パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第6章5》

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事の詳細を報告するべく、フリードルはシドと二人で馬屋に向かった。
するとそこにはローレライと二人で甲斐甲斐しく言葉少なに馬の世話をする主ゼロの姿と、額に汗を流し傅く二人の配下の者の姿があった。
おそらく手を出すなと言われたのだろう。

「ゼロ様!」 
「ゼロ……」

フリードルとシドが少し焦ったように揃えて声をかけた。

「何だ?」

だが当の主は至って何時もの無表情で『何かあったのか?』とでも、言いたげな雰囲気だ。

「「いえ……」」

二人は声を詰まらせた。
こう言う反応の時は主は、口を出さないに限るのだ。

一方のローレライはといえば、それとは真逆な反応で、声は弾み何処か生き生きとさえ感じられる。

「あっ、エル。ゼロって凄いのよ! ジュリアスのここ見て。前足のこの部分、跛行ぎみらしいの。急に無理させちゃったから……。今ゼロが冷やしてくれていて、暫くは安静にした方が良いんですって。ここだったら暫く休めそうだし良かったわ。後で薬も作ってくれるんですって。ゼロってお医者様みたいでしょ」

満面の笑みでとても嬉しそうだ。


ジュリアスを介して、ローレライのゼロに対する印象は、かなり変わって来ていた。
最初は何者かも分らず恐々としか関わりが持てないようにも思われたが、聞くとフリードルの友人だと言うし、何よりあのジュリアスのゼロに対する信頼に満ちた純粋な瞳は信じられた。
今では心にわずかに残されていた枷もすっかり外されて、話し方も完全に素に戻っている。
何より馬の事をこれだけ良く知っていて世話も出来るという点で、既にゼロを尊敬に値する人間と認めているようだった。

「……それは良かった。あの……、ゼロ様?」

「あら? 友人なのにゼロ様なんて呼んでいるの? 何だか変ね」

「いや……、それは……っ」

まさかそこを突かれるとは思っていなかったフリードルは、少し慌てたような仕草で同僚シドを見つめた。
確かに可笑しい。友人に『様』は有り得ないだろう。

友人と言う設定自体は悪くは無かったかもしれないが、いきなり今まで騎士見習いの頃から憧れ尊敬してやまない方を、急に呼び捨てに等早々出来よう筈も無い。
呼ぶにしても心積もりと言うものが、フリードルにも必要だった。

一方のシドはと言えば、かなりの知恵者としても有名な人物だ。
こう言う急場の苦しい状況で頼るのは彼以外考えられず、だがシドにしてみても、今初めて会った者への対応をこの状況でしろと言われても流石に苦しいものがあった。
言い逃れ以外の対処を瞬時に思いつく事が出来ず、それでももう少しマシな事を思いつかないものかと短時間で考えてはみたが、こう言うものは間が空けば空く程不自然に且つ嘘っぽく感じるものだ。
結局ローレライに対する見た目の印象で推察し、目の前の者にそこまで物事に対する敏感性は感じられないと判断したシドは、安易な思いつきで凌いでみることにした。
一か八かの賭けにはなるが、何処かイケル気がしていた。

「……実はゼロは、ゼロ・サマーと言う名前なんだ。普段はゼロと呼んでいるが、時と状況によりこの様に少々呆れ返った状況ではフルネームで呼ぶ事もある。普通このような馬の世話は配下の者が居るのに上の者が手を出したりはしないからな。俺達も少し呆れたんだ」

シドは馬鹿馬鹿しくも思える言い訳を、然もそれが当然だと言わんばかりに憮然とした態度で言い切った。
その内心は、話しの内容が安易すぎてバレやしないかとドキドキだったに違いない。
フリードルにも目くばせをし同意を求めた。

ローレライは、納得したようにも感じられるが言葉を口にしない。
視線を追うと、チラチラとフリードルに視線を移している。
どうやら彼の次なる言葉を期待しているようだ。

「そうなの?」

「ああ、そうだ」

何と言われようと、同意する以外の言葉を見い出せなかったフリードルは、これまた自信に満ちた眼差しではっきりとそう言葉を口にした。

「『ゼロ・サマー』なんて爽やかなお名前なのね」

「そうだな……」

フリードルを信じて疑わない様子のローレライ。
あまりに予測よりも素直すぎる反応が返って来たものだから、シドは実の所ローレライに少し興味を持ち始めていた。

フリードルは緊張していたもののローレライならばもしかして何も疑わずにそのまま受け取るかもしれないと思っていた。
ローレライはそう言う娘なのだ。

「ゼロ・サマー……」

小声でポツリとゼロが呟いた。

「「…………」」

シドとフリードルは主ゼロの囁いた言葉を耳にし、背中に冷たいものが流れて行くのを感じていた。

その様子にローレライは全く気付いておらず、首を傾げている。

「如何したの?」

「……いや、氷」

「足りない?」

「ああ」

「貰ってくるわ」

ゼロの言葉に笑顔で桶を抱え、ローレライが氷を貰ってくると言いその場を離れれば、サビエルが一礼をして、慌ててその後を追いかけて行った。

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※この作品は「パウリンの娘」の改稿作品です。

現在「小説家になろう」サイトで先行改稿中
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
こちらでは只今第7章6(35話分)まで改稿中です。

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