなければと思い立ち、再び足を止めた。

ジュリアスの為にここまでして貰って、アドレスも一緒に探してくれると言うのにこのままフリードルに黙ったままでいるのはやはり人道に反する気がした。

「何だ? まだ何か用でもあるのか?」

このまま何も話さずに戻ったら、きっと気になって今夜は眠れないと思い、ローレライは勇気を振り絞った。

「あのね、フリードルにではなく、エルに聞いて貰いたい事があるの……」

「……エルに?」

「そう、エルになの。フリードルには色々と調べて貰って本当に感謝しているわ。けれど、これはどうしてもエルとして聞いて、判断して欲しいの。そうでないと公平でないと思うから……」

「何を言っている?」

エルに話があると言われ、一瞬だが少しだけ難しそうな表情をかべたフリードルだったが、どうやら話を聞かなければならない状況にあるのだと判断したらしい。

「もしかしたら……、他にも事件に関係しているかもしれない事があるの……」

「何だって!?」

ローレライはフリードルが、振り向くとエルとしてでは無くフリードルとして聞いてほしいと言った。
威厳がある感じのエルの時のフリードルに聞いてもらうのは、何だか少し話しづらいと思ったからだ。
要するに話はフリードルとして聞いて欲しいが判断はエルとしてして欲しいと……。そう言う事らしい。

「分かった。少しだけ待っていて」

小さく微笑むとフリードルはその馬の手入れを終わらせると、表に置かれてある汲み水で手を洗い、ローレライを小屋の隅に置かれてある丸太で造られた木製のベンチ座る様に促した。
ローレライはトレイを中心に置くと、その横に腰を下ろした。

何から話すべきなのか?
ローレライが心許ない表情を浮かべているとフリードルが優しく声をかけた。

「何だい? 話したい事って……」

ローレライは柔らかく微笑むフリードルの表情を確認するとゆっくりと口を開いた。

「ドレアスを……、仔馬を一緒に探して貰うことになって、ドレアスが血統馬かもしれないと言う事実を知ったけれど、実はその他に、もう一つフリードルに隠していた秘密があるの」

突然の告白に、フリードル眉を顰めた。

「秘密!?」

「正確に言うと、私になんだけど……、それは詳しくは話せない事なの。だから話せる所だけ話すけれど……。私には、生まれ持った特別な運命があって、その運命を導いてくれるのがドレアスのはずだったの。それを知ったのはつい最近で、一月前よ。ドレアスが生まれた時に母の友人でジュリアスをくれた人が現れて、私にその事を教えて下さったの。これって何か関係があると思う?」

「いや……、ローレライの秘密が何なのかが分らないから、的確な判断はしかねるが、状況的背景を考えると、現段階では関係ないとは言い切れないとは思うけど……」

ローレライの不安を煽ってはいけないと思い、柔らかく少し匂わせる程度の受け答えをしたが、実の所はと言えば、大ありかもしれないとフリードルは内心思っていた。

「それで、ジュリアスをくれたと言う伯母上の友人と言う方の事は聞いても良いの?」

「如何だろう? 名前、言っても良いのかな? でも、隠して無かったし……、良いよね?」

ローレライが迷いながらもぶつぶつと言っている言葉を聞いてフリードルが言葉を促す。

「……ザビーネ様……」

「ザビーネ、何て言うんだ?」

「分らないわ。王都からいらしたって言っていたわ」

「王都から来た……ザビーネ様だって!? いや……でも、まさかな……。他には?」

その名に誰か思い当たる人がいたのか? がかなり慌てているのが分かる。
考え込みながらも冷静を保とうとしているのが伺える。

「知らないの。昔は占い師の友人と教えられていたのだけど、先日は古い友人と紹介されただけだから、ザビーネと言う名もミドルネームなのか本当の名なのかも私にはさっぱり……」

「占い師だって?!」

明らかにフリードルの声が上ずっているのが分かる。思っていた方と重なる部分があるのか?

「その御方の風貌は!?」

おまけに分らない方に対して敬語まで使いはじめ、心なしかフリードルの表情も険しくなっているようにも感じられる。

「漆黒の髪に薄紫のとっても綺麗な瞳」

「間違いない、あのザビーネ様だッ」

フリードルは驚愕と共に何かを確信しているようだった。

(何? ザビーネ様はフリードルが驚くほどの何かがある方なの?)

「ローレライ、ジュリアスは間違いなくサランドル王の愛馬の血統だ!」

フリードルはそう声をあげると、落ち着きない様子になった。



これは大変な事になった!

フリードルは自らの導き出した答えに、早馬で自ら今すぐにでも駆け出し仲間と連絡をつけたい気分だった。
だが、今この状況でここを離れる訳にいかない事が間怠っこしくて仕方なかった。

「ローレライ、明日は夜明け前にここを発つッ。皆にそう伝えておいてくれ!!」

急に凛とした引き締まった表情になると、フリードルはそう告げた。

加えて明日は早いから直ぐに休むように言われ、ローレライは何故そんなにフリードルが慌てているのか訳も分らなかったが、ただ頷いて部屋へ戻るしかなかった。

(ザビーネ様の事を知っているの?)

フリードルの様子から直感的にローレライはそう感じ聞きたいと思ったのだけれど、話の端々てエルとしての姿が見え隠れするようになって来たフリードルが少し怖くなって来て、口にする事が出来なくなってしまった。

明日、トランゼの街へ到着したら、何かが分かるのだろうか?


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※この作品は「パウリンの娘」の改稿作品です。

現在「小説家になろう」サイトで先行改稿中
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
こちらでは只今第7章5(34話分)まで改稿中です。

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