パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第7章3》

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日が落ちて来て、そろそろ夕飯に出ようと言う話しになった。

「食事のできる店は色々と知ってはいるんだが、今日は週末で市も開催されている。如何だろう。下見がてらに出向いてみないか?」

「良いわね。市なんて私初めてだわ。楽しみ」

フリードルの提案に、ローレライは飛びついた。

「別に普通の市だろう? 俺は如何でも良いけど、マリーが行きたいのなら別に行っても良いけど」

「ルシオン様が出向かれるのならば、無論私も異存はございません」

「ならば決まりだな。下で待っていてくれ。他の者にも話して来る」

「えっ、他の者?」

「これから仔馬探しを手伝ってくれる仲間だ。面識はある者達だから、そう気負わず待っていてくれればいい」

「面識があるって……」

去り際にサラリと告げられたフリードルの言葉に、ローレライは嫌な予感を覚えた。


暫くするとフリードルと一緒に上の階から馬屋でフリードルと話していた男と、今は会いたくないとローレライが思っていた、先程気分を害させてしまったであろうゼロが降りてきた。

「あっ……」

ローレライは合わせる顔が無く、そっと兄の後ろに姿を重ねた。


市は宿裏の橋を渡って数分程の所にあるらしく、皆で歩いて行くことになった。

気になり、ローレライはゼロの様子を先程から伺ってはいるが、心なしか怒っているようにも感じられ、姿を見る度に息が詰まりそうになる。
ゼロの憮然たる態度は、やはり、無作法な自分と一緒で面白くないからなのかもしれない……。
ローレライは歩いている間、心もとなくてずっと兄の上着の袖を握り締めていた。

週末の夕刻と言うのもあって、市は凄い賑わいで露店も所狭しと並んでいる。
一瞬先ですら人がひしめき合って全く何があるかも分らない。
時折通り過ぎる人波の合間からチラッとだけ並んでいる品物が見え隠れする。
素敵な木彫り細工の小物入れが見え、ついローレライはその品に目が奪われた。
するとその時、人にぶつかりそうになり、兄の服から手を離した拍子に、人波に押され違う方向へ流されそうになってしまった。

「おっ、お兄ッ……」

兄に助けを求めようと手を伸ばし声を発したが、人波に押され上手くいかない。
瞬間、直ぐ後ろにいた者が腕を掴み引き戻してくれた。
咄嗟に口からお礼の言葉を発しながらローレライはその者を見上げて固まった。

「ありが……」

「前を見て歩け」

ゼロだった……。

「ごっ、ごめんなさいッ」

また迷惑をかけてしまった……。
ホントに如何して自分はこんなにも間が悪く、ゼロにばかり迷惑ばかりかけてしまうのだろう?
自身に問いかけながら、ローレライは前に居た兄を見つけると、腕に再びしがみ付き思わず顔を伏せた。

「レライ!?」

急に強く握られた腕の重みに気付いたルシオンは首を傾げている。
如何やらルシオンも幾分妹の変化に気付いたようだ。
心配そうにローレライを覗き込んでいる。

「如何かした? レライ」

「ううん。何でもないの……」

ローレライは首を大きく横に振り、兄に心配をかけまいと少し微笑んでみせる。
如何やらゼロとの会話は、人ごみに消されて兄には聞こえていないようだ。

「そっか」

たったその一言だけだったが、兄の柔らかな笑みは、心乱れた自分を幾分落ち着かせてくれた。


暫くすると人並みは幾分落ち着いてきて、方々で良い匂いが漂ってきた。
フリードルの話では、この辺は常設してある食堂街になるらしい。
辺りに目をやりながら歩いていると、ある場所でフリードルが急に足を止めた。

「ここだ」

言われて大きなテントの中に足を踏み入れてみると、先に来て場所を取っていてくれていたらしいサビエルが、こちらに気が付き一礼をしていた。
案内されたテーブルの上には、既に大皿が幾つか並べられており、直ぐに食事が出来る状態になっていた。
各々適当な席に座り、ローレライはここでも兄の隣にと慌てて座ったのだが、今日は余程ついていないのか、自分の正面にゼロが座ってしまった。
一旦席について、あからさまに直ぐに変わる訳にもいかず、そのまま緊張の解れないまま結局ローレライは席へと腰を下ろした。
何だか気まずくて、ローレライはやはりここでも中々顔をあげることが出来なかった。

皆が席に着いた事を確認すると、双方を知っているフリードルが皆の紹介を始めた。
どうやら今日のこの集まりには顔見せと言う意味合いも入っているようだ。
名前を呼ばれて、ローレライはとりあえず立ち上がり一礼をする。

「イシュラルの領主アシュド伯の娘、ローレライです。兄共々お世話になります。宜しくお願い致します」

そう告げ、深々と頭を下げるのが精一杯だった。

その後はグラスを手に持ち、とりあえず皆で乾杯をした。

「今夜はお互いを知ってもらう意味で無礼講です。各々で語らい親睦を深めて下さい。今後の詳しい話につきましては明日、例の部屋で。定刻に」

そう告げると、黒衣のフリードルの知人等は、皆頷いていた。

「……例の部屋……って?」

小さく呟けば、耳元で『明日、案内するから』とフリードルに告げられた。

場はランドンとサビエルが率先して食事を取り分けてくれ、終始和やかな雰囲気で進んでいった。
ローレライは前に座るゼロが気になるものの、出来るだけ目を合せないように気をつけながら少しずつ食事を口に運んでいた。
食べてはいるものの、何だかあまり食べている感覚がない。
緊張しすぎて、ただ飲み込んでいるだけ……。そんな感じがしてならないでいた。
そう言う状況だったので、真面に周囲と話しなんて出来る余裕も無かった。
気が散漫としていたせいか、ローレライには兄の声すら耳に入っていなかったらしい。

「ねえ、レライ。ローレライってば、聞いてる?」

「えっ?」

兄に肩を叩かれ、ローレライはハッとして慌てて顔をあげた。


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※この作品は「パウリンの娘」の改稿作品です。


現在「小説家になろう」サイトで先行改稿中
●『パウリンに導かれて』を読む(掲載中の「小説家になろうサイト」内に移動します)
こちらでは只今第7章7(36話分)まで改稿中です。

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